Lahat ng Kabanata ng 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Kabanata 191 - Kabanata 200

216 Kabanata

第191話

「――へぇ、それはすごいですね。如月隼人といえば、あの大手芸能事務所フォーサイドプロモーションではありませんか!有名俳優がたくさんいますよ」「ええ、私もいきなり招待されてとても驚いています」次の日の朝、香織は朝食の席で有真に昨日の出来事を報告していた。元々オタクな有真は、その話に目を輝かせた。「香織さん、もし彼に会ったらサイン貰ってきてくれませんか?私、大ファンなんです!」「ええ、もちろんです。色紙持って行きますね」香織がにこやかな笑顔で答えると、有真はやったーと両手を上げて喜んだ。普段落ち着いている人だけれど、こういうときは何だか子供みたいだ。「そういえば、旦那様が近いうちに香織さんと私と三人で旅行にでも行かないかとおっしゃっていましたよ」「まぁ、お父様が?」それはいいですね、と香織は嬉しそうに笑った。前世では得ることのできなかった家族の温もり。毛嫌いしていた継母とこのような関係になるとは誰が想像できただろうか。前世に比べると、今は本当に幸せだった。あまりにも恵まれすぎていて、未だに夢なのではないかと疑ってしまうときがある。「香織さん、どこかへ出かけるのですか?」服を着替えて外へ出ようとする香織に、有真が声をかけた。香織は玄関で靴を履きながら振り返った。「今日は休みだし……外を散歩でもしようかと思っているんです」「あら、いってらっしゃい、香織さん」有真が笑顔で見送り、香織も手を振って外へ出た。外へ出ると、晴れ渡る青空が香織の視界に入った。吹き抜ける風がとても心地よく感じる。「わぁ、とっても良い天気ね!」香織は軽装のまま、家の近所を歩き回った。すれ違う近隣住民たちが、にこやかに挨拶を返した。以前は色眼鏡で見ていた彼らも、今では他の人たちと同じように接してくれている。羽川邸にいた頃とはどこまでも違う。気持ちの良い太陽の光を浴びながら、彼女は道を歩き続けた。一歩歩み出すたびに、九条邸からはどんどん遠ざかっていく。「……あら、あの子は」公園の近くに差し掛かったそのとき、香織はすぐ傍で泣いている女の子の姿を発見した。もしかして迷子だろうか。どちらにせよ放っておけないと思い、女の子の傍に歩み寄った。声をかけると、はらはらと涙を流す彼女が振り返った。その顔に、香織は見覚えがあった。「も、もしかしてあなたは……」丸く大きな瞳に、肩
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第192話

―――どうしてこんなところに、亮太と日菜乃の娘が?香織は目の前にいる朱里をじっと見下ろしていた。朱里は亮太と日菜乃の間に生まれた第一子であり、顔はどちらかというと亮太よりも日菜乃に似ている。日菜乃は香織にとっては憎き相手であるが、生まれた子供に罪なんてない。それにしてもどうしてここにいるんだろう。羽川邸からはかなり距離があるはずだが、一体日菜乃は何をしているのか。(ひとまず……何があったのか聞くべきよね)香織は朱里と視線を合わせるように、そっとしゃがみ込んだ。知らない人に警戒しているのか、彼女はビクッと肩を上げた。幼い子供からしたら、恐怖心を抱いてしまうのも仕方が無い場面だろう。しかし、だからといって小さな子供が一人で泣いているのを放っておくわけにはいかない。香織はできるだけ怖がられないように、口元に笑みを浮かべて話しかけた。「こんにちは」「……お姉さん、だぁれ?」朱里は目に涙を浮かべながら、香織に尋ねた。名前を言うべきか悩んだが、彼女の警戒心を解くためにも香織が先に名乗った方が良いだろう。「私は……香織って言うの。この近くに住んでいるんだけど……どうしてこんなところに一人でいるの?」手を伸ばして朱里の肩に触れようとしたが、彼女はサッと一歩後ろに下がった。やはりまだ香織に対する恐怖心があるのだろう。そういう風になってしまうのも仕方が無い。もちろん、悲しくはあったが。朱里は僅かに沈黙したあと、香織の質問に答えた。「……家政婦のおばさんとはぐれちゃって」「家政婦のおばさん?」日菜乃ではなく、家政婦とここに来たというのか。大金持ちの羽川家には、複数人の家政婦が雇われている。そのため、屋敷内の掃除や洗濯などの家事をする必要が無く、香織は彼と結婚している間なかなかに暇を持て余していた。当然、日菜乃が本妻となった今も家政婦は雇われている。しかし、彼女が家事だけではなくたった一人の娘の育児まで担っていたとは驚きだ。お腹を痛めて産んだ子供の世話すら自分でしないとは、まるで香織の実の母親美佐子のようだった。(そういえば、日菜乃が朱里ちゃんと遊んでる姿は前世を含めて見たことが無いわ……)なら、普段は誰が朱里の世話をしているというのか。香織は何となく予想がつくものの、あえて朱里に尋ねた。「ねぇ……お母さんはどこにいるの?」「ママは……」そのとき
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第193話

朱里は目を潤ませながらママはいないと言った。俯いて肩をプルプルと震わせるその姿に、香織は何だか胸が締め付けられた。(子供が泣いているってのに、日菜乃は一体何をしているわけ?)母親とはぐれたならまだしも、家政婦とはぐれたなんて。香織は前世の結婚生活を含めて、亮太のもう一つの家庭のことなんていちいち気にしたことはない。自分のことだけでも手一杯だったし、そんなことを気にかける余裕なんて無かったのだ。しかし、余裕ができた今客観的に見てみると、あの一家はかなり歪んでいると思わずにはいられなかった。(日菜乃が娘と遊んでるところなんて見たことないし……いつもあの大きな家で何をして過ごしていたのかしら)今になって、何だかあの一家のことが気になった。香織はその内部を探ろうと、朱里に優しく尋ねた。「ママは普段何をしているの?」「ママは……いつも一人でどこか出かけてて……」「どこかに出かけている?いつも?」朱里の話によると、両親は同じ家に住んでいるが遠い存在とのこと。普段から話すことはあまりなく、食事を共にするのも数日に一回あるか無いかくらいなのだと。仕事で忙しい亮太はともかく、日菜乃は仕事を退職してからは専業主婦になっている。それでもあまり一緒に過ごしていないだなんて、どうやら彼女は普段から子供の世話をろくにしていないようだ。「それで、今日は家政婦さんと二人でここに来たの?」朱里はコクッと首を縦に振った。彼女の世話を日菜乃と亮太の代わりにやっているのは、どうやら羽川家が雇った家政婦のようだ。(あの女……自分の娘を泣かせるだなんて、次会ったら一言ガツンと言ってやりたいわ)赤の他人であり、恋敵ともいえる香織はともかく、血の繋がった娘のことも可愛がれないとは。前々から思っていたことではあるが、日菜乃はもしかするとサイコパスの分類かもしれない。きっと今日も娘をほったらかしにして一人でどこか出かけているんだろう。「おばさんとはぐれちゃって……おばさん……どこにいるの……?」「……」香織は目の前で涙を流す朱里を、ただじっと見つめていた。ここで立ち去るだなんて、人間のすることではない。その姿を見たら、そのままにしておくことなどできるはずがなかった。香織は朱里の肩に手を置き、優しく諭すように口を開いた。「――朱里ちゃん、心配しないで。私が絶対におばさんを見つけ
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第194話

それから香織は朱里と手を繋ぎ、周辺を歩き始めた。はぐれたのはここら辺だそうなので、そう遠くには行っていないはずだ。(羽川家の邸宅まで帰すことは簡単だけれど……きっと家政婦が心配するわよね……)それに、羽川邸には日菜乃と亮太がいるのだ。香織を疎ましく思っていた者たちもいるかもしれない。彼らにはできるだけ会いたくない。歩いている途中、朱里のお腹が大きな音を立てて鳴った。「お腹すいた……」時刻はちょうどお昼を過ぎたあたりだった。その様子からして、きっと朱里は何も食べていないのだろう。そういえば、香織も昼を食べていなかった。「……そうね、なら近くで何か買って食べましょうか」香織は朱里を連れて、近くのスーパーに入った。もしかすると、ここで家政婦が彼女のことを探しているかもしれないという僅かな希望を抱きながら。「アイスクリーム食べたい!」朱里は入ってすぐ、スーパーの中に併設されていたアイスクリーム屋を指差した。香織はお店で朱里の分のアイスを購入した。「ソフトクリーム一つお願いします」「かしこまりました」しばらくすると、コーンに乗ったソフトクリームが手渡された。香織は朱里を近くにあったベンチに座らせた。「いつもは家政婦のおばさんと一緒に遊んでるの?」「うん、おばさんはとっても優しいの…………ママよりもずっと」「そう……」そりゃあ、家政婦なのだから雇い主の娘にキツく当たるわけがない。それが本物の愛と呼べるかはわからないが、きっと日菜乃よりかは愛を与えてくれる相手なのだろう。(家政婦が本物の母親みたいだなんて……) 香織はすぐ横で嬉しそうにアイスクリームを頬張る朱里を、複雑な目で見つめていた。人様の家庭に口を挟むべきではないのだろうが、あまりにも彼女が不憫だった。せめてこの時間だけは穏やかに過ごせるようにと、香織は優しく尋ねた。「お父さんとは……普段どんなことをしているの?」「パパは……」父親の話題を出すと、朱里の表情が暗くなった。「――いつも遅く帰ってきて、早くに出かける。遊びに連れて行ってくれたことなんてほとんどない」「そう……だったんだ……」朱里にとって亮太は日菜乃よりも関わりが浅く、父親と呼んでいいのかすらわからないほどなのだという。(あの邸の中で、私だけが不幸だと思っていたのに……)視野が狭かったのは亮太だけではなく、
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第195話

亮太の様子が以前とかなり変わっているのには、香織も薄々気付いていた。結婚式で見た彼は前世での彼と別人のようだったし、日菜乃に対する接し方も前のように愛に溢れたものではなかった。彼は近頃よく見る悪夢のせいでそうなっていると言っていたが、それだけが原因だとは思えなかった。(それに、結婚式のときの私を見る亮太の目は、まるで……)――まるで、熱烈な恋をしているかのようだった。脳裏に熱を帯びた目でこちらを見つめる亮太の姿が浮かび上がった。想像はしたくはなかったが、あり得ないことではなかった。知りたくないと思いながらも香織は、聞かずにはいられなかった。「ねぇ、その名前ってもしかして……」「――香織」朱里は迷う素振りを見せることなく、間髪入れずに答えた。――あぁ、やっぱりそうだったのね。ある程度予想がついていたため、特に驚きはしなかった。しかし、今さらそんな気持ちを抱かれたところで嬉しくも何ともなかった。「香織って言ってた、パパが」「……そう」朱里はきっと、今目の前にいるのが香織本人だとは思いもしていないだろう。まだ幼い彼女は、当然その人物が父親にとってどういう人間であるかに気付いていない。知らない方が良いことだと思い、香織はあえて名乗らないことにした。「アイス、美味しかった?」香織が尋ねると、朱里は満面の笑みで”とっても”と頷いた。その笑顔が愛らしくて、彼女は思わず頭を撫でていた。こんなにも可愛らしい子を放置しておく日菜乃や亮太の気持ちが理解できない。「朱里ちゃん、近くの交番に行こうか。きっとおばさんも困ったらそこに来るはずだから」「……うん、お姉ちゃん」香織は再び朱里の手を引き、スーパーを出た。向かったのは近くにある交番だ。香織の予想は的中、羽川家の家政婦がちょうど警官と話している最中だった。「おばさん!」「朱里お嬢様!」家政婦は朱里を見た途端、目に涙を浮かべて駆け寄った。しゃがみ込んだ彼女は、そのまま朱里をギュッと抱きしめる。「ああ、無事でよかった……何かあったらどうしようかと不安で……」「このお姉ちゃんがおばさんのところまで連れて来てくれたんです」「まぁ……」そこで、家政婦は顔を上げて香織を視界に入れた。「本当にありがとうございました、何かお礼をさせていただけないでしょうか」香織はその提案をやんわりと断った。「い
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第196話

朱里と家政婦の元を立ち去った香織は、九条邸までの道を歩いていた。今日はこれ以上、外へ出ていられるような気分ではなかった。(どうなることかと思ったけど、何とか切り抜けられたようでよかったわ……)朱里のことは可哀相だが、あまり人様の家庭に口を挟むべきではない。それに相手は香織にとって因縁の相手である亮太と日菜乃だ。香織が口出ししたところで、素直に聞き入れるような相手ではないことはわかっている。(まぁもし朱里ちゃんに何かあったら、あの家政婦の方が何とかするでしょう……)きっと悪い方向にはいかないはずだ。香織はそう信じて、朱里のことを頭からかき消した。***一方その頃、朱里は羽川家の家政婦と共に羽川邸へ帰宅していた。彼女のことを早々に忘れると決めた香織と違って、朱里はいつまでも香織のことが頭から離れなかった。あんなにも綺麗な人は初めて見た。母親の日菜乃も相当美しい部類ではあったものの、彼女には及ばないと朱里は思った。見た目の美しさだけではなく、凛とした佇まいや知性溢れるその姿が、日菜乃には無いものだった。あのとき、優しく彼女の頭を撫でた柔らかい笑顔が脳裏に深く刻まれていた。名前すら知らない女性だったが、朱里はもう一度会いたいと思うようになっていた。「お姉ちゃん、誰だったんだろう」「さぁ……お嬢様が良い子にしていれば、いつかまた会えますよ」「……そうだね、きっと」初対面ではあったものの、母親よりもずっと優しかったお姉さん。朱里はもう一度あの人に会うためにちゃんと勉強をしようと心に誓った。そのとき、二人の目の前にある人物が現れた。「――遅かったわね、予定の時間はとっくに過ぎているでしょう?」「……………ママ?」腕を組んで朱里と家政婦の前に立ちはだかったのは、日菜乃だった。いつもの帰宅時間を過ぎていたのが気に入らなかったのか、彼女は不機嫌そうに朱里を見下ろしていた。香織の優しい目とはどこまでも違う。朱里に対する愛情など微塵も感じられなかった。「お、奥様……!」日菜乃の登場に焦ったのか、家政婦は狼狽えた。彼女は朱里から、横にいた家政婦に視線を移した。「どこで道草食っていたわけ?いつもこんなに遅くはならないはずでしょう?」「……そ、それは」朱里を危険な目に遭わせたなんて言いにくくて、彼女は押し黙ってしまった。日菜乃の目が険しくなったこと
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第197話

日菜乃はどこまでも冷たく、慈悲の欠片も無い女だった。彼女は呆然とする家政婦に対し、さっさと荷物をまとめて出て行けと冷淡に告げた。朱里はそんな母親の前に立ちはだかった。「ママ!待って!朱里が勝手にやったことで……」「そんなのどうだっていいわ。幼い子どもから目を離したことに変わりは無いんでしょう?ならアンタは役立たずってことよね。そんな人間はウチにはいらないの」「そ、そんな……」朱里についていた家政婦はつい最近羽川家にやって来た新米の家政婦だ。しかし、以前勤めていた家での評判は高く、どんな仕事もテキパキとこなす敏腕家政婦だった。他の家政婦たちの憧れでもあり、亮太からも厚く信頼されているほどだった。しかし、たかが一回のミスで解雇されてしまうとは誰が想像しただろうか。それも雇い主の亮太ではなく、その妻の日菜乃に。彼女は顔を真っ青にし、恐怖からか体をプルプルと震わせている。朱里は日菜乃の手を掴み、彼女に必死に懇願した。「ママ、お願い……おばさんを辞めさせないで」「……」日菜乃にとって彼女はただの家政婦の一人だっただろうが、朱里は違う。この邸の中で唯一愛情を注いでくれる、とても大切な存在なのだ。そんな彼女がいなくなるだなんて、朱里には耐えられなかった。ただでさえ味方がほとんどおらず、孤立している状態だった。「お、お嬢様……」朱里が必死になって自分を守ろうとする姿に、彼女は目を潤ませた。しかし、そんなことをされたところで日菜乃の気持ちは変わらなかった。「――ダメよ、それにアンタ最初から気に入らなかったのよね。ちょっと仕事ができるからってチヤホヤされちゃって」「そ、そんな……」日菜乃が彼女を辞めさせたのはミスを犯したからではない。本当はただ気に食わなかっただけだったのだ。そんな彼女に、何を言ったところで意味が無い。そのことを察したのか、彼女はすぐに荷物をまとめた。亮太がいない今、この家の実権を握っているのは日菜乃だった。そのため、彼女の言うことは絶対なのである。「おばさん、行かないで、お願い」朱里は涙を流しながら、家を出る前の彼女に縋り付いた。「お嬢様……申し訳ありません……」しかし、家政婦はそんな朱里を一人置いたまま、羽川邸を出て行った。彼女が戻ってくることは二度とない。そのことを朱里もわかっていたからか、彼女は部屋にこもって泣き続
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第198話

その日の夜、香織は隼人から電話で詳しいパーティーの日程を聞いていた。これまで様々な富裕層が集まるパーティーに参加してきた彼女だったが、芸能人が集うものは初めてである。そのため、不安が全くないわけではなかった。「本当に私が行って大丈夫なんでしょうか?」「気にするなって。社長にはすでに言ってあるし、九条家のお嬢様なら大歓迎だって、みんなそう言ってるから」「そ、そうだったんですね……」こういうときに九条家という肩書きは何かと役に立つ。父の忠嗣は実際に、芸能関係者の知り合いが何人もいると聞く。(パーティーでも父さんの知り合いがいるんだろうな、きっと……)不安感はあるものの、何だかちょっぴり楽しみだ。テレビでよく見る有名人たちが一堂に会するパーティーだなんて、誰でも経験できるものではないだろう。「じゃあ、当日よろしくな」「はい、如月さん」その言葉を最後に、香織は電話を切った。サイン用の大きな色紙をたくさんネット通販で注文したのは内緒である。そろそろ寝ようとベッドに入ろうとしたそのとき、家の外から大きな音が聞こえた。「……何の音かしら?」気になった香織は、部屋のカーテンを開けて外を眺めた。すると家の前に、よく知った人物が一人立っていた。その人物は、香織にアピールするかのように何かを叫んでいる。「アイツ………もしかして、芹沢!?」何と、外から香織に向かって大きく手を振っていたのは亮太の秘書である芹沢だった。この夜遅い時間帯に、住宅街の一角で大声を上げているのだ。(迷惑にもほどがあるわ!)香織は部屋を飛び出し、芹沢の元へと向かった。階段を下へ降り、外へ出ると彼が感動したような目で彼女を見た。「ちょっと、何してるんですか!近所迷惑でしょう!」「奥様!来てくださったんですね!」「や、やめてください!」芹沢は香織の腕をギュッと掴んだ。不快極まりない彼の手を、香織は無意識に振り払っていた。その態度に、芹沢はショックを受けたように悲しそうに目を伏せた。(どうしてあなたがそんな顔してるのよ!)香織は芹沢とある程度の距離感を保った。かつて彼にされたことを考えると、同じ空気を吸うことすらしたくなかった。彼が何を考えているのかはわからないが、絶対に受け入れたりなんてしない。香織は正面にいる芹沢に向かって冷たく尋ねた。「今日は何の用でここに来たんです
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第199話

亮太が芹沢にパワハラをしている?それが事実であろうとなかろうと、香織にはどうでもよかった。彼女は前世で芹沢からもなかなかの仕打ちを受けていたからだ。『奥様、社長が奥様をパーティーに招待なさいましたよ。よかったですねぇ、奥様なんて普通は羽川家のパーティーにすら出られないご身分なのですから』香織に嘘の招待状を渡したことに始まり、亮太や日菜乃の前で恥をかかされたこともあった。そんな彼がパワハラされていると聞いたところで、何とも思わない。「社長にパワハラですって?あなたが?」「はい、今日も異常な量の仕事を押し付けられて……できなかったら暴言を浴びせられました。もう耐えられないんです。奥様、助けてください!」「――知らないわよ、そんなの」香織は何の迷いも無く吐き捨てると、そのまま家の中に戻ろうとした。芹沢はそんな彼女を慌てて引き留めた。「ま、待ってください……!」「触らないで、不愉快だわ」香織は自身の腕を掴んだ芹沢の手を払い落とした。助けを求めるにしても、何故香織のところに来るのか。自分が何をしてきたか、忘れたとは言わせない。大体、日菜乃の第二子妊娠祝いのパーティーで香織が醜態を晒す羽目になったのは芹沢のせいでもあるのだ。「そんなことを、どうして私に言うの?」「心優しい奥様なら私のことを助けてくれるのではないかと……そう思って……」「何ですって?」あいにく、彼女はそんなに優しい人間ではなかった。目の前で膝をついて懇願する芹沢に、香織はキッパリと言い放った。「私はあなたのことなんて眼中にも無いの。あなたがどのような仕打ちを受けようと、どうでもいいのよ。私があなたを助けることはない、本当に悩んでいるのなら他をあたることね」亮太のパワハラが真実であろうがなかろうが、自身の知ったことではない。今は自分のことだけで手一杯であり、他人のことまで気にかけている暇は無いのだ。それが香織の出した結論だった。彼女は、そのまま芹沢から背を向けて立ち去った。「……」彼はそんな彼女の後ろ姿をただじっと眺めていた。そんな彼に、一人の男がゆっくりと背後から近づいた。「……失敗したようだな」「……あぁ、やはり香織が俺のことなんて受け入れるはずがないんだ」まるで知り合いであるかのように、芹沢は何の抵抗も無く言葉を返した。彼は芹沢の肩に手を置き、その耳元で囁いた。
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第200話

芹沢を拒絶してからというもの、香織の元には彼からの手紙やらメールが届くようになった。彼は当然、香織の連絡先なんて知らない。それなのに、何故かスマートフォンにはいつも芹沢からのメールが届いているのだ。「一体どうやって私の連絡先を知ったのかしら……」亮太や日菜乃ですら、香織の携帯の電話番号なんて知らない。彼らよりも香織との関わりが浅かった芹沢が、知っているはずが無いのだ。「……携帯を変えた方がいいわね。面倒だけれど、誰かが流しているかもしれないわ……」香織は机の上に散らばった芹沢からの手紙を眺めながら呟いた。たった数日で十通を超える手紙が届き、有真や忠嗣が気付くのも時間の問題だった。誘拐事件が起きてからまだ日も浅い。そんな状況で再び家族に迷惑をかけたくはなかった。あの一件以降、二人はかなりの心配性になっているようだし。「ったく、芹沢は相変わらず暇人なのね……まだ結婚もしていないみたいだし」彼が自身を手に入れようとしていることになど、香織は当然気付いていなかった。芹沢から届いた手紙は当然、全てゴミ箱に捨てた。中を読む価値も無い。一通だけ封を開け、流し読みしただけだ。中に書かれていた内容は、どれもくだらないことばかりだった。助けてだの、悪かったと思っているだの、あの日彼が直接口にしたこととほとんど同じ。「助けてほしいなら、あなたの大好きな日菜乃に言いなさいよね……」芹沢は香織を毛嫌いする一方で、日菜乃のことはとても慕っていた。理由はわからないが、彼女には人を惹きつける特殊な能力のようなものがあるのだ。実際、亮太や芹沢だけでなく柚果までもが彼女の信者と化していたわけだし。(あの女の残忍さも恐ろしいけれど……その能力もなかなか……)どちらにせよ、侮れない相手だ。彼女は芹沢から届いた一番新しい最後の手紙を、迷うことなくゴミ箱に投げ入れた。彼女はもう、羽川家とは何の関係も無い。香織には今、他にやらなければならないことがある。「あら、このドレスとっても可愛いわね。パーティーで着て行こうかしら?」彼女は数日前に隼人から正式に届いたパーティーの招待状を嬉々として見つめた。このときすでに、パーティーまで残り一週間を切っていた。
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