All Chapters of 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Chapter 121 - Chapter 130

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第121話

大学卒業後、亮太は九条香織と結婚した。本人は嫌々だったが、彼女のもたらす利益が魅力的だったのか、婚約破棄まではしなかった。そのまま香織は九条邸に住むようになり、その代わり亮太は家にあまり帰らなくなった。そんな息子を、社長夫妻は諫めながらも義理の娘となった香織との仲を順調に深めた。美由紀は羽川家で家政婦として働いていたため、彼女と顔を合わせる機会も多かった。そのたびに、同じ女としてとても惨めな気持ちになった。結婚式で見たウエディングドレス姿の香織は招待客たちが見惚れるほどに美しかった。華やかな見た目の彼女は、亮太の隣に立っても違和感なく、むしろお似合いといえるほどだった。結婚式に参列していた美由紀は、ただタキシード姿の亮太をじっと見つめていた。本人は香織を毛嫌いしているかのように振舞っていたが、彼女は気付いていた。――香織を見る亮太の視線に熱がこもっていることに。彼は式中もチラチラと彼女に目をやり、どこか落ち着かないようだった。そうなるのも当然だ。結婚式での香織は胸元の開いたドレスを着用しており、とても色っぽかった。うっとりと恍惚の表情で亮太を見上げていた香織。亮太はそんな彼女に心を動かされているようだった。あのときの二人は間違いなく愛し合っていたように思えた。あまりにも完璧な二人の間に、自分が入り込む隙なんてない。長年亮太を傍で見てきた美由紀がそう思うのだから間違いない。しかし、結婚後の亮太は妻となった香織から目を背けるように彼女を避け続けた。社長夫妻が不慮の事故で亡くなってからは余計に酷くなった。亮太は次第に外で女遊びを繰り返すようになり、香織はそのことを悲しんだ。美由紀は権力で彼の妻となった香織を快く思っていなかったが、そこまでの仕打ちを受けるとさすがに同情した。そしてそんな中で、亮太は日菜乃を連れて本邸へ帰ってきた。美由紀と同じ、一般庶民の女。童顔で背が低く、男の庇護欲をそそるような見た目をしていた。驚くことに彼女との間には子供もいて、第二子を妊娠中だった。美由紀は羽川邸で過ごしながら、亮太と日菜乃の様子をじっと見守っていた。(社長は……あんなにも分別のない人だったかな?)日菜乃と出会ってからというもの、亮太は人が変わったように横暴になっていた。妻である香織に平然と手を上げ、人を見下すような態度をよく取るようになった。これま
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第122話

美由紀の幼少期についてを聞いていた香織は、顎に手を当ててポツリと呟いた。「知らなかったわ……亮太が幼い頃そういう人だったなんて」「ええ、今となってはあのときの面影すらありませんけど」美由紀は悲しそうに笑った。かつて亮太に優しくされていたからこそ、変わってしまった彼に色々と思うところがあるのだろう。「美由紀は……もう亮太に対する未練はないの?」「……」その問いに、美由紀は黙り込んだ。しばらくして顔を上げると、ニッコリと笑った。「私の一番は香織お嬢様です。あの日お嬢様に助けられてから、そう心に誓いました」「そう……」亮太のことは既に吹っ切れたのか、清々しい顔をしていた。彼女は彼女なりに過去を乗り越え、前を向いて生きようとしている。「よかったら今度、誰か良い人を紹介しましょうか?ハイスペックな男性ならウチの会社の社員にもたくさんいるから」「良いんですか!?ありがとうございます!」美由紀は嬉しそうに笑った。彼女が早く亮太を忘れてくれることを願うばかりだ。「それと……男性へのプレゼントを用意したいんだけど、何が良いと思う?」「男性へのプレゼント……?」美由紀はどうしてそんなことを聞くのかと不思議そうに首をかしげたあと、突然閃いたように声を上げた。「あ!もしかして、福本さんへの贈り物ですか?」「え、えぇ……彼にはパーティーでたくさんお世話になったから……」特別な意味なんてない。ただ助けてもらったことへのお礼がしたかっただけ。香織は必死で自分に言い聞かせた。「お父さんは私から贈られたものなら何でも喜ぶだろうって言うんだけどね……」「アハハ、その通りだと思いますよ。お嬢様」「で、でもやっぱり……よく考えて贈りたいのよ!」そんな香織に、美由紀はフフッと笑みを零した。「そうですねぇ、なら……ピアスなんてどうですか?」「ピアス……?」「ほら、福本さんっていつも左耳にピアス着けてるじゃないですか。高そうなヤツ」「そういえば……」彼の顔をじっと思い浮かべた香織は、たしかにいつも小さなピアスがはめ込まれていたことに気が付いた。美由紀がそのような些細なことまで見ていたとは、驚きだ。「意外とオシャレに気使うタイプなんですねぇ、今時の若い男の人ってみんなそんな感じなんでしょうか」「さぁ……興味ない人はないんじゃないかしら……」でも意外と良
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第123話

一週間後、礼音へのプレゼントを購入した香織は、駅の近くで彼と待ち合わせをしていた。数日前、彼と連絡を取った香織は、会う約束を取り付けていた。もちろん、プレゼントを用意していることは内緒で。今日は美由紀もおらず、完全に礼音と二人きりだ。(何だかデートみたい……)香織はフフッと笑みを零した。あながち間違っていないのかもしれない。当然、亮太ともデートなんて一度もしたことがない。だからかな。今日の香織はいつもより気合が入っていた。普段ほとんど着ない花柄のワンピースに、髪はハーフアップにまとめている。(でもこういう服も、たまにはいいわよね……)香織はすぐ傍の店のショーウィンドウに映る自分を見つめた。自分から見ても普段とはかなり雰囲気が違う。「キャ、キャアッ!」彼女が横髪を整えていたそのとき、突然横からやって来た人物に背後から抱きしめられた。逞しい胸に、背中が当たる。「――香織」「礼音!」彼女を抱きしめたのは礼音だった。至近距離で目が合い、顔が赤くなる。「れ、礼音!」「元気にしていたか?」礼音はしばらく彼女を腕の中に閉じ込めたあと、そっと解放した。香織は顔を真っ赤にしたまま声を荒らげた。「きゅ、急に何てことするのよ!」それが照れ隠しだということをわかっている礼音は、口元を手で押さえて笑いを堪えていた。礼音ってこんな人だったっけ。最初に会ったときのクールな印象とずいぶん違うような気がする。「今日はどうしたんだ?急に会いたいだなんて」「ただ……ちょっと渡したいものがあったんです」「渡したいもの?」香織はバッグの中から取り出した小さな箱を、礼音に手渡した。綺麗にラッピングされた箱を、礼音はまじまじと見つめた。「パーティーのエスコートをしてくれたお礼です。ぜひ開けてみてください」彼は箱を受け取り、中身を開けた。中から出てきたのは、シルバーのリングピアスだった。彼が普段着用しているものとほんの少しだけ似ている。ピアスを見た彼は、目を見張った。「お前が選んだのか……?」「はい、いつも左耳にピアスを着けていますよね」そのことを指摘された礼音は、そっと左耳のピアスに触れた。「礼音によく似合うと思って選んだんです」「俺に……」彼は左耳のピアスを外すと、香織からプレゼントされたものを新しく着けた。整った顔立ちの礼音は何を着けてもよく似合う
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第124話

何故、どうしてそんな顔をしているんだ。いつもクールで冷静で滅多に人前で感情を露わにしない福本礼音社長が顔を真っ赤に染めて照れている。そんな顔をされたら何だかこっちまで恥ずかしくなってしまう。香織は逃げるようにその場をあとにしようとした。「私の用事は終わったので!今日はここで失礼します!また機会があったら会いましょう礼音!」「……待て」そそくさと去ろうとした香織の肩を、礼音はガシッと掴んだ。腕に力を込めて彼女を振り向かせる。そして、有無を言わさない口調で話し続けた。「俺は今日お前のためだけに予定を全てキャンセルして丸一日空けたんだ。そこまでしてもらっておいて、帰るだと?」「そ、それは……」礼音の笑顔に、香織は何も言えなくなって視線を逸らした。口元は微笑んでいるのに、目が笑っていない。あぁ、そういえば元々こういう人だったなと香織は思った。(やっぱり、最近の私はちょっと調子に乗りすぎだったよね?)礼音を始めとした周囲の人間に優しくされすぎているからって、思い上がるのはよくない。香織は無言で頷き、大人しく礼音について行った。「どこに行くんですか?」「どこか行きたいところあるか?」彼の問いに、香織はしばらく考えてみたが何も思い浮かばなかった。「私は特に……強いていうならお腹が空きました」「なら、飯でも食うか」ちょうど昼食の時間だった。朝から何も食べていなかった香織は、かなり腹を空かしていた。礼音はスマホを取り出し、近くにある飲食店を調べた。香織がどのような店を好むのか、彼は全く知らなかった。これまで共に食事をしてきた女たちを思い浮かべ、検索をかけた。結果ヒットしたのは、近くのデパートにある高級フレンチレストランだった。一食にしてはかなり高かったが、実業家として成功を収めた礼音にとってはこのくらいどうだってことない。何より、香織が喜ぶなら安いくらいだ。「……ここにでも行ってみるか?」彼はスマホの画面を香織に向かって見せた。これまでの女たちと同じように喜ぶと思ったが、彼女は意外な反応を示した。「え、こ、こんな高いお店……」「……気に入らなかったか?」女なら誰でもこのような高級店が良いと言うのだと思っていた礼音は、彼女の気乗りしない顔に驚きを隠せなかった。香織は九条家のお嬢様だ。いつも高級店ばかり行っているというわけではないのか。「
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第125話

礼音は香織の要求を呑み、二人でファミレスへと入った。昼時だったこともあり、店内は満員だった。家族連れや若いカップル、サラリーマン風の一人客など客層は様々だ。店員に案内され、二人はテーブル席に向かい合って座った。メニュー表を開いた香織は、目を輝かせた。大企業のお嬢様だろうに、こんなもので喜ぶのか。香織は礼音がこれまで出会ってきた女たちとは全く違うタイプだった。『あんな安い店に彼女を連れて行くなんてありえない。ああいう男とは死んでも付き合えないわ』『礼音、あのバッグ買ってよ!私、誕生日プレゼントはあれがいいわ!』『新婚旅行はヨーロッパに行きたいの。それと結婚式はハワイでたくさんの人を呼んで挙げたいわ。礼音なら叶えられるでしょう?』礼音は嫌な記憶に蓋をし、メニュー表を眺めていた香織に声をかけた。「こういうところにはよく来るのか?」「いえ、全く!恥ずかしながら、実は初めてなんですよ」香織は照れたように笑った。ここに来れたのがそんなに嬉しかったのか。行こうと思えばいつでも行けるだろうに。礼音は彼女の気持ちが理解できなかった。「まぁ、そりゃあ九条家のお嬢様がこういう店で外食するわけがないよな」「そうですね、たしかに経験はないです。でもずっと行ってみたいと思っていたんですよ」「何故だ?お前ならもっと高級店に行けるだろう?」礼音は裕福な家の生まれだったが、それでも九条グループの足元にも及ばない。それに私生児だった彼は家族たちから冷遇されていたため、誕生日を祝われたことすらない。高級店に入ったのも、海外旅行に行ったのも、実業家として成功を収めてからだ。その点でいえば、生まれながらに全てを持ち合わせている香織のことは羨ましかった。「そういうのにあまり惹かれないんです、私。ブランド物とかもほとんど興味が無くて。ご飯も美味しければどこだっていいし」「……そうか」礼音は正面に座る香織をじっと見つめた。とても大金持ちの家のお嬢様だとは思えないな。美味しそうなものがたくさんありすぎて決められない、と口にした香織に思わず笑みが漏れた。気になった、彼女の頭の中が。彼女が普段どのような考えを抱き、行動しているのかを。もっと知りたいと思うこの気持ちは恋なんだろうか。ここまで一人の女性を気にかけたことなんてなかったからわからなかった。「初めてのことは何でもワクワクしま
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第126話

一時間後。昼食を終えた二人は、会計をしてファミレスを出た。香織は割り勘を提案したが、礼音が俺が出すと言って聞かなかった。一度くらいならいいだろうと思い、彼女はお言葉に甘えて奢ってもらうことにした。ファミレスだからあまり高くはなかったし。「あー美味しかった!」「よっぽど気に入ったようだな」礼音は横を歩く香織に笑いかけた。ファミレスのご飯がこれほど美味しいとは知らなかった。香織はもっと早く来ていればよかったと思った。(ちょっと食べすぎちゃったかな?お腹がキツいや……)香織はいつもよりだいぶ膨らんだお腹をそっと撫でた。ワンピースだから周囲からはわからないだろうが、ちょっと恥ずかしい。礼音は頬を僅かに染めた香織を、不思議そうに見つめた。どうか彼に気付かれませんようにと、香織は心の中で祈り続けた。そんなとき、突然誰かに声をかけられた。「――あれ、礼音じゃん」「……お前」振り返ると、三十くらいの若い男性が立っていた。香織は初めて見る人だったが、礼音は違った。(……知り合いなのかな?)彼はゆっくりとこちらへ歩み寄ると、気さくに礼音に話しかけた。「お前、こんなところで会うなんて奇遇だな。何してるんだ?」「……ちょっと用があってな」「そうか、横にいるのは彼女か?」思いもよらない質問に、香織は慌てて首を横に振った。「ち、違います!私たちはただの友人ですよ!」「何だ、彼女じゃなかったのか」「絶対に違います……誤解しないでください……」彼は否定し続ける香織を、上から下までまじまじと眺めた。理由はわからないが、口角が僅かに上がっている。(……その目は一体何なの?)初めて会った人にそのような目で見られ、香織は不愉快極まりなかった。「……お前、初対面の女性に失礼だろう」「礼音」香織を守るように間に入ったのは礼音だった。彼が前に立ったことにより、男の顔は見えなくなった。香織は礼音の背中に守られるようにしてじっと立ち尽くしていた。男は慌てて弁明した。「悪い悪い、別に狙ってないからさ。そんな怖い顔すんなよ」「どうだかな、誰にでも手を出すお前のことだ。信用できない」礼音の言葉に、彼は不快そうに顔をしかめた。「ちょっと酷くないか?いくら俺が女好きだからといって友人の彼女に手を出すほど腐ってないって」「……さっきも言ったが俺たちはそういう関係じ
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第127話

香織は時間が止まったかのように、全ての動きを止めた。瞬きすることすら忘れ、ただ先ほど男が発した言葉が何度も頭の中で流れた。(元カノに似てる……?私が……?)彼は前を向いていて、どのような表情をしているかわからない。覗き込めばわかるだろうが、今の香織にはそうする勇気がなかった。――礼音がどんな顔をしているのか、見るのが怖かった。しばらくすると、彼がようやく口を開いた。「……お前、つまらないことを言うな」いつもと変わらない、感情の読めない声だった。「俺はただ思ったことを口にしただけだけどな」男はやれやれと肩をすくめた。その後、後ろにいた私をチラリと覗き込むとニコッと笑った。「またね、綺麗なお姉さん。寂しくなったらいつでも俺のところにおいで」「……」香織は返事をしなかった。男は軽く手を振ると、二人の前から立ち去って行った。礼音は何も言わず、その後ろ姿を凝視していた。「礼音、さっきのって一体どういう……」「――香織、今日はもう帰れ」礼音は振り返ることなく、言い放った。「…………え?」香織は驚いて彼の後頭部をじっと見つめた。礼音は一度も香織のほうを見ることなく、淡々と言葉を続けた。「今日貰ったプレゼントのお返しはいつか必ずする。必要なら家まで送らせよう」香織は静かに首を横に振った。「いえ……近いので……平気です……」「……そうか」礼音は最後に横目でチラッと一度だけ彼女を見ると、そのまま立ち去って行った。香織は彼の背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。足が思うように動かない彼女を一人置き去りに、礼音は何も言わずに目の前からいなくなった。(私もそろそろ帰ろう……)しばらくして、香織は一人帰路についた。***「香織さん、おかえりなさい」「……ただいまです」帰宅した香織は、有真に素っ気なく返事をした。いつもなら他愛もない話をしているはずだが、今日の彼女はそのまま二階へと上がって行った。「香織さん……?」有真はそんな彼女を不思議そうに見つめていたが、引き留めるようなことはしなかった。部屋へ入った香織は、結っていた髪の毛をほどいてベッドに横になった。『元カノにそっくりだからてっきり彼女かと思ったのに』ついさっき言われた言葉が頭から離れなかった。今日のデートの内容なんて忘れてしまうほど、頭はそのことだけでいっぱ
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第128話

その日、香織は食欲が無くて夕食の席へは現れなかった。有真や忠嗣が何度か様子を見に部屋までやって来たが、香織はそれでも外へは出なかった。泣いているところを二人には見られたくなかったのだ。余計な心配をかけたくもなかったし。そのまま一歩も部屋の外に出ないまま、夜の十時になった。香織は相変わらずベッドに突っ伏したままだった。お腹が空いていたが、真っ赤になった目のまま下へはおりたくなかった。(そろそろお風呂に入らないと……できるだけ見つからないように下へおりて……)入浴の準備をしようとしたそのとき、部屋の扉がノックされた。「――香織さん、有真です。一度だけ扉を開けてくれませんか?」「……有真さん?」有真が香織の部屋にやって来た。有真が直接部屋へ来るのはもう四度目だった。彼女はいつもと様子の違う香織を心配し、彼女の元へ何度も足を運んでいた。追い返しても何度も何度も。香織は返事をしなかったが、有真は諦めなかった。「香織さん、お願いです。香織さんに渡したいものもあるんです」「……」結局、折れたのは香織のほうだった。彼女は軽く身だしなみを整え、これまでずっと固く閉ざされていた部屋の扉を開けた。「香織さん!」扉を開けると、有真が嬉しそうに顔を綻ばせた。「……どうぞ、入ってください」「お邪魔しまーす」有真は少女のように無邪気な声で、香織の部屋へ入った。思えば、有真を部屋の中に入れるのは初めてかもしれない。嫁ぐ前の香織は有真を自分の部屋に入られることを嫌い、掃除すらも家政婦を雇っていた。「わぁ、香織さんの部屋ってこんな風になっているんですね。入ったことがなかったので知らなかったです」目を輝かせて部屋を見渡す有真に、香織の胸はチクリと痛んだ。「すみません……いつまでも子供みたいなことして」「いえ、仕方がありません。突然継母ができて困惑していたでしょうから」有真は特に気にしていなかったのか、笑顔で横に手を振った。「お腹空きましたよね?ご飯を持ってきました」「有真さん……」「その様子だと、旦那様の元へは行きたくないでしょうから……」有真は香織の心情を汲み取り、部屋に食事を運んできてくれたのだという。ちょうどお腹が空いていた香織は、我慢できずに手を付けた。「……美味しいです」「わぁ、そう言ってもらえて嬉しいです」皿はすぐに空っぽになった。食
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第129話

「結婚式……?」香織は招待状に書かれていた文字を思わず二度見した。(日菜乃と亮太が結婚式を開くですって……?まだ再婚してから日も浅いというのに……)再婚で、しかも略奪婚で結婚式をする夫婦なんてそうそういない。香織は招待状を握りつぶしそうになった。「略奪婚の分際で結婚式とは……それも前妻の香織さんを招待するなんて……」有真も怒りからか、声を震わせている。「ええ、そうですね……私を馬鹿にしているとしか思えません」おそらく日菜乃の入れ知恵だろう。女性として、愛する人と一生に一度の結婚式を挙げて思い出作りをしたいという気持ちは理解できなくもない。しかし、前妻の香織を式に招待するというのはどう考えても異常だ。有真と忠嗣ですら、再婚だったため結婚式は行っていない。(勝手にやっておけばいいものを……)何故わざわざ自分を招待したのか。言われなくてもわかる。この機会に香織に一泡吹かせてやろうという魂胆だろう。その手には乗らない。横から招待状を眺めていた有真が呆れたように言った。「ずいぶんとお高いホテルでやるんですねぇ、良いご身分なことで」「そうですね……私のときはもっとこじんまりとしていましたが」亮太と日菜乃の結婚式を行うのは都内でも有名な超高級ホテルだ。亮太は本当に日菜乃を大事にしているようだ。世間に向けて真実の愛を公表したうえに、高級ホテルでの挙式だなんて。「香織さん、行かなくてもいいんですよ?必ず出席しなければいけないなんてことはありませんから」「……」有真の言葉に香織は悩んだ。(本当は行きたくなんてないけれど……ここで出席しなかったらまるで私がアイツらから逃げているみたい……)そういう風に受け取られるのだけは御免だった。意を固めた香織は有真にニッコリと笑いかけた。「有真さん、私なら平気です。結婚式には参加しようと思います」「ほ、本気で言っているんですか……?」有真は驚いたように香織を見つめた。たしかに、普通の人間ならばこんなもの参加なんてしないだろう。だが、既に二度目の生を歩んでいる香織のメンタルは並大抵のものではなかった。(あの二人が未だに私を貶めようとしている以上、放置しておくわけにはいかない……)離婚したからって安全とはいえないだろう。今世では必ず自分が最後の勝者になると誓ったのだから。「えぇ……結婚祝いのプレゼント
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第130話

その頃、礼音は一人部屋で眉をひそめながらスマホの画面を眺めていた。「離婚してからまだ一ヵ月も経っていないというのに……もう再婚か……」彼が見ていたのは亮太と日菜乃の再婚に関する記事だった。礼音はじっと亮太が考えたであろうロマンチックな文章を読んでいた。あの男が言っていると思うと、何故か笑えてくる。SNSでは二人を非難する声と、祝福する声で分かれた。もちろん、礼音はとても祝福なんてできなかった。記事に載っていた亮太と日菜乃の顔写真を眺めていたそのとき、突然彼のスマホの着信が鳴った。「……琢磨?」電話をかけてきたのは彼の友人である下村琢磨(しもむらたくま)だった。今日、礼音と香織がたまたま遭遇した相手でもある。「アイツ……一体何の用だ……」こんな夜中にかけてくるなんて。礼音は面倒に思いながらも出た。「――もしもし、礼音」「お前、何の用だ」電話の向こうから聞こえるおちゃらけた声に、礼音は冷たく返した。「おいおい、機嫌良くなさそうだな。今日は悪かったって」今日、とはおそらく香織の前での軽率な発言のことだろう。そのことを思い出した彼の眉間にシワが寄った。「そんなことを言うためにこんな夜遅くにかけてきたのか?」「いやぁ、まぁ……お前に一言言っておきたかったし」「それだけなら切るぞ。俺は明日も朝早いんだ」通話をさっさと終わらせようとした礼音を、琢磨が慌てて引き留めた。「ちょ、ちょっと待て!お前に聞きたいことがあるんだよ!」「……何だ」まだ何かあるのか、と礼音は彼の言葉を待った。琢磨とは学生時代から交流があるが、親友という間柄ではなかった。むしろ悪友という表現のほうが合っているかもしれない。「お前、今日一緒にいたあの子は……どういう関係なんだ?」「……ただの友人だ、それ以上でもそれ以下でもない」絶対に手出すなよ、と礼音は釘を刺した。「お前、ずっと初恋の女の子を探しているんだったよな?」「……」礼音はスマホを握ったまま黙り込んだ。――初恋の女の子彼が幼い頃恋に落ち、ずっと探している女性。実は礼音が実業家になって権力を手に入れたのは、彼女を探すためでもあった。そのことを知るのは彼の親しい友人のみだが。「お前の元カノは最低な女だった……俺はお前がずっとそのことを引きずっているのをよく知っている」「……」「今日あの子を見て驚い
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