Lahat ng Kabanata ng 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Kabanata 161 - Kabanata 170

216 Kabanata

第161話

忠嗣との話を済ませた後、秘書が大慌てで彼の元へ現れた。「――社長!羽川家を敵に回すだなんて、一体どういうおつもりですか!?」「……………お前、ちょっと黙っていろ」九条邸を出てきた礼音は、口うるさい秘書を煩わしそうに見つめた。彼は礼音のことを心配していたのだ。当然、礼音にもその気持ちは伝わっている。しかし、今では余計なお世話でしかなかった。「既に決めたことにガタガタ言うな」「社長、正気の沙汰とは思えません。羽川家は国内でも有数の資産家で、現トップの羽川亮太は大物たちと繋がっている権力者なんですよ?そんな彼の不興を買ったら私たちがどうなるか……社長が苦労して立ち上げた会社ですら終わりかもしれません」「…………それの何が問題だ?」「社長……?」秘書は驚いて礼音を見上げた。一点の曇りもない、揺るぎない眼差し。秘書は遅ればせながら、彼が本気であることを悟った。「俺は香織をあんな目に遭わせたヤツらを見逃すことなど絶対にできない。何よりアイツらがのうのうと暮らしているというだけで吐き気がするんだ。お前にその気持ちがわかるか?」「……もしや、今回被害に遭われた香織さんというのは……」「……そうだ」礼音は軽く頷き、彼から背を向けて口を開いた。「――香織は俺の初恋の人だ」「……!」その言葉でようやく、秘書は全てを察した。だからこんなにも社長は本気なのか。「俺にとって香織は自分の命よりも大切な存在だ。それはお前もよく知っているだろう?」「……ええ、存じ上げております。社長がずっと初恋の少女を探していらっしゃったということも……」礼音は本気だった。本気で羽川家を相手に立ち向かう気なのだ。秘書は並々ならぬ彼の決意に、それ以上は何も言わなかった。言ったところで、彼の気持ちが変わるはずがないとわかっていたから。男なら、愛する女がこの世の何よりも大切なのは当然のことだ。「……社長のお気持ちはわかりました。ですが、少し無謀ではありませんか?社長だけでは羽川家を倒せるかどうか……」礼音は有名な実業家ではあったが、歴史ある羽川に比べたら足元にも及ばない。「……だから、俺はここを訪問したんだ。お前は目の前にあるこの家が誰の家かわからないのか?」「……もしかして、ここは」秘書は礼音の背後にそびえたつ巨大な邸宅を見上げた。こんなにも大きな家に住める人間は、か
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第162話

美奈子は香織の父忠嗣の妹であり、彼女の叔母だった。親族ではあるが、香織や兄の忠嗣とはあまり似ていない。彼女は年齢の割には若々しい見た目をしていた。いつもは華やかな服装をして着飾っているそうだが、今日は喪服にメイクも控えめだった。泣いていたのか、目元は赤くなっていた。「……一体何の用ですか?」「……香織のことで話があって来たのよ」「香織のこと……?」美奈子は他の参列者に話が聞こえないように配慮しているのか、一歩礼音に近付いた。周囲の目を気にするように、小声で話し始めた。「実はね……香織がまだ生きていた頃、妙な噂を耳にしたことがあったのよ」「噂……?」礼音はただじっと話を聞いていた。成り上がりの彼は、あまりそのような富豪たちが集まる会に参加しない。そのため、香織の噂なんて聞いたことがなかった。一体どのような噂が流れているというのか。礼音は聞きたくなかった。しかし、何だか目を背けてはいけないような気がして、話を遮ることはできなかった。「――羽川家の夫人が、夫に暴力を振るわれていると」「……!」「当時はただの噂だと思っていたけれど……もしかすると、本当のことだったのかしら……」美奈子はハンカチで目元を押さえて泣き始めた。礼音はそんな彼女を、複雑な気持ちで見つめていた。――何故、それを今になって言うんだ。このとき礼音は、香織を助けられる機会はいくらでもあったのだということを悟り、悔しさで胸がいっぱいになった。「……その噂はどこでお聞きになったのですか?」「羽川邸の近所に住んでいる知り合いの主婦よ。元々噂好きな人だったから、そのときは大して気にも留めていなかったんだけど……」「……そう、だったんですね」礼音の刺すような鋭い視線に、美奈子はビクリと肩を上げた。その目はまるで責めているかのようで、彼女はそのときになってようやく自分の犯した罪を察した。「わ、私……」「……過去のことを悔やんでも何の意味もありません」「……!」忠嗣も美奈子も、何故みんなそうやって過去ばかりを悔いて何もしようとしないのか。礼音には到底理解できなかった。「もしかして……あなた、羽川家に復讐するつもりなの?」「……なら、香織をあんな目に遭わせたヤツを野放しにしておけと?」「い、いいえ……そういうわけではないの」美奈子は首を横に振ったが、その目には心配の色
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第163話

「香織……」礼音は秘書が目の前にいるにもかかわらず、目元を手で押さえて泣き続けた。とても、悲しかった。聞いただけで胸が痛い。心が耐えられそうになかった。だからあのとき、あんなにも体中傷だらけだったのか。普段から暴力を振るわれていて、その後さらに壮絶な拷問を受けたから。「あぁ……香織……」こんなことになるのなら、強引にでも彼女を自分のものにしておくべきだった。礼音は香織が生きている間、常にそのような気持ちを抱きながら暮らしていた。今すぐにでもあの男の元から彼女を奪い去ってやりたいと。しかし、香織自身が亮太を深く愛しており、彼の傍にいることを望んでいた。彼女を強要するようなことだけはしたくなかった。(一緒になりたいだなんてそんな贅沢なこと願っちゃいなかった……ただ、同じ空の下にいられるだけでよかったのに……)何より、自分のような家族からも愛されなかった卑しい私生児にとってはそれすら贅沢な願いだろう。しかし、事態は最悪な形となって終わりを迎えた。遅すぎる後悔が、彼に押し寄せた。何故、彼女を助けてあげられなかったんだ。彼もまた、忠嗣と同じように何度も自分を責め続けていた。「社長……」秘書が痛ましそうに礼音から顔を背けた。彼もまた、香織の味わった苦痛を思うとやるせない気持ちになっていた。目を背けたくなるほどの残酷な現実。か弱い女性が、よく一人で耐えたものだ。「それと、社長……香織さんは死ぬ間際に数メートル地面を這うように移動したそうです」「……何だと?」それが何を意味するのか、聡明な礼音はすぐに理解できた。数メートルの這った痕跡は、彼女が必死の思いで生きようとした証だった。人通りの多い場所であれば、誰かが発見してくれたかもしれない。しかし、彼女は誰にも見つけられずに一人で死んでいった。新たなその事実が、余計に彼を奮い立たせた。「…………一連のことを仕組んだのは、羽川亮太で間違いないんだな?」「ええ、裏が取れています。彼の指示で香織さんに拷問をしたという実行犯たちの顔と名前も特定済みです」「そうか……」秘書は礼音の前に、数枚の紙を置いた。その紙には、礼音を始めとした複数人の男たちの顔と名前が記載されていた。「――主犯格と、実行犯たちです。彼らをどのように料理するかは、全て社長にお任せいたします」「……そうだな、ありがたいよ」礼音は彼
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第164話

実行犯たち全員の拷問を終えた頃には、礼音の手は血みどろになっていた。もう、二度と後戻りなんてできない。いや、香織が亡くなったあの日からそうするつもりなんて無かった。そのような選択肢は最初から存在しない。ある日、彼は自身の手を見つめながらボソッと呟いた。「……俺はとんでもないサイコパスだな」「社長……」秘書が心配そうに彼を見つめた。礼音はもう何日もまともに眠れていなかった。拷問した実行犯たちの叫びが、痛いという表情が、強く彼の脳裏に焼き付いて離れない。――俺は、アイツらと同じ人間だ。そのことを今さらながらに悟った。結局人間は、目的のためならばいくらでも残酷になれるのだなと彼は心の中で人の醜さを嗤った。まだ綺麗だった彼の手は、今はもう薄汚れてしまっている。そのような手で香織に触れることがなくてよかったなと思った。「実行犯たちは、いかがいたしますか?」「……そのままにしておけ。自分たちの罪があるから、警察へは駆けこまないさ」「……はい、社長」実行犯たちは拷問はしたが、殺すなんてことはしなかった。香織が命を落としたことを考えればそうしてやりたかったが、必ずしも死ぬことが最も辛いというわけではないだろう。アイツらは、この先ずっと拷問のトラウマを抱えながら苦しみ続ければいい。少なくとも、礼音はそのような考えを持っていた。「実行犯たちの処理が終わったら……あとは一人だけですね」「――二人だ」「…………え?」秘書は驚いて彼を見つめた。一人ではなく、二人。それが意味するのはつまり――「……言っただろう、俺はこの一件に少しでも関わった人間を一人も逃がしはしないと」「…………社長」秘書の脳裏に亮太よりも残酷で冷酷な、一人の女の姿が浮かび上がった。香織を貶めた張本人であり、今回の一件の引き金となった女。表向きは穏やかで心優しい人間を装っていたが、その女の性悪さは既に二人とも知っている。香織をあのような目に遭わせた元凶である以上、絶対に礼音は彼女を見逃さないだろう。元より彼女はそういう結末を迎えて当然の女だったから、同情なんて到底できないが。「……私は、どこまでも社長について行きます」「……」前を向き、瞳に並々ならぬ覚悟を宿す礼音には、その言葉は届いていなかった。***礼音は亮太と日菜乃に狙いを定めたが、今回ばかりは慎重にやらなければ
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第165話

全てが終わった頃には、香織が亡くなってから一年もの時間が経過していた。その間に色々なことがあった。羽川亮太は羽川財閥のトップの地位を追われるだけでなく、警察に捕まり、そのまま刑務所へ行くこととなった。罪状は妻への殺人。当然だ、あれが殺人ではないのなら一体何が殺人になるのか。亮太は一瞬で全てを失い、どん底へ落ちた。彼には余罪があり、過去に起こした暴行事件も明らかになった。羽川社長の突然の逮捕報道に、世間は驚きを隠せなかった。当然だろう、彼は表面は誠実で努力家な社長を演じていたのだから。しかしそれはあくまでも表の顔にすぎない。自ら毒を飲んだ日菜乃は逮捕こそされなかったものの、世間からの大バッシングを浴びることとなった。亮太の逮捕を機に、彼女の生活は一変した。どこを歩いても軽蔑の眼差しで見られ、石を投げられることさえあったという。家の壁には殺人者という落書きをされ、まともに外を歩くこともできなかった。結局、彼女はその場所にいられなくなり、住んでいた大豪邸を捨てて行方をくらました。どこへ行ったのか、礼音は知らない。世間は罪を犯した犯罪者に厳しい。彼女はそのことを身をもって知ったようだ。香織に拷問を加えた実行犯たちは、全員が礼音の拷問によるPTSDで苦しんでいると聞いた。自分は平然と無抵抗の女性に暴力を振るうくせに、振るわれる側になるとそうやって被害者ぶるのか。同情なんて一切ない。全て自業自得だ。「社長、羽川亮太の裁判まであと少しですね」「……そうだな」彼は青い空を見上げた。ちょうど香織の遺体が発見された場所だった。事件を聞きつけた人々が供えた花が、現場に溢れんばかりに置かれていた。礼音も今回、献花に来たうちの一人だった。彼は買っておいた花を供え、現場でそっと手を合わせた。事件が公になると、その残酷さに、人々は悲しみと同時に怒りを覚えた。亮太に極刑を望む声が次々と上がっているのだという。(香織……お前にとっては狂った世界だったかもしれないが……お前を思って声を上げてくれる人はちゃんといるからな……)礼音は供え物の花たちを見つめながら、心の中で呟いた。亮太と日菜乃が制裁を受けたことで、ようやく香織も安らかに眠れるだろう。全てが終わっても、礼音の心は浮かないままだった。どうしてこんなにも虚無感を感じるのだろう。「社長……少し休まれた方がよろしいか
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第166話

そして気が付けば、時間が巻き戻っていた。香織がまだ生きていた頃に。彼のことを憐れに思った神が願いを叶えてくれたのだろうか。しかし、一つ大きな問題があった。それは彼に回帰前の記憶が無いことだった。ついさっきまで、彼は自分があのような世界で生きていたことすら知らなかったのだ。「……俺は、回帰していたんだな」「社長、何をおっしゃっているんですか?」「いや、何でもない」知り合いの警察官の問いを、礼音ははぐらかした。回帰してきたと言ったところで、頭のおかしいやつだと思われるだけだ。(……たびたび見る悪夢は、前世の記憶のものだったのか)ようやく合点がいった。香織が自らの腕の中で死んでいくあの夢は、ただの悪夢ではなかったのだ。「……主犯格は捕らえたのか?」「はい、香織さんと男の証言ですぐに警察官を女の元へ向かわせています」「そうか」彼はその場を警察官に任せ、一度現場を離れた。今は整理しなければならないことが多すぎたからだ。(……もしかして、香織も前世の記憶があるのか?)何一つ変わっていない亮太や日菜乃に比べると、彼女はあまりにも前世とは違う行動を取っている。そのような彼女の変化が、礼音と同じように回帰しているからだとしたら――彼の胸が、ギュッと締め付けられた。(最悪だな……あの辛い記憶が、今も彼女の胸に残っているだなんて……)そのことを考えると、礼音はとてもじっとなどしていられなかった。彼は香織の運ばれた病院に向かって駆け出した。***一方その頃、病院では。香織と協力者の男が診察室の外で話していた。「怪我していなくてよかったわね」「お前もな」「私は死にかけたのよ?ちょっとくらい労ってくれてもいいでしょう?」「それもそうだな……」普通の女性であれば強いトラウマになっているであろう出来事だが、香織は違う。前世、愛する人にことごとく裏切られた挙句に壮絶な拷問を受けた彼女にとっては、そんなもの大したことなかった。「ところで、さっきの男はお前の知り合いか?」「え?あぁ、礼音のこと?」そこで香織は、彼に助けられた瞬間のことを思い浮かべた。まるで物語に出てくるヒーローのように颯爽と現れ、香織を救い出した礼音。トクン、と彼女の胸が高鳴った。香織は平然を装って男に答えた。「ええ、知り合いよ」「そうか、ずいぶんとタイミングがよかったな」彼
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第167話

その後、無事に病院から出た香織は礼音の車に乗り込んだ。彼は運転手に九条邸へ行くように短く命じ、車は出発した。病院から香織の家まではそう遠くはなく、十五分ほどで到着した。数日ぶりに家に帰った香織を、有真が涙目で出迎えた。「香織さん!」「有真さん……」どれほどの心配をかけたのだろうか。有真は涙を流しながら、香織に抱き着いた。「心配してたんですよ……香織さんが急にいなくなって……」「すみません、ご心配おかけしました」「いえ、いいんですよ。こうやって無事に帰ってこられたんですから」香織は有真の背中にそっと腕を回した。彼女の華奢な身体がプルプルと小刻みに震えている。有真は一度香織から身体を離すと、後ろに控えていた礼音に視線を移した。「福本さん、ありがとうございました」「……いえ、娘さんに怪我が無くてよかったです」礼音は人当たりの良い笑みで返した。香織が不思議そうに首をかしげていると、有真が説明を加えた。「福本さん、ずっと香織さんの捜索に協力してくださっていたんですよ。他の誰よりも一生懸命に」「そ、そうだったんですか……?」驚いて礼音を見上げるが、ぷいっと目を逸らされてしまう。「ところで……お父さんはどちらに?」「ああ、旦那様なら仕事に行っていらっしゃいます。ついさっき香織さんが保護されたと連絡をしたので、もうそろそろ……」有真がそこまで言いかけたその瞬間、玄関の扉が開いた。「――香織」「……………お父さん」ちょうど家の中に入ってきたのは忠嗣だった。彼は相当急いできたのか、息を荒くしている。忠嗣はゆっくりと香織の元まで歩み寄ると、彼女の無事を確かめるように肩に手を触れた。「香織……無事だったんだな」「ええ、ご心配おかけしてすみません」「いや、そんなことは気にしなくていい……」数日間行方不明だった香織の姿に、忠嗣は安堵の息を吐いた。普段人前で感情を露わにしない彼らしからぬ行動だった。「福本君、君が見つけてくれたと聞いた」「いえ、私は特に何も……」礼音は照れ臭いのか、再びそっぽを向いた。「お父さん、仕事中ではなかったのですか?」「ああ……会議中だった」「ええ!?途中で抜け出してきたんですか!?」どうやら忠嗣は役員たちとの大事な会議の途中に香織の帰宅を聞き、抜け出してきたようだ。香織も礼音も、彼のその行動には驚きを隠せな
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第168話

「―――日菜乃が捕まっていないとは、どういうことですか!?」「香織、落ち着いてくれ」何と、今回の件において全ての黒幕である日菜乃は逮捕どころか容疑者としての事情聴取すらされていなかったのだ。(柚果と日菜乃が繋がっていることはほとんど確定しているのに……)何故、彼女が何の処罰も受けていないのか。礼音はそんな香織の疑問に答えるように、口を開いた。「あの女……川島が日菜乃について何も話さないそうだ」「……何も?」礼音は香織を落ち着かせるように、両肩に手を置いた。「ああ、俺もアイツは日菜乃って女と繋がっていると思う。だが……当の本人が何も語らないのだから、捕まえることができない」「……」「あの女が実行犯として犯した過去の事件も明らかになったが……それに関しても日菜乃が追及されることはなかったよ」「そんな……」香織は柚果の行動が到底理解できなかった。普通、人間ならば誰しも自分の罪を軽くすることを一番に考えるのではないだろうか。しかし、彼女は日菜乃のことを話すことはなく、全ての罪を自分がかぶろうとしているのだ。(どうしてそこまで日菜乃を庇うの……?)事情は知らないが、柚果の日菜乃への思いには何か特別なものがありそうだ。「ということは、今回の一件は柚果が主犯で、日菜乃は無罪放免となる……ということですか?」「その通りだ」納得できるわけがないが、柚果が何も話さない以上仕方が無い。(こうなったら、自分の手であの女を追い詰めるほか無さそうね……)そのように覚悟を決めた香織は、礼音に向かって口を開いた。「三日後、日菜乃と亮太の結婚式があるんです」「そういえば、もうそんな時期だったな」ちょうど、日菜乃と亮太の結婚式が三日後に迫っていた。略奪婚でありながら結婚式をするなど正気の沙汰とは思えないが、日菜乃はきっと、そこでもまた何か仕掛けてくるだろう。「一人で大丈夫か?」「ええ、平気です。もう昔の弱い自分ではありませんから」香織は礼音を安心させるように、ニッコリと笑いかけた。机の引き出しには、日菜乃から送られた結婚式の招待状が入っている。「ドレス選びは今からしておかないと」「そうだな……なら俺も付き合おう。一人では何かと大変だろう」「そ、そこまでしてもらうわけには……」香織は断ろうとしたが、礼音は何故か退かなかった。(……どうしてか
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第169話

――時は流れ、結婚式当日になった。「まぁ、とってもお綺麗ですね!」「そう?ありがとう」日菜乃は会場の控室で亮太の到着を待っていた。彼女は真っ白なウエディングドレスに身を包み、椅子に座っている。今日、彼らが式を挙げるのは都内でも有名な高級ホテルだ。日菜乃がそこで挙式したい、と強く望んだせいだった。彼女はおもむろに椅子から立ち上がり、室内にある鏡の前に立った。たくさんのレースがあしらわれた白いドレスに、頭に大きなティアラを着けている。(誰から見ても華やかね……)この姿で亮太と共に登場すれば、誰も略奪婚の分際でとは言わなくなるだろう。それに、今日の結婚式には亮太の元妻である香織も呼んでいるのだ。そこで彼女に恥をかかせることができれば、一石二鳥である。いつも澄ましたあの女の羞恥に染まる顔が見られるのだと思うと、何だかワクワクしてきた。彼女は最後に前髪を軽く整えると、鏡の前から離れた。「――ご新郎様が到着されたそうです」「通してちょうだい」それからすぐ、亮太が控室に入ってきた。「……日菜乃」「社長!待っていたんです!」日菜乃はいつものように、頬を染めて亮太に駆け寄った。美しいドレス姿も相まって、その姿はとても愛らしかった。「……」しかし、彼はそんな彼女を見ても何の反応も示さなかった。日菜乃は違和感を覚えながらも、彼に話しかけた。「社長、今日は私たちの結婚式ですね!私、ずっとこの日を待ち望んでいたんです!」「……あぁ、そうだな」亮太は素っ気なく返事をした。いつもの黒いスーツとは違い、白いタキシードを着ている彼もまた雰囲気が違って見える。しかし、普段よりも冷たく感じるのはきっと服装のせいではないはずだ。――では、一体どうして。日菜乃は亮太と再婚したあの日から、そのような違和感を抱き続けていた。今までずっと自分だけを見つめ続けていた男が、突然このような姿になったのだから無理もない。「社長!私のドレス姿どうですか!?最も美しい姿を社長に見ていただきたくて……自分磨き頑張ったんですよ?」「……そうか、綺麗だよ」「……」綺麗とは言ったものの、本当にそう思っているかどうかは怪しいところだ。今の亮太は目の下に大きなクマを作り、焦点の合わない虚ろな目で日菜乃を見下ろしていた。その瞳には、何の感情も感じられなかった。愛おしいというのも、今の
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第170話

その頃、結婚式の挙式会場では一人の女性の到着によってざわめきに包まれていた。「あ、あの美しい人は一体誰だ……!?」「何て麗しいのだろう……まるで春の女神のようだ」「あの人……羽川社長の元奥さんの香織さんよ!あんなに綺麗な人だったとは、知らなかったわ……」そう、人々の視線を一斉に集めていたのはまさに香織だった。赤く妖艶なドレスを身にまとった彼女は、会場でも一際目立っていた。元々整った容姿に加え、長い脚に引き締まった身体。腰まで伸びた黒髪は、軽く巻かれており、普段より華やかな印象を与えた。彼女は会場に入ると、そのまま椅子に座った。彼女に見惚れていた男の一人が、おそるおそる声をかけた。「あ、あの……よろしければ、連絡先をお伺いしても……」「……すみません、そういうのはお断りしているんです」話しかけるだけでもかなり勇気のいることだった。しかし、何の迷いも無く断りを入れた香織に、男たちはガーンとショックを受けたような顔で固まった。しかし、それでもまだ諦めきれないというような彼らに、香織はハッキリと告げた。「実は私……心に決めたお方がいるんです」「な、何だと……!?」こんな絶世の美女の心を射止めたのは、一体どこの誰なのか。会場にいる誰もが気になって香織を見つめたが、彼女は面白そうに笑いながら人差し指に手を当てた。「ふふふ、誰かは内緒です」香織の赤い唇が、弧を描いた。その妖艶な笑みに、男たちはドキッとしてそれ以上は何も聞くことができなかった。(まぁ、そんな人いないんだけど……)香織は椅子に座ったまま、式が始まるのを待った。そんな彼女に、横に座っていた若い女性が声をかけた。「ご令嬢はとても人気ですね。会場にいるみんなが令嬢のことを見ていらっしゃいますよ」「……そうですか?」言われた香織は周囲を見回した。「ええ、気付いていらっしゃらないのですか?あそこでチラチラと令嬢に視線を向けている方はあの小田自動車の御曹司様ですよ!その横にいらっしゃる方は大手食品メーカーの社長さんです。女性であれば誰もが憧れるようなお方が、ご令嬢に熱い視線を向けていらっしゃいます」「……」彼女の言う通り、この場で香織に熱の帯びた視線を向ける男は多かった。羽川財閥の社長である亮太が結婚式に呼ぶほど仲が良いのだから、彼らも当然有名企業の御曹司か社長なわけで。しかし、
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