All Chapters of 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Chapter 91 - Chapter 100

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第91話

突然の礼音の発言に、香織は固まった。そんな彼女を見た彼は慌てたように口を開いた。「あ、いや……すまない、女性に対して失礼な発言だったな」「い、いえ……」香織は困惑した。礼音とは知り合ってまだ日も浅く、お互いのこともあまりよく知らない。それなのに、会いたいだなんてどうして。その一言で、香織は急に彼のことが気になり始めた。微妙な空気の中、彼女は顔を背ける礼音に声をかけた。「あの……福本さんは彼女さんとかはいらっしゃいますか?」「いや、いないが……」「……よかったら連絡先を交換しませんか?」「あ、あぁ……別にかまわない」礼音の了承を得た香織は、スマホを取り出して連絡先を交換した。彼はサッと上着を羽織ると、香織から背を向けた。「迷惑をかけてすまなかったな、この詫びはいつか必ずしよう」「……」香織は彼の後ろ姿をじっと見つめていた。彼が部屋を出て行く寸前、無意識にあることを尋ねていた。「あの、私たちどこかで会ったことありませんか?」「……!」香織の言葉に、彼はピクリと肩を上げ、思わず足を止めた。チラリとほんの一瞬だけ香織のほうを振り返ると、呟くように返事をした。「…………いや、気のせいだろう」「そうでしょうか……」彼は最後に納得いかない表情の香織と一度だけ目を合わせると、そのまま部屋を出て行った。彼が出て行ったあと、入れ替わるようにして入ってきたのは美由紀だった。「香織お嬢様、おはようございます」「おはよう」美由紀は香織に近付くと、彼女の耳元でそっと囁いた。「日菜乃から招待の返事が届きました」「……」美由紀は香織に一枚の封筒を手渡した。水色のずいぶん可愛らしい封筒だった。香水を吹きかけたのか、フローラル系の香りがした。(ご丁寧にどうも……)香織が封を開けると、綺麗な文字で返事が書かれていた。彼女の予想通り、日菜乃は亮太と共に参加の意を示した。「日菜乃は何と?」「喜んで参加すると言っているわ」香織はニヤリと笑みを深めた。日菜乃と亮太も来ることだし、主役は全員出揃った。「ドレスを準備しないとね、できるだけ華やかなものが良さそうだわ」「お嬢様にとって特別な日になりますからね」美由紀が笑顔で返事をした。パーティーには彼女も同伴する予定だ。あと一ヵ月はあると言っても、きっとすぐその日はやってくる。そのための準備は入念にし
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第92話

パーティーまで残り一ヵ月を切った頃、日菜乃は準備に取り掛かっていた。羽川邸には外商が訪れ、部屋の中にはたくさんの高価なドレスが並んでいた。「社長、このドレスはどうですか?」「あぁ、似合っているよ。とても綺麗だ、日菜乃」亮太は赤いドレスを着た日菜乃の腰を抱き寄せ、頬にキスをした。彼はドレス姿の日菜乃をうっとりした表情で見つめている。やっぱり香織なんかより彼女のほうがずっと美しい。亮太はそのことを再認識した。あの女が日菜乃に勝っているところなんてせいぜい胸の大きさくらいではないか。亮太はやはり売春婦のような女だと、フッと嘲笑した。「何でもいいんですか?」「あぁ、お前の好きなものを買えばいい」亮太は日菜乃をかなり甘やかしていた。彼女の望みなら何だって叶え、どんな高価なものでもプレゼントしていた。パーティーの主催者が香織であるせいか、亮太はいつも以上に張り切っていた。日菜乃はそんな彼の気持ちをよく知っていた。今部屋に並んでいるドレスはどれもハイブランドのもので、庶民には手が出せるものではない。「どのドレスもとっても素敵ですけど……でも、どうせなら――」日菜乃は青いマーメイドラインのドレスを手に取った。「こういうのもたまにはいいと思いませんか?」日菜乃が選んだドレスは背中が大きく開いているセクシーなデザインのものだった。亮太は日菜乃のチョイスに、意外そうに目を見張った。「……お前がそういうデザインを選ぶのは珍しいな」日菜乃は他の女たちと比べても低身長だったため、これまであまりスタイルを重視するドレスを着てこなかった。そんな亮太の気持ちを見抜いた日菜乃はニッコリと笑った。「実は……一度こういうドレスを着てみたいと思っていたんです。似合うかはわかりませんが……」ほんの少しだけ自信のなさそうな笑みを浮かべた日菜乃を、亮太は慌てて元気付けた。「いいや、きっと似合うさ。お前は何を着ても美しい。俺がそう言うんだから間違いない」もう、社長ったら。と彼女は照れ臭そうに笑った。「マーメイドラインのドレスなら、あっちのもいいんじゃないか?」亮太が指差した先に目をやると、薄いピンク色のマーメイドラインのドレスが視界に入った。日菜乃が持っているものよりも露出が少なく、ドレスに散りばめられたスパンコールがキラキラと輝いていた。亮太は日菜乃が選んだものよりも
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第93話

日菜乃は青いドレスを選んだあと、髪飾りやアクセサリーを眺めていた。ピアスにネックレス、どれも目を奪われるほどに輝いている。「本当に素敵ね……」彼女はうっとりした表情でそれらを見つめていた。できることならここにある全てを自分のものにしてしまいたかった。しかし、そんなことはできない。――正確に言うと、今はまだできない。日菜乃は誰にも気付かれないように口角を上げた。自分に似合いそうなものが他にもたくさんあるが、ここは我慢しなければ。買うものは最初から全て決まっている。亮太が仕事へ戻ったあと、香織は例の彼女を呼び寄せた。「よく来たわね、調査は済ませたの?」「はい、あの女が選んだドレスはこちらのもので間違いありません。九条香織と家政婦の女が店舗で購入するところを見ましたから」「そう、ご苦労」日菜乃は機嫌が良さそうに笑った。(やっぱり……この女ほど信頼できる者は他にいないわ……)日菜乃は目の前にいる彼女を見つめながらそう思った。自分に忠誠を誓い、絶対に裏切らない。それに加えて仕事面においても非常にできた人物だった。――これほど、利用価値のある駒はない。彼女は今、香織の動向を探るため九条グループに社員として潜入している。「いつも悪いわね」「いえ、私は日菜乃さんに恩がありますから」「そう……」彼女との出会いは十年近く前に遡る。お互いにまだ高校生だった頃だ。日菜乃は彼女と同じ高校の同級生だった。だからといって特別仲が良かったわけではなく、ただのクラスメイトという関係に過ぎなかった。そんな二人には、ある共通点があった。それはお互いに”嫌われ者”だったということだ。日菜乃は学生時代、持ち前の美貌で学年にいる男たちを虜にしていた。恋人がいる男に手を出し、トラブルになったことも多かった。そんな彼女は異性からは好かれていたが、同性からは蛇蝎のごとく嫌われていた。そして彼女は逆に、男たちからあまり好かれていなかった。成績優秀でスポーツ万能、そのうえ背が高くてスタイルも良い彼女は、学年の女子たちの憧れの的だった。しかし、男子たちにとってはあまりにも住む世界が違い、話しかけることすらできないような人だった。そのせいで異性人気はほとんどなく、恋人もできたことがなかった。彼女はそのことを特に気にしていなかったし、彼氏がいる人たちを羨むこともなかったため平気
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第94話

彼女は日菜乃のことをよく知っていた。日菜乃は学校内でも有名だったからだ。「四組の長谷さんがあの女に彼氏を寝取られたらしいわ」「あの女は人のものを奪うのが趣味なのかな?ホンット、安い女……」日菜乃は学年で一番ともいえるほどに異性からの人気があった。人目を引く美しい容姿、庇護欲をそそる華奢な身体、表情がクルクル変わるところ。その全てが男たちを狂わせた。日菜乃はそれらを利用し、学年の男たちを片っ端から引っ掛けていた。溢れ出る彼女の魅力に抗うことができず、元いた恋人を捨ててまで日菜乃を選んだ者たちも多かったという。日菜乃は学校のマドンナのような存在だった。男なら誰しもが彼女の前で跪く。しかし、そのせいで女子たちからはかなり嫌われていた。もちろん、そのときまでは彼女も例外ではなく日菜乃を快く思っていなかった。(いつも男と遊んでるんだ……)すれ違うたびに違う男を連れて歩いている日菜乃を、何度蔑みの目で見たことか。彼女とは絶対に相容れない。長い間ずっとそう思っていた。しかし、ある日彼女は日菜乃のとんでもない一面を目撃してしまったのだ。その日、男たちからの嫌がらせから逃れるため、彼女はいつものように校舎裏にいた。ここならほとんどの生徒は誰も来ない。(あの人たちが帰るまでここにいれば……)この時点で虐めは一ヵ月以上続いており、彼女は憔悴しきっていた。加害者たちを憎む気持ちが無いわけではなかったが、スクールカースト上位グループ相手に立ち向かうことなどできなかった。(先生もあっちの味方みたいだし……誰か、私の代わりにアイツらを懲らしめてくれないかな……)そのとき、近くで男女の言い争う声が聞こえた。「お前、俺のことあんだけ好きだって言ってただろ!なのに他に男がいただなんてどういうことだ!」聞き覚えのある声に驚いた彼女は、物陰からそっと顔を覗かせた。彼女の視線の先にいたのは、同じクラスの山川日菜乃だった。彼女は普段の穏やかな姿からは想像もつかないような酷薄な笑みを浮かべていた。「何の話?私たちそもそも付き合ってたっけ?」「な、何だと……!?俺は二年付き合ってた彼女を捨ててまでお前を選んだんだぞ!」「選んだだなんて……アハハッ!おかしくて笑っちゃうわ」日菜乃は声を上げて笑い始め、そんな彼女に男は眉をひそめた。「アンタさぁ、自分が選ぶ側だって思ってん
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第95話

それからというもの、日菜乃は彼女の憧れの存在となった。密かに彼女の行動を監視し、身に着けるものなどを真似るようになった。実際日菜乃は助けたつもりなんて無かったが、彼女はまるで日菜乃を救世主であるかのように扱った。日菜乃はそんな愚かな女を利用することにしたのだ。『私のためなら何でもできるんですって?』『はい!私は日菜乃さんに救われました!あなたのためなら何でもします!』彼女の手足となって動き、どんな命令でもこなした。高校時代から今に至る十年近い間、二人の歪な主従関係は続いていた。ふいに昔のことを思い出した日菜乃は、懐かしむように目を閉じた。(今はこんなこと考えていても仕方が無いわね)日菜乃は目を開け、膝に置かれていた青色のドレスに視線を向けた。「驚きました、あの女が着るドレスにそっくりですね」「そうでしょう……?良いものが見つかってよかったわ」日菜乃は愛おしそうにドレスを胸にギュッと抱きしめた。彼女がそのドレスを選んだのには理由があった。日菜乃は今回のパーティーで香織の着るドレスを事前に調べさせていた。彼女はあえて香織と似たドレスを選んだ。じっくりと考えて決めたドレスが丸被りともなれば流石の香織も動揺し、以前のように公衆の面前でみっともない姿を晒すだろう。頬でもぶってくれれば、招待客たちは彼女に軽蔑の視線を向けるだろう。(最近になって本性を隠しているようだけどね……)――人間の本質なんて、そう簡単には変わらないのよ。彼女はそのことを誰よりもよく知っていた。実際、彼女は自身の全てを変えることとなった”あの日”から何も変わっていなかった。(愚かな九条香織は自らの行動で破滅し……私が勝者となる……)それこそが日菜乃の思い描いたシナリオの結末だ。計画は完璧で、失敗などありえない。「九条香織……このパーティーでアンタに恥をかかせてやるわ……!」――いずれ全てが自分のものになる。「パーティーまであとちょっとね……楽しみだわ……」最後に笑うのは他の誰でもなく、自分自身だ。日菜乃は近いうちに訪れる幸福な未来を想像し、口元を緩ませた。
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第96話

月日は流れ、とうとうパーティーの日がやってきた。「わぁ、お嬢様とってもお似合いです!」「ありがとう」香織は華やかな赤いエンパイアラインのドレスに身を包んでいた。髪の毛は高く結い上げ、耳からは大きめなゴールドのピアスが垂れ下がっていた。「香織さん、とっても綺麗ですね!香織さんはいつも美しいですが……今日は一段とキラキラしています」「ありがとうございます、有真さん」香織は鏡で自分のドレスアップした姿を眺めた。(たしかに、いつもよりは見ていられるわよね)すれ違う誰もが見惚れてしまうほど、今日の香織は輝いていた。きっと彼女が今日のパーティーの主役となるだろう。「美由紀もとっても素敵よ」「あ、ありがとうございます……ですがお嬢様に比べれば全然です……」今回のパーティーには美由紀も同行する。香織は普段身の回りのことをしてくれている彼女にドレスをプレゼントしたのだ。美由紀は最初こそ恐れ多いと遠慮していたが、彼女は半ば強引にドレスを受け取らせた。(やっぱり、よく似合ってるわ)香織の目は間違っていなかった。美由紀は周囲から地味な見た目をしていると揶揄されることがあったが、それは勘違いだ。彼女はいわゆる清楚系美人というやつだった。美由紀は普段あまりメイクをしない。そのため、彼女が本来持ち合わせている美しさが周囲にはわからなかったのだ。香織はずっとそのことを勿体ないと思っていた。鏡の前に立っていた香織に、美由紀が尋ねた。「ところでお嬢様、どうして急にドレスを変更したんですか?」突然の問いに、彼女はピクリと動きを止めた。「あー……ちょっと別のものが着たくなってね」「……?お嬢様がそのようなことを言うなんて珍しいですね」香織は部屋の隅に置かれていた青色のドレスに目を向けた。彼女が本来、パーティーで着る予定だったドレスだ。美由紀と共に店舗まで赴いて選んだドレスだったが、彼女は結局別のドレスを着用することにした。「あのドレスは別のパーティーで着ることにするわ」香織は美由紀を連れて部屋を出た。出てすぐ、父に会った。「お父さん……」「香織……」忠嗣は香織のドレス姿に目を見開いた。「今日は……とても綺麗だな……」「ありがとうございます、お父さん!」そこで、後ろに控えていた有真が口を挟んだ。「今日はということはいつもは綺麗じゃないってことです
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第97話

一体誰が来たんだろう、と香織は車に釘付けになった。「こっちに来ますよ、間違いありません」「ええ、カッコいい人なら最高だわ」「お嬢様は相変わらず面食いですね」二人からの視線を集める中、車は止まり、中から一人の男が降りてきた。男はかなりの長身で、黒いスーツがとてもよく似合っていた。(う、嘘でしょう……!?)美由紀は初めて見る顔だったが、香織は見覚えがあった。いや、それどころか何日か前に会ったばかりだ。「ふ、福本さん……!?」車から降りて香織に近付いてきた人物は、何と礼音だった。彼は香織を真っ直ぐに見つめたまま固まっている。そしてそれは、香織も同じだった。美由紀はそんな二人を不思議そうに見つめながらも、香織の耳元で囁いた。「お嬢様、綺麗な人で良かったですね!」「……」美由紀は礼音をうっとりした顔で見つめた。彼は実際、かなりの美形だった。すれ違う女性たちが、彼を見てキャーキャー騒いでいる。「福本さん……お久しぶりです……」「……」香織は背の高い礼音を見上げた。黙ったままこちらを見つめている彼の頬が、ほんのりと赤く染まっているような気がするのはきっと思い違いだろう。(それより今日は何だかいつもよりカッコイイ気がするわ……)実は香織も、他の女性たちと同じように彼に見惚れていた。今日の礼音はいつもと雰囲気が違った。普段下ろしている前髪を上げ、おでこを半分出しているからだろう。元々眉目秀麗なことは知っていたが、髪型を変えるだけでこうも違って見えるとは。二人はお互いの姿を見つめたまま、その場から動けなくなっていた。「お嬢様!パーティーに遅れてしまいますよ!」「そ、そうだったわ……!」美由紀が声をかけ、ようやく二人は我に返った。礼音は香織から背を向け、車の後部座席のドアを開けた。「……行こう、お嬢様」「そ、そんな風に呼ばないでください」「なら、お姫様のほうがいいか?」「……ッ!」お姫様だなんて、いくら何でも恥ずかしすぎる。礼音は顔を赤くした彼女をからかうように笑った。不意打ちの笑みに、香織はドキッとした。やっぱり私は、カッコイイ人に弱いみたいだ。香織はそのことを再認識した。「……何でもいいですよ、別に。九条でも……香織でも……」「そうだな……なら、香織と呼ばせてもらおう。俺のことは礼音と」「きゅ、急にそんなこと言われても無理
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第98話

香織は礼音と共に車に乗り、パーティーが行われる高級ホテルへと向かった。隣に礼音が座っていることを思うと、香織は妙に落ち着かなかった。早く会場に着かないかな、そう思いながら何とか彼の顔を見ないように耐えた。「着きました。社長、九条様」「……ありがとうございます」礼音が先に車から降り、香織も出ようとすると、彼がサッと手を差し出した。「……」驚いて彼を見上げると、口元に笑みを浮かべた礼音と目が合った。男性にこのように優しくされるのは慣れていない。香織は視線を逸らし、彼の手にそっと自分の手を重ねた。ゴツゴツした大きな手。男性の手に触れるのは初めてだった。「行こう、香織」「ええ、そうですね。礼音」香織と礼音は二人並んで歩き出した。絶世の美男美女の二人に、周囲の人々は見惚れていた。香織は顔を前に向けたまま、彼に向かって言った。「礼音、あまり私に優しくしないでください」「どういう意味だ?」礼音は彼女の言葉に首をかしげた。そのままの意味だった。彼女は今世では恋愛をするつもりなど無かった。前世であのような経験をしているせいか、誰かを愛するということが恐ろしかったのだ。礼音はそんな香織を見下ろし、聞こえるか聞こえないかくらいの小声でボソッと呟いた。「……もう、遅い」「…………え?」今、何て言ったの?礼音は彼をじっと見つめる香織から目を逸らし、話題を変えた。「それより、今日のパーティーにはお前の旦那も参加するんだろう?」「ええ、もちろん来ますよ」香織はニッコリと笑った。もうすぐパーティーが始まる時間だ。今回のパーティーは彼女と亮太、そして日菜乃にとって大きな意味を持つものとなる。「亮太の愛人の日菜乃さんも参加しますから。彼女、とんでもない人ですよ。要注意人物です」「日菜乃……」礼音は聞き覚えがあるのか、眉をピクリと上げた。不愉快そうな顔つきの彼に、香織が尋ねた。「知り合いですか?」「いや…………違う」礼音は日菜乃という名前に何故か強い嫌悪感を示した。香織はそのことが気になったが、それ以上は聞かなかった。しばらく歩くと、会場の前に到着した。「礼音さん、今日はよろしくお願いしますね」「ああ、こちらこそ」扉が開き、香織と礼音は会場の中へと足を踏み入れた。彼らが入ると同時に、招待客たちはざわめき出した。「あれって九条香織だろ……
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第99話

亮太の声に、会場中が香織たちに注目した。香織はその状況を上手く利用することにした。「皆様、本日はお忙しい中、私のパーティーにお越しいただき、ありがとうございます」「き、聞いているのか!」香織は胸に手を当てて礼をした。その上品な姿に、招待客たちは思わず見惚れていた。亮太は納得がいかない様子で声を荒らげていたが、彼女は無視を決め込んだ。「主催者の九条香織と申します。今回のパーティーは……」「お、お前!いい加減に……!」痺れを切らした亮太は、大股で彼女に近付いた。「俺を無視するとは良い度胸……」その細い手首を掴もうとしたところで、彼は逆に腕を掴まれてしまった。「な、何だ……!?」亮太の腕をガッチリと掴んでいたのは、香織の隣に控えていた礼音だった。彼はまるで彼女のボディーガードであるかのように、香織を守っていた。「羽川社長、無礼だぞ」「お、お前……」亮太は同じ経営者として、礼音のことをよく知っていた。若き天才実業家として、近頃話題に上がっている礼音を敵対視もしていた。突然のライバルの登場に、亮太は不快感を露わにした。「放せ!」「……」亮太は自身を掴んだままの彼の手を振り払った。礼音はかなりの高身長で、亮太よりも体格が良かった。自身の負けを悟ったのか、彼は一度引いた。香織は急に大人しくなった亮太に笑いかけた。「羽川社長、お久しぶりですね」余裕たっぷりの笑みだった。「羽川社長……?」それに加え、今日の香織はいつにも増して他人行儀だった。彼女に”羽川社長”と呼ばれたことが、亮太にとってこの上なく不愉快だった。何故、このような気持ちになるのか。亮太は自分の感情に説明がつかなかった。彼は目の前にいる香織をじっと見つめた。今日の香織はいつにも増して華やかだった。赤いエンパイアラインのドレスは彼女によく似合っており、まるで女神のようだ。今日の香織は綺麗だ。認めざるを得なかった。日菜乃とはまた違う魅力を持ち合わせている。亮太は香織が現れてからというもの、彼女から目が離せなかった。「――日菜乃さんも、私のパーティーに参加してくださってありがとうございます」「……」亮太の後ろには彼の今日のパートナーである日菜乃がいた。彼女は目の前の光景が信じられないとでもいうかのように、真っ青な顔で目を見開いている。彼女は拳を握りしめてプルプルと身体
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第100話

前世、香織は日菜乃に何度かパーティーに招待されたことがあった。そのたびに、香織は言葉にならない屈辱を受けた。『奥様。奥様は私のことが好きではないでしょうが、私は奥様と親しくなりたいと思っているんです。今度開くパーティーにぜひいらしてください』『私と仲良くなりたいですって?死んでも御免よ。誰がアンタみたいな泥棒猫のパーティーに行くのよ』目に涙を溜めてそう言った日菜乃を、香織は一蹴した。妊娠祝いのパーティーで恥をかかされた後だったこともあり、当然彼女はその会には参加しなかった。パーティーが終わったあと、息を荒くして帰ってきた亮太は彼女の頭を拳で殴りつけた。『日菜乃が招待してやったというのに来ないとは一体何様なんだ!!!』香織は倒れたあと、何度も彼の革靴で踏みつけられ、ボロボロになるまで暴力を受け続けた。香織は男の強い力の前に手も足も出ず、ただ自身の身を守るためにうずくまっていた。結局新しく来た家政婦が止めに入ったことでその場は収拾がついたが、あの一件は彼女の中で消えないトラウマとなってしまった。そしてその次に開かれたパーティーでは、香織は前回のことを踏まえて参加するしかなかった。そこで彼女を待ち受けていたのは、人々の嘲笑だった。日菜乃は香織に、間違ったドレスコードを伝えていたのだ。ドレスコードはフォーマルだと聞いていた香織は、胸元が少しだけ空いたイブニングドレスを着用してパーティーへ参加した。しかし、実際は親しい友人のみを集めた会で、本当のドレスコードはカジュアルだった。そのため、華やかなドレスを着て現れた香織は浮いてしまったのだ。『何あの格好……下品ではしたないわ』『あれって羽川社長の奥さんだよな?あの服で来るだなんて、目立ちたがりなのか?』『よくあんな服で出歩けるわね、私だったら恥ずかしくて帰るわ』香織は早々、参加者たちの蔑みの目に晒されることとなった。極めつけは亮太が放った一言だった。『お前のような売春婦にはお似合いだな』その言葉に、会場中が小さな笑いに包まれた。口元を押さえて笑いを堪えようとする者もいれば、堂々と大口を開けて笑う者もいた。香織はただ俯いたまま、何も言い返すことができなかった。(……そんなことあったわね)香織は視線の先にいる日菜乃をじっと見つめた。あのときはやられてばかりだったけれど、今は違う。香織と日菜乃
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