新からの手紙にはこう書かれていた。もし朱音がこのまま聖都で生きていくなら、あのマンションは彼女に安心感を与えてくれるはずだ。もし聖都を離れたいなら、マンションを売却して他の都市で新しいスタートを切ってもいい。どちらの道を選んだとしても、私はあなたを応援します、と。朱音には分かっていた。あのマンションを購入した資金の大部分が、彼が展望技術の開発資金から横領した金だということを。彼がどんな裏工作をしたのかは分からないが、その資金は彼の個人口座を経由しておらず、購入手続き自体も彼自身が行ったものではなかった。そのため、あのマンションは彼とは法的に何の関係もないことになっており、警察に差し押さえられることもなかったのだ。しかし、彼の一介の研究員の給料では、頭金ならまだしも、聖都市中心部の高級マンションをキャッシュで一括購入できるはずがない。朱音は最初、マンションを売却して、彼が横領した金を全額返済しようと考えていた。しかし、一晩明けて、彼女の心に迷いが生じ始めていたのだ。聖都の中心部にあるマンションなら、その価値は二億円は下らない。もしこれを売却して海外へ飛べば、実家の毒親たちはもう二度と彼女を見つけ出せなくなる。彼女はついに、あの底なし沼のような生い立ちから完全に解放されるのだ。それに、彼女の能力があれば、海外で研究職を見つけるのはそれほど難しくない。少なくとも自力で生きていくには十分なはずだ。彼女は一睡もできず、昼間もずっとそのことばかりを考えていたせいで、実験でもミスを連発してしまったのだ。彼女の脳内では、二つの声が激しく争っていた。一つの声は「マンションを売って海外へ逃げろ」と囁き、もう一つの声は「その金は汚い金だ。何も知らないフリをして自分のものにしてはいけない」と警告していた。朱音はひどく苦しみ、どうすべきか全く分からず、誰かに相談することもできなかった。自分のこれからの人生を根底から覆せるほどの絶対的なチャンスが、今まさに目の前にぶら下がっているのだ。たとえそれが汚い金だとしても、全く心を揺さぶられない人間などいるはずがない。家へ帰り、夕食を終えた後も、朱音はあのマンションをどうすべきか考え続けていた。深夜になっても結論は出ず、ベッドで寝返りを打ち続けていた。もう考えるのはやめて寝ようと思ったその時、
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