女にとって、一度お腹を痛めて産んだ我が子は何よりも代えがたい絶対的な存在だ。もし律が拉致したのが楓自身だけであったなら、彼女がここまで骨の髄から彼を憎悪することはなかっただろう。「ああ。水瀬蓮には常に監視をつけさせる。君と湊に二度と近づけるような真似はさせない」今日、彼女の夫がとうとう三行半を突きつけ、離婚が成立したという報告を耳にしていた。夫から捨てられ、実の息子は刑務所行き。すべてを失い、完全に後がなくなった女が、狂気に駆られてどんな凶行に走るか分かったものではない。「ええ、お願い……それじゃ、私はこれで。お仕事の邪魔をしてごめんなさい」雅也の瞳に微かな躊躇の色が過った。今日、遠藤拓海から聞かされた耀に関する底知れない闇を、楓に打ち明けるべきかどうか迷っていたのだ。雅也が何も答えないでいると、楓は少し不思議そうに小首を傾げた。「どうしたの?」雅也は小さく頭を振り、思考を打ち切った。「いや、何でもない。君は先に行っててくれ。俺は仕事に戻る」楓は彼のその態度に、拭いきれない違和感を覚えた。無意識に眉をひそめる。「あなた……私に何か、言えないような隠し事でもしてる?」「いや、ただ……まだ湊のことが心配なだけだ」「私もよ。でも、あの子もいつまでも家に引きこもっているわけにはいかないわ。私たちがしばらくの間、厳重に警戒して見守ってあげればいいのよ」律が無力化された今、楓と湊を標的にするような人間はもういないはずだ、と彼女は信じていた。「ああ」書斎を出た楓は、リビングに戻って湊を呼び寄せた。「湊。さっき幼稚園の先生とお電話しておいたわよ。明日からまた、お友達のところへ戻っていいわよ」湊の顔が一瞬にして花のように綻んだ。「ほんとに!?」「ええ。だから、二階へ行って自分のリュックサックを準備しておきなさい」「やったー!今すぐ行ってくる!」湊は弾かれたように立ち上がり、喜びを爆発させながら階段を駆け上がっていった。その後ろ姿には、隠しきれない無邪気な躍動感が溢れていた。その無邪気な後ろ姿を見つめ、楓の口角にも自然と温かい笑みがこぼれた。一方その頃、警察署の面会室。蓮は弁護士の手引きにより、ようやく息子の律と対面を果たしていた。目の前に現れた律の姿を見て、蓮の目から一瞬で涙が溢れ
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