陽咲の視線の先を追うと、清子の目に、少し離れた場所に佇む冷ややかな面立ちの男の姿が映った。男は傍らにいる少しお腹のふくらんだ女性に、何か低い声で囁きかけている。清子は、その男の顔にどこか見覚えがあった。確か、安部家の安部直樹の息子だ。怜央は今日、契約の商談のために雲市を訪れていた。だが想定外なことに、彼が外で他の女にたぶらかされるのではないかと危惧した悠里が、意地でもついて行くと言って聞かなかった。連れて行かなければハンストするとまで騒ぎ立てたのである。怜央はひどく苛立っていた。ここ最近の悠里は妊娠していることを盾にやりたい放題で、以前の優しく思いやりのあった彼女とはまるで別人のようだった。2人は商談を終えた帰途、偶然にも霧隠寺の近くを通りかかった。帰りの時間まではまだ余裕があったため、ついでにお参りしていこうと立ち寄った。まさか、こんな場所で陽咲に出くわすとは。陽咲の姿を捉えた瞬間、怜央の瞳の奥にさっと光が宿った。このところ、怜央は自分名義の別の邸宅に身を寄せていた。しかし、そのことを知った大輔夫婦から、悠里のもとへ戻って一緒に暮らし、彼女の側にいるよう強要されていた。もし拒むなら、悠里の腹の中の子供は産まれ次第、望月家で引き取って育てる、と。怜央はなす術もなく、同意するほかなかった。陽咲は眉をひそめ、怜央を見据えた。怜央は陽咲の傍らにいる蒼空と清子の姿に気づき、一瞬ハッと動きを止めた。彼は、陽咲が相手の親族へ挨拶に来ているのだと勘違いしたのだ。途端に顔に怒りを走らせ、悠里にその場で待っているよう冷たい声で命じる。そして、大股で陽咲のもとへ歩み寄った。陽咲の胸に嫌な予感がよぎる。彼女の前に立ち塞がった怜央は、必死に怒りを押し殺しながらも、その瞳には裏切られたような憤怒の炎を燃えたぎらせていた。「陽咲……俺たちが離婚してまだ1週間も経っていないというのに、もう次の男の親族に挨拶とはな。俺たちが夫婦だった3年間は、お前にとってゴミ同然だったって言うのか?」あまりにも聞き苦しい言い草だった。陽咲は一瞬で顔をこわばらせると、氷のように冷ややかな眼差しで怜央を射抜いた。「怜央……口の利き方には気をつけてちょうだい。それに、私は偶然蒼空と今村おばあさんにお会いしただけよ。自分の根性が汚れて
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