恵理の顔に浮かんだ笑みがわずかに引きつった。だが、彼女が何かを言うよりも早く、麗子がカトラリーをテーブルに荒々しく叩きつけ、息子を叱り飛ばした。「雅也、レディに対する気遣いというものを知らないの!?」距離を縮めさせるために料理の取り分けを促したというのに、この馬鹿息子はあろうことか、皿ごと彼女の目の前に無造作に置いたのだ。もしこの無礼な振る舞いが外に漏れれば、間違いなく春川家の怒りを買うだろう。雅也は母に向かって不敵に微笑んだ。「母さん、俺がこういう柄じゃないと分かっているなら、最初からやらせるべきじゃない」麗子の顔が怒りで真っ赤になり、今にも爆発しそうになったその時、恵理がすかさず割って入った。「お気になさらないでくださいませ。私、実はお魚が大好きなんです。こうしていただけた方が、かえっていただきやすいわ。彼に何度も取り分けさせては申し訳ありませんし」場を丸く収めようとする恵理の機転を見て、麗子の顔は満足げに輝き、彼女への好感度はさらに跳ね上がった。「恵理ちゃんは本当に気立てのいいお嬢さんね。それに引き換え、この馬鹿息子ときたら、私を怒らせることしかできないんだから。雅也、食事が終わったら、彼女を家まで送り届けるのよ」と、麗子は命令を下した。雅也は眉をひそめ、すかさず拒絶しようとしたが、またしても恵理が先手を打った。「お気遣いなく。今日は自分の車で来ておりますので」彼が自分に全く興味を抱いていないことは、恵理にも痛いほど伝わっていた。無理に送らせたところで、状況が好転するわけではない。ここは一旦身を引き、次のチャンスを窺うのが得策だ。創和地所と展望技術は、まもなく業務提携を結ぶ予定なのだ。彼に近づくチャンスは、これからいくらでもある。麗子は、雅也の冷たい態度が恵理の気を悪くさせたのだと思い込み、息子を鋭く睨みつけた。だが、雅也は母の視線を完全に無視し、無表情を貫いた。そもそも彼は、このお見合いに同意した覚えなどない。麗子が勝手に仕組んだことだ。もし今夜の夕食がただの見合いの席だと知っていれば、最初から本家になど足を運ばなかった。恵理の視線が、向かいの席に座る夫婦へと移った。大輔が至れり尽くせりの様子で楓の世話を焼いているのを見て、彼女は思わず口にした。「大輔様は、本当に楓様を大切になさっているので
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