「今夜はどうしてこんなに遅かったんだ?」「少し野暮用があって」それを聞いて、大輔はそれ以上追及することなく頷いた。「そうか。そうだ、義父さんの腎臓のドナーが見つかったんだ。問題がなければ、一ヶ月後には手術できるそうだ」靴を脱ごうとしていた楓の手が止まった。信じられないという目で顔を上げ、彼を見た。「本当に!?」彼女が顔を輝かせ、出会った頃のように目をキラキラさせて自分を見つめるのを見て、大輔は胸が締め付けられるのを感じた。「ああ」「よかった……ありがとう、本当に!」この感謝の言葉に嘘はなかった。適合するドナーが見つからなければ、父の体はあと数年も持たなかったかもしれないのだ。「俺たちは夫婦なんだ。これくらいするのは当然だ」楓は軽く口をつぐみ、何も言わなかった。彼女の中では、二人はとうの昔に夫婦などではなく、婚姻届で無理やり縛り付けられているだけの他人に過ぎない。「それでも、本当に感謝しているわ」彼女の瞳から親愛の色が消え、再びよそよそしい眼差しに戻ったのを見て、大輔の胸に無力感が広がった。どう足掻いても、彼はもう一度彼女の心の中に入ることはできないような気がした。彼が口を開こうとしたその時、ポケットのスマホが鳴った。画面に翔太の名前が表示されているのを見て、彼は言った。「まだ少し仕事が残っているんだ。もう遅いから、君は先に休んでくれ。おやすみ」そう言って、彼はスマホを手に立ち上がり、通話ボタンを押しながら書斎へと向かった。「社長、権田達也が聖都に入りました」大輔の足がピタリと止まり、その目に冷酷な光が走った。「分かった。俺が指示した通りに手配しろ」「承知いたしました」電話を切った大輔の口角に、冷ややかな笑みが浮かんだ。……バーで気まずい別れ方をしてから数日間、楓は雅也の姿を一度も見かけなかった。金曜日の夜。第一段階の実験が一段落し、楓と芽衣が研究室を出た時には、すでに夜の11時を回っていた。雑談しながらエレベーターホールに向かい、芽衣は思わずため息をついた。「前は残業帰りにたまに社長をお見かけしたのに、最近は全然お会いできませんね。毎日こんなに味気ない実験ばっかりやってるんだから、目の保養にイケメンの顔でも拝まないと疲れが取れないですよ」楓は思わずクスッと
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