「ねぇ、その女について知っていることは他に何かないの?」「特に何も……顔と名前くらいだ」男は香織を見上げてぶっきらぼうに答えた。柚果の手下である彼なら何か情報を得られると思ったが、どうやら彼には何も伝えられていなかったようだ。(首謀者は顔すら現わさないし……一体何者なのかしら)香織はじっくりと考え込んだ。一体誰がこんな犯罪紛いのことをしたのか。きっと香織を強く憎んでいるものの仕業だろう。彼女がこのような目に遭うことで得をするような……。「ねぇ……首謀者の顔は知らないって言ってたけど、声くらいは聞いたんじゃないの?」香織の問いに、男が顔を上げた。「え?あぁ……そうだな。若い女の声だったよ。二十代前半から半ばくらいの」「……」香織の脳裏に、一人の女の顔がチラついた。山川日菜乃。やっぱりあの女の仕業だと考えるのが自然だった。だが、手掛かりは何もない。彼女と決めつけるのはまだ時期尚早だった。(だとしたら、亮太はこの件を知っているのかしら……知っていたとしても日菜乃のやったことなら全てもみ消すでしょうね)改めて、自分はとんでもない人を敵に回してしまったのだなと実感した。「なぁ、そろそろこの縄を解いてくれねえか?窮屈でたまらねえんだ」「……」香織は冷たい目で男を見下ろした。首謀者が別にいるとはいえ、彼も香織拉致監禁の片棒を担いだことに変わりはなかった。「あなた、失敗したことが知られたらただでは済まないでしょうね」「……な、何だと?」男の顔色が一瞬にして変わった。「このような事態になった以上、あの女はあなたを生かしておくつもりはないわ。私が縄を解いたところで、どちらにせよ終わりよ」「な……そんな……」日菜乃は危険な女だった。もし彼女が今回の一件を計画していたとしたら、きっと彼は生きては帰れないだろう。いや、このような計画に協力させたところで生かしておくつもりはなかったのかも。自ら毒を飲み、香織にその罪を着せるような女なのだから、そのようなことを企てていても変ではない。「あなたはどちらにせよ終わりなのよ」「……」男は真っ青な顔で絶句している。仲間に引き入れるなら今だ。そう思った香織は咄嗟に口を開いた。「少なくとも、私なら……解放されたあとあなたが刑務所へ行くことにならないようにしてあげることくらいなら可能よ」「ほ、本当か!
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