All Chapters of 縁が逆転~元カレの叔父が夫~: Chapter 801 - Chapter 810

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第801話

佐智雄が誠心誠意謝っているのを見て、明里の顔色もようやく少し和らいだ。「佐智雄。私はね、あなたと付き合うって決めた以上、他の男と中途半端な関係を続ける気なんてサラサラないの。今日拓海と会ったのだって、ただの偶然よ。それなのに、あなたは問答無用で嫉妬して私に突っかかってきた。自分が正しいことしたと思ってるの?」佐智雄は慌てて何度も首を横に振った。「いいや、間違ってた。もう二度とあんな真似はしないと約束するよ!」彼がまるで捨てられた子犬のように反省している姿を見て、明里の胸の奥にあった最後の火種もすっかり消え去った。「逆の立場で考えてみてよ。もしあなたが他の女の人と少し話しただけで、私がいちいち嫉妬して問い詰めたら、あなただって『なんだこいつ』って思うでしょ?」「全然。もし君がそんな風に怒ってくれたら、俺は飛び上がるほど嬉しいよ。君が俺のことをそれだけ気にかけてくれている証拠だからね」「あなたね……」本当に、この男には何を言っても無駄だ。明里が呆れて言葉を失っているのを見て、佐智雄はまた彼女の機嫌を損ねてしまったかと焦り、慌てて話題を変えた。「そうだ、うちの社員食堂、結構美味しいんだ。君、以前うちに仕事で来た時も食べる機会がなかっただろ?今日、案内するよ」「ええ、いいわよ」佐智雄は彼女の手を握り、そのまま一緒に外へ歩き出した。一方その頃。桜井グループのビルから少し離れた路肩に停まる黒のカイエンの後部座席では――拓海は眉を深くひそめ、手元の資料を食い入るように見つめていた。資料を握りしめる指の関節は白く浮き上がり、彼の全身からは周囲の人間を震え上がらせるほどの氷のような冷気が放たれていた。彼が手にしているのは、明里のこの五年間に関する詳細な身辺調査の報告書だった。斉藤が明里に薬を盛ったという記述に差し掛かった瞬間、彼の目がスッと細められ、その口角がゆっくりと、ひどく冷酷な弧を描いた。助手席に座っていた秘書は、ルームミラー越しに彼のその表情を見た瞬間、足の震えが止まらなくなった。普段、社長がこの表情を浮かべる時は、誰か特定の人間を完全に破滅させようと決意した時なのだ。拓海はバタンと資料を閉じ、極めて淡々とした声で命じた。「三日だ。三日以内に、斉藤グループをこの聖都から完全に消し去れ」秘書は恐
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第802話

事の顛末を聞き終えた楓は、怒りで今すぐ奴を殴り飛ばしたい衝動に駆られた。「とんだ人間のクズじゃない!一体どの面下げて帰国できたって言うのよ!」雅也は立ち上がって彼女の傍へ歩み寄り、その背中を優しく撫でた。「落ち着け。あんな男のために腹を立てるだけ時間の無駄だ。それに、今は明里には佐智雄がついている。あいつが彼女をしっかりと守るはずだ」「それはそれ、これはこれよ」明里が今は幸せを手にしているからといって、かつて拓海から受けた傷がなかったことになるわけではない。「奴が気に食わないなら、明日のパーティーは欠席すればいい」楓が何か言い返そうとしたその時、雅也のスマホが不意に鳴った。画面に表示された病院からの着信を見て、雅也の顔色が微かに変わり、彼はすぐに出た。「桜井様。木村恒一様の術後の経過が大変順調でして、退院の許可が下りました。退院手続きにつきまして、いつ頃ご来院いただけますでしょうか」その報告に、雅也は目に見えて安堵の息を吐いた。「今すぐ向かう」向かいにいた楓にも看護師の声は聞こえており、雅也が通話を切るや否や、彼女はすぐに言った。「私も一緒に行くわ」「ああ」病院へ向かう車中、楓はずっと恒一をどこに住まわせるべきか頭を悩ませていた。一番理想的なのは、彼を私邸に引き取って一緒に暮らすことだ。そうすれば、日常的に彼の体調を気遣うことができる。だが、現在楓と湊は雅也の家に身を寄せている。雅也が、その父親を自分の家に住まわせることを快く思うかどうかは分からなかった。そうこう思案しているうちに、車はすでに病院のロータリーに到着していた。「楓?……楓?」雅也の声にハッと我に返り、楓は隣の雅也を見た。「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたわ」「何をそんなに真剣に考えていたんだ?」「何でもないわ。さあ、早く退院手続きに行きましょう」彼女は雅也の視線を避けるようにシートベルトを外し、急いで車を降りた。雅也の目の奥で微かな光が揺らいだが、彼はそれ以上深く追及することはなかった。十分もかからず、二人は恒一の病室の前に着いた。楓がドアノブに手をかけ、まさに押し開けようとしたその時、病室の中から女の啜り泣く声が聞こえてきた。「恒一……あの時は、私だってどうしようもなかったの……私、本当は
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第803話

当時、蓮と再婚した恒一は、彼女にも連れ子の律にもできる限り尽くしていた。後に彼が病に倒れ、長く寝込むようになってからも、二人の生活を案じ、将来に備えてまとまった金を残していた。しかし、腎臓移植手術を終えて間もなく、蓮は突然離婚を切り出した。彼女が家を出る時、恒一に告げたのはこういうことだった。「これからの人生を、一生病院のベッドと家の往復だけで終わらせたくないの。私には私の人生がある。私は自由になりたいのよ」そして彼女は、離婚が成立して間もなく、あっという間に別の富豪と再婚したのだ。それが今になって再び彼の前に現れ、今の夫に大切にされていない、自分が愛しているのはやはり恒一だと泣きながら復縁を求めてきた。恒一は、彼女の言葉をもう一言たりとも信じていなかった。「十年近くも連れ添った仲だ。たとえ離婚したとはいえ、お前にこれ以上酷い言葉を投げつけたくはない。もう帰ってくれ。そして二度と俺の前に姿を現すな。お前の顔は、二度と見たくないんだ」その言葉を聞いた途端、蓮の目から涙がこぼれ落ちた。「恒一……あなた、本当にそんなに冷酷になれるの?」「俺にまだ何か利用価値が残っていると思ってすり寄ってきたのかは知らんが、お前はもう俺から何一つ搾り取ることはできない。さっさと出て行け」蓮の顔がサッと強張り、彼女の視線は一瞬だけ、恒一の首から下げられている鍵に注がれたが、すぐに悟られないよう目を逸らした。「恒一。しっかり養生してね。また日を改めて来るわ」恒一は何も答えず、冷淡な表情を崩さなかった。蓮はバッグを手に取り、楓と雅也に「失礼するね」と短く言い残して病室を後にした。病室に三人だけになると、雅也は楓に向かって言った。「俺が退院手続きを済ませてくる。君はここでお父さんの傍についていてやれ」「ええ、お願い」三十分もかからずに、雅也はすべての手続きを終えて病室に戻ってきた。戻ると、楓は恒一の荷物をまとめているところだった。「楓。お父さんが退院したら、そのまま俺の家へ連れて行こう。一緒に暮らした方が安心だろう」荷物をまとめる楓の手がピタリと止まった。彼女は驚いて顔を上げ、すぐに首を横に振った。「いいえ、大丈夫よ。お父さんはさっき、体調もだいぶ回復したから、一人で静かに暮らしたいって言ってたの」「な
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第804話

「ええ、ご苦労様でした」「いえいえ、それじゃあ作業に戻りますね」楓は小さく頷いた。「ええ、お願いします」清掃員は手際よくキッチンへ戻り、すぐに中からガタガタと慌ただしい作業音が響き始めた。楓は恒一を支えてリビングの使い古されたソファに座らせた。恒一の視線はリビングの隅々をゆっくりと這うように巡り、その瞳は過ぎ去りし日々への深い郷愁に満ちていた。玄関の壁の柱に、刃物で無数に刻まれた「身長を測った傷跡」を見つけ、彼の口角は自然と緩んだ。「楓。ちょっとあの柱のところへ行って立ってみてくれないか。今のお前がどれくらい成長したか、見てみたいんだ」彼の視線を追いかけ、楓も思わずクスッと笑い、立ち上がって玄関の柱に背中を預けた。柱に刻まれた一番高い傷跡でさえ、今の彼女の腰の高さにようやく届く程度だった。恒一は深くため息をつき、ひどく掠れた声で呟いた。「……あの一番高い線はな、お前の母親が最後に刻んでくれたものなんだよ」楓は静かに頷き、その瞳の奥に微かな悲しい光が過った。あの線が刻まれてからまもなく、母は父と離婚した。母が海外へ発ったあの日、楓はちょうど他県で行われた書道コンクールに参加しており、最後に母の顔を見ることすら叶わなかった。その後、恒一の仕事はさらに多忙を極め、彼女の身長がこの柱に刻まれることは二度となかった。彼の会社がようやく軌道に乗った後、彼は彼女を連れてこの家を出た。今になって思えば、あの頃の父は、母との思い出が詰まったこの家にいるのが辛くて、仕事に逃げ込むことで自分を麻痺させようとしていたのかもしれない。この家を出たのも、目に入るものすべてが母を思い出させ、つらくなるからだったのだろう。父娘が黙り込み、リビングに物悲しい空気が流れ始めた時、雅也が口を開いた。「楓。君の部屋はどれだ?俺にも見せてくれないか」彼としては、純粋に楓が幼少期をどんな部屋で過ごしていたのか見てみたかったのだ。楓は気持ちを切り替え、左手にある部屋を指差した。「ここが私の部屋よ」ドアの表面には黒猫のキャラクターのステッカーが貼られていたが、猫の耳や肉球の部分はすでに剥がれ落ち、残った部分もすっかり黄ばんでおり、果てしない年月の経過を物語っていた。楓は部屋の前に立ち、深く息を吸い込んでから、ゆっくりと
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第805話

記憶を頼りに勉強机の左の一番上の引き出しを開けると、案の定、楓の幼少期の記録が詰まった古いアルバムがそこに眠っていた。楓はアルバムを取り出し、表紙の埃を軽く払い落としてページをめくった。一ページ目にあったのは、生後一か月頃の写真だった。楓はベッドに寝かされ、眉間には赤い点が一つ描かれていた。頭には色とりどりの小花が縫い付けられたピンク色のニット帽を被っていた。着ているベビー服も帽子と同じピンク色で、すべて母が夜なべして編んでくれた手作りのものだった。写真の中の、丸々と太ったピンク色の小さな赤ん坊を見て、楓の口角には自然と柔らかい笑みが浮かんだ。いつの間にか彼女の背後に回っていた雅也も、彼女の肩越しにアルバムを覗き込み、低く笑い声を漏らした。「小さい頃の君は、本当に可愛いな」楓は彼を振り返り、アルバムを彼の手の中に押し付けた。「あなた、ここでゆっくり見てて。私は他に何か買い足すものがないか、他の部屋を見てくるから」雅也は頷いた。「ああ、分かった」部屋を出てリビングに戻ったが、そこに恒一の姿はなかった。楓が家中を探し回ると、彼はベランダに立っていた。恒一はベランダの手すりのそばに立ち、少し離れた小学校のグラウンドを懐かしそうに見つめていた。入院中、彼はさらに痩せ細っていた。一番小さなサイズの服を着ていても袖口はガバガバに余り、その背中は今にも折れそうなほど薄く、まさに骨と皮だけといった有様だった。楓は唇を引き結び、彼の傍へ歩み寄った。「お父さん、何を見てるの?」彼はグラウンドを駆け回る小学生たちを指差しながら、微笑んで言った。「お前が通っていた小学校だ。覚えているか?」楓は頷いた。「ええ、覚えてるわ」「お前がまだ一年生だった頃、お前の母親は、水曜日になると時々このベランダからグラウンドを眺めていたんだ。水曜日はお前たちのクラスの体育の授業があったからな。俺も時々早く帰れた時は、彼女の隣に立って一緒にお前が走る姿を見ていたものだ。あの頃のお前は、まだ本当に小さくてな……」恒一は手で当時の楓の背丈を示し、懐かしそうに笑った。「それが、あっという間にこんなに立派な大人になってしまった」小学校時代の記憶など、彼女にとっては遥か彼方の霞んだものであり、ほんの数個の断片的な光景しか残って
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第806話

雅也の瞳の奥で何かが閃いた。彼は小さく頷いた。「ああ。おそらく、君のお母さんに面影が似ている別人をどこかで見かけただけだろう」楓はそれ以上この話題に固執することはなく、写真をアルバムに戻してパタンと閉じた。「スーパーへ日用品の買い出しに行きたいんだけど、あなたも来る?」「ああ」アルバムを机の引き出しにしまい、楓と雅也は揃ってアパートを出た。スーパーにて。楓が前を歩いて商品を品定めし、雅也がカートを押して彼女の後ろをついて歩く。あまりにも目を引く美男美女の組み合わせは、周囲の客たちの視線を否応なしに引きつけていた。日用品を買い終え、ちょうど前方に調味料や生鮮食品のコーナーが見えてきた。彼女は振り返って雅也に言った。「ついでに調味料と食材も買っていこうか?今夜は私がお父さんの家で夕食を作ってあげるわ」「君の好きにすればいい」「なら、何が食べたい?」「何でもいい」「ふむ……」彼女は雅也をジッと見つめ、少し不満げに言った。「さっきスーパーに入った時から、ずっと上の空じゃない。何か考え事でもしてるの?」雅也は首を横に振った。「いや、何でもない。無性に白身魚が食べたいな。後で一緒に魚を選ぼう」彼がはぐらかそうとしているのを察し、楓は小さく眉をひそめたが、結局それ以上は何も聞かず、背を向けて調味料の棚へと歩いていった。彼女の背中を見つめながら、雅也の目はひどく深く沈み込み、その顔には考え込むような色が浮かんでいた。間違いない。俺は絶対に、楓の母親に会ったことがある。しかも、楓は「母は私が小学生の頃に海外へ行った」と言っていた。であれば、二人が海外で接触していた可能性は極めて高い。なぜなら、俺が祖父母に連れられて帰国したのは十五歳の時であり、それまでの幼少期から少年期にかけては、ずっと海外で暮らしていたのだから。ただ、具体的にいつ、どこで彼女に会ったのかが、どうしても思い出せない。ヴーッ!ヴーッ!ポケットの中で不意にスマホが振動した。恭平からだった。「社長。黒木耀の調査資料をメールにお送りいたしました。それと、遠藤社長が海外に滞在していた期間、彼と黒木は頻繁に接触しており、両社のビジネス上の結びつきも極めて強固なようです」「ああ、分かった」電話を切り、雅也はスマホのメール
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第807話

ここ数年、先方からはまったく仕事の依頼がなく、彼らは暇を持て余し、腕が鈍りそうになっていた。男が顔を覆っていたサングラスを外すと、そこには切れ長で美しい眼が露わになった。その色気のある眼差しは、その場にいるどんな美女すらも霞ませてしまうほどだった。「ああ。遊ぶのは終わりだ。仕事の準備をしろ」彼の一声が落ちた瞬間、周囲にいた十数人は一斉に手にしていたグラスを放り出し、ヴィラの中へと駆け込んでいった。ヴィラの二階の左奥には、元々四つの部屋があった壁をすべて取り払い、長方形の大部屋に改造した空間があり、そこには十数台のハイエンドなコンピューターがズラリと並んでいた。一同は素早く各自の席に着き、コンピューターを起動すると、最後に入ってきた男を一斉に見た。男は自身のコンピューターを開き、無表情のまま言った。「すぐに全員の任務を割り振る」間もなく、全員の画面に一つの文書が表示された。それぞれが内容を確認すると、部屋にはすぐにキーボードとマウスを操作する音が響き始めた。一方、聖都。楓と雅也が食材を抱えてマンションに戻った時、清掃業者はすでに作業を終えて引き上げた後だった。楓がレジ袋を提げてキッチンへ入ると、雅也もその後ろについて入ってきた。「楓。俺も手伝う」楓は遠慮することなく、青菜の入った袋を彼の目の前に差し出した。「じゃあ、まずはこの野菜を洗って」「ああ」雅也は袋を受け取ってシンクに置き、水切りボウルを取り出すと、ワイシャツの袖をまくり上げて蛇口をひねり、野菜を洗い始めた。一人が食材を洗い、もう一人が包丁を振るう。二人の息の合った連携により、あっという間に四品のおかずと一つのスープが完成した。楓は雅也に恒一を呼んでくるよう頼み、自分は調理で散らかったキッチンの片付けに取り掛かった。寝室から出てきた恒一は、テーブルの上に並べられた色鮮やかで食欲をそそる料理の数々を目にして、その瞳に複雑な感情を滲ませた。かつては包丁一つまともに握れなかった愛娘が、今ではこんなにも手際よく、立派な夕食を作れるようになっている。よく考えてみれば、自分は沙弓だけでなく、娘の楓にも申し訳ないことをしてきたのだ。彼の顔に深い悲哀の色が浮かんだのを見て、楓はご飯をよそった茶碗を彼に手渡した。「お父さん、ご飯にしましょう」
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第808話

「明里は私と一緒じゃないわ。彼女と連絡がつかないの?」「ああ。今日の午後、夜は高校の同窓会があるって言ってたんだ。俺が迎えに行くって約束してたんだけど、会議が長引いて少し遅れちまった。で、店に着いてみたら、個室にはもう誰もいなかったんだ。電話をかけても繋がらない」楓は眉を深くひそめた。「まずは落ち着いて。明里は、どんな同窓会だって言ってたの?」「高校のクラス会だと言っていた」「分かったわ、私の方で当たってみる」高校時代、楓と明里は隣のクラス同士であり、明里のクラスメイトとも何人か面識があった。電話を切るなり、楓はSNSの連絡先を開き、隣のクラスだった友人にメッセージを送り、今夜の同窓会に誰が参加していたか尋ねた。明里と連絡がつかない状況だと知ると、友人もすぐに他の参加者に連絡を取り、間もなく楓に音声通話がかかってきた。「楓、さっきクラス委員長に確認したんだけど、明里は途中で迎えに来た男の人と一緒に帰ったそうよ。みんな結構酔っ払ってて、明里も特に抵抗する様子がなかったから、てっきり彼氏が迎えに来たんだと思って、誰も気に留めなかったみたい」楓の心臓がギュッと締め付けられた。「分かったわ、教えてくれてありがとう」彼女は通話を切ると、すぐに佐智雄へ連絡し、レストランの防犯カメラを確認して、明里を連れていった男が乗っていた車のナンバーを突き止めるよう伝えた。「ああ、分かった。ありがとう、望月さん」佐智雄はスマホを握りしめたまま、レストランの中へと駆け込んだ。彼が防犯カメラの映像を確認したいと告げると、レストランの支配人は大慌てで彼をモニタールームへと案内した。「桜井専務、こちらが八時五十分頃の映像でございます」モニターには、明里と十数人の同窓生たちがレストランのエントランスから出てくる様子が映し出されていた。皆、顔を赤くして足元がふらついており、かなり酒が入っているようだった。それから間もなく、一台の黒い高級車がエントランスの前に停まった。秘書らしき男が車から降りると、真っ直ぐ明里の元へ歩み寄り、彼女を支えて後部座席に乗せた。ドアが閉まると、男も車に乗り込み、車はすぐに走り去った。レストランの防犯カメラには、その車のナンバーが映っていなかった。佐智雄の顔色がみるみる沈んでいくのを見て、支配人は額に
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第809話

数十人の黒服たちが一斉に遠藤家の門へ突進し、力任せに蹴り破ろうとしたまさにその瞬間、門が内側から静かに開かれた。中から現れた遠藤家の使用人たちは、門の外にひしめく数十人の黒服を見ても微塵も動揺する様子を見せず、ただ真っ直ぐに佐智雄へと視線を向けた。「桜井専務。遠藤様がお待ちです」佐智雄は彼を冷ややかな目で見下ろした。「お前ごときが俺に口を利く資格はない。これ以上騒ぎを大きくしたくなければ、今すぐ遠藤拓海に俺の女を差し出させろ!」使用人の顔がわずかに引きつり、場の空気が一気に張り詰めた。黒服たちは佐智雄の次の命令を息を殺して待っていた。彼が一声発すれば、いつでも遠藤家になだれ込む準備はできている。相手が沈黙を貫くのを見て、佐智雄は完全に我慢の限界を迎えた。彼は冷酷に言い放った。「力尽くで踏み込め」黒服たちが動こうとしたその時、門の奥から低く余裕のある男の声が響いた。「桜井専務、何もそんな物騒な真似をしなくてもいいじゃないか」拓海が門の奥に姿を現した。彼の口角にはかすかな笑みが浮かんでおり、目の前に立ち塞がる黒服など、まるで視界に入っていないかのような傲慢な態度だった。佐智雄は完全に無表情のまま彼を睨みつけた。「俺の彼女を返してもらう。それが嫌なら、力ずくで踏み込むまでだ」「桜井専務、ご安心を。明里は無事だ。ただ少し酔い潰れているだけだよ。明日の朝になれば、俺が責任を持って彼女を自宅まで送り届けるさ」佐智雄は氷のような冷笑を漏らした。五年前、拓海が浮気しているところへ明里が踏み込み、現場を押さえた一件は、今でも人々の茶飲み話の種にされているというのに、この男は一体どの面を下げて再び彼女の前に現れたというのか。「どうやら遠藤社長は、どうしても俺に力ずくで踏み込ませたいようだな」佐智雄が鋭い視線を送ると、傍らに控えていた黒服たちが一斉に臨戦態勢に入った。周囲の空気は重く沈み込み、息をするのも苦しいほどの緊迫感が漂った。拓海は口角の笑みを崩さなかった。「たとえお前が力尽くで踏み込んでこようとも、俺は絶対に彼女を渡さないよ」「なら、試してみるか!」二人の間の気温が急激に下がり、拓海の背後にも十数人の遠藤家の使用人たちがズラリと立ち並んだ。彼らは使用人の制服を着てはいたが、その身のこなしか
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第810話

「佐智雄。お前は俺が彼女の傍を離れていたこの五年間、彼女の心の隙間を埋めるただの代用品に過ぎない。遠からず、誰が本当に彼女に相応しい男なのか、嫌というほど思い知らせてやる!」彼の挑発的な宣告を、佐智雄は鼻で笑って一蹴した。「遠藤拓海。一途に彼女を愛し続けている今の彼氏と、ベッドで浮気の現場を押さえられた最低の元彼。明里ならどちらを選ぶべきか、よく分かっているはずだ」そう言い捨てるなり、佐智雄は拓海の屈辱に歪む顔をこれ以上見ることすらなく、明里を抱き抱えたままクルリと踵を返して歩き去った。明里を車の後部座席に寝かせると、佐智雄は運転手に車を出すよう命じた。ルームミラー越しに佐智雄の険しい顔を見た運転手は、ブルッと背筋を震わせ、慌ててボタンを押し、運転席と後部座席の間の仕切りを下ろした。パーテーションが完全に閉まるまで、佐智雄が一切止める素振りを見せなかったため、運転手はようやく深い安堵の息を吐き出した。後部座席が完全に隔離されると、車内を支配していた重苦しい威圧感は一瞬にして霧散し、運転手の顔にもようやく生気が戻った。後部座席では、佐智雄が、車のドアに体を預けて無防備に寝こけている明里を見下ろしていた。その眼差しは、静かな怒りを孕んで暗く沈んでいた。こいつは、呑気に気持ちよさそうに寝てやがる。彼女と連絡がつかず半狂乱になった自分の焦りや、彼女が拓海に連れ去られたと知った時の殺意にも似た怒りを思い出し、佐智雄の瞳はさらに深く沈み込んだ。彼は腕を伸ばし、彼女の体を強引に自分の膝の上へと引き寄せた。彼の乱暴な動きのせいで、明里の顔に長い髪がパラパラと落ちてきた。それがくすぐったかったのか、彼女は無意識に手を伸ばして顔をポリポリと掻いた。そのあまりにも危機感のない呑気な姿を見て、佐智雄の胸の奥で怒りの炎がさらに高く燃え上がった。彼は衝動的に彼女のうなじを掴んで固定すると、その唇に、牙を剥くように強く噛み付いた。「んっ……痛い……」明里は眉をひそめ、彼を押し退けようと両手をバタつかせた。しかし、彼女の抵抗は逆に彼の侵略をさらに激しく、狂暴なものにするだけだった。たっぷりと一分以上が経過して、佐智雄はようやく彼女の唇を解放した。明里は無意識に口をパクパクさせて荒い息を繰り返した。佐智雄に噛み付かれた唇は充血して赤く腫
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