Lahat ng Kabanata ng 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Kabanata 181 - Kabanata 190

216 Kabanata

第181話

香織が背を向けて立ち去るその姿を、亮太は複雑な目で後ろから眺めていた。その手には、彼女からプレゼントされた入浴剤がしっかりと握られていた。いや、プレゼントと言うべきなのかもわからない。贈り物として包装もされていない、買ったときのまま店のテープが貼られていた。亮太はそんな入浴剤を眺め、笑みを溢した。(香織からプレゼントを貰ったのなんていつぶりだろうか……)香織との結婚生活はたった数年で終わってしまったものの、それでも彼らの夫婦関係を思えばかなり続いた方だった。元々、そこに愛なんて存在しない。亮太は権力を使って自身の妻の座に収まった香織を毛嫌いしており、絶対に妻としては認めなかった。どれだけ彼女が努力しようとも、彼はまともに香織を見ようともせず、指一本触れずに放置し続けた。『亮太、誕生日おめでとう。私からのプレゼントよ』結婚してからすぐに迎えた亮太の誕生日。彼は当然、その日も家には帰らず、別の女の元で一日を過ごしていた。亮太が家に帰ったのはその翌日で、およそ一週間ぶりの帰宅だった。香織は丁寧に包装されたネクタイを亮太にプレゼントした。もちろん受け取りもしなかったが、彼女は着けなくてもいいからと彼の部屋に強引に置いて行った。結局、捨てることもできずにそのネクタイは部屋に置いたままだった。今も探せば、出てくるだろう。――あれが、香織に貰った最初で最後のプレゼントだった。あのときの自分を心から愛していた彼女はもういないのだと、亮太は今になって悟った。嬉しいような悲しいような。いや、嫌悪を通り超して憎悪していた女からの好意が無くなったのだから喜ぶべきなのだろう。しかし、亮太は何故かいつまでも気分が浮かないままだった。前のパーティーで香織の隣にいた男。まるで彼女の恋人のように振舞っていた。そのことが彼の癪に障った。「それより……最近誰かにつけられているような気がする……」亮太は謎の視線を感じ、周囲を見渡した。しかし、誰もいない。最近疲れているせいか、そのような勘違いをしてしまうようだ。「――社長、こんなところにいらしたんですね」「……芹沢」会場の外で立ち尽くしていた亮太の元へやって来たのは芹沢だった。ずっと彼を探していたのか、額には汗が滲んでいる。「式を抜け出してくるだなんて……一体何をしていらっしゃったのですか?」「……ちょっと用があってな
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第182話

結婚式の翌日から、香織は仕事に復帰した。いつも通り出勤した彼女を、大勢の社員たちが取り囲んだ。「九条さん、おはよう。体は平気なの?」「心配かけてすみません。見ての通り、ピンピンしてますよ」あの一件は既に社内で広まっており、真面目で人当たりの良い柚果がそのようなことをしていたということに、全員が驚きを隠せなかった。もちろん、香織も最初はかなり驚いたものだ。優しくしてくれた柚果が悪人だったのはショックだったが、彼女のおかげで自分にはまだまだ危機感が足りないのだということを学んだ。二度と同じ失敗を犯すことは無いだろう。今ならハッキリとそう言える。「それにしても、桜庭さんがあんなに残忍なことを主導しただなんて驚きだわ」「ええ、とてもそんな人には見えなかったけど……」「人は見かけによらないんだな」社員たちは柚果の裏の顔に驚愕していた。彼女が日菜乃の手下であるということは、香織だけが知っている秘密だった。(そういえば、あの結婚式で日菜乃に言われたわね)昨日の結婚式で、日菜乃は心配そうに眉を下げて香織に言った。『香織さん、良くないことがあったとお聞きしました』『……ええ、知っていたんですね』香織が拉致監禁されていたことは関係者以外に知らされることはなく、どの新聞にも載っていない。それなのに、何故彼女が知っているのか。(……やっぱり、あの事件の主犯はあなたでしょう?)心配そうな顔をしていたものの、何の感情も感じられなかった。その時点で香織は日菜乃が主犯であることを察した。『私、香織さんのことをずっと心配していたんですよ。でもこうして無事で帰ってこられたようで何よりです』日菜乃はそう言いながら、香織の手を強く握った。痛い、と感じてしまうほどに力を込められた手。彼女の華奢な体から、こんなにも強い力が出るとは驚きだ。『……ええ、ありがとうございます。私も何も無くてよかったと思っています』香織は周囲の人々にバレないよう、笑顔で言葉を返した。一見穏やかに見える会話だったが、香織だけがその言葉に込められた意味を悟った。「あのとき、九条さんを桜庭さんに預けたのは間違いだったわね……ごめんなさいね、私が二人きりにしたから……」「いえ、そんなこと言わないでください。皆さんは何も悪くありませんから」社員たちは香織が失踪したという話を聞いてからというもの
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第183話

香織は日菜乃のSNSに投稿された内容を読んだ。どうやら彼女はアカウントを開設してからまだ一ヵ月しか経っていないというのに、フォロワーは既に一万人を超えていた。有名人でもない、一般人にしてはすごい数字だ。最も新しい投稿は、亮太との結婚式だった。豪華な挙式会場に、亮太との仲睦まじいウエディングフォトが載っている。『今日は愛する夫との結婚式を執り行いました。挙式会場は夫と相談して、憧れのグランドプリンセスティアラホテルに決めました。ウエディングドレスは夫に選んでもらった最高級のものを着ました。予期せぬお客様が現れたけど、とっても幸せな一日になりました』その投稿はなかなかにバズったようで、一日で一万いいねを超えていた。香織と亮太の離婚、そして日菜乃との再婚は世間的にもかなり注目を集めた話題だった。「……ずいぶんとまぁ、好き勝手言ってくれるわねぇ」予期せぬお客様とは、おそらく香織のことだろう。香織と日菜乃が結婚式でバチバチに火花を散らしていたことは、招待客しか知らない事実だ。(いや、あなたが招待したんでしょうよ。私に恥をかかせるために)コメント欄を開くと、そこには日菜乃への祝福コメントで溢れていた。略奪婚で結ばれた彼らを非難する声はほとんどない。まぁ、SNSなんて元々ファンしか集まっていないからそうなるのも当然だろう。香織はその下に投稿されていた、ハイブランドの指輪の写真をタップした。『な、な、何と!夫からプロポーズをされました!突然海外旅行に行こうと言われたので何かあるのかと思いきや、、、百本の薔薇の花束を出されたときには感動で泣いてしまいました。明日から正式に羽川になります。色々あったけれど、幸せになろうね』二枚目には亮太に貰ったであろう百本の薔薇の花束。そして三枚目には、指輪をはめられて嬉しそうに微笑む日菜乃の姿が載せられていた。香織はそんな投稿を冷めた目で眺めていた。(ただ自慢したいだけでしょう)他にも亮太や子供との旅行、高級ホテルのアフターヌーンティーに行ったことなどが日記のように綴られていた。コメント欄はセレブ生活を送る日菜乃に対する憧れのものばかりで、時には元妻である香織を中傷するものまで含まれていた。(くだらないわ……いちいち相手にするまでもない)苛立った香織は日菜乃のアカウントを閉じ、仕事を始めた。
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第184話

仕事終わり、香織は迎えの車の中でスマートフォンをいじっていた。あの一件以降、香織は一人で外を出歩くのは危ないと、どこへ行くにも必ず送迎が付くようになった。(父さんったら、心配性なんだから)子供ではないのだし一人でもいいと言ったのだが、継母有真からも止められてしまい、結局毎日送り迎えされることとなった。職場は家から近く、車で十分もかからない。今までは徒歩で通勤していたが、送迎になったおかげで僅かだが時間に余裕ができた。家に帰るために車に乗っている間が休息の時間となったのだ。そんな彼女が今見ていたのは、日菜乃のSNSアカウントだった。(結局気になってまた戻ってきちゃったわ……)香織は娘の後ろ姿が映っている写真をタップした。『今日は愛する娘の誕生日。一歳になりました。こうして無事に生まれて、誕生日を迎えられたことがとっても嬉しい。私たちの元に来てくれてありがとう』その投稿には、誕生日のケーキや娘へのプレゼントが載せられていた。その写真に写る女の子の後ろ姿は、間違いなく以前見た日菜乃と亮太の娘のものだった。「娘……たしか朱里ちゃんって言ったっけ……」香織は前世を含めても、日菜乃と亮太の娘にはあまり関わったことがなかった。亮太が朱里と彼女が関わることを嫌ったし、幼すぎて状況を理解することもできていなかったのだからそのようになるのも当然だろう。あの二人の子として生まれた時点で同情せざるを得ないが、子には何の罪もない。せめて、両親のことなど気にせず幸せに暮らしていることを願うばかりだ。「あら?そういえば……もう一人の子供はいつ生まれるのかしら?」日菜乃のお腹の中にいる亮太との第二子。もうとっくにお腹が膨らんでいてもおかしくないはずだ。それなのに、昨日の結婚式では日菜乃のお腹が膨らんでいるようには見えなかった。「まだまだ先なのかしら……まぁ、私にとってはどうでもいいけどさ」今は考えることがたくさんある。日菜乃のことを気にしている暇なんて無いのだ。彼女がどれだけSNSで幸せアピールをしていようと、香織の知ったことではない。「私は私のことを気にしていればいいのよ……」――あんな人たちのことなんて知らない。香織はそう考えながら、スマートフォンをポケットにしまった。そしてちょうどその頃、亮太は日菜乃にあることを問い詰めていた――
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第185話

香織が帰宅した頃、羽川邸では。亮太が日菜乃と、部屋で向き合っていた。つい先日結婚式を挙げたばかりの新婚夫婦とは思えないほどにピリピリした空気。亮太は愛する女に向けるとは思えないような険しい顔で、日菜乃を見つめていた。彼女もまた、そんな彼を冷めた目で見つめ返している。亮太の後ろでは、芹沢が二人を止めようとしていたが、案の定何の役にも立たなかった。先に口を開いたのは亮太だった。「日菜乃……一体どういうことだ?」「亮太?何のこと?」何を言っているのかわからない、と日菜乃はわざとらしく首をかしげた。日菜乃は昔から、都合の悪いことにはすぐにはぐらかして答えない。開き直ったようなその態度に、亮太はもう限界だった。「とぼけるな……――お前、俺に内緒で子供を堕ろしていたのか!?」「……」日菜乃はその言葉を聞いたところで、動じなかった。一方、後ろにいた芹沢は信じられない、というような表情で二人を交互に見つめている。彼は第二子を妊娠したとき、日菜乃がどれだけ喜んでいたかを知っていた。そしてそれは亮太もだった。彼女の第二子妊娠を聞いた亮太は子供たちも含めて一生幸せにすると誓い、彼女はそれを聞いて涙まで流したのだ。そんな彼女が、妊娠した子供を自分から堕ろすだなんてとても信じられなかったのだ。「しゃ、社長……落ち着いてください……何かの間違いでは……」「芹沢、お前は黙っていろ。夫婦間の問題に、秘書ごときが口を挟むな」余程気が立っていたのか、亮太は芹沢にも敵意を露わにした。いくら日菜乃を好いているとはいえ、彼は亮太の秘書。そう言われてしまえば、表立って庇うことなどできなかった。日菜乃はしばらく黙ったあと、冷静に言葉を発した。詰められてもなお、彼女は全く動揺していなかった。「……何を言い出すかと思えば、そんなこと」「認めるのか?」「認めるも何も……既に裏が取れているんでしょう?そうでなければこうやって問い詰めたりしないはずだもの」日菜乃は亮太が確信していることを察していた。その状況で否定したところで、余計に面倒臭くなるだけ。そのことを知っていて、いちいちそんな真似はしない。亮太は否定も肯定もしない日菜乃に、強いショックを受けた。あぁ、嘘でもいいからどうか違うと言ってほしかったのに。彼は続けざまに日菜乃を責めた。「何故だ?何故そんなことをした?妊娠したとき、
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第186話

亮太は理解が追い付かないまま、目の前にいる日菜乃を見下ろしていた。子供が欲しくなかっただと?たかがそんな理由で、生まれてくるはずだった小さな命を手にかけたというのか?この世の誰よりも愛らしく、誰よりも優しい存在だった日菜乃。いつも彼を慈愛に満ちた目で見つめ、温かく包み込んだ。政略結婚で憔悴しきっていた亮太にとって、日菜乃の存在は女神のようだった。(今、俺の目の前にいるこの女は……一体誰なんだ?)そんな彼女から出てきたとは思えないほどに、残酷な言葉だった。「私は最初から子供なんて欲しくなかったのよ」「だからと言って……堕ろすだなんて!」子供が欲しい欲しくないは人それぞれなので理解できなくも無いが、だからといって夫に無断で堕胎するというのは到底納得できない。堕ろしたいにしても、父親である亮太に事前に相談しなければならないのではないか。「一人目はまだよかったわ……アクセサリーになるし、世話はシッターに任せちゃえばいいしね」「……アクセサリーだと?」日菜乃がよくSNSをやっていることは、亮太も知っていた。愛する彼女の行動を制限するような真似はしたくなくて特に何も言わなかったが、娘の写真を掲載されることはあまり快く思っていなかった。日菜乃が載せていた朱里は、羽川財閥の社長である亮太の娘。誘拐の心配をしなければならなくなる。彼が苦言を呈すたびに日菜乃は後ろ姿だけだからと、特に重く捉えていなかった。(しかし……娘をアクセサリー扱いしていたとは)そのような目的で載せていたのか、と亮太は絶句した。「朱里がいるおかげで、あなたと離婚することになってもお金には困らないし?そういう意味も込めて、一人は子が欲しかったのよ」日菜乃はもはや、醜い本性を隠すこともなく、亮太の前で堂々と露わにした。今の発言を娘が聞いたらどう思うか。彼女はそのことをまるで考えていないようだ。「……それが、お前の本当の姿なのか?」「本当の姿?私はあの日から何も変わっていないわ。ただあなたがそのことに気付かなかっただけよ」「変わっていない……か。そうだな……」日菜乃の言う通り、彼女は何も変わっていなかった。周囲の人間は彼女の性格が歪んでいることに、とっくに気付いていたのだ。――何も知らずに浮かれていたのは、亮太だけだったのだ。「ねぇ、社長……たしかに社長は私と出会ったときに言った
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第187話

日菜乃との話を終えた亮太は、書斎へと戻った。彼が生まれたときからずっと暮らしている、羽川家の本邸。今は亡き両親との大切な思い出が詰まった邸宅。愛する日菜乃と、その間にできた朱里と住んでいる家。彼にとっては、愛の巣も同然だった。つい先日、彼は日菜乃との結婚式を行ったばかりだった。日菜乃のウエディングドレス姿は誰から見ても美しく、彼らは大勢の祝福の中で盛大な式を行った。しかし、当の本人である亮太は全く幸せではなかった。「日菜乃が子を堕ろしていたとはな……何て身勝手な女なんだ」亮太は愚かにも、今になって愛した女の本性を知ったのだった。あんなにも愛した日菜乃が、今では怪物のように思えてならない。(怪物の本当の姿に気付くことができなかった俺が……愚かだったんだな……)彼はこのとき、ようやく自分が間違っていたことを認めた。そういや、以前誰かに似たようなことを言われたな。彼の脳裏に、傷付いた女性の顔が浮かんだ。『亮太……あなたがいつだって自分が正しいと信じて疑わないのね。自己中でどうしようもない男だわ』床に倒れたまま、憎しみを込めた瞳で彼を見上げていた元妻の香織だった。凄惨な拷問を受ける悪夢を見るようになったあの日から、亮太は何故か彼女のことが気になって仕方が無かった。「そういえば……あのときの香織のドレス姿……」そのとき亮太が思い浮かべたのは、結婚式に招待されてやって来た香織の姿だった。元々彼女はスタイルが良く、顔もかなり整っていた。これまで多くの女と関係を持ってきた亮太ですら、彼女のような美しさを持つ女はほとんど見たことがなかった。彼は一人の部屋で、ポツリと呟いた。「――綺麗だったな……日菜乃よりもよっぽど目を引いていた……」認めざるを得なかった。彼女は他の誰よりも美しい。実際に、会場にいる多くの男が彼女のドレス姿に見惚れていた。亮太はそんな男たちの視線が不愉快極まりなかった。――ちょっと前までは、間違いなく俺のものだったというのに。香織とはつい最近まで夫婦だった。しかし、ただ籍を入れていただけで夫婦らしいことは一度もしていない。それどころか時には罵倒し、暴力まで振るった。今思えば、最低な夫だったと自分でもそう思う。「香織……」――彼女との離婚は、亮太がずっと望んでいたことだった。亮太は香織と結婚なんてしたくなかったし、籍を入れてから
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第188話

亮太の一日は、朝早くから始まる。彼は元々誰もが知る有名企業の社長であり、決して暇ではない。普段から多忙を極めており、特に忙しい時期は一日に三時間ほどしか睡眠が取れないときもあるくらいだった。そんな中でも、愛する日菜乃との時間だけはしっかりと取っていた。いくら忙しいとはいえ、たまには休息を取ることも必要だ。日菜乃の傍にいると心が落ち着くし、仕事のストレスを一瞬で忘れられるからだ。彼にとって、日菜乃と彼女の間に生まれた朱里は世界を明るく照らしてくれた存在。今までは、ずっとそのように思っていた。「もう三時か……」いつもなら、この時間は一度家に帰り、日菜乃たちと過ごしていたはずだ。しかし、最近はその時間すら少なくなっていった。そのことを日菜乃が不満に思っているのは知っていたが、彼はそれでも家族との時間を増やそうとはしなかった。いつからか、最も居心地のよかった場所が、彼にとって窮屈なものへと変化していっていたのだ。そのような考えを抱くようになったきっかけは、彼でもわからなかった。おそらく、あの悪夢が原因なのだろうが……(変だな、何故俺はこんなにもあの女のことを考えているんだ?)香織と悪夢は何の関係も無い。それなのにどうして、彼女のことが永遠に頭から離れないのだろうか。「なぁ、芹沢……」「はい、社長」亮太は仕事中に、すぐ傍に控えていた秘書の芹沢に声をかけた。「お前は……香織のことをどう思っていた?」「香織……元奥様のことですか?」芹沢は最初から香織を嫌っていた。裕福でない家に生まれ、実力でのし上がった彼にとって、生粋のお嬢様だった香織は目の上のたんこぶのようなもの。そんな彼が何て答えるか、ある程度の予想はつく。「傲慢で我儘で陰湿で、私や日菜乃様のような者を見下している……どうしようもない女性だったことは社長もよくご存じでしょう?」「……」以前の彼なら迷うことなくその通りだと頷いていたところだが、今はそんなことを言う気にはなれなかった。むしろ、胸の底からこみ上げたのは不快感だった。「……出て行け、今は一人になりたい」「しゃ、社長……?」あからさまに不機嫌になった亮太に、芹沢は何かいけないことを言っただろうかと慌てふためいた。元より彼は、亮太に好かれるためにわざと気に入らない香織のことを口汚く罵っていた。亮太は狼狽える芹沢に対し、強い口
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第189話

それからしばらくして、芹沢の元に解任通知が正式に届いた。芹沢は額に青筋を立て、その紙をグシャリと握りつぶした。「何故……何故だ……?」解任された理由が、彼にはどうしてもわからなかったのだ。何か亮太の癪に障るようなことを言った覚えも無い。彼に直接確認しようとは試みたものの、秘書でない今会いに行くことすらできなかった。そのため芹沢は社長亮太の秘書ではなく、ただの社員となった。何とか解雇は免れたものの、これからは他の社員たちと同じ環境で仕事をしなければならない。そのことが屈辱でたまらなかった。(何故俺が、こんな低脳なヤツらと……)芹沢は有名難関大学を卒業しているが、昔から学歴でマウントを取り、低学歴の者を見下すような発言を繰り返していた。亮太の秘書となったのも、人一倍彼に媚びを売っていたからだ。そんな彼が、他の者たちと上手くやっていけるはずがなかった。芹沢は新しく配属された部署で早速孤立してしまった。「あの人、どの面下げてここへ来たのかしら……」「あんな人と一緒に仕事をするだなんて御免だわ……」芹沢は社長の秘書だった頃、周囲に傲慢な態度を取っていた。社員たちを見下すようなことばかり言っていたため、日菜乃と同じくらい社内では好かれていなかった。(こんな場所、俺には相応しくない……俺はもっと頂点にいるような男だ……)彼は落ちぶれてもなお、そう信じて疑わなかった。結局、芹沢は馴染むことが出来ず、仕事中にもかかわらず一人外へ出て行った。――そんな彼を、引き留める社員は誰一人としていなかった。彼がやって来たのは、息抜きをするために秘書時代彼がよく訪れていた秘密の場所だ。会社の裏に位置するその場所で、彼はポケットに入れていたタバコを手に取り、火を付けた。フゥーッと息を吐くと、白い煙が彼の口から上がった。「前の奥様と離婚してからというもの……社長はどうかしてしまったようだな……」彼はポツリ、と一言。亮太が変わってしまったのは香織と離婚してからだということに、芹沢もまた気付いていた。思えば、香織のことは最初から気に入らなかった。大企業の社長令嬢として生を受け、何不自由なく暮らしてきた女。貧困家庭に生まれた芹沢にとっては、彼女はまさに目の上のたんこぶのような存在だった。気に入らなくて、わざと招待状を渡して貶めたりもした。辛そうに目に涙を滲ませる姿を見
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第190話

その頃、香織の元にある人物から電話が届いていた。寝る少し前、スマートフォンを手に取った彼女は、着信ボタンを押した。「もしもし――如月さん?」「ああ、久しぶりだな。九条さん」電話の相手はトップアイドルの如月隼人だった。隼人とは数ヵ月前に出会ったばかりだったが、あの一件を経て、今では友人の一人となっている。彼とは連絡先を交換し、こうやって時々話している。「どうかしたんですか?突然かけてくるだなんて珍しいですね」「ああ、夜遅くに悪いな」もう夜の十時だった。しかし、香織は特に早く寝る予定も無かったので、別にかまわない。むしろ、することなく暇していたくらいである。「こないだのパーティーはなかなかに楽しかった……ありがとう」「いえ、こちらこそ来ていただけて感謝しています」こないだのパーティーとは、隼人を招待した亮太と離婚するために開いた香織主催のパーティーのことである。香織は彼を脅迫するような形でパーティーに参加させた。彼が参加したおかげで、なかなかに下がっていた香織の評判は上がった。その点においては、彼女も隼人に感謝していた。「その件のお礼も兼ねて……次は俺たちの開くパーティーに来ないか?」「パーティー……ですか?」突然の誘いに、香織は戸惑った。あのトップアイドルの如月隼人から、直々にパーティーのお誘いを受けるだなんて。世間に知られたら、大騒ぎになるだろう。「ああ、近いうちにウチの事務所のメンバーたちで開かれるパーティーがあるんだけど……よかったらどうかと思って」「ですが……芸能関係者ばかりが集まる会で、私が行ってもよろしいのですか?」香織の心配に、隼人は笑って言葉を返した。「ああ、もちろんだ。九条家のお嬢様は有名人も同然だし、誰も気にしないさ。九条さんならきっと、社長も大歓迎だろ」「そ、それはたしかに……」あの九条家のご令嬢という時点で、一般人ではない。香織は特別枠ということだろうか。しかし、芸能人が集まるパーティーなんて当然初めてなので、楽しみではある。それに彼の事務所はかなりの大手で、有名なアイドルや俳優たちが多く所属している。「如月さんの事務所のメンバーということは……あの俳優の藤沢俊介さんも来るんですか!?」「え?あ、あぁ……」突然テンションの上がった香織に、隼人は若干引きながらも頷いた。その言葉に、彼女は顔をパァッと
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