Lahat ng Kabanata ng 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Kabanata 171 - Kabanata 180

216 Kabanata

第171話

それからしばらくすると、式が始まった。香織はじっと席に座り、亮太と日菜乃の登場を待ち続けた。ご丁寧に新郎新婦を紹介するオープニングムービーから始まり、香織は冷めた目で二人の動画を眺めた。(とんだ茶番ね……さっさと終わらないかしら)ムービーが終わると、司会者のアナウンスが流れた。「――新郎新婦のご入場です」その一言で、招待客たちが入口に視線を向けた。大きな扉がゆっくりと開いたかと思えば、腕を組んだ二人が入ってきた。真っ白なタキシードに身を包んだ亮太と、その横で微笑む日菜乃。(あらあら、今日の日菜乃は一段と華やかね……あんな事件を起こした張本人だとは思えないほど)白いウエディングドレスを着た今日の日菜乃はとても美しかった。彼女の着ているドレスはスカートの部分に華やかな縦のフリルをあしらっており、大きなパフスリーブの袖部分が印象的な可愛らしいものだった。全体的にレースを施し、髪の毛は低めの位置でシニヨンにまとめている。ふわっとボリューム感を出す髪には、花のベッドドレスが散りばめられている。「わぁ……とっても綺麗な花嫁さんね」招待客からは歓声の声が上がった。男性は主に日菜乃を、女性は亮太をそれぞれ美しいと褒め称えた。香織は自分を差し置いて幸せになろうとしている二人を見ても、今さら何とも思わなかった。ただ、気になる点が一つだけ。(……愛する女が横にいるってのに、どうしてそんな顔をしているのかしら)バージンロードを歩く亮太の表情が、何故か曇っていた。隣で愛らしく微笑む日菜乃とは打って変わって、彼は入場してきてからずっと暗い顔をしている。誰とも目を合わせることなく、視線を伏せたまま歩いている。よく見ると目の下にクマがあり、顔色が良くなかった。しまいには、横にいる日菜乃を全く視界に入れていない。(マリッジブルーってやつ?亮太にもそういう気持ちがあったのね)香織は特に気に留めることもなく、式を見守り続けた。「日菜乃さん、とっても綺麗ですねぇ」「……」横にいるのが新郎の元妻であることに気付いていないのか、隣に座っていた女性がそう声をかけた。香織はニコッと笑って答えた。「ええ、そうですね。女の私でも見惚れてしまいそうです」彼女が答えたその瞬間、すぐ近くを歩いていた亮太の視線が一瞬だけチラと香織に向けられた。「……!」彼と目が合い、彼女はドキ
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第172話

香織は戸惑いながらも、亮太の視線を正面から受け止めていた。熱を帯びたその視線が、彼女の胸をざわつかせた。二人はお互い一言も発さずに、ただ黙ったままお互いを見つめ合っていた。「……社長、どうしたんですか?」「……いや、何でもない」横を歩いていた日菜乃の声で、亮太はようやく我に返ったようだった。香織から視線を離し、再び前を向いてバージンロードを歩き続けた。(……気のせい、よね?)香織はそう結論付け、気にしないことにした。まるで亮太が自分を愛しているようではないか。そんなこと、あるわけがない。前世でよく学んだことだった。(とっても素敵な歌ね……一体誰のことを歌っているのかしら)亮太と日菜乃の入場に使われていた曲は、皮肉にも純愛を歌うものだった。不倫が純愛とは何とも笑えるが、誰もそんな小さいこと気に留めていなかった。そもそも、略奪婚で結婚式を挙げ、元妻をその式に招待している時点で彼らはまともな考えを持ってはいないだろう。「……」――その瞬間、亮太の腕にしがみついていた日菜乃が一瞬だけ香織に視線を向けた。彼女の勝ち誇ったような笑顔を、香織は見逃さなかった。(……何が言いたいのかしら、不愉快極まり無いわ)――亮太は私のものよ、あなたは彼に捨てられたの。わざわざ口に出さずとも、表情だけで言いたいことが伝わってきた。新郎新婦の入場を終えると、マイクを手に持った日菜乃がウェルカムスピーチを始めた。「今日は私たちを祝うために、お忙しい中集まってくださりありがとうございます。私山川日菜乃と、羽川亮太は結婚致しました」彼女は幸せそうに微笑んだ。「私たちの結婚は、賛否両論があると思います。皆さんも既にご存知だと思いますが、結婚するまでの経緯がかなり複雑でしたので……」そこで日菜乃は、チラッ……と香織を一瞥した。再度二人の視線がぶつかり、香織は思わず眉をひそめた。経緯が複雑で、批判の声が少なからずあるということをわかっているのなら、最初から結婚式などやらなければいいのに。香織は心の中で毒を吐いた。「しかし、今日こうやって皆様に結婚を報告することができて大変嬉しく思います。今日は皆様にとって楽しい時間となることを願っております」締めの言葉で、会場にパチパチと拍手が鳴り響いた。香織はとんだ茶番だと感じながらも、音が鳴らない程度に両手を合わせて叩いた。
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第173話

当然、香織はそのようなくだらないことにいちいち付き合うほどお人好しではない。彼女は自身を名指しした日菜乃にすぐ断りを入れた。「何も聞いていないので……何の準備もできていません。いきなりやれと言われても無茶な話です」「そこを何とかお願いできませんか、香織さん」「いえ、できません。何も考えていませんので」日菜乃の頼みを、香織は断り続けた。当然だ、突然言われたところでできるわけがない。「そうですか……香織さんが一番適任だと思いましたのに」断固として拒否する香織に、日菜乃は落ち込んだように視線を下げた。そんな風に振舞われたら、まるで香織が悪者であるかのようだった。招待客たちは、香織に蔑むような視線を向けた。「……あんなにも冷たくする必要は無いのではないか?」「そうよ、いくら日菜乃さんに旦那を取られたといえ……こんな風に公衆の面前でキツく当たる必要があるかしら?」「花嫁が可哀相だ、それに九条グループのご令嬢がそんなこともできないだなんて……」「……」失礼なことを言い出したのは間違いなく日菜乃だというのに、何故こんなにも蔑まれなければならないのか。(そうよ……忘れていたわ。ここにいる人たちは亮太や日菜乃の知り合いだから……彼らの肩を持つのは当然のことよね)どうせ全員が亮太に気に入られたいからと、式に参加したのだろう。彼の溺愛する日菜乃と親しくすることができれば、様々な面で利益を得られるから。日菜乃は隣にいた亮太の腕に、そっと手を触れた。「ねぇ、社長。社長も香織さんにぜひ主賓スピーチをしてほしいでしょう?」「……別に誰でもいい、俺は興味がない」亮太は冷たくそれだけ言うと、顔を背けた。招待客の刺すような視線が、香織に集中した。――お前がやれ、早く壇上に上がれとでも言いたげなその目。(こんな風になった以上、私が前に出ないわけにはいかないわね……)彼らは自分にその役割が回ってくるのが嫌だから香織にやらせようとしているのだろう。そんな彼女に、横に座っていた女性が話しかけた。「令嬢、大丈夫ですか?無理して行く必要はありませんよ。予期せぬトラブルではありますが、司会者が何とかするでしょうし……」この場で香織を気にかける、唯一の人だった。招待客の中でまともな人間がいるということが驚きだ。香織は不安げに見つめる彼女にニッコリと笑った。「いえ、主賓
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第174話

――香織のその一言で、会場が凍り付いた。「私が亮太さんと結婚したのは、大学を卒業したばかりの二十二歳の頃です。私たちは元々大学の同級生で、私からのアプローチで亮太さんとの婚約が決まりました」「く、九条様……何をおっしゃっているのですか……!?」好き勝手言う香織に、司会者が思わず口を挟んだ。そういう反応になってしまうのも無理はないだろう。主賓スピーチとは、新郎新婦へのお祝いの言葉を述べるためのものなのだから。慌てふためく司会者を横目に、香織は言葉を続けた。「亮太さんとの結婚後、彼は私には指一本触れることなく、外で遊び歩いていました。朝まで家に帰ってこないことも多く、私たちはすれ違っていきました」亮太は顔を真っ青にし、日菜乃は鋭い目で香織を睨んだ。そんな二人を前に、香織は余裕の笑みを浮かべた。(ふふふ、私を見世物にしようとしたお返しよ)先に失礼な真似をしたのは日菜乃たちの方なのだ。大人しくスピーチをするような香織ではなかった。「そんなときに亮太さんが出会ったのが、まさに唯一愛した女性日菜乃さんです。彼女との関係が始まってからというもの、亮太は一切の女遊びをやめ、日菜乃さん一筋になりました!」「香織さん?何を言っているのですか?」しばらく黙って聞いていた日菜乃が、低い声で香織に尋ねた。(人が話している途中に割り込むだなんて、マナーがなっていないのね)笑みを浮かべているためわかりづらいが、日菜乃は相当頭に来ている。顔が引きつってピクピクしている。一方、横にいる亮太は青い顔で黙ったままだ。(まだ亮太の方が頭が良いのね)このような公共の面前で、感情を露わにするのはあまり褒められたことではない。亮太は前まで人前で平然と声を荒らげたり暴力を振るっていたが、今日はそのような気分ではないようだ。香織はそんな二人を煽るようにスピーチを続けた。「それから、日菜乃さんが妊娠し……亮太にとって初めての子を産みました。私はとっても悲しかったのですが、何も言いませんでした。亮太を愛していたので」香織は周囲の同情を誘うように、切なげに目を伏せた。その効果はてき面だった。元々かなりの美人な香織の哀愁漂う表情は、人々の心を簡単に動かした。「まぁ、何ということ……」「いくら何でも……香織さんが不憫だ」「略奪で結ばれたことは知っていたが……」香織の話に、招待
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第175話

好き勝手言う香織にとうとう耐えられなくなった日菜乃は、彼女の前に立ちはだかった。よほど頭に来ているのだろう。いつもの愛らしい顔が般若のようになっている。(亮太が近くにいるってのに、気にしないのね)香織はそんな日菜乃を前に、余裕の笑みを浮かべていた。恐ろしいほどに毅然としており、優雅さすら感じるほどだった。「結婚おめでとうございます、日菜乃さん」「……自分が何を話したか、わかっています?」「ええ、もちろんですよ」香織は日菜乃にニコッと笑いかけた。全く動じていない彼女に、日菜乃の眉間にシワが寄った。「日菜乃さん、突然出てこられるだなんて……どうなさったのですか?」「香織さんがあまりにも勝手なことばかり言うものですから……」日菜乃は貼り付けたような不自然な笑顔で笑った。招待客がいる手前、理性を保とうと必死なのだろう。「勝手なこととは……何でしょう?」香織はわざとらしくきょとんと首をかしげた。日菜乃を煽るような行動だった。(何を言っているのかわからないわ。私がスピーチで話したのは全て本当のことで……)香織は何一つ嘘を言ってはいなかった。「香織さん、あのときのことまだ根に持っているんですか……私、正直幻滅しました。いつまでも過去のことをネチネチ言うだなんて……」「そういう性格なんですよ、私は」ハッキリとそう言い切ると、日菜乃は悲しそうに眉を下げた。「今日は私と亮太の結婚を心からお祝いしてくださると思っていましたのに……」「ええ、もちろんそのつもりで来ましたわ」――あなたが、大人しくしていたならね。香織は心の中でそう付け加えた。一方的にやられるだなんて、香織は絶対に黙っていない。「ですが、日菜乃さんがあまりにも私を馬鹿にするようなことばかりなさるので……」「……何のことでしょう?身に覚えがありません」「あんなことをしておいて、覚えていないとシラを切るおつもりですか?」二人の間に火花がバチバチと散った。「お二人とも、落ち着いてください……!」司会者が何とか止めようと慌てて間に入るが、二人は止まらなかった。このままではいつまでも式が進まない。しかし、香織も日菜乃も退くつもりは毛頭なかった。そんな二人を見かねたある人物が、間に割って入った。「――いい加減にしろ」不機嫌そうな低い声が割り込んだ。「亮太……?」「社長……!」
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第176話

亮太の行動に、日菜乃はもちろん香織ですら驚きを隠せなかった。(りょ、亮太が私を庇ったですって……!?)結婚生活の間、亮太はどれだけ日菜乃の方に非があろうともいつも彼女を守り、香織を責め立てていた。そんな彼が突然自分を庇ったのだから、驚くのも当然だろう。愛する妻ではなく、他の女を守った亮太に招待客たちもザワザワし始めた。彼がどれだけ前妻の香織を毛嫌いしていたかは有名な話だったからだ。日菜乃は大きな目をまあるく開いて彼を見上げていた。信じられない、何を言っているのかと亮太に訴えかけている。「社長、一体どういうつもりですか……?」「……いい加減にしろと言っているんだ。いくら何でも、今回のお前の行動は目に余る」「社長……?」日菜乃の悲し気な表情を見てもなお、亮太は同情する素振りすら見せなかった。それだけ言い終えると、そのまま彼女から顔を背けて元いた場所へと戻った。(変ねぇ……いつもなら私に対して勝手なことを言うなだの日菜乃を泣かせるなだの何だの言うはずなんだけど……)てっきり罵倒されるだろうと思った香織は、呆気に取られていた。司会者は二人が呆然としている今がチャンスだと、間に割り込んだ。「し、新郎様もそうおっしゃっていることですし、お二人とも落ち着いてください」亮太が割って入ったことにより、香織と日菜乃はくだらない争いをこれ以上する気にはなれなかった。「……そうですね、私の発言が原因で場を混乱させてしまったようです」「……私もムキになりすぎました」二人は反省の弁を述べ、日菜乃は亮太の横へと戻って行った。香織はマイクを口元に近付け、スピーチを再開した。「……様々な経緯がありましたが、私は今日お二人をお祝いするためにこの場へやってきました」彼女が話し始めると、騒がしくなっていた会場がシンと静まり返った。香織はそれ以上、余計なことを言うつもりは無かった。時間が押している以上、さっさと終わらせるべきだろう。「――亮太さん、日菜乃さん。ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに」「……ありがとうございます、香織さん」「……」その言葉で香織は主賓スピーチを終えた。返事をしたのは日菜乃だけで、亮太は黙ったまま複雑な目で香織を見つめていた。(どういうつもり?私に罪悪感でも抱いているわけ?)香織はそんな彼の意味深な視線に完全無視を決め込み、そ
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第177話

ケーキ入刀が終わり、招待客たちの元に料理が運ばれてきた。今からは食事の時間のようだ。彼らのテーブルに運ばれてきたのは、フランス料理だ。オマール海老のポワレに、キャビアやフォアグラなど高級食材をふんだんに使ったメニューが目の前に並べられる。「わぁ、とっても美味しそうね!」招待客たちが歓声を上げた。香織もこのようなきちんとしたフレンチを食べるのは久しぶりだった。(ご飯だけは楽しめそうね……)胃が痛くなる可能性は拭いきれないけれど、使われている食材は間違いなく一級品だ。せめてこの時間だけは、楽に過ごせたらいいなと思いながら、香織は食事を口に運んだ。「あら、美味しい……」香織は思わず声に出してしまっていた。そんな彼女を見た招待客の男たちが、無意識に口元に笑みを浮かべた。「令嬢のお口に合ったようですね」「ええ……こんなにも美味しい料理は久々です」近くに座っていた女性が、彼女を労うように声をかけた。「ところで、さっきは災難でしたね。突然主賓スピーチをやれと言われて、壇上に上がらされて」「……そうですね、あまりにも急でしたので困ってしまいました」終わったと思っていたのに、このような場で黒歴史を掘り返されるだなんて。香織は反省の意を示した。「……公衆の面前で、少々言いすぎてしまったようです」「いえ、そんなことはありません。先に失礼なことをしたのはあちらの方なのですから」「そうですよ令嬢」向かいに座っていた招待客の男性が、声を潜めて二人の会話に割って入った。「むしろ面白かったです、いつも偉そうにふんぞり返っている羽川社長の真っ青な顔を見るのは初めてでしたので」「……あら、まぁ」驚くことに、一部始終を傍観していた参加者たちは香織に同情的だった。全員が亮太と日菜乃の味方だと思っていたが、意外にもそうではなかったようだ。そのことに香織は驚きを隠せなかった。(私の味方はちゃんといたんだわ……)香織の胸がほんの少しだけ温かくなった。そんな和やかな空気のまま、彼女は食事を続けた。ふと、亮太と日菜乃に視線を向けると、彼らの元に複数の招待客が集まっていた。「……あちらは一体何をしていらっしゃるのですか?」「どうやら、新郎新婦がゲストたちとの写真撮影をしているようですね」「写真撮影……」香織は興味が無さそうに遠くから二人を眺めていた。ノリノリでポ
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第178話

香織は断りたかったが、人の目がある以上、そうするわけにもいかなかった。ここで冷たくあしらってしまえば、彼女の評判はとうとう地に落ちてしまうだろう。いくら会場にいる全員が日菜乃たちの味方ではないといえ、彼らの肩を持つ人間が多くいるのも確かだ。そのような状況で、断ることはできなかった。結局、彼女は席を立ち上がって日菜乃と亮太の元へ向かった。「私を直々にお誘いいただけるだなんて……光栄ですね」「当然ではありませんか、香織さんは大切なお客様ですから」お互い表では笑っているものの、内心では全く別のことを考えていた。やはり、二人の間にある蟠りはいつまでも消えないままである。(元夫とその不倫相手と……三人で写真を撮ることになるなんて、想像もしていなかったわ)香織は亮太と日菜乃の間に立ち、笑みを浮かべた。あくまで写真を撮るとき用のスマイルだ。本心から笑っているわけではない。「香織さん、今日は楽しんでいってくださいね」「ええ、もちろんそのつもりでいます……」――あなたがこれ以上、余計なことをしなければね。香織は心の中でそう付け加えた。彼女だって、あんなくだらない真似をしたいわけではなかった。(みんなに注目されてるし……最悪だわ……)いっそ来ない方が良かったかも。そう後悔したところで遅いのだが。香織は日菜乃から、横にいる亮太に一瞬だけ視線を移した。前を向いているだろうと思っていた彼と、目が合った。「……ッ」「……」亮太と視線がぶつかり、香織はビクリとした。いつも日菜乃だけを見つめていたはずの彼が、今日は香織に釘付けになっている。そのことを香織自身も感じ取っていた。(ちょっと……どうして私を見ているのよ……)彼女は人目も気にせず、こちらを凝視する亮太から視線を逸らした。できるだけ目を合わせたくなかった。結局、撮られた写真は新郎が横にいる招待客を見つめているという異様なものとなった。写真撮影が終わり、その後も式は滞りなく進んだ。お色直しのドレスに着替えた日菜乃が、両親への手紙を読んだり、余興が行われたり。(もうすぐ終わりそうね……)他の人はともかく、香織にとってはとても長い一日だった。何事も無く終えることができそうでよかった。香織は安堵の息を吐いた。たかが三時間ではあったが、香織の体感からしたらその倍である。「令嬢、お疲れ様です」「あり
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第179話

香織はそのまま亮太をスルーし、横を通り過ぎようとした。(なるべく関わりたくないわ……前世のようになったら大変だから……)できるだけ亮太の顔を見ないように、何事も無かったかのように帰ろうとした。しかし、亮太はそんな彼女の腕を掴んだ。「!?」香織の細い腕を、骨ばった大きな手が強く握った。痛い、と思ってしまうほどに力は強く、彼女は振り払うことができなかった。(ど、どうして……)こんな風に腕を掴まれると、地下牢に連行されたあのときの光景が頭によぎる。香織はそのまま亮太に腕を引かれ、強引に会場の裏に連れて行かれた。「ちょっと……何をするのよ……」「いいから、黙ってついて来い」亮太は有無を言わさず、香織を引きずるようにして歩き続けた。こんなところ、誰かに見られたら大変だ。結婚式のあとで新郎が堂々と不倫をしていると思われてしまう。ただでさえ評判が良くないのに、これ以上名誉を落とすわけにはいかない。「ちょっと、いい加減に――」香織が口を開いたその瞬間、亮太は彼女を壁に押し付けた。「キャアッ!」両腕を彼に掴まれ、壁に縫い付けられた。香織は逃れようと暴れるが、力では到底亮太に敵わなかった。彼は香織を押さえつけ、グッと顔を近付けた。獲物を捕らえた猛獣のように、彼の目が鋭く光った。「――お前、俺に何をした?」「何を……?どういう意味よ、それ……」「とぼけるな」亮太は何かを確信しているかのように言っているが、香織は全く身に覚えがない。(何をしたかですって?残酷なことをしたのは私ではなく、あなたの方でしょう!?)香織は何とか掴まれた手を振り払おうと、体を捻った。しかし、彼女が暴れるたびに亮太はさらに手に力を込めた。「社長、言っている意味がわからないわ。まるで私があなたに危害を加えたかのようだけど」「実際そうだろう、でなければこんなことになるはずがない」「こんなこと……?」香織の手首を掴んだ亮太の手が、微かに震えた。彼はらしくなく俯くと、口を開いた。「――毎日、悪夢を見るんだ。お前に関する……夢を」「……何ですって?」目の下にあるクマから寝れていないのは想像していたが、悪夢を見るですって?しかし、香織はその悪夢と自分に何の関係があるのかがわからなかった。 (悪事ばかり働いているから、被害者たちの怨念が夢に出てきているのよ)亮太はお世辞にも
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第180話

そうは考えたものの、確信には至らなかった。香織は前世、亮太と日菜乃がどのような結末を迎えたかなんて知らない。もしかすると不幸になったのかもしれないし、幸せになったのかもしれない。悪事を働いたからって必ずしも天罰が下るとは限らないのだ。最後の最後まで逃げ延びる者も多くいる。亮太と日菜乃のことだ。きっと彼らは香織が死んだところで反省なんてしていなかっただろう。(何かあるとすぐに私のせいにするところは変わっていないのね)さっきは日菜乃から庇ってくれたから少しはまともになったのかと思ったが、そうではなかったようだ。香織は亮太の目をじっと見つめ返した。「社長、言いがかりですよ……私が魔法を使って社長に悪夢を見せているとでもいうんですか?」「……」そんなこと、現実的に考えてあり得ない。とは思うものの、香織は回帰という非現実的なことを一度経験してしまっている。当然誰かに言えることではないが、一度そのような経験をしてしまった彼女には魔法が存在していてもおかしくないのではと思ってしまう面もある。「……なら、何故毎日のようにこんな夢を見るんだ」しばらく宙を彷徨っていた虚ろな瞳が、香織を捉えた。以前のように憎しみを込めた瞳ではなく、憔悴しきった瞳だった。もはや憎悪を向ける気力すら、今の亮太にはないのだろう。「社長、どうやら最近あまりよく眠れていないようですね。その悪夢とやらのせいで」「……あぁ」彼はほとんど口を開くことなく、声を出した。そんな状態で結婚式に参加したのだから、あのように不機嫌になってしまうのも無理はないだろう。(日菜乃がちょっと可哀相ね……一生に一度の結婚式なのに)香織は亮太の手から力が抜けたその隙に、彼の手を振り払った。やっと、両手が自由に使えるようになった。彼女はそのうちに持っていたカバンの中からある物を取り出した。「社長、プレゼントです」「……何だ、これは」香織が亮太の手に強引に持たせたのは、入浴剤だった。香織が普段愛用している、ローズマリーの香りのものだ。結婚式に来る前、彼女は近くにあるデパートで買い物をしていた。「お風呂で使ってください。とっても良い香りがするんですよ。きっと、よく眠れるようになるはずです」「……入浴剤?」香織はその間に、亮太の腕から抜け出した。結婚式で色々なことがありすぎたせいか、今は一刻も早く家に帰って
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