All Chapters of 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Chapter 101 - Chapter 110

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第101話

香織はそんな日菜乃をじっと見つめた。自らの置かれた状況に気付いていないのか、彼女は冷めたような目で香織を見ていた。「今ここで、真実を全て明らかにしたいと思います」その言葉に、日菜乃がピクリと眉を上げた。「週刊誌フルールに掲載されていた私に関する記事は全て……」香織は会場の中央にいた日菜乃を指差した。「――山川日菜乃による、捏造です!」会場がざわめき出した。日菜乃が香織の夫亮太の愛人であるということはこの場にいる誰もが知っている。本妻の香織と愛人である日菜乃。二人の間には亮太もいる。会場にいる全員が、三人の動向を注目していた。(このためだけに人をたくさん呼んだのよ)日菜乃は言い返すこともせず、ただ香織を鋭い目で真っ直ぐに見つめ返していた。動じているように見えないのは、自分には亮太が味方になってくれるという確信があるからだろうか。しかし、今の香織にとってはそんなもの何の意味も持たなかった。「な、何を言っているんだ!」予想通りというべきか、最初に反論してきたのは亮太だった。彼は香織から日菜乃を守るように、彼女の前に立ちはだかった。「日菜乃に嫉妬しているからって、ふざけたことを言うのもいい加減にしろ!」亮太は真実を全て知っている。つまり、日菜乃の心の醜さを知っていてもなお彼女を愛しているということだ。香織は二人の純愛に、感動して涙が出そうになった。ふと横にいた礼音に目をやると、彼は面白そうに一部始終を眺めていた。「いいえ、嘘ではありません。全て日菜乃さんが私を貶めるために仕組んだことです」「お前、いい加減に――」亮太は香織の胸倉を掴みそうになったが、突然向けられた礼音の鋭い目に動きを止めた。やっぱり礼音を連れてきて正解だった、と香織は思った。「フルールに掲載されていた私に関する情報は全てデマです。私は夜遊びや虐めなどしたことがありません」「ハッ……どうだかな……口だけなら何とでも言えるさ」亮太は香織を嘲笑うように口角を上げた。それに同調するかのように、ずっと黙り込んでいた日菜乃が口を開いた。「奥様……酷いです……いくら私が憎たらしいからって、そのようなことをおっしゃるだなんて……!」彼女は口元を両手で押さえ、小刻みに身体を震わせ始めた。大きな瞳に涙を浮かべ、弱々しい声で言葉を継いだ。「――私、そんなことしてません」その言葉
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第102話

会場にいる人々は戸惑っていた。香織と日菜乃、どちらを信じればいいかわからなかったからだ。あの九条家の令嬢である香織が何の根拠もなくこのようなことを言うとは当然思っていない。しかし、日菜乃の涙を嘘だとも思えなかった。「どっちが嘘をついているんだ……?」「山川さんの涙は真実を物語っている。きっと九条さんが彼女を追い詰めたいがために嘘をついているんだろう」「そう?さっきのは嘘泣きっぽかったわ。きっと九条さんが本当のことを言っているのよ」招待客たちの意見は二つに分かれていた。主に男たちは日菜乃の味方をし、女たちは香織のほうを信じた。その中でもどっちつかずだったのが、招待客の一人如月隼人だ。「……とんでもないことになっているな」香織からの脅迫にも似た招待を受けた彼は、フォーマルスーツに身を包み、今回のパーティーに参加していた。トップアイドルでもある彼は、香織たちが来る前までは周囲の人々からの視線を集めていた。隼人は会場の隅から、中央にいる香織をじっと眺めていた。今日の香織はいつにも増して美しかった。彼がこれまで共演してきた女優たちにも引けを取らないだろう。隼人の視線に気付くことなく、その瞳は真っ直ぐに宿敵の二人を捉えていた。「……本当、面白い女だな」隼人はポツリと呟いた。彼にはどちらが本当のことを言っているのか、真実なんて当然知らない。だからどちらの味方でもなかった。しかし、何故か彼は香織を応援したくなった。前に無礼を働いてしまったという負い目があるからか。いや、そんなものではないな。隼人は香織から、亮太の腕に抱かれている日菜乃に視線を移した。彼女とは今日が初対面だった。しかし香織が会場へ現れる前、隼人は日菜乃と一度会話をしていた。『あの、もしかして如月隼人さんですか!?』『……君は誰だ?』会場にいた彼に、日菜乃が声をかけてきたのだ。誰もが有名人である彼に配慮して遠巻きに眺めているだけだった中、日菜乃だけが堂々と話しかけた。『私、ファンなんです!以前、ライブにも行かせていただきました!』『……そうか、それはありがたい』隼人は目を輝かせる日菜乃に、淡々と言葉を返した。彼が著名人である以上、冷たくするわけにはいかない。そんなことをして噂にでもなったら大変だ。彼女との間に一定の距離を置いて話していた彼に、日菜乃は予想外のことを口にした。
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第103話

香織は目の前で二人だけの世界に入り込んでいる亮太と日菜乃に呆れてものも言えなかった。「社長……香織さんが私のことを……」「わかっている日菜乃。あの女はどこまでも醜いな」日菜乃は亮太の胸で涙を流し続けた。いつまで嘘泣きを続けるのか。「お取り込み中のところ申し訳ないのですが……そろそろ進めてもよろしいでしょうか?」本当はもう少し二人のくだらない茶番劇を見ていてもよかったけれど、あいにく時間はそんなに残されていなかった。この忌まわしい関係をさっさと断ち切ってしまう必要がある。「もちろん、何の根拠もなくそのようなことを言っているわけではありません。こちらにはきちんとした証拠がありますから」”証拠”というワードに、日菜乃がビクッと肩を上げた。そこまで用意しているとは思わなかったのだろう。彼女の亮太の服を掴む手に力がこもった。香織は今回のために、様々な証拠を準備していた。穂乃果との会話を録音したテープや香織の学生時代を知る者たちの証言など。どれも彼女が何者かによって貶められたことを決定づけるものだった。「……」亮太と日菜乃は表には出していなかったが、焦りを感じているようだった。目が泳いでいる。香織はもう、亮太のあとを追いかけ続けるだけの愚かな女ではなかった。「そのテープは全て捏造だ!あの女の大学時代なら俺が証言する」亮太は声を張り上げ、ありもしない香織の学生時代の悪行を語り始めた。彼からしたら、何としてでも愛する日菜乃を守りたかったのだろう。しかし、会場にいる人々は亮太に疑惑の目を向けた。「あのような証拠を見せられたあとではねぇ……」「羽川社長はあんな風に人を悪く言う男だったか?」「あそこまで罵詈雑言を並べるのは、いくら何でもちょっと引くわ……」人々の反応に、亮太は悔しそうに顔を歪ませた。どれだけ彼が証言したところで、香織のように証拠がなければ何の意味もないのだ。彼が何とか風向きを変えようと口を開きかけたそのとき、場に似つかわしくない穏やかな声が割って入った。「――社長、落ち着いてください」「日菜乃……?」腕に手を触れ、彼を宥めたのはずっと聞いているだけの日菜乃だった。彼女は亮太の腕から抜け出したあと、香織の前までやってくると、ニッコリと笑った。突然の行動に礼音は警戒し、彼女の前に出た。「あら、そんなに警戒しないでください。何も危害
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第104話

香織は胸に渦巻く妙な違和感を感じたまま、日菜乃の言葉を待ち続けた。彼女は警戒心を強める香織に再び笑いかけた。「――私ったら、どうやら大きな勘違いをしていたようです」「……何ですって?」周囲が静まり返った。突然、何を言い出すのか。「あの日、穂乃果さんが突然私のもとへやってきて……涙ながらに香織さんの悪行についてを話したんです」日菜乃は穂乃果との出会いを詳細に語り始めた。当然、彼女が話していることは全て嘘だ。そもそも計画を持ち掛けたのは日菜乃であって、穂乃果はそれに乗っただけなのだから。そんなこと、香織にはわざわざ聞かずともわかる。日菜乃は嘘に嘘を重ねた。「私はそんな彼女を見ていられなくて……香織さんに罪をきちんと償ってほしいと思っていました」彼女は一体何を言っているの?香織は到底理解できなかった。そこまで言うと、日菜乃は残念そうに目を伏せた。「ですが、穂乃果さんの話は全て嘘だったようですね……」「え……」何と、日菜乃は全ての罪を穂乃果一人になすり付けたのだ。全て彼女が一人で仕組んだことであり、私は彼女に騙された被害者だ。そう言いたげな瞳で香織を見ている。当然、香織は黙っていなかった。「あ、あなた……!」いい加減にしなさいよ、と言いかけたそのとき、突然日菜乃が深く頭を下げた。「香織さん、本当にごめんなさい。私、どうしても穂乃果さんを助けたかったんです。彼女が嘘をついているだなんて思ってもいなくて……」身体をプルプルと震わせ、今にも泣きそうな声だった。そんな彼女の姿に、周囲からは同情の声が上がった。「あらあら、山川さんも騙されていたのね」「人の良心につけこむだなんて、何て非道な女なのかしら……」「やり方は間違っていたが……彼女は悪人というわけではないようだ」加害者から一転、日菜乃はもう一人の被害者となった。(そ、そんな……!)香織はすぐにでも真実を明らかにしたかったが、あいにくそれ以上の証拠は持ち合わせていなかった。招待客たちの視線が香織に注目した。突き刺すような鋭い視線。ここで日菜乃を責め続ければ、彼女がかえって悪者扱いされるということは目に見えていた。「日菜乃さん……顔を上げてください……」香織は怒りを必死でこらえ、何とか声を押し出した。その言葉に、日菜乃は顔を上げた。「……誰にでも間違いはあります。これからは
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第105話

香織が今回のパーティーを開いたのには自身の名誉回復以外にも、もう一つ目的があった。日菜乃はゆっくりと香織に近付くと、彼女の手を両手で握った。「香織さん、誤解してしまったことは本当に悪かったと思っています。ですが、こうやって名誉を取り戻せたではありませんか」「……何ですって?」香織は我が耳を疑った。私はあなたのせいで世間から侮蔑の眼差しを向けられ、会社での居場所も無くなるところだった。それなのに、そんな軽い一言で全てを終わらせるというのか。勘違い、では到底済まされないことだった。香織は信じられない、と言いたげな表情で日菜乃を見つめた。「あらやだ……そんな目で見ないでください、香織さん……」彼女と目を合わせた日菜乃の唇が醜く弧を描いた。弱々しそうに呟かれた言葉だったが、その瞳は香織を嘲笑っているかのようだった。――会場の人を味方に付けたからって、勝ったと思うなよ。彼女の唇がたしかにそう動いたのを香織はハッキリと確認した。今回も一筋縄ではいかないのか。日菜乃はその場を上手く切り抜ける術だけは一級品だった。頭が良いというわけではないが、いつも言い訳を考えるのが妙に上手かった。香織は前世でそのことを身をもって知っていた。そして亮太も日菜乃の肩を持ち、彼女に同調した。「そうだぞ、香織。過ぎ去ったことをどうこう言うな。日菜乃も反省しているようだし」「……それがあなたがたの本心なんですね」香織は冷たい声を出した。亮太に対する呆れと日菜乃に対する怒りでどうにかなりそうだったが、何とか堪えた。「そうですね、私も過去のことをいつまでも根に持つつもりはありません」「香織さんならわかってくれると思っていました」日菜乃は安心したようにニッコリ笑った。「ですが、当然何の対価も無しに……というわけにはいきません」「何だと?」亮太が眉をひそめた。「俺相手に取引を持ち掛ける気か?随分偉くなったんだな」「元より私たちは対等な関係であったはずです。それとも社長は夫が妻よりも立場が上という古風な考えを未だにお持ちですか?」その言葉に亮太は黙り込んだ。会場には既婚女性たちも多くいる。彼女たち全員を敵に回すような発言は、さすがの亮太でもできないのだろう。「……いいだろう、言ってみろ。どうせくだらないことだろう」亮太の許可を得て、香織はゆっくりと口を開いた。
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第106話

香織は別居期間中、何度も亮太に離婚を提案していた。しかし、彼は頑なにそれを受け入れなかった。彼女はずっとそのことを不思議に思っていた。亮太は香織を愛していない。離婚したところで、愛する日菜乃と共になれるのだからむしろ彼にとっては喜ばしいことだろう。それでもショックを受けたような顔をしているのは、プライドを傷つけられたからか。何ともくだらない自尊心だ。「社長、あなたが離婚を受け入れてくれるのなら……日菜乃さんが犯した罪については何も言いません」「日菜乃を使って俺を脅迫する気か?」「脅迫だなんて、先に私に手を出したのは日菜乃さんのほうですよ」亮太、あなたはいつだってそうだった。何事においても私が加害者で、日菜乃は被害者。前世からずっとそうやって決めつけていた。いつからだろう。香織自身もそのことをあまり疑問に思わないようになっていた。もしかすると、前世での私はそうやって亮太に洗脳されていたのかもしれない。でもね、今回は違う。「私は一方的にやられてばかりいるほど、愚かではありません」「……」香織の力強い声と、揺るぎない眼差しに亮太は一瞬戸惑った。日菜乃が言い争う二人の間に割って入った。「奥様、そのような話をここでする必要はないのではありませんか?」「いいえ、日菜乃さん。ここでしなければいつまで経っても終わりません」「夫婦間のことでしょう?パーティーが終わったあとにゆっくりすれば……」「――日菜乃さん、あなたはどうして他人事であるかのように言っているんですか?」「え……?」日菜乃は亮太の愛人であり、夫婦仲を崩壊させた決定打となった女だった。「ここにいる誰もが、あなたが社長にとってどのような存在かを知っているんですよ」「……」招待客たちは気まずそうに視線を逸らした。日菜乃が亮太の愛人であることは有名だ。本人たちはこれまでその関係を隠しもせずに、堂々と逢瀬をしていたのだから。香織はハイヒールのかかとを鳴らし、ゆっくりと亮太に近付いた。至近距離で彼を見上げると、彼にのみ聞こえるような声で囁いた。「社長、あなたは日菜乃に夢中なあまり何も見えていない」「……どういう意味だ」亮太は不快感を露わにした。「あなたはいつも私を売春婦だと言っていましたが……妻のいる相手と平然と関係を持つあの女のほうがよっぽど売春婦のようだと思いませんか?」
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第107話

突然香織の頬を打った亮太に、会場にいる人々は衝撃を受けた。「香織!」礼音が倒れた彼女に慌てて駆け寄った。香織はぶたれた頬を押さえて床に座り込んだまま、亮太を見上げていた。亮太はというと、血走った目で香織を睨みつけていた。彼女はそんな彼を見て勝ち誇ったような笑みを向けた。(亮太、まんまとこっちの罠に嵌まってくれたわね)――全て、香織の計画通りだった。亮太は頭に血が上るとすぐに手を上げる人だった。香織はそのことを利用し、あえて彼を煽ったのだ。亮太は顔を真っ赤にしたまま、倒れた香織に向かって再び手を振り上げた。その腕をガッシリと掴んだのは礼音だった。「羽川社長、やめるんだ。これ以上彼女に手を出すな」「放せ……!お前もあの女と同じようになりたいか……!」彼は公衆の面前でみっともなく暴れた。礼音に掴まれた腕を何とか振り払おうとするが、彼はまるで歯が立たなかった。結局、すぐさま礼音により、地面に押さえつけられた。「グッ……!」体格は亮太もかなり良いほうだが、力は礼音のほうがずっと上だった。押さえつけられた亮太が苦しそうにうめき声を上げ、日菜乃が彼の傍に走って行った。「社長!何てことをするんですか!社長を放してください!」「放せだと?お前はさっきの光景を見ていなかったのか?何もしていない女性に暴力を振るったんだぞ」「きっと何か誤解があるんです……社長は何の理由もなくそのようなことをする人では……」日菜乃は亮太を擁護していたが、さすがに今の彼の行動には招待客たちもドン引きだった。「か弱い女性に……しかも奥さんに暴力を振るうだなんて最低……」「やっぱり、あのDV疑惑は本当だったんだな」「不倫だけではなく、暴力まで……とんでもない奴だな」周囲の人々は、亮太に軽蔑の眼差しを向けた。彼は屈辱を感じているのか、押さえつけられた身体をプルプルと震わせている。香織は目に涙を溜め、会場の人々に訴えた。「社長は気に入らないことがあるとすぐに手を上げるんです……結婚生活で彼に暴力を振るわれたことは一度や二度ではありませんでした……私、とっても辛くってもう耐えられないんです……!」まさに日菜乃がいつもやっている手法だった。そんな彼女に同情した人たちが声を上げた。「さっさと離婚してやれよ、ゲス男!」「そうよそうよ!」多くの者が罵詈雑言を浴びせる中、日菜
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第108話

亮太と日菜乃が出て行ったあと、パーティー会場は平和を取り戻した。(終わった……のかな……?)香織は地面にへたり込んだ。足が小刻みに震えて上手く立ち上がれない。ようやく離婚が成立したというのに、何故か彼女の気持ちは浮かないままだった。『一生後悔することになるぞ』亮太が最後に吐き捨てた言葉が、香織の頭から離れなかった。「香織、大丈夫か?」「礼音……」礼音は座り込んだ香織に手を伸ばすと、さっと彼女を抱き上げた。「キャアッ!ちょっと、下ろしてください!」「そういうわけにはいかない。立てないんだろ?」もう暴れる気力もなかった香織は、大人しく彼の腕に抱かれていた。突然のお姫様抱っこに、周囲の女性たちから歓声が上がった。亮太が出て行ったあと、礼音と香織は会場中の視線を集めていた。彼女は礼音の体にしがみつきながら、必死になって思考を巡らせていた。(何か言わないと……でも、一体何て言えば……?)言葉が出てこない。こんなことは初めてだった。そのとき、シンとしていた会場内で、一人の女性が場の雰囲気を変える一言を放った。「九条さん、離婚が成立してよかったわね!」「え……」そこで彼女は、亮太がついさっき出て行く前に離婚を受け入れると言っていたことを思い出した。そうだ、亮太と離婚するという最大の目的は既に果たされたのだ。日菜乃を断罪することはできなかったが、自身の名誉を回復する代わりに亮太の名誉を地に落とすことも。「えぇ、そうですね……」そのことを思うと、香織はとても安心することができた。もう二度と、亮太と日菜乃のことで惨めな思いをしなくていいのだ。――間違いなく、運命が変わっている。今度は絶対にあのような結末を迎えることはない。香織は泣きそうになった。会場内では彼女に対する拍手が湧き起こった。「夫の愛人を成敗するあの姿、とってもかっこよかったわ!」「あなたはもう自由よ!あの二人に勝ったのよ!」安堵感のせいか、体から力が急速に抜けて行った。顔を上げると、礼音が何か言えというような視線を向けていた。パーティーの主催者が自分であるということをすっかりと忘れていた。彼女は抱きかかえられたまま、口を開いた。「皆さん、ありがとうございます……あのようなことがあったあとで何ですが……ぜひ、パーティーを楽しんでいってください。私もすぐに戻りますから
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第109話

香織は礼音に抱きかかえられたまま、会場を一度出た。ホテル内にある部屋で、彼女は美由紀から頬の手当てを受けていた。亮太が打った香織の左頬は真っ赤に腫れ上がり、痛々しかった。「アイツ、お嬢様に何てことするんですか!」「まぁまぁ落ち着いて。離婚できたんだから結果オーライよ」頬を打たれるのも全て香織の計画の内だった。もちろん痛かったが、この一発で離婚が成立するのならどうだってことない。全員の前でああやって宣言したのだから、あとになって無効だと言われても通用しない。自身の名誉を回復することもできたし、今回の一件は香織の完全勝利だといえるだろう。(今頃会場にいた記者たちが躍起になって記事を書いているかしら……)部屋の椅子に座っていた香織に、美由紀が尋ねた。「お嬢様、髪の毛を結い直しましょうか?」「……いいえ、このまま行くわ」元々パーティーのために丁寧に髪を結い上げていた香織だったが、亮太にぶたれたことでグチャグチャになってしまった。美由紀は再度結い直すことを提案したが、香織はそれをキッパリと断った。「ですが……さっきのほうがお似合いでしたのに……」「……ううん、今はこのままでいたいの」せっかくの離婚を祝うパーティーだ。自由になったことを象徴するため、できるだけありのままの姿で参加したかった。本当は窮屈なこのドレスさえも脱ぎ捨ててしまいたい。香織は髪の毛をブラシで梳かすと、ヒールを履き直して立ち上がった。結われていたおかげで、彼女の下ろされたロングヘアは、ちょうど良い具合にカールがかかっていた。香織はそのまま部屋を出た。外へ出ると、扉の前で待っていた礼音と目が合った。「……」礼音は雰囲気をガラリと変えた香織をじっと見つめた。「……何か変ですか?」「いや……別にそういうわけでは」礼音は胸ポケットからあるものを取り出した。「忘れてたぞ」「私の髪飾り……」それは香織が着けていた髪飾りだった。亮太に頬を打たれて吹き飛んだまま、拾うのを忘れていたのだ。「拾っていてくれたんですね、ありがとうございます」香織は礼音が持っているそれを受け取ろうと手を伸ばした。しかし、彼はその手を避けると、香織の髪の毛に飾りをつけた。「な、何を……!?」いきなり髪の毛に触れられた彼女は困惑した。「――やっぱり、こうしたほうがいいな」礼音は髪飾りを着けた彼女
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第110話

「令嬢、このたびは離婚おめでとうございます」「まぁ、ありがとうございます」香織が会場へ戻ると、招待客たちが次々と祝いの言葉を述べた。こうして亮太と離婚できる日が来るだなんて、夢みたいだ。香織の心は晴れ晴れしていた。今日はきっとよく眠れるだろう。回帰してからも、これほど気持ちのいい日はなかった。「九条さん、久しぶりだね」「……如月さん」香織と礼音の元へ近付いてきたのは、一連の騒動を黙って眺めていた隼人だった。トップアイドルの登場に、周囲にいる女性たちがザワザワし始めた。「お久しぶりです、如月さん」隼人はあの日と打って変わって穏やかな笑みを口元に携えていた。さすがはアイドル。表には絶対に出さないのか。「今日は来てくださってありがとうございます」「いえいえ、こちらこそ脅はく……いや、招待してくれてありがとう」引きつった笑みで脅迫と言いかけた隼人に、香織は思わず笑みを零した。彼の失言も、今では何とも思わない。笑顔で会話を交わす二人に、一人の女性が間に入った。「二人は一体どういう関係なんですか!?」彼女は気になって仕方が無いというような顔で二人を見つめていた。どういう関係かと聞かれ、香織は答えに悩んだ。隼人はトップアイドルだ。変な噂を立てられるわけにはいかない。「ただの友人ですよ、ねぇ如月さん?」「……ええ、その通りです」友人というワードに隼人がピクリと眉を上げた。ここは話を合わせろ、と香織は彼に目で伝えた。彼女が今日隼人をここへ呼んだのは、彼に香織の名誉回復の一端を担ってもらうためだった。人気アイドルの隼人と交流があることが知れ渡れば、必然的に彼女も株も上がる。そのために隼人を利用することにしたのだ。「そうだったんですね……お二人が恋人同士ならとてもお似合いだと思いましたのに」「こ、恋人……?」いやいやありえない。誰がこんな人と。隼人も同じことを思っていたようで、顔色を悪くしていた。冗談でもそのようなことは言わないでほしいものだ。隼人はすぐ隣にいた香織の耳元でボソッと囁いた。「よかったな、俺を利用して評判を上げることができて」「な、何のことだか……」彼は全てお見通しのようだったが、香織は知らないフリをした。「ところで如月さん、昨日のドラマ見ました!迫真の演技でしたね!」「ああ、ありがとうございます」隼人は女性の招待客
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