怜央は何も言わず、体の脇に下ろした手を小刻みに震わせていた。よほど腹を立てているのは明らかだった。だが陽咲は彼がどう感じていようと気にも留めず、冷たい視線を一瞥投げかけて警告とした。そして蒼空の方を振り返り、「蒼空、行きましょう」と声をかけた。陽咲と視線が合った瞬間、蒼空の瞳から傷ついたような色がすっかり消え去り、代わりに甘く蕩けるような愛しさが満ちた。「ああ」二人は連れ立って車に乗り込んだ。陽咲がこのまま去ってしまえば、もう二度と会えなくなる――怜央の直感がそう告げていた。たまらず助手席側に歩み寄り、窓を軽く叩いた。「陽咲、待ってくれ」陽咲は窓を下ろすと、冷淡な視線を彼に向けた。「安部社長、まだ何か御用ですか?」彼女は彼を「安部社長」と呼んだ。こんなにもよそよそしく、冷淡に突き放すような呼び方など聞きたくはなかった。「安部社長」というその肩書きが、彼と陽咲の間の繋がりを無惨に切り裂き、二人がこれ以上ないほどの赤の他人であることを突きつけてくる。怜央は胸を震わせ、ひどく掠れた声で絞り出した。「離婚したとはいえ、友達には……なれないか?せめて、俺をブロックしないでくれないか?」陽咲は鼻で冷たく笑った。「友達?さっき私の友達にあんな態度を取った時点で、私たちが友達になる道すらなくなったのよ。安部社長、私の性格はよく分かってるはずよね。私、自分の身内を誰よりも庇う人間なの」そう言い捨てると、彼女は蒼空へ視線を移した。「蒼空、車を出して」蒼空は彼女を見つめ返してこくりと頷いた。そして窓の外に立つ怜央へ視線を投げ落とすと、車を発進させ、そのまま走り去っていった。2人が去った後、怜央は1人その場に立ち尽くし、唇をきつく引き結んで複雑な表情を浮かべていた。……車内で、陽咲は蒼空に尋ねた。「蒼空、私たちこれからどこへ向かってるの?」蒼空はハンドルを切りながら微笑んだ。「碧海荘に帰るんだよ。君の引っ越し祝いさ。白瀬先生から、君を迎えに行って一緒に食事に帰ってこいと頼まれたんだ。雅也さんももう着いていて、あとは僕たちを待つばかりだよ」それを聞き、陽咲の胸の奥にじんわりとした満ち足りた思いが込み上げてきた。「わかったわ」陽咲の瞳に柔らかな笑みが灯る。蒼空は穏やかで柔らかな陽咲の横顔を盗
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