Tous les chapitres de : Chapitre 11 - Chapitre 20

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第11話

「やってやったわ!!!」「香織お嬢様、機嫌がいいですね」帰りの車の中。香織がご機嫌な様子で壮太に話しかけた。「あの二人の顔ったら、見ものだったわ!」「何はともあれ、うまくいったようでよかったです。忠嗣様の娘なだけあります」「ええ、そうね」香織は亮太と日菜乃に一泡吹かせられたことが嬉しくてたまらなかった。前世ではしてやられてばかりだった香織の最初の反撃だった。「香織様は……これからどうなさるおつもりですか?」「もちろん、亮太とは離婚するつもりよ」「……」壮太は失礼だとわかっていながらも、ずっと心に引っかかっていたことを尋ねた。「……よろしいのですか?香織様は羽川様を深く愛していたはずでは……」「愛……」そこで香織の頭に、前世の記憶がよみがえった。亮太と結婚したときのこと、彼が日菜乃と娘を邸宅に連れてきたこと、彼からの拷問を受けて命を落としたことまで。走馬灯のように香織の頭を駆け巡った。「そうね、彼のことをとても愛していたわ」「やっぱり……そうですよね」壮太は香織の顔を見ることができなかった。きっと彼女は夫の浮気に悲しんでいるにちがいない。そう思っていたからだ。しかし、車のルームミラー越しに見えた香織の顔は、壮太の想像していたものとは違った。「香織お嬢様……」香織は明るい表情で、僅かに口元に笑みを浮かべていた。「たしかに最初は亮太の裏切りを受け入れられなかった。そして日菜乃を恨み、攻撃し続けた。でもね、そんなことをしたところで相手の思う壺よ」前世、日菜乃は香織を悪人に仕立て上げようとあらゆる挑発をしていた。香織はまんまと彼女の策略に嵌まってしまったのだ。亮太はそのたびに日菜乃をかばい、香織を悪人だと決めつけていた。「だから私は、よりよい道を選択することに決めたの」そう口にした香織の表情はすがすがしく、壮太は安心した。「人は自分が一番大切な生き物だから。私だって同じよ。どれだけ亮太が反対しようと絶対に離婚してやるんだから!」香織は拳を握りしめて意気込んだ。壮太はそんな香織を見て笑った。どうやら自分の心配は杞憂だったようだ。「応援しています、香織お嬢様。離婚が成立したら盛大にお祝いのパーティーを開きましょう」「あら、いいわね」愛人の妊娠祝いのパーティーを開いた亮太への当てつけの言葉だった。二人が車内で談笑
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第12話

「亮太……」「お前のせいで恥をかいた!」日菜乃を先に邸へ帰した亮太は、怒り任せに香織を突き飛ばした。パーティーが終わっても、彼はずっとイライラが収まらなかった。彼をこれほどイラつかせるのは香織だけだと、亮太は思った。「大体何故お前がパーティーの招待状を持っていた!俺の部屋から盗みでもしたのか!」「違うわ。私はちゃんと招待状を受け取ったのよ」香織は痛む身体を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。「俺はお前に渡した覚えはない」「そうね、あなたからは貰っていないわ。あなたの秘書の芹沢さんから貰ったのよ」「……何だと?」亮太が後ろに控えていた芹沢に視線を向けた。芹沢の顔が青くなった。「しゃ、社長!私はそのようなことをしていません!奥様が嘘をついておられるのです!私は奥様が嫁いでくる前から社長に尽くしてきました!その私がそんなことをするとお思いですか!?」「……芹沢がそんなことするわけないだろ」彼の必死の訴えを、亮太はあっさりと信じた。芹沢の口角が弧を描いた。人を騙す能力だけは一級品だと、香織は思った。「これは全て本当のことなんだけど。まあいいわ信じなくても。私にとってはどちらでもいいもの」「……どういう意味だ?」「あなたの信用なんてどうだっていいの。欲しくもない」「何だと!?」亮太は声を荒らげた。先ほどのパーティーの件然り、亮太は今日ずっと香織の手のひらの上で転がされているような気がしてならなかった。だからこんなにもイライラするのか。彼はようやく納得がいった。「早く私を部屋へ帰してくれないかしら?あなたの相手をしている暇はないのよ」香織は二の腕を手で押さえた。突き飛ばされたときにアスファルトで擦りむいて血が出ていたのだ。当然、亮太はそのことに気付いていた。彼は香織の身体に傷が付いているその状況を笑って見ていた。「今日のお前はまるで売春婦のようだったな。特にそのドレス、下品で見てられないよ」「あら……残念ね。あなたに見てもらいたくてこのドレスを選んだのに……こういうのは嫌いかしら?」香織がわざとらしく胸を強調させた。このような真似をするのは気が引けたが、今は一刻も早く部屋へ戻りたかった。そんな彼女に、亮太と芹沢の顔が真っ赤になった。香織は元々美しい容姿をしているうえに、何よりスタイルが良かった。そんな彼女の誘惑に断れ
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第13話

自室に戻った香織は、ドレスを脱いで一人傷の手当てを始めた。「うっ……」大きく擦りむいた二の腕からは血が流れており、背中にも傷が付いていた。「アイツ、どんだけ私に暴力振るえば気が済むのよ……」亮太は香織に対してのみ短気で暴力的になる。振るわれる理由は主に日菜乃関連か、自分のプライドを傷つけられたかの二択だが。「ホンット、どうしようもない男ね……」手当てを終えた香織は、ベッドに横になりスマートフォンをいじり始めた。彼女のスマホには一件の新着メッセージが来ていた。『この間はあんなひどいこと言ってごめんね、お母さん反省してるからまた会いましょう』「二度と会うもんですか!」香織は怒りでスマホを投げつけそうになった。母の美佐子は昔から身勝手な人だった。香織はそんな母親にずっと振り回され続けていた。もう限界だった。目が覚めたらあの三人のいない世界に転生していたい。香織はそう思いながらゆっくりと目を閉じた。***『うっ……亮太……お願い……やめて……』『お前は日菜乃に毒を飲ませた。そうだろう!?』『違う、私は何もしていない……!』香織は髪の毛を掴まれ、固い床に叩きつけられた。『グッ……!』歯が折れ、あたり一面に彼女の血が飛び散った。そして再び始まるむち打ち。亮太は香織が自白するまで拷問をし続けた。『今日も吐かないつもりか……まぁいい、また明日会おう』亮太は血まみれで倒れる香織を見下ろし、地下室を出て行った。亮太は決して香織を殺しはしなかった。いつも死なない程度でやめてしまうのだ。しかしそれが彼女にとって最も苦痛だった。いっそ死ねたらどれだけ楽だろうか。一週間以上も続く地下室の凄惨な拷問は、彼女をだんだんと追い詰めていった。たしかに香織は日菜乃を嫌い、必要以上に冷たく接した。しかし、ここまで酷い仕打ちをされるほどのことはしていないと彼女は確信していた。『絶対に……絶対に自白なんてしてやるものか……』日菜乃のことになると何をするか分からない亮太のことだ、認めたところで死は免れないだろう。そしてこの二日後、日菜乃は回復し、香織は極寒の外へ放り出されることとなる。***「……………ハッ!!!」香織はそこで目が覚めた。部屋の中は真っ暗で、汗で枕がびしょぬれになっていた。「今は……何年何月の何日!?」彼女は慌てて傍に置いてあ
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第14話

「奥様!大丈夫ですか!?」朝、腕に包帯を巻き、目の下にクマを作って現れた香織を見て日菜乃が心配そうに声をかけた。「……平気よ」「ですが……」「あなたが心から愛する亮太社長にやられたと言ったら、あなたは彼を叱ってくれるかしら?」「……」日菜乃は黙り込んだ。できない、という意味だろう。結局彼女はただの偽善者だった。ただ亮太を甘やかし、何をしようと肯定するだけの女。そんな存在が彼にとっては心地よかったのだろう。「できないのなら静かにしてくれないかしら?少なくとも、こっちはあなたの同情なんて望んでいないのよ」「奥様……」日菜乃は何か言いたそうに香織を見つめていた。香織はこれ以上言ったら自分が悪者扱いされると思い、口を噤んだ。亮太はちょうど仕事でいなかった。――そして日菜乃が階段から突き落とされ、流産する事件が起きるのが今日だった。「あなたは妊娠中でしょう?私より自分のことを気遣ったほうがいいわ」「あら、私を心配してくれるんですか?」「……」香織が心配しているのは日菜乃ではなく、お腹にいる子だった。前世で生まれてくることもできずに亡くなってしまった亮太と日菜乃の第二子。香織からしたら最悪だったが、子どもには何の罪もない。日菜乃がどうなろうとかまわなかったが、お腹の子だけは守ってやりたかった。しかし彼女はそんなこと気付いていないようで、ただ香織に礼を言った。「私を心配してくれるなんて、奥様は本当に優しいですね!」「……ええ、そうね」香織は適当に話を合わせた。事件が起こるのが今日である以上、一瞬たりとも気が抜けなかった。「ああ、そうだ。そこのあなた」「…………何ですか?」香織はちょうど近くにいた住み込みの家政婦を指さした。「今日一日家事はしなくていいから。代わりに日菜乃さんについてあげてくれないかしら?」「お、奥様……!?」驚く日菜乃と家政婦をよそに、香織は話を続けた。「亮太が日菜乃さんのことをずいぶん心配していたわ。私は忙しいからあなたが代わりに妊娠中の彼女に付き添ってあげてほしいの」「社長が……ですか?」家政婦は羽川家に仕えて長く、香織が嫁ぐ前からここで働いていた。そのため、亮太からの信頼も厚かった。「社長が私をそこまで心配してくれているなんて……何だか照れますね」日菜乃は頬を赤らめた。あんな男のどこがいいんだ
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第15話

その日の夜。日菜乃はちょうど夕食を終えて自室へ戻ろうとしていた。彼女の後ろには香織がつけた家政婦が静かに付き添っていた。「原さん、わざわざありがとうございます」「社長の命令に背くわけにはいきませんので」家政婦の原美由紀(はらみゆき)は、今日一日ずっと日菜乃の後ろを歩いていた。彼女は亮太と香織の少し年上で、羽川家に仕えて十年以上になる。元々母親が羽川家の家政婦だった美由紀は、亮太と子供のころからの知り合いだった。美由紀母娘は羽川家に大恩がある。早くに父親を亡くした美由紀は先代社長夫妻――亮太の両親に実の娘のように可愛がられ、学費まで出してもらっていた。そして彼女は、亮太に叶わぬ恋をしていた。しかし、結ばれることは諦めていた。羽川家の御曹司とただの家政婦の娘ではあまりにも身分が違いすぎるからだ。九条グループの令嬢との婚約が決まったとき、彼女は辛かったが素直に祝福の言葉を述べることができた。九条グループなら羽川家とも釣り合うし、繋がりを持つことで亮太にとっても得だったからだ。何より大恩ある彼の両親が婚約者にと決めた相手だった。しかし――美由紀は目の前を歩く日菜乃をじっと見つめた。どうしてこんな平凡な小娘が彼の傍にいるのか。美由紀は日菜乃がここへ来たときから、彼女に対する憎しみを募らせていた。香織は九条グループの令嬢だから諦めがついた。しかし日菜乃は一般家庭の生まれだった。昔から彼の傍にいたわけでもなければ、特別仕事ができたわけでもない。ただの亮太の会社の社員だ。美由紀はそのことに耐えられなかった。彼にとって何の役にも立たないはずの女を何故傍に置いているのか。亮太が日菜乃を深く愛しているという証拠だった。「そういえば、原さんは社長と長い付き合いだと聞きました」「……それが何か?」美由紀は自分でも驚くくらい冷たい声を出していた。「私は数年前に社長と出会ったばかりなので、実はまだまだ彼のことをあまりよく知らないんです」「そうですか」「だから昔の彼の話を聞きたいんです。社長は子供の頃どんな人だったんですか?」「……社長の子供の頃ですか?」美由紀は子供の頃の亮太を思い浮かべた。傲慢で自己中心的な男だったが、いざというときに頼りになる。美由紀は彼のそんなところが好きだった。この広い羽川家の邸宅の中でたくさん遊んだっけ。彼女にとっては
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第16話

「奥様……」美由紀は顔を真っ青にした。一部始終を見られていたのか。いくら先に彼女が挑発したとはいえ、日菜乃に手を上げようとしたのだ。もし亮太にこのことが伝わったら、幼なじみの美由紀でもただでは済まないだろう。自分の行く末を想像した美由紀が身体を小刻みに震わせた。「あら奥様、こんな時間にどうなさったのですか?」日菜乃は自らの勝ちを確信しているのか、余裕たっぷりの笑みで香織を見ていた。「奥様、私は……」「――日菜乃さん、あなた自分が何を言ったかわかっているの?」「……………え?」香織が最初に鋭い視線を向けたのは美由紀ではなく、日菜乃だった。日菜乃は想定外だったのか、目を丸くした。「奥様!今のを見ていたではありませんか!私はその女に階段から突き落とされそうになったんですよ!?本当に落ちればお腹の子も無事では済まなかったでしょう!」「……」日菜乃の言っていることは間違いではなかった。実際、彼女は前世で階段から突き落とされたことにより子供を流産している。しかし、この一件は日菜乃にまったく落ち度が無いわけではなかった。「そうね、たしかに原さんもいけないわ」「そうでしょう!?」「でもね日菜乃さん、あなたのさっきの言葉は聞くに堪えなかったわ。原さんが亮太に想いを寄せていることを知っていてそのようなことを言っているんでしょう?」「奥様……」美由紀は自分を庇う香織を信じられないような目で見つめ、日菜乃は拳をギュッと握りしめた。あの発言を香織に聞かれていたとは思いもしなかったからだ。美由紀は実を言うと、香織のことがあまり好きではなかった。香織は九条グループの令嬢であり、先代社長夫妻が決めた婚約者ではあったものの、執拗に亮太につきまとって彼に迷惑をかけていたからだ。社長夫人として尊重はするが、心の中では良い印象を抱いてはいなかった。しかし、香織にこのような一面があったとは意外だった。「日菜乃さん、部屋へ戻りなさい」「……はい」日菜乃は納得がいかない様子だったが、香織に言われて渋々一人で自室へと戻って行った。彼女が見えなくなったあと、美由紀は香織におそるおそる話しかけた。「あ、あの……奥様……」「あなた、日菜乃の手のひらの上で転がされそうになっていたわ」「奥様……?それは一体どういう意味ですか……?」驚く美由紀に、香織は説明を加
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第17話

美由紀は亮太に対する深い失望を隠せなかった。いつも完璧で、美由紀の憧れだった彼があのような性悪女に惚れこんでいるだなんて。それと同時に、亮太に対する想いも急速に冷めていった。もはや残っているのは、先ほどの行動に対する罪の意識だけ。「奥様、私はここを出て行こうと思います……あのような失態を晒してしまった以上、これ以上ここにいるわけには……」「出て行ってどうするつもり?行くあてでもあるのかしら?」香織の問いに、美由紀は黙り込んだ。彼女は高校を卒業してからずっと羽川家で家政婦として働いていた。今さら他のところに就職などできるはずがないということはよくわかっていた。「ですが、私はもうここには……」「行くあてがないなら、ここに残りなさい。――私が雇ってあげるから」「……………え?」美由紀は驚いて香織を見た。彼女は美由紀と目を合わせて美しく微笑んだ。「羽川家の家政婦をやめて九条家の者になりなさい」「く、九条家の者……?」美由紀は香織の言っていることの意味がわからなかった。「ここを出てもどうせ路頭に迷うだけなんでしょう?せっかくこの私が提案してるんだから、受け入れるべきではなくて?」「奥様……」香織は前世で羽川家の家政婦・原美由紀が辿る悲惨な末路を知っていた。彼女は事件が起きたあと、日菜乃の手により羽川家から追い出される。そして、事前に美由紀の悪評を広めていた日菜乃は彼女の就職を徹底的に妨害したのだ。そしてどこにも雇ってもらえなかった美由紀は最後、ホームレスとなりそのまま死を迎える。日菜乃が事件の犯人について証言しなかったのは、きっと香織に罪を擦り付けたほうが都合が良いと考えたからだろう。わが子が亡くなったことを利用するとは、とんでもない女だ。香織は前世の記憶を必死の思いで辿り、事件から少し経ったころに羽川家の家政婦が一人辞めていったことを思い出したのだ。あのときはただ事件のショックでやめたのだとばかり思っていた。その後、風の噂で彼女の悲惨な末路を知った。当時は自分のことで手一杯で、何か日菜乃の気に障ることをしたのだろうと特に気にもしなかった。しかし、よく考えてみればあの事件はあまりにも不審な点が多かった。流産後の日菜乃が犯人に関する証言を二転三転させていたことに加え、その後突如やめていった家政婦。香織は最初から美由紀に目をつけ
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第18話

翌日。日菜乃の流産事件を何とか乗り越えた香織は、羽川家で信頼のおける味方を得ることができた。「奥様、おはようございます!」「あら、美由紀さん。わざわざこんな早くから挨拶に来なくても……」早朝、美由紀は真っ先に香織の部屋へ向かい、彼女の支度を手伝い始めた。「私のすべては奥様のものですから、これくらいするのは当然ですよ」昨日の事件以降、美由紀は香織に絶対的な忠誠を誓った。香織は誰かに優しくされたのはずいぶんと久しぶりだった。香織が着替えを終え、部屋を出ると、日菜乃と遭遇した。日菜乃は香織の後ろをついて歩く美由紀に眉をひそめた。「あら、あなた……まだいたんですね。てっきりやめたかと思っていました」「美由紀さんは今日から九条家で雇うことにしたわ」「……どういう意味ですか?」「美由紀さんは羽川家の家政婦をやめたわ。代わりに私が雇うことにした。だから彼女は私のものよ」日菜乃はすぐに香織の勝ち誇ったような笑みの意味を理解した。美由紀は羽川家ではなく、九条家のものになった。つまり、日菜乃どころか亮太でさえも絶対に手出しすることができなくなったということだ。自分に手を上げようとした美由紀を追い出そうと心に決めていた日菜乃は悔しさで唇を噛んだ。しかし、何とか平静を保った。「……そうだったんですね」「ええ、理解してくれたようで助かったわ」日菜乃は香織の横をさっさと通り過ぎ、美由紀の傍で立ち止まると、彼女の耳元でささやいた。「よかったですね、クビにならなくて」「……」美由紀は何も言えなかった。「首の皮一枚繋がったみたいですけど……安心しきらないほうがいいですよ?」日菜乃の唇が醜く弧を描いた。「――危険はいつどこに潜んでいるか、わかりませんから」その瞬間、香織が二人の間に割って入った。「たしかにその通りね。忠告感謝するわ、日菜乃さん」彼女の余裕たっぷりの笑みが気に入らないのか、日菜乃が呟いた。「……社長が帰ってきたら覚えてなさいよ」「脅迫のつもり?怖いもの知らずなのね、あなたって」「……奥様が私の言葉をそのように受け取られたことがとてもショックです」香織は日菜乃がいつもの被害者ぶる演技をやめたのかと思ったが、そうではないようだった。「時間はまだまだたくさんありますから」「あら、あいにくだけれど私にはあまり時間が無いの」「…
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第19話

「美由紀さん、私ね、亮太と離婚したいと思っているの」「そうですか」香織の突然の告白にも、美由紀は驚いた様子を見せずに淡々と返事をした。「それが良いと思います。奥様にここは相応しくありませんから」「ありがとう、あなたならきっとわかってくれると思ってたわ」香織は美由紀の答えに微笑んだ。どうやら彼女の忠誠を、香織は見くびっていたようだ。前世ではずっと一人ぼっちだった彼女にとって、このような味方を得られるのは心強い。「ところで、奥様……その傷はもしかして社長につけられたものでしょうか?」「ええ、そうよ」「何てことを……!」美由紀は痛ましそうに顔をゆがめた。「亮太があれほど暴力的な男だってことは私も知らなかった。まぁ、暴力的っていっても私の前だけだけどね」「どんな理由があれ、か弱い女性に暴力を振るうだなんて最低です」美由紀の言っていることはもっともだった。彼女は羽川家で唯一まともな人間といえるだろう。「それで、社長は離婚について何と言っているんですか?」「直接聞いたわけではないけれど……おそらく反対でしょうね。九条グループとの繋がりを失うのは彼にとっても痛手だろうし」香織は部屋のソファにドサリと座り込んだ。彼女は一刻も早く、亮太と離婚しなければならなかった。死へのタイムリミットが刻一刻と近付いているのだ。「社長が離婚を受け入れないのであれば……そうせざるを得ない状況を作ったらいかがでしょうか?」「……そうせざるを得ない状況?」「はい、例えばですが――」香織は美由紀の提案を聞き、ニヤリと口角を上げた。これは使えるかもしれない、彼女はさっそく計画を進めた。***「社長、日菜乃様がいらっしゃっています」「通せ」亮太が経営する羽川グループの本社。社長室で書類と向き合っていた亮太は、その声に顔を上げ、紙を机に置いて立ち上がった。「社長!」扉が開くと、入ってきた日菜乃が彼に駆け寄った。亮太はそんな彼女を優しく受け止めると、諭すように言った。「日菜乃、君は身重なんだからあまり走ってはいけない」「えへへっ、すみません。社長に会えたのが嬉しくてつい」日菜乃は彼の腕の中で愛らしく微笑んだ。その姿は小動物のようで、男たちの庇護欲をそそった。「ところで、急に本社へ来るだなんてどうかしたのか?」「いえ、特に何も無いんです……ちょっと社長に会
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第20話

夜になり、亮太は帰宅した。「香織を呼んでこい」「かしこまりました」書斎へ入った彼は、秘書に香織を呼ぶよう命令した。しかし、いつまでたっても香織はやってこない。「何をしているんだ、アイツは」彼は仕方なく、彼女の部屋へと向かった。思えば、彼女の部屋へ入るのは初めてだった。彼は結婚してから一度も香織を抱いたことがないのだから当然だ。部屋へ入ると、バスローブ姿の香織が目に入った。「亮太、こんな夜中に何の用かしら?」「……」彼の顔が真っ赤になった。風呂から上がったばかりなのか、髪は濡れていて、胸元は開いていた。亮太は今すぐにでも香織に触れたいという気持ちを必死で抑えた。ベッドサイドに腰かけてこちらを見つめる香織はとても色っぽかった。彼は何とか平静を保ち、香織を問い詰めた。「……お前、俺に隠れて日菜乃を虐げているそうだな」「……何の話?」彼女は心当たりがないというようにとぼけた。「俺が気付いていないとでも思ったか?」「気付いていないも何も……やっていないんだからそういうのは当然でしょう?」立ち上がった香織が、亮太の前まで歩いてきた。亮太はとっさに来るな、と思った。今近付かれたら自分は何をしでかすかわからなかったからだ。「私が日菜乃さんを虐げているですって?何を根拠にそんなことを言っているのかしら?」「……日菜乃が言っていた」香織は呆れて声も出なかった。日菜乃の言葉だけを信じるのは前世からずっと変わらないようだ。「日菜乃さんが嘘をついているという可能性は考えなかったの?」「日菜乃が嘘をつくだと……?そんなことあるわけないだろう!」「じゃあ聞くけど、日菜乃さんは私に何をされたのかしら?具体的に言ってちょうだい」「……」亮太は答えることができなかった。日菜乃はいつも内容についてはぐらかしてばかりだったからだ。「答えられないようね」「……だが、お前が」「――いい加減にしなさい、亮太」香織は亮太を力強い瞳で見上げた。「私を責め立てたいなら物的証拠や第三者の証言を持ってくることね」「……」「ちょっと、聞いているの?大事な話をしているんだけど」香織の言葉はもはや彼の耳には入らず、彼は我慢できなかった。次の瞬間、彼は彼女の腕を掴み、強引に口づけを交わしていた。「――ッ!!!」唇が重なり、舌をねじ込まれる。香織はもがいたが
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