香織は呆然と、目の前の光景を眺めていた。突然割って入った紳士的な男性と、床に倒れた男。突然のことで理解が追い付かない。(助けてくれたんだよね……?)礼を言おうと、香織は彼の背中に声をかけた。「あ、あの……」「……」その声に、彼が振り返った。「あ、あなた……!」その顔を見た瞬間、香織の中で一気に安堵感が広がった。香織の知った人物だったからだ。「――この間会った社員さん!」「……」香織を助けたのは礼音だった。彼は本当は九条グループの社員などではないのだが、香織は誤解したままだった。「ここにいるということは、あなたも帰りですか?」「……まぁ、そんなところだ」香織の問いに、礼音は頷いた。三回もたまたま会うだなんて、もしかすると私たちは本当に運命かもしれない。(でもダメよ、彼には恋人がいるんだから)香織はある程度の距離を保ったまま、礼音に尋ねた。「助けてくれてありがとうございます……名前を教えてもらってもよろしいですか?」「……安本礼音だ」「安本さんっていうんですね!」名前まで素敵、と香織は胸をときめかせた。彼女は面食いで、顔の綺麗な男性に弱かった。礼音は黙ったまま、何か考え込む様子で香織をじっと見つめた。探るような視線に、彼女は困惑した。「あ、あの……私の顔に何か付いているんでしょうか……?」「いや……」礼音は何かを誤魔化すように話題を変えた。「夜遅くに一人で出歩いているようだな。危ないから家まで送っていこう」「あ、ありがとうございます……!」礼音は香織の横に立ち、二人で家までの道のりを歩いた。「いつも一人なのか?」「はい、家から職場まではそれほど遠くないんです。運動のためにもいつも歩いています」「そうか……」二人の間に、不思議な空気が流れた。香織は人と話すときに緊張するタイプではなかったが、彼のように美しい男が相手となると話は別だ。(早く家に着かないかな……)しばらくして、九条邸へ到着した。自宅の前に立った香織は礼音に深くお辞儀をした。「送ってくださってありがとうございました。また会社で会いましょう」「ああ」香織は彼に見送られながら、家の中へ入って行った。***一人残された礼音は、香織が入って行った家の扉をしばらくじっと見つめていた。実は二人が出会ったのは偶然ではなかった。礼音は香織と一度二人で話
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