真奈美は、咲夜が剛にそんな条件を持ちかけたことに驚いていた。どうしてこの子は、もう少し自分のことを考えないのだろう。まったく、この子ったら……雅紀は、咲夜の真剣な眼差しを見つめ返した。冗談で言っているのではないことくらい、よく分かっていた。咲夜は本気で、自分と真奈美を桜ノ宮市へ連れていき、一緒に暮らそうとしているのだ。鷹司家へ戻れば、この先自分がどんなことに直面するか分かっているはずなのに、それでも両親には少しでも自分の近くにいてほしいのだろう。ただその一方で、自分たちが景浦市に残ることを望んでいるのなら、無理に桜ノ宮市へ連れていくことで負担をかけてしまうのではないか――そんな心配もしている。きっと、この子はそれを何より望んでいないのだ。真奈美は咲夜の話を最後まで聞いても、すぐには返事をしなかった。雅紀が決めるのを待っていたのだ。真奈美はこれまでの人生、ほとんどずっと雅紀を頼りにして生きてきた。夫が決めたことなら、どんな決断であろうと彼女は賛成するつもりだった。雅紀は咲夜と目を合わせると、言った。「それなら桜ノ宮市へ行こう。父さんも母さんも、今は身軽なものだ。どこへ行ったって同じだよ。暮らすといっても、春夏秋冬を過ごして、毎日三度の飯を食べるだけだ。どう暮らすかも、どこで暮らすかも、そう大した違いはない。景浦市もこんな状況になってしまったんだ。桜ノ宮市へ行くのが一番いい選択なら、父さんも母さんも、服や荷物をまとめて行けばいい。お前たちがいてくれるなら、どこだって家になる」咲夜の提案に対して、雅紀には少しの迷いもなかった。咲夜がこうしようとしている以上、きっと彼女なりの理由があるのだろう。自分はただ、娘の足を引っ張らなければそれでいい。夫の言葉を聞いた真奈美も、隣ですぐに頷いた。「そうよ、そうよ。お父さんの言うとおり。桜ノ宮市へ行けば星奈とも行き来できるし、あなたたち二人もそばにいてくれるでしょう?それなら何も問題ないわ。私もそれがいいと思う」彼女も、咲夜の提案は悪くないと思っていた。自分たちがどこで暮らすかなど大したことではない。咲夜にとって一番都合のいいようにすれば、それでよかった。「お父さん、お母さん……」咲夜は目頭が熱くなり、感極まったように二人を見つめた。両親に断られる可能性
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