All Chapters of 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Chapter 141 - Chapter 150

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第141話

まるで獲物を狙う猛獣のように、その目は鋭かった。日菜乃はこれまで、望んだものは全て手に入れてきた。そうでなければ気が済まない性格なのだ。彼女はアハハッと笑い声を上げた。「羽川家の妻に相応しいのはあの女ではなく、この私よ。あなたもそう思うでしょう?――柚果」「はい、その通りです。日菜乃さん」柚果――そう呼ばれた女が上品な笑顔で頷いた。桜庭柚果。香織の勤務先の上司であり、初対面で彼女に親しげに話しかけた唯一の人。そんな彼女が何故、日菜乃の家にいるのか。考えるまでもない。――彼女は元々、日菜乃側の人間だったのだ。高校時代、日菜乃に救われ、彼女の生き様に感銘を受けた柚果は日菜乃の者となった。元々聡明で仕事面においてかなり優秀だった柚果は、様々な会社に潜入しては日菜乃の手足となって動いていた。今は香織の父親が社長を務める九条グループに社員として潜入中だ。人当たりの良い彼女の裏の顔に、社員は誰一人として気付いていない。もちろん、つい最近後輩となった香織も。皆、彼女を善人だと信じて疑わないのだ。日菜乃にとって、柚果ほど信用できる駒は他になかった。絶対に自分を裏切ることのない、忠実なしもべ。「あなたはいつもよくやってくれているわ。会社で香織の悪い噂を広めたのもあなたなんでしょう?」「はい、日菜乃さん。おかげであの女は最初から社内での立場をなくしていました」「そう、いい気味だわ」日菜乃が柚果を気に入っている理由はいくつかあるが、一番は彼女の考えを全て把握し、命令する前に事を成し遂げるというところだ。「……あなたにはいつも世話になっているし、ドレスの件は水に流すことにするわ」「……」その言葉に、柚果の顔色が悪くなっていった。実は、香織にパーティーで着ていくドレスの色を事前に調べたのは柚果だった。彼女は何も疑われることなく香織の着ていくドレスを突き止めたが、彼女は当日違うドレスで会場へ訪れた。柚果にとっては予期せぬ事態だった。彼女は悔しさで唇を噛んだ。任務が失敗するのは、柚果にとって初めてのことだった。何としてでも、今回で前回の屈辱を挽回しなければ。柚果は口を開いた。「ですが、日菜乃さん。あの女は私を信用しきっています」「そうね、あなたは外面はいいから」日菜乃は柚果を見て不敵な笑みを浮かべた。「私は日菜乃さんに恩がありますから。どこまでもつい
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第142話

数日後、香織はいつも通り会社に出勤していた。ちょっと前まで除け者にされていた彼女だったが、今では全員と安定した関係を築けている。以前のように挨拶を無視されることもなければ、軽蔑の眼差しを向けられることもない。それだけで彼女の心はずいぶんと楽になった。(職場が居心地良く感じるのは初めてかもしれないわね)昼休みに、香織はパーティーでのことを同僚たちに話していた。香織と亮太の離婚、そして期間を空けずに日菜乃との再婚。社内にいる全員が興味津々で彼女の話を聞いている。「……と、いうことがあったんです」「そんなことが……」話を聞き終えた社員たちは、香織に同情の目を向けた。そのうちの一人である希美は、香織を労うように彼女の肩に手を触れた。「それは災難でしたね……九条さん……」「ええ、でもおかげで元夫と離婚することができましたし……」あのままずっと亮太との結婚生活を続けなければならないほうが、香織にとっては苦痛だった。頬を打たれたくらい、どうだってことない。前世での仕打ちに比べれば、痛くも痒くもないのだ。「そうだ、今日はみんなで飲みに行きませんか?香織さんの離婚祝いも兼ねて」「それはいいですね、九条さんも行けそうですか?」「はい、もちろんです」香織は笑顔で首を縦に振った。飲み会なんて久しぶりだ。(こうしてみんなと過ごしていると、自由になったって感じがするわね……)もう香織を縛り付けているものは何もなかった。確実に前世とは違う道を歩んでいる。そのとき、和気あいあいと会話をしていた香織たちの間にある人物が割り込んだ。「――その飲み会、私もご一緒してもいいですか?」「…………………桜庭さん?」香織の先輩、桜庭柚果だった。柚果はいつものように口元に微笑を携えながら、香織たちに近付いた。その姿に、香織は妙な違和感を感じた。目が笑っていないような、どこか違和感のある笑みだった。柚果を視界に入れた希美は、嬉しそうに彼女に駆け寄った。「桜庭さん、もちろんですよ!何なら、桜庭さんも誘おうと思っていたところでした」「ありがとう、私もそういう飲み会は久しぶりだから……ぜひ参加したいと思ってね」「嬉しいです!」希美は満面の笑みで柚果の手を握った。優しくて仕事のできる彼女は、社内全員から好かれている。その中でも希美のような若手社員には特に懐かれていた。香織
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第143話

昼休みが終わり、夜になった。一日の仕事が無事に終わり、今からは飲み会の時間だ。香織は希美に手を引かれて外へ出た。希美はウキウキした様子で香織に話しかけた。「九条さん、早く行きましょう!」「ええ、飲み会なんて久しぶりなのでとっても楽しみです」居酒屋までの道のりを歩きながら、希美は香織に尋ねた。「九条さんはお酒強いほうですか?」「……実は、恥ずかしながらあまり強くないんです」香織が恥ずかしそうに笑いながら言うと、希美は驚いたような顔で意外だと口にした。どうやら私は他人からは酒に強く見えるようだ。実際は全然そんなことないし、むしろ普通の人と比べてもかなり弱いほうだった。「――あら、そうだったのね」「……桜庭さん?」二人の会話に割って入ったのは、それまでずっと後ろを歩いていた柚果だった。彼女は笑顔で香織に話しかけた。「九条さんはお酒が弱いんですね」「え、ええ……あまりたくさんは飲めないんです」香織はその笑顔に気味の悪さを感じながらも、言葉を返した。何だか今日の柚果は変だった。どこかで見たことがあるようなその瞳。香織の脳裏で、彼女の瞳がある人物と重なった。(日菜乃……?)柚果を見ていると、何故か彼女のことを思い出した。見た目も似ていなければ、性格なんて正反対のはずなのに。どうして今は似ているように見えるのだろうか。――私に敵意を向けている……?香織は今になってようやく、そのことに気が付いた。理由はわからないが、柚果は香織を嫌っていた。人当たりが良く、誰に対しても優しい彼女がどうして。そんな香織の心の内に気付いているのかいないのか、柚果はニッコリと笑った。「――なら、飲み会では気を付けないといけないわね」「……どういうことですか?」香織は彼女の発言の意味がわからず、眉をひそめた。私に何かをする気なのか。香織が身構えていると、柚果は誤解しないでとでもいうかのように両手を横に振った。「ほら、女の子を酔わせて眠ってる間に襲うヤツとかいるでしょ?お酒に弱い女の子はそういう事態になりかねないから……」柚果のその言葉に、傍で聞いていた希美が同調した。「ああ、それはたしかにそうですね!九条さん美人だから……余計に心配ですね」「そ、そうですか……?」希美はともかく、柚果は本心でそう思っているようにはとても聞こえなかった。「……心配しなくても
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第144話

それからすぐに、飲み会が始まった。乾杯という掛け声と共に、ジョッキがぶつかる音が響いた。飲み会のスタートだ。「九条さん、今日は九条さんが主役ですから!楽しんでいってくださいね!」「ええ、ありがとうございます」香織は希美にすすめられた酒を一口だけ飲んだ。(酔いそう……)酒にあまり強くない彼女は飲みすぎに注意しなければならなかった。「ところで、九条さんは再婚とか考えていないんですか?」「再婚……ですか?」唐突に希美から話を振られ、香織は我に返った。「いえ、特には考えていないですね……今は自分のことだけで手一杯というか……」「そうだったんですね……九条さん美人だから男性陣が放っておかなさそうですけど」一人の女性社員のその言葉に、飲み会に参加していた男性たちが気まずそうに顔を見合わせた。香織は美しい見た目に加え、スタイルが良かった。そのため、彼女を狙っている男は社内でも一人や二人ではなかったのだ。亮太との離婚が成立したとはいえ、香織は新しく恋愛を始める気なんてなかった。彼らの好意には応えられない。そのことをアピールするかのように香織は彼らの視線を避けて黙り込んだ。「そういえば私、九条さんに関するある噂を耳にしたんです」「……噂?」すでにかなり酔いが回っている希美が、顔を赤くしながら口を開いた。「――九条さんがavisの社長さんと恋仲だって噂です!」「………………へ?」香織は口を開けたまま固まった。avisの社長といえば、礼音だ。彼は今や多くの人が知っている有名人であり、敏腕経営者だ。(私と礼音が恋仲?いやいや、ありえない!こないだ彼からもそういう仲ではないとハッキリ言われたし……)大体彼が私に優しくしているのは元カノに似ているからであって、私のことを好きというわけではないのだ。香織は必死で自分に言い聞かせた。「違いますよ、社長とはただの友人です。付き合っているわけじゃありません」「あらぁ、残念。お似合いだと思ってたんだけどなー」希美はそれだけ言い残すと、机に顔を伏せて寝てしまった。(私に危ないだなんて言っておいて……)彼女の危機感の無さには驚かされる。香織よりも自分の心配をするべきだろう。「――九条さんは、もし付き合うとしたらどんな人がいいの?」「……?」声のしたほうに振り返ると、香織の左隣に座っていた柚果が頬杖
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第145話

飲み会が終わり、社員たちはそれぞれ帰路についた。(ちょっと飲みすぎたかな……何だか頭がクラクラする……)居酒屋を出た香織は、朦朧とする意識の中で何とか立っていた。さほど飲んでいないはずなのに、どうしてこうも具合が悪いのだろうか。彼女は思わず頭を手で押さえた。久々に酒を飲んだせいか。「九条さん、大丈夫?」「……はい、平気です」心配そうにこちらを見つめる同僚に、香織は平静を装って言葉を返した。本当は全然平気ではなかったが、彼らに余計な心配をかけるわけにはいかない。「せんぱぁい……何かフラフラする……」明らかに飲みすぎている希美は、女性社員に肩を支えられて何とか立っていた。「……大丈夫でしょうか?」「ああ、いつものことだから心配しないで。彼女は私が家まで送って行くし」なら安心――と言いかけたそのとき、後ろから鈴の鳴るような穏やかな声が割って入った。「――なら、九条さんは私が家まで送っていくわ」「……!」振り返ると、立っていたのは柚果だった。「桜庭さんが送ってくれるなら安心ね!九条さんはちょっと体調が悪そうだから……」「い、いえ……私は平気です……」香織は慌てて両手を横に振った。「だけど、九条さん……」柚果が彼女に手を伸ばした。何をする気か、香織は恐怖で動くことができなかった。伸ばされた彼女の手は、優しく香織の頬を両手で包み込んだ。「――とっても、顔色が悪いわ……」「……そ、そう見えますか?」柚果は心配そうな顔で香織を見つめているが、その瞳の奥には何の感情も感じられなかった。気のせいだろうか、何だか彼女が全くの別人であるかのように見える。「そうよ、九条さん。途中で倒れでもしたら大変だわ。桜庭さんに送っていってもらうべきよ」「……いえ、そこまで迷惑をかけるわけには」「九条さん、あなたに何かあったら社長に合わせる顔が無いわ。私たちのためにも……提案を受け入れてほしいわ」「……」そう言われてしまえば、香織は柚果に送ってもらうほかなかった。「さぁ、行きましょう。九条さん」「……はい」香織は大人しく柚果について行った。二人は間隔を空けて横並びで九条邸までの道を歩いた。その隙間が、今の二人の距離感を表しているかのようだった。柚果は笑みを零しながら口を開いた。「九条さん、ちょっと飲みすぎちゃったみたいだね」「……いえ
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第146話

目を覚ますと、香織は知らない場所にいた。(ここはどこ……?)見知らぬ天井がぼんやりとした視界に入る。小さな部屋の床に、彼女は倒れるようにして寝ていた。体をそっと起こすと、頭がズキズキと痛んだ。やっぱり飲みすぎたようだ。香織は痛む頭をそっと手で押さえた。二日酔いしたかのように気分が悪かった。「誰もいない……のかな……?」何とか立ち上がると、部屋の中を見渡した。香織のほかに人はいなさそうだった。部屋にはベッドやテレビ、テーブルなどがあり、誰かが暮らしている形跡が残っていた。それらの状況から、考えられる可能性は一つ。「ここはもしかして……桜庭さんの部屋かしら?」飲み会からの記憶が随分曖昧だったが、最後に柚果の顔を見たことだけは覚えている。彼女が家まで送ってくれている途中に倒れたはずだから……「倒れた私を、桜庭さんが運んでくれたのね……」愚かにも、彼女は今の状況を理解できていなかった。部屋の扉へ向かった香織は、ドアノブに手をかけた。しかし、固く閉ざされていて開かない。どうやら外側から鍵をかけられているようだった。なら、外へ連絡しようと思いポケットの中に手を入れてみるも――「あれ?スマホが無いわ……」何故か彼女の体からはスマホも財布も無くなっていた。たしかにいつも同じポケットに入れているはずなのに。「一体何が起きているというの?」部屋の窓に手をかけてみるが、こちらもまた扉と同じように開かなかった。つまり、彼女はこの部屋に閉じ込められてしまったということだ。「どうして……」一体誰がこんなことを。いや、考えなくてもわかることだった。犯人としてあり得るのは一人だけだったから。「外にも連絡できないんじゃ……永遠にここから出られないわ……」時刻は既に夜の十時。この時間まで何の連絡も無しに帰らないだなんて、きっと両親が心配しているだろう。焦って部屋の中をウロウロしていたそのとき、外から足音がした。「……誰か、来る」香織は即座に床に寝転がって目を閉じた。自分が連れてこられたときのように、寝ているフリをした。それからしばらくして、部屋の扉が開いた。誰かが中に入ってきたようだ。目を閉じているため誰かはわからないが、聞こえてくる足音は二つ。つまり、彼女を誘拐した犯人は少なくとも二人いるということだ。一人ならともかく、か弱い女性が二人を相手にす
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第147話

二人が部屋から出て行ったのを確認すると、香織はそっと起き上がった。「行ったみたいね……」部屋の扉に手をかけてみるが、どれだけ押してもうんともすんともしなかった。どうやら再び閉じ込められてしまったようだ。こんなことになるんなら、二人が入ったあのときに殴ってでも強引に外へ出るべきだったかな。しかし、犯人が二人だと確定しているわけではないため、その行為は危険だった。(どうすればここから出られるのかしら……)それに、柚果の言うあの方とは一体誰なのか。どのような目的で、私をここに監禁しているのか。皆目見当もつかない。「私、拉致監禁されるほど誰かの恨みを買ったのかしら……」考えても全くわからなかった。前世では当然、このようなことはなかった。ドアも窓も開かないし、スマホも無いから外へ連絡を取る手段もない。香織の目の前が絶望で暗く染まっていった。「あーもう、誰か助けて!」その叫びは誰にも届かないまま、消えていった。***その頃、有真と忠嗣はあまりにも遅い香織の帰宅を不審に思っていた。「香織は……まだ帰ってこないのか?」「ええ、旦那様。一応香織さんから連絡はあったのですが……」有真の元には、香織から帰宅が遅くなるという連絡が入っていた。そして、今日は友人の家に泊まって行くということも。しかし、有真と忠嗣はそのメッセージを不審に感じていた。「香織が急に外泊するだなんて……今までそんなことは一度も無かったというのに……」香織は昔から真面目で、朝帰りなんてしたこともなかった。そのせいで今、九条邸の空気はピリピリしていた。「……もしかすると、香織さんの身に何かあったのではないでしょうか」「……」有真の言葉に、忠嗣は黙り込んだ。彼もまた、娘の異変を感じ取っていたようだ。「だって明らかに変ではありませんか。電話をかけてみても、繋がらないんですよ?」「……そうだな」有真は香織のスマートフォンに何度も電話をかけたが、昨日からずっと繋がらないままだ。以前の香織ならともかく、今の彼女が有真からの電話を無視するとは考えにくい。「さっき会社に連絡してみたのですが、出社していないそうです。無断欠勤なんてするような人ではないというのに」「……」明らかに異様ともいえる事態だった。忠嗣はポケットから自身のスマホを取り出した。「……今、九条家の者で周辺を捜
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第148話

忠嗣は警察へ連絡を入れたが、警察はすぐには動かなかった。「しばらくは様子を見てください」「ちょっと、どうしてですか!娘が行方不明だっていうのに」近くにある警察署を訪れた有真は、署内で声を荒らげた。「娘さん、既に成人しているんでしょう?子供でもないんですから……」「あの子はそういうことをする子では……」「二十五歳の女性なら、親に無断で外泊することだってありますよ。普段実家で暮らしているならなおさら。たまには親から離れたいとも思うでしょう」警察官は有真の言葉を遮った。彼は事の重大さを捉えていないようだった。「ですが……」「それにしてもあなた、ずいぶん若いですね?二十五歳の娘がいるって言ってましたけど……ということは、十歳で産んだんですか?」警察官はニヤニヤ笑いながら有真に尋ねた。「……香織さんは私の夫の連れ子です。血は繋がっていません」有真はこれ以上は何を言っても無駄だと思い、そのまま警察署を立ち去った。あまりにも無礼な警察官の態度に、我慢の限界だった。「私も香織さんを探そうかな……日中は時間があるし……」今日はちょうど何の予定もない。忠嗣は外せない用事で捜索には加われないから……そう思っていたそのとき、有真はある人物とたまたま遭遇した。「……あれ?あなたはもしかして、福本さん?」「……あなたは、香織の……」偶然、出会ったのは前に九条邸を訪れた福本礼音だった。「はい、継母の九条有真です」有真は軽く自己紹介をした。礼音は有真から後ろにある警察署に視線を移した。たった今、彼女がここから出てくるところを目撃していた。「……こんなところに何の用で?」「あぁ、それは……」有真は他人である礼音に言うべきか悩んだが、彼なら何か知っているかもしれないと思い、説明した。「実は、香織さんがいなくなってしまったんです」「……何だと?」礼音は眉間にシワを寄せた。香織がいなくなったとは一体どういうことか。「それはいつからですか?」「昨日からです。香織さんから友達の家に泊まると連絡が入ったのですが……電話をかけても一向に繋がらなくて」「……」礼音は平静を装っていたが、内心気が気ではなかった。「……事件の香りがしますね」「ええ、私もそう思います。ですが、警察はあてになりません」彼の言葉に、有真は頷いた。二人とも、ちょうど同じ考えが頭
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第149話

香織は部屋の中で一人、退屈な時間を過ごしていた。(もう丸一日が経つのね……お父さんや有真さんが不審に思っているかも……)二人に余計な心配をかけたくなかった。何より、永遠にこの場所から出られないのだけは御免だ。香織は思い切った行動に出ることを決めた。「――すみません、どなたかいらっしゃいますか?」香織は固く閉ざされた扉に向かって声をかけた。聞こえているのかいないのか、わからない。しかし、こうでもしなければ永遠に外へは出れないだろう。香織は切羽詰まったように大声を上げた。「すみません、緊急事態なんです!どなたか、いらっしゃいませんか!」彼女は扉に向かって叫び続けた。それからしばらくして、ガチャリと鍵が開く音と同時に、固く閉ざされていたはずの扉が開いた。外から姿を現したのは、昨日柚果と共に部屋へ入ってきた見知らぬ男だった。「………………何だ?」「――えいっ!!!」香織は扉の陰に潜み、男が入ってきた瞬間を狙って棒で思いきり頭を殴った。「うぐッ――!」頭を殴られた男は床に倒れ込んだ。香織はそんな彼をじっと見下ろした。「……意識を失っているようね」衝撃で彼は一時的に気絶していた。目覚めるまでの間、香織は男を部屋にあった電気コードで手足を縛った。そのままの姿で目覚めてしまえば、女の香織は彼に勝つことができない。何の考えも無しに暴力を振るうほど彼女は馬鹿ではない。「何か持ってないかしら……スマホとか……」香織は彼のポケットの中に手を入れるが、脱出に使えそうなものは何も入っていなかった。「扉が開いているわ……あそこから外へ出られるかも……」香織は男を一人置き去りにし、開いた扉から外へ出た。家の中は案外狭く、部屋も三つほどしかなかった。香織を閉じ込めていた部屋、キッチン、そしてつい最近まで誰かが暮らしていた痕跡が色濃く残るリビング。それらを全て通り、香織は出口を探した。「きっとここが玄関ね……このドアが開けば外に出られるわ……!」香織は外に続く扉を強い力で押してみるが、ビクともしなかった。まるで外側から何者かが押さえつけているかのように動かない。(嘘でしょう……?)肝心の玄関の扉は、部屋と同じように固く閉ざされていて開かなかった。香織はショックを隠しきれなかったが、一度倒れている男の元へ戻った。部屋の中を歩き回り、何とか脱出する方法が
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第150話

香織は焦って部屋にあった長い棒を手に取った。威嚇するように男を見下ろす。そんな彼女を、男は嘲笑うように口角を上げた。「九条グループのお嬢様が……そんな物騒なもの持ってんじゃねえよ」「あなたが何をするかわからないから」「おいおい、こっちは両手足を縛られてるんだぜ?何の抵抗もできない無害な人間に暴力振るうってのか?」無害だなんて、どの口が言うのか。少なくとも先に無礼を働いたのは彼の方だ。「ここは一体どこなの?どうやったら出れるの?」「俺から情報を得たいなら、まずはその武器を下ろせ。そうしたら言えることは話してやる」「言えること……?」全ては言えないというのか。棒を持つ香織の手に力がこもった。「私が聞いたことは全部答えてもらうわよ?言える言えないなんて関係ないわ」香織は男の前で棒をかまえた。「九条グループのお嬢様は暴力的だな……俺の話もちょっとくらいは聞いてくれよ」「……」「まずはその棒を下ろせ……話はそれからだ……」このままではいつまで経っても何の情報も得られないままだ。香織は男の要望に応じることを決め、そっと棒を下ろした。床にカランッという音と共に、彼女の手から完全に離れた。「武器を捨てたわよ。さぁ、知ってることは全て話してもらうわ」「知ってることと言っても……俺はほとんど何も知らない」「ちょっと、何よそれ」男は手足を縛られたまま答えた。何も知らないとは一体どういうことか。「首謀者の顔くらいは知っているでしょう?」「いや、それすら何も……俺はただバイトでここまで来ただけだからな」「バイトですって……?」香織は眉をひそめた。「あぁ、知り合いから割のいい仕事があるからやらないかって誘われたんだ。ちょうど金に困ってたし……ただの警備員だって聞いてたのに、こんな仕事だとはな……」男は気まずそうに顔を背けた。その表情を見るに、嘘をついているわけではなさそうだ。「桜庭柚果――さっきの女のことは知っているの?」「いや、全く初対面だ。それにアイツ、桜庭って名前だったのか?持ってた身分証には川島って書いてたけど」「……何ですって?」川島とは一体誰のことか。彼女は間違いなく桜庭柚果なわけで。初対面のときも間違いなくそう名乗っていたし、社員たちからも桜庭さんと呼ばれていた。香織の脳裏に、朗らかに笑う柚果の顔が浮かび上がった。しか
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