All Chapters of 縁が逆転~元カレの叔父が夫~: Chapter 1031 - Chapter 1040

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第1031話

湊はコクンと頷いた。「うん、分かってるよ。あのお金は全部、僕が自分で稼いだんだ」「……お前が稼いだ?」楓と雅也は耳を疑った。たかが五歳の子供が、どうやってそんな大金を稼げるというのか?雅也は少し顔をしかめ、湊の目線に合わせてしゃがみ込んだ。「湊。あのカードには二百兆円もの金が入っているんだぞ。それがどれほどの額か、理解しているのか?」湊は首を横に振った。「ううん、分かんない……でも、お金は本当に僕が稼いだんだよ」「なら、どうやってその金を稼いだのか教えてくれないか?」湊は困ったように眉を下げた。「お父さん……言わなきゃダメ?」あのお金を稼ぐ方法を教えてくれたあの人に、誰にも言わないって約束したのだ。「湊。お前がそれを話してくれないと、お父さんたちも、このお金が本当にお前の正当なものなのか判断できないんだ」湊はしばらく考えていたが、やはり首を横に振った。「お父さん、ごめんなさい。やっぱり言えない」雅也がさらに追及しようとしたその時、楓が彼の手を軽く押さえて制した。彼女は湊に向き直り、微笑みかけた。「分かったわ。言いたくないなら無理に言わなくていいのよ。まずは幼稚園に行きましょう。夕方、お母さんがお迎えに行くからね」「うん……お母さん、お父さん、怒ってない?」不安げに顔をうかがう湊に、楓は優しく笑いかけた。「怒ってないわよ。言いたくない秘密の一つや二つあっても当然だわ」そう言いながら、彼女は雅也の腕を肘で軽く小突いた。雅也は無理に口角を上げ、湊を見た。「怒ってないさ。さあ、幼稚園に行きなさい」二人が嘘をついている様子はないと分かり、湊はホッと息を吐いた。「うん!お父さん、お母さん、いってきます」湊の小さな背中が園内へ消えていくのを見届け、雅也は楓を振り返った。「どうして追及を止めさせた?」あのカードに入っている二百兆円という異常な金額を前にして、雅也は気が気ではなかった。五歳の子供がそれほどの金を持っているなど、どう考えても正常ではない。もし展望技術が倒産していなければ、この事実に気づくのはもっと先になっていたはずだ。「あの子の顔を見て分からなかった?これ以上問い詰めても絶対に口を割らないし、意固地になって逆効果になるだけよ」「だが、どうする気だ?
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第1032話

雅也自身はニック・ファミリーの人間と直接の面識はない。だが、この一族は黒木耀、そして湊と間違いなく接点を持っている。遠からず、このファミリーの人間と直接対峙する日が来る。そんな確信めいた予感が彼の中で渦巻いていた。その時になれば、彼らが湊に近づいた真の目的も明らかになるだろう。夕方、家に帰宅した雅也は、楓を書斎へ呼んだ。「君に、伝えておきたいことがある」彼のただならぬ様子に、楓は怪訝な顔をした。「何?湊のお金のこと?」雅也は頷いた。「ああ。五年前、中越静香が帰国して間もなく、海外の謎の組織が君の身辺調査を行っていた。後になって判明したんだが、その調査を指示していたのは、M国のMKグループの幹部、黒木耀という男だ。彼のバックにはニック・ファミリーがいる。そして今日、湊のカードに送金していた大元も、そのニック・ファミリーだと判明した」その事実を聞かされ、楓は衝撃と困惑で顔をこわばらせた。「私……ニック・ファミリーなんて、今まで一度も聞いたことがないわ」今日彼から聞かされなければ、そんな一族の存在すら知らなかった。それに、どうして見ず知らずの海外組織が私を調査していたというの?「以前、君の母親が離婚して海外へ渡ったと言っていただろう。そのニック・ファミリーと、君の母親に何か繋がりがあるんじゃないか?」楓は首を横に振った。「分からないわ……母が海外へ行ってから、私や父とは完全に音信不通になっていたから。この何年も、母の顔すら見ていないもの」「とにかく、何らかの意図があるのは間違いない。湊のカードの金には絶対に手をつけるな。黒木耀を引き続き洗わせているから、間もなく何らかの尻尾が掴めるはずだ」「……ええ」楓は目を伏せ、体の脇で手を固く握り締めた。この何年も、写真を見返さなければ母親の顔すら思い出せないほど記憶が薄れていた。もし本当に母がニック・ファミリーと関係しており、湊の口座へ送金していたのも財閥の人間だとするなら……湊にこれほどの大金を与えたのは、他でもない母親なのだろうか?楓は顔を上げ、自らの推測を雅也に伝えた。雅也はしばらく考え込んだ後、頷いた。「その可能性は極めて高い。タイミングを見て、湊から直接聞き出してみてくれ。今朝のあいつの態度からして、何か核心的なことを知っているはず
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第1033話

元々は湊を優しくなだめ、ゆっくりと心を開かせて真実を聞き出すつもりだった。だが今は、一刻も早くあの金の出処と「師匠」の正体を突き止めなければならないという焦燥感に駆られていた。普段滅多に怒らない楓の凄まじい剣幕に、湊はビクッと肩を震わせ、手からブロックを取り落とした。彼の瞳はみるみる赤く潤んでいったが、それでも意地を張ったように楓を睨み返し、絶対に口を割ろうとはしなかった。「湊、その『師匠』って一体誰なの?」何の理由もなく、五歳の子供に二百兆円もの大金を振り込んでくる人間など、どう考えても異常だ。「絶対に言わないもん!」楓の表情はこれ以上ないほど険しくなった。「言わないなら、今日からあんたのゲームもスマホも、全部没収するわよ!」その言葉に、湊はついに爆発した。「お母さんなんて大嫌い!昔の優しいお母さんじゃない!」泣き叫ぶなり、彼は踵を返して二階へと駆け上がっていった。間もなく、二階からドアを乱暴に叩きつける轟音が響き渡った。物音を聞きつけ、雅也が書斎から出てきた。リビングで怒りに肩を震わせる楓の姿を見て、彼は足早に歩み寄った。「どうした?湊と喧嘩したのか?」楓は頷き、重々しい声で告げた。「さっきあの子にお金のこと聞いたんだけど、うっかり『師匠』がいるって口を滑らせたの。あのお金も、たぶんその『師匠』とやらが振り込んだんだと思うわ」彼女は雅也を見上げた。「あなたの言う通りよ。あのお金の出処、絶対に突き止めなきゃダメ」見ず知らずの人間が、五歳の我が子にこれほどの大金を送金し続けていたのだ。想像しただけで背筋が凍りつき、得体の知れない不安に苛まれた。一体、何の目的があるというの?不安に押し潰されそうになっている彼女を見て、雅也は彼女を腕の中に抱き寄せ、低い声でなだめた。「あまり心配するな。すでに徹底的に調べさせている。すぐに結果が出るはずだ。それに、よく考えてみろ。これほどの大金を惜しげもなく振り込んでくる以上、湊を騙すような単なる詐欺師とは考えにくい。今は焦らず、あいつの安全を確保することだけを考えよう」楓は目を伏せ、しばらく考えた後に頷いた。「ええ、あなたの言う通りね。明日から、湊は幼稚園を休ませて家に置いておくわ。ちょうど私も仕事がないし。あなたが事の真相をすべて突き止め
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第1034話

まさか、こんなに早く会える日が来るとは。「本当だ。師匠がお前に嘘をついたことがあるか?」「ううん!」電話を切り、もうすぐ師匠に会えるという期待で、湊の沈んでいた気分はすっと軽くなった。便座から飛び降り、スマホを握りしめて洗面所を出る。寝室に戻った直後、ドアがノックされた。「湊。お父さんだ。開けてくれないか?」雅也の穏やかな声が響き、湊は少し迷ったが、ドアの鍵を開けた。「お父さんもお母さんみたいに師匠のこと聞くなら、僕、何も言わないからね」雅也は小さく笑い、彼の手を引いた。「心配するな。お父さんはそんなこと聞かない。さっきお母さんとも話したんだが、お母さんももう無理に聞き出そうとはしないと約束した。あんなに厳しく怒ったのは、お前が危険な目に遭っていないか心配だったからだ。分かってやってくれないか?」「師匠は僕に悪いことなんてしないもん!」「ああ、分かってる。だが、お母さんも心配だったんだ。さっき厳しく言い過ぎたことを反省して、お前に謝りたいと言っている。許してやってくれないか?」湊は少し考えた後、コクンと頷いた。「うん、許してあげる」「じゃあ一緒に下へ行こう」「うん」雅也に手を引かれてリビングへ下りると、言葉通り、楓が歩み寄ってきて彼に謝った。「湊、ごめんなさい。お母さんが悪かったわ。少し焦りすぎてしまったの。これからはもう、あなたから無理に聞き出そうとはしないわ。許してくれる?」「うん。お母さん、もう怒ってないよ」「よかった。さあ、一緒にブロックの続きをしましょう」雅也と楓は湊の傍に座り、夜九時過ぎに真綾が風呂へ連れて行くまで、三人でブロック遊びに没頭した。湊が二階へ上がった後、楓は雅也を見た。「せっかく湊のカードのお金で展望技術を救えると思ったのに、使えないとなると……本当に倒産するしか道はないの?」雅也は彼女を見つめ返し、静かに頷いた。「ああ」楓は言葉を濁し、ためらいながらも切り出した。「ねえ……とりあえず、あのカードのお金で会社を救って、後で落ち着いてから少しずつ返済していくっていうのはどう?」長い沈黙の後、雅也は低く答えた。「……もう少し待ってくれ。俺の部下が送金主の正体を突き止めるまで、この金をどうするかは保留にしたい」「あなた、どうして
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第1035話

楓が二階へ上がった後、雅也は書斎へ戻った。デスクの前に座ったものの、書類には一切手をつけることなく、湊のカードの金で展望技術を救うべきか否か、ひたすらに熟考を重ねた。どれほどの時間が過ぎたか。彼はついに、一つの決断を下した。翌朝早く、雅也は朝食を済ませるなり会社へ向かった。湊が洗面を終え、着替えて幼稚園へ行こうとした時、楓が彼を呼び止めた。「湊。今日から幼稚園はお休みよ。しばらくの間、お母さんと一緒にお家でお勉強しましょう」湊は目を丸くした。「どうして?」楓は彼の頭を撫で、優しく言った。「最近お母さんはお仕事がお休みだから、ちょうどあなたに字の書き方を教える時間ができたの。お家でしっかり練習してから、また幼稚園に戻りましょう。ね?」幼稚園に行こうが行くまいが、湊にとっては大した問題ではなかった。「うん、分かった」湊がそれ以上深く追及してこなかったことに、楓は内心でホッと息を吐いた。もしこれ以上「どうして?」と聞かれたら、また別の言い訳を考えなければならないところだった。時々、子供を上手く丸め込むのは本当に骨が折れる。一方、雅也はすでに会社に到着していた。社長室に入るなり、恭平が重苦しい顔で書類を手に飛び込んできた。「社長。我々が提出した創和に対する企業秘密窃取の起訴状ですが、証拠不十分で裁判所からすべて棄却されました」雅也の瞳に鋭い光が宿った。以前、律が余裕の顔で乗り込んできた時点で、あいつが裏で証拠の隠滅や法的な工作に手を回していることは明白だった。「分かった。あのカードから六十兆円を会社の口座に移せ。倒産申請も直ちに取り下げろ」雅也から差し出されたカードを受け取り、恭平の目が歓喜に輝いた。「はい!直ちに手配いたします!」恭平は慌てて社長室を飛び出していった。一方、創和の社長室。律は、雅也がいつ自分に泣きついてくるかと余裕で構えていた。だが、彼を待っていたのは、「展望技術が謎の巨大資本から巨額の資金援助を受け、奇跡的に倒産の危機を脱した」という信じ難い報告だった。秘書からの報告を聞いた瞬間、律の顔に張り付いていた余裕の笑みは完全に凍りついた。「……何だと!?」「しゃ、社長……」「今すぐ調べろ!一体どこのどいつが展望技術に資金援助しやがった!」「は
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第1036話

拓海が去って間もなく、律の秘書が血相を変えて飛び込んできた。「社長!展望技術が受けたあの資金援助ですが、いくら調べても出処が掴めません!まるで、降って湧いたような金で……私は……」「失せろ!」律の目は血走って真っ赤に染まり、怒りのあまり顔が醜く歪んでいた。その姿は正気を失った悪鬼のように恐ろしかった。秘書は恐怖で言葉を失い、慌てて背を向けて逃げるように部屋を出た。ドアを閉める手すらガタガタと震えていた。今度こそ、すべてが終わった。展望技術が倒産を免れた以上、桜井雅也を完全に叩き潰すことも、楓を自分の腕の中に取り戻すことも、永遠に不可能になったのだ。一方、展望技術の社長室。「社長、この巨額の資金があれば、会社はすぐに息を吹き返します!この数日中に、解雇した従業員たちにも順次連絡を入れます。戻ってきてくれる者には、すぐさま再雇用の手続きを取れます」報告をする恭平の顔には、隠しきれない安堵と喜びの笑みが溢れていた。「ああ、分かった。お前も仕事に戻れ」「はい!」恭平が退室すると、雅也はデスクの書類を開いたが、その内容は全く頭に入ってこなかった。湊の銀行カードにあったあの異常な資金。それを使うことが吉と出るか凶と出るか、彼にも全く予測がつかない。だが、事ここに至っては、これがあの時点で彼に選択し得る唯一にして最善の道だったのだ。彼は深く息を吸い込み、雑念を強制的に振り払って仕事に没頭し始めた。会社が再び動き出せば、処理すべき課題は山のようにある。午後になると、先日契約を解除して逃げ出した取引先の責任者たちが次々と展望技術のビルに押しかけ、契約の再締結を求めてきた。中には、会社の完全な安定を見極めてから判断しようと、静観を決め込んでいる企業もあった。雅也は恭平に命じ、業界全体に一つの通達を出させた。「三日以内に展望技術との再契約を申し出た企業については、先日の契約解除は一切不問に付す。しかし、三日を過ぎた企業とは、今後二度と取引を行わない」この通達が出回るや否や、静観を決め込んでいた大半の企業が、手のひらを返したように一斉に交渉の席へと群がってきた。恭平は不満そうにこぼした。「社長。会社が危うくなった途端、あんなに我先にと逃げ出した連中です。どうして今更、あんな裏切り者たちに再契約のチャ
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第1037話

「何とか持ち直した。徐々にだが、軌道に乗り始めている。ただ、やはり不安は拭えない。あの決断が正しかったのかどうか」湊のカードの金に手をつけるという選択は、会社を救う反面、彼らをさらに底知れない深淵へ引きずり込む危険性も孕んでいるからだ。楓は彼を見上げ、静かに言った。「正しかったかどうかは分からないわ。でも、あれが私たちに残された唯一の道だった。これから何が起きるかは、その時になってから考えればいい。少なくとも、今より絶望的な状況にはならないはずよ」もし展望技術が倒産していれば、律がどんなおぞましい手段で自分たちを追い詰めてくるか分からない。展望技術という強大な後ろ盾を残せたこと、それこそが彼らを守る最大の安全保障なのだ。「ああ。俺が必ず君と湊を守り抜く。誰にも指一本触れさせはしない」雅也はすでに腹を括っていた。もし後になってあの資金に関する致命的なトラブルが発覚した場合は、どんな手段を使ってでも楓と湊を安全な海外へ逃がすつもりだ。二人が言葉を交わしている間に、小鍋の出汁がふつふつと沸き立った。楓は鍋の蓋を開け、つくねを一つずつ丁寧に出汁の中へ落としていった。「難しく考えるのはやめましょう。私たちは、絶対に大丈夫よ」雅也は楓の背後に立ち、彼女を後ろから強く抱きしめた。「ああ」一方、拓海の邸宅。リビングルーム。窓辺に立つ拓海は、スマホを耳に当てていた。通話の相手は耀だ。拓海がこれほど時間をかけても展望技術を潰せないことに、黒木は鼻で笑った。「遠藤拓海。お前は本国に帰ってから、恋愛ごっこにかまけて頭のネジが緩んだんじゃないのか?俺が指示した任務が一向に進展しないが?」拓海の表情が怒りで歪んだ。「黒木副社長。俺はこれでも必死に手を尽くしている。今回、展望技術は完全に倒産寸前まで追い込まれていた。だが、突如として得体の知れない謎の資本が注入され、息を吹き返したんだ……俺は、やれることはすべてやった……」「俺は『やれることはやった』などという負け犬の言い訳を聞きたくて電話したわけじゃない。結果を出せないなら、その他の言葉はすべて無価値だ。最後のチャンスをやる。一週間以内だ。一週間以内に俺の要求を満たせないなら、これまでお前に与えたものをすべて回収する」拓海の顔色が変わった。「黒木副社長……!」
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第1038話

もし一ヶ月も連絡がないのであれば、それは全員がすでにこの世にはいないということを意味する。「……はい、承知いたしました」恭平は重い足取りで退室した。ドアの外へ出た瞬間、彼は深くため息をついた。ファルコンのメンバーが、単なる通信トラブルなどの予期せぬアクシデントで連絡が取れないだけであってほしい。決して、最悪の事態に巻き込まれたわけではないと祈るしかなかった。社長室に取り残された雅也は、暗く沈み込んだ瞳で虚空を見つめていた。おそらく、ファルコンのメンバーはニック・ファミリーの手の者に気づかれたのだろう。だが、生きているのかどうかは分からない。黒木耀の背後にいるニック・ファミリーは、彼の想像を遥かに超える巨大で危険な組織だった。深い思考に沈んでいたその時、デスクの上のスマホが震えた。画面に「水瀬律」の名が明滅しているのを見て、雅也の顔に冷酷な笑みが浮かんだ。通話に出るなり、律の怒りに満ちた声が響き渡った。「桜井雅也!お前はそこまで徹底的に俺を追い詰める気か!」今回、展望技術の法務部が提出した訴状は、単なる企業秘密の窃取だけではなかった。創和がこれまで裏で手を染めてきた数々の違法行為の決定的な証拠を、すべて揃えて裁判所に叩きつけたのだ。もしこれらの証拠が法廷で完全に受理されれば、律は確実に実刑判決を受け、刑務所送りとなる。先ほど秘書から、「警察が事情聴取のためにこちらへ向っている」と緊急報告を受けたばかりだった。雅也は極めて平坦な声で返した。「お前が展望技術を追い詰めた時も、全く同じように徹底的だったじゃないか。立場が逆転した途端に泣き言か?随分と打たれ弱いな」「ふざけるな!あまり調子に乗るなよ。展望技術を潰そうと狙っているのは、俺の創和だけじゃないぞ」「知っているさ。遠藤拓海、そして奴の背後にいる黒木耀だろう?」電話の向こうが、不気味なほど完全に沈黙した。やがて律の声が再び響いた。「……そこまで知っているなら、今このタイミングで俺の創和に全力で噛み付くべきじゃないはずだ。お前の本当の敵は、創和じゃない」「お前が遠藤拓海と結託して展望技術を潰そうとしたのは事実だ。それは実質的に、お前が黒木耀の右腕として動いたことを意味する。俺にとっちゃ、お前から先に潰そうが、遠藤から先に潰そうが結果は
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第1039話

健太の顔色が変わった。彼は静かに歩み寄り、美雨を見下ろして低く唸った。「……もう一度言ってみろ」美雨は挑発的に片眉を上げた。「何?言い返せなくなって、ついに手でも上げる気?」「てめえ……!」健太は拳を固く握り締め、怒りに任せて今すぐ殴り飛ばしてやりたくなった。「いい加減にしろ!」上座に座る泰造の激怒した声が響き渡った。「これ以上恥を晒す気か!?二人とも黙れ!」健太は忌々しげに顔を歪め、深く息を吐き出して拳を下ろした。どうせこいつは、もう藤堂グループを継ぐ権利すら失った惨めなピエロだ。自分がわざわざ相手にしてやる価値もない。美雨は無表情のまま泰造に向き直った。「お爺様。今日私を呼びつけたのは、水瀬律が逮捕された件なの?」泰造は不快そうに顔をしかめた。「水瀬律の逮捕は、我々藤堂家のイメージにも少なからず悪影響を及ぼす。お前はしばらく外出を控え、一刻も早く出国手続きを済ませて本国を発ちなさい」美雨は鼻で笑った。「ええ、分かったわ」結局、今の自分は泰造にとってただの不要な捨て駒に過ぎないのだ。一刻も早く視界から消え去ってほしいというのが本音だろう。だが、藤堂グループを健太のような無能なクズに引き継がせるのは、間違いなく泰造の人生における最大の愚行となるはずだ。「私はすでに水瀬律と離婚している。あの男がどうなろうと私には何の関係もないし、興味もないわ。他に用がないなら、私はこれで失礼するわ」「待ちなさい」泰造が彼女を呼び止めた。その声には重苦しい圧があった。「今日お前たちを呼んだのは、もう一つ、話しておくべきことがあったからだ」美雨は内心で鼻で笑ったが、表面上は少しの感情も見せなかった。「何でしょう?」「お前が海外に行く前に、お前が保有している藤堂グループの株式10%を、健太の名義に書き換えなさい」当然の権利とでも言いたげな泰造の傲慢な態度に、美雨の胸の奥に激しい怒りが込み上げた。私が律との離婚と引き換えにようやく手に入れた株式を、どうしてこの無能なクズに無償でくれてやらなければならないの?「お爺様。彼に譲渡するのは構わないが、その代わりに彼が私にいくら支払うの?」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、健太が激昂して立ち上がり、わめき散らした。「美雨、お前
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第1040話

泰造の顔色は怒りで青ざめた。彼は冷酷な声で言い放った。「あいつは間もなく海外へ発つ。そんな人間がグループの株を大量に抱え込んで何の意味がある?それに、金を払わないと言っているわけではない。だが今の藤堂グループの財務状況はお前たちも知っての通りだ。代金を払うにしても、会社が完全に息を吹き返してからになる」美雨は冷ややかに笑った。「随分と都合のいい言い訳ね。もし私が本当にすべての株をこいつに渡したら、こいつは一生私に一円たりとも払わないわ」泰造は冷酷な目で美雨を睨みつけた。「お前は、どうしても私に逆らう気か?」「お爺様、私を追い詰めているのはあなたたちの方よ。この株は、絶対にこいつには渡しはしない!」「……たいした言い草だ。いいだろう、好きにしろ!」親族会議は最悪の決裂に終わった。家に戻った後、敦子は彼女の傍に座り、不安げに言った。「美雨。今回はあいつらも引き下がったけど、絶対にまた別の手段であなたの株を奪いに来るわ。決して情にほだされて譲ったりしちゃダメよ」情にほだされる?美雨の口元に深い自嘲の笑みが浮かんだ。泰造が自分を見捨ててあの無能な健太を選んだあの瞬間から、泰造に対する情など一欠片も残っていない。だが、彼らがすでにこの株に狙いを定めた以上、自分の手元に置いておくのはあまりにも危険だ。健太のあの異常な執着と凶暴な性格を考えれば、株を奪うためならどんなおぞましい手段に打って出るか分からない。そこまで考えが至り、美雨は母親を見た。「お母さん、私、少し出かけてくる」家を出た彼女は、タクシーで展望技術の本社ビルへ直行した。雅也は、美雨が自分を訪ねてきたと聞き、その瞳に微かな驚きを浮かべた。彼女が自分と「ビジネスの交渉」をしたいと言っていると聞き、彼は片眉を上げた。「社長室へ通せ」間もなく、美雨が車椅子を押されて入室してきた。彼女の足の骨折は重症で、未だにギプスが外れていなかった。「俺に話があるそうだな」美雨は静かに頷いた。「桜井社長。現在、私の手元に藤堂グループの株式10%があります。興味はございませんか?」雅也は驚きを隠さず、微かに微笑んだ。「藤堂の株なら、藤堂家の人間に買い取らせた方が遥かに高値がつくはずだ。俺に売ってしまえば、いずれ藤堂グループが他人に乗
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