Lahat ng Kabanata ng 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Kabanata 201 - Kabanata 210

216 Kabanata

第201話

翌日の仕事終わり、迎えの車に乗り込んだ香織の視界の端に、見慣れたあの人物が映った。「ゲッ……アイツまだいるわ」香織は勤務先の会社の前で待ち伏せしている芹沢に、思わず眉をひそめた。車の後部座席で上半身を曲げて何とか彼から隠れる。そんな彼女の姿を見た運転手が、不思議そうに尋ねた。「お嬢様、お知り合いですか?」「……いいえ、知らない人よ」運転手に芹沢との間でトラブルを抱えていることがバレたら、間違いなく父に報告がいくだろう。それだけは避けなければならない。(もう、いい加減に私を自由にしてよね)香織は職場の前でキョロキョロと彼女を探す芹沢の姿を横目に、車で彼を通り過ぎた。九条家の力を使えば、彼が二度と自身の目の前に現れないようにすることくらいはできそうだが、できるだけ事を荒立てたくはなかったのだ。(……まぁ、拒絶し続けていればいつかは諦めるでしょう)香織の予想通り、この後彼女が手を下すまでもなく、一連の事態はすんなりと解決した。――彼女を一途に想う、ある人物の手によって。***「香織、出てこないな……あの女が今ここで勤務してるってたしかに”あの方から教えてもらったというのに……」芹沢は一人ブツブツと呟きながら、物陰に隠れて香織が出てくるのを待っていた。彼女はすでに車でこの場所を離れてしまったということを、当然彼は知らなかった。彼はあの日から、毎日のように香織に対してストーカー紛いの行動をしていた。全ては彼女を手に入れ、再び成り上がりたいという彼の思いからだった。香織は九条グループの一人娘であり、九条忠嗣に男児はいない。そのため、彼女の婿となったものが九条グループの全てを手に入れられると言っても過言ではなかった。美人な嫁だけでなく、高い地位と名誉まで手にすることができる。何て最高なんだと、彼はそんなありもしない夢を見て香織に狙いを定めていたのだ。いつまでも出てこない香織に痺れを切らし、彼は爪を噛んだ。「クソッ……いっそ既成事実でも作った方が……」「――何一人でブツブツ喋ってるんだ?」突然背後から聞こえてきた低い声に、芹沢はビクッと肩を上げた。彼はおそるおそる首を動かし、後ろを振り返った。「お、お前は一体……!?」そこに立っていたのは、礼音だった。しかし、芹沢は彼が誰だかわからなかった。「何だ、俺を知らないのか?羽川の秘書のくせに
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第202話

ちょうど芹沢が香織の前から姿を消した頃、代わりにある人物が現れた。休日の夜遅く、仕事の合間を縫って彼女の元を訪れたのは、礼音だった。香織は玄関から外へ出ると、やって来た礼音を家に入れようとした。しかし、彼は手を軽く振ってそれを断った。話だけしたらすぐに帰るのだという。「礼音、どうしてここに?」「……お前のことが心配で」心配と言われた香織は、きょとんと首をかしげた。彼女は礼音が芹沢を排除した張本人であることを、このときまだ知らなかった。(また誘拐されるんじゃないかって、父さんや有真さんみたいに過保護になっているのかしら?)まるで兄みたいだなぁと香織はクスクス笑った。誘拐事件を経て、彼らの距離は以前よりもグッと縮まった。今では香織も敬語を外し、タメ口で彼と接しているほどだ。有名な実業家である礼音とここまで仲良くなれるとは、彼女自身も想像していなかったことだ。「心配してくれてありがとう、私は平気よ?そんなことより、あなたの方が大変でしょう?新しい事業を始めたと聞いたわ」「……あぁ、認めてもらいたい人がいてな」礼音は最近、ちょうど経営している会社で新しい事業を始めており、香織に会いに来ることもできないほど忙しくなっていた。香織はそのことをたまたまネットニュースで知った。礼音がいない生活はちょっと寂しかったけれど、新しいものにチャレンジする彼のことは応援していた。ところで、認めてもらいたい人とは一体どういうことだろうか。香織は不思議に思って尋ねた。「誰かのためにやっているの?」「いや……今の発言は忘れてくれ」礼音ははぐらかし、それ以上は何も答えなかった。香織は言いたくないことなのだろうと思い、追及はしなかった。「明日はね、パーティーがあるのよ。だから準備をしないといけなくて」「パーティー……?」小声で呟いた礼音に、香織はコクリと頷いた。「芸能関係者が集まるパーティーにね、私も特別に招待されたの」「そうだったのか」香織は良いことを思い付いた、と礼音にある提案をした。「そうだ、最近有名な美人女優さんのサインでも貰ってきましょうか?あそこは大手だし、綺麗な人がたくさんいるのよ」彼女は誰が一番タイプ?とニヤニヤしながら礼音を見つめた。しかし、礼音は香織が提示した誰にも興味を示さなかった。今や誰もが知る国民的女優であり、絶世の美女と言っ
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第203話

翌日の夜、香織はパーティーに参加するための準備をしていた。ドレスに着替え、髪の毛をセットした香織はカバンを持って玄関にいた。パーティーが行われる高級ホテルまではかなり距離があるため、車で向かうこととなる。出かける前の香織を、継母の有真が見送る。「香織さん、色紙は持ちましたか!」「ええ、持ちましたよ!」香織のカバンの中には何枚もの色紙が入っている。この日のためにと、何日も前から用意していたものだ。今日のパーティーはいつもの富裕層たちが集まるものとは違う。(……心穏やかに、思う存分楽しめるといいな)香織はそんなことを心の中で願いながら、玄関のドアを開けて外へ出た。「では、行ってきますね」「いってらっしゃい」香織はこちらに向かって軽く手を振る有真に挨拶し、会場まで向かうための車に乗り込んだ。外に出ると、彼女は通りすがりの近隣住民たちからの視線を集めた。今日の着飾った香織は特段美しかったため、周囲の男たちが見惚れてしまうのも仕方のないことだった。しかし、そのせいで彼女は気が付かなかった。――見知らぬ怪しい男が、物陰から彼女をじっと見つめていたことに。***車を三十分ほど走らせると、パーティーが行われる高級ホテルに到着した。香織は運転手に礼を言って車から降り、招待状を提示して中へ入った。見るからに煌びやかな外観は彼女が今まで訪れたパーティーと似ていたが、会場に入るとこれまでとは違った雰囲気を感じ取った。「わぁ、とっても素敵……!やっぱり芸能関係者が集まる会だからか、綺麗な人ばかりだわ……!」テレビでよく見る俳優、アイドル、女優たち。芸能人は生で見た方が綺麗だという噂は本当だったらしい。会場にいる人たちがあまりにも眩しくて、彼女はクラクラしそうになった。知っている顔であることは間違いないのに、知り合いではない。何だか不思議な気分だ。そんな中、彼女はある人物の後ろ姿を見つけて顔を輝かせた。「如月さん!」「九条さん、来ていたのか」香織が声をかけたのは、彼女をパーティーに招待した張本人の隼人だった。隼人もいつもと違って今日は礼服に身を包んでいる。少し離れたところには、彼が所属するアイドルグループのメンバーたちまで。「よく来てくれたな、嬉しいよ」「こちらこそ、こんなにも素敵な会に誘ってくださってありがとうございます」香織はニッコリと笑
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第204話

一度隼人と別れた香織は、別の招待客たちに挨拶をしに行っていた。「今日はよろしくお願いします」「初めまして、よろしくお願いします」テレビで何度も見たことがある女優や俳優、アイドルたちが今彼女の目の前にいる。その事実だけで香織は卒倒しそうになった。(夢じゃないのよね……?信じられないわ……!)香織は目をキラキラ輝かせながら、会場内を回った。どこを見ても有名人ばかり。夢ではないのだということがとても信じられないほどである。そして最後に彼女が挨拶しに行ったのは、主催者であるフォーサイドプロモーションの社長だった。隼人の所属する事務所の社長は、父忠嗣と同じくらいの年齢であろう髭を生やしたスーツ姿の男性だった。「初めまして、九条香織です。今日は素敵なパーティーに招待して頂けてとても光栄です」香織は胸に手を当てて、軽く礼をした。「九条さん、お話は聞いておりました。父君とは昔からの知り合いなんですよ。私にもちょうど香織さんと同じ年頃の娘がいまして。是非お会いしてみたいと思っていたんです」「まぁ、そうだったんですね」社長と聞いて気難しい人かと思っていたが、その心配は杞憂だったようだ。社員や所属タレントたちにとっては少々厳しい相手だと聞いていたが、外部の人間には優しそうだ。「今日は楽しんでいってくださいね」「ありがとうございます、社長」社長が差し出した手を、香織はギュッと握り返した。まるで父のように温かみを持つ、素敵な社長さんだった。(そうだ、サイン貰わないと)香織は持っていたカバンから色紙を取り出し、お目当ての俳優の元へ駆けて行った。***そんな彼女の様子を、パーティーに参加していた一人の男がじっと見つめていた。血のように真っ赤なワインが注がれたグラスを片手に持ちながら、彼は忙しく動き回る香織を目で追っていた。周囲に聞こえないような小さな声で、ポツリと一言呟く。「……芹沢は思ったより役に立たなかったな」――彼が芹沢を唆した張本人であることを知る者は誰もいない。「それにしても……今日はいつもよりも美しいな」パーティーに参加するために着飾った今日の香織は、有名女優たちにも引けを取らないほどの美しさだった。あの見た目で家柄も良いのだから、彼女は世の女性陣の中でもトップクラスにハイスペックといえるだろう。「そうだ……次はあの馬鹿な元旦那を唆し
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第205話

パーティーが始まってからしばらく経った頃、香織はカバンの中にいくつかのサイン入りの色紙を入れて満足げな笑みを浮かべていた。(みんな、何て優しい人なのかしら……!赤の他人も同然の私にサインをくれるだなんて)香織がサインを書いてくれないかと頼んだ有名人たちは皆、快く彼女の頼みを受け入れた。もちろん、香織が九条家の令嬢ということもあるのだろうが、彼らの優しさに彼女は感動してしまった。今、ここで彼女は社長の知り合いの娘という立ち位置だ。そのため、いくらよそ者とはいえ参加者たちも無下には扱えないのだろう。「あら、このお肉とっても美味しいわ。もっと取っちゃいましょう」用意された豪華な食事を口にしながら歩いていると、香織は突然後ろから声をかけられた。「――あの、もしかして九条香織さんですか?」「そうですけど何か……?」振り返ると、そこにはグレーのスーツに身を包んだ紳士的な男性が立っていた。黒い髪をオールバックにし、メガネをかけた長身の男の人だった。香織は何故か、その姿に既視感を感じた。どこかで見たことがあるような……?どう考えても初対面であるはずなのに、何故か他人とは思えなかった。年齢はおそらく香織よりも四、五歳上の三十くらいだろう。「初めまして、私はフォーサイドプロモーションの取締役をしています。伊達(だて)と言います」「取締役……初めまして、九条香織です」どうやら彼は、隼人の所属する事務所の役員のようだ。どこかで見たことがあるような気がしたのはそのせいだったのか。大手芸能事務所の幹部ならば、テレビやネットに出ていてもおかしくはない。「こうして九条様とお会いできるだなんて、とても嬉しいです」「嬉しい……ですか?」その言い方だと、まるで前々から香織のことを知っていて会いたかったと言っているように聞こえる。そんな彼女の疑念を感じ取ったのか、彼は弁解するように両手を横に振った。「いえ、九条様のお話は社長から聞いていましたので……少し興味があったのです」「あら……そうだったんですね」社長が自分のことを周囲に話していたとは、驚きだ。なかなか自分から喋ろうとしない香織に、彼がクスクス笑った。「どうやら緊張しているようですね」「あ、いえ……芸能人ばかりのパーティーに来るのは初めてなので……」「まぁ、初めてではそうなるのも当然でしょう」香織は目の
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第206話

気のせいか、香織に声をかけてきた彼は、亮太にどことなく似ていた。しかし、彼が亮太と関係があるわけがないということを彼女はよく知っていた。(……気のせいよ、彼と亮太は何の関係も無い)香織は亮太のことをすぐに頭からかき消し、きっと他人の空似というやつだろうと結論付けた。彼女がそう思ったのにはいくつか理由があった。まず、亮太に兄弟はおらず、一人っ子だということ。それに加え、今まで何度か参加したことのある羽川家の親族を集めた会でも、彼の姿は無かった。ボーッと自身を見つめている香織に、彼が声をかけた。「どうかしましたか?」「いえ……伊達さんが私のよく知る誰かに似ているような気がして」「そうでしたか……私はどこにでもいる顔ですから、よく言われます」「ど、どこにでもいる顔ですか……?」いや、決してどこにでもいるような顔ではない。しかし、世界には自分に似た顔の人が三人いると言うだろう。彼はきっとそのうちの一人なのだ。だから、あまり気にする必要も無いだろう。それから香織は、彼と他愛もない会話を続けた。亮太に似ていると思っていた彼だったが、性格は正反対だった。礼儀正しく、人当たりの良い紳士的な男性だった。(この若さで大手企業の役員だなんて……すごい人なのね)亮太よりも持つ地位は低いものの、彼よりもずっと人として尊敬できる。「どうやら話しすぎて、九条さんの大切な時間を奪ってしまったようです」「いえいえ、そんなことはありません。私もお話できてとても嬉しかったです」香織はニッコリ笑い返し、最後に彼と握手を交わした。ちょうど他にも挨拶をしたいと思っていた人たちがいたため、ここらで話を終えるのがちょうどいいだろう。「それでは失礼します」「ええ、また機会があれば」香織は挨拶をし、彼の前から立ち去った。きっと二度と会うことはないだろう。彼女はそう思っていたが、彼の方は香織と全く違うことを考えていた。***「……」伊達――と名乗った彼は、去って行く香織の後ろ姿をじっと見つめていた。そんな彼に声をかけたのは、香織をパーティーに誘った張本人である隼人だった。「伊達さん、九条さんと何を話していたんですか?」「隼人……ちょっとした世間話だよ」彼は気さくな性格で所属タレントたちから慕われており、普段からよく彼らとご飯に行ったりしていた。隼人はそういえばと何かを
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第207話

亮太に似た彼の元を離れた香織は、招待客の男性と話をしていた。彼女が会場入りしてからというもの、何故か話しかけてくるのは男ばかりだったが、いちいち気にしてなどいなかった。「九条さん、初めまして」「初めまして。今日は素敵なパーティーにご招待していただきありがとうございます」香織は男性と他愛もない会話を繰り広げていた。このとき、彼が香織を狙っていることに、彼女は気付いていなかった。元々人の好意に疎い香織は、自身がどれだけ異性から人気があるかを自覚していなかった。今回、男性ばかりが話しかけてきたのもただの偶然だと思っていたほどだ。「ところで……九条さんさえよければなのですが」「……?」彼は頬を僅かに上気させながら、香織の耳元にそっと顔を近付けた。彼女は不思議に思いながらも、彼の話を聞いていた。「今度、二人で食事にでも行きませんか?連絡先を交換していただければ……」「……すみません、そういうのはお断りしているんです」香織は迷いすら見せずに、即座に断りを入れた。ちょっとくらい悩んでくれてもいいのではないかと、彼はショックを受けたように青ざめた。「そ、そうですか……」「……ご希望に添えなくて申し訳ありません」男性は子犬のようにシュン……としながらも、諦めてその場から立ち去った。(ちょっとキツすぎたかしら……でも仕方が無いわよね、変に期待させてしまった方が罪よ)香織は結婚願望が無いというわけではなかったものの、好きでもない人の誘いを受けるようなことだけはしたくなかった。一度亮太との結婚で地獄を見ているせいか、今度はちゃんと愛のある結婚をしたかった。そのため、再婚には慎重にならなければならない。亮太のときみたくならないように、きちんとしたお付き合いをしないと。『――お前以外の女に興味なんて無い』そのとき、彼女の脳裏に浮かび上がったのは、つい先日会ったばかりの礼音だった。(どうして彼が……)何故、彼が出てきたのかはわからない。いや、香織は気付いていながらも知らないフリをした。「それより……美味しそうなご飯がたくさん並んでるわね」香織は一度礼音のことを頭からかき消し、目の前にある食事を楽しむことにした。彼女は元々九条家のお嬢様で幼い頃からテーブルマナーを学んできたため、食べる所作はここにいる誰よりも美しかった。そんな彼女に見惚れている男は会
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第208話

パーティーが終わり、香織が会場を出たのは人々が寝静まった夜遅い頃だった。彼女は迎えの車に乗るため、カバンを持って一人外へ出ていた。しかし、その足元はおぼつかず、顔は何故か真っ赤になっていた。「あれぇ……どっちに行けばいいんだっけぇ……」――そう、彼女は久々のパーティーで羽目を外し、飲みすぎてしまったのである。芹沢や亮太のことでストレスが溜まっていたというのもあり、今日くらい良いだろうとかなりのアルコールを摂取した。迎えも来るし、ここは有名人だらけだしということで、完全に気が緩んでしまっていた。「早く車に行かないと……」フラフラ歩き回った香織は、結局迎えの車まで辿り着くことができず、近くにあった電柱にぶつかってしまった。元々酒に弱い香織は、そこまで飲んでいなくてもベロベロに酔っ払ってしまう。香織は電柱に抱き着くような形で腕を回し、しばらくその場に留まっていた。――そんな彼女に、ある人物が声をかけた。「……お前、こんなところで何している?」「…………あれ、礼音?」顔を上げると、礼音が呆れたような顔でこちらを見下ろしていた。どうして彼がここにいるんだろう。礼音はパーティーに参加していないはずなのに。「礼音こそ、何でここに……」電柱から体を離し、彼の元へ向かおうとした香織はそのまま前に倒れ込んでしまった。倒れそうになった彼女の体を、礼音が慌てて抱き留めた。「おい!大丈夫か!」「……何か、飲みすぎちゃったみたい」赤くなった顔で、香織は腕の中から礼音を見上げた。転びそうになったはずみで、胸元が乱れている。その姿は非常に色っぽく、礼音は動揺を隠せなかった。「香織……」「礼音……」香織は飲みすぎているせいか、まともな判断をすることができず、自身を抱きしめる礼音の体にしがみついた。そうでもしなければ、立っていることができなかった。礼音は無意識に香織を抱きしめる腕に力を込めていた。その安心感からか、香織はウトウトしていた目を完全に閉じた。眠ってしまった彼女に自身の着ていた上着をかけ、礼音は軽々と抱き上げた。そして背後に控えていた秘書に、短く命令した。「…………九条家の運転手に連絡しろ。香織お嬢様は今晩――俺の家で預かると」「は、はい社長!」礼音は香織を抱いたまま、傍にとめてあった車に乗り込んだ。その間も、眠りに就く彼女の体は礼音がずっ
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第209話

香織は礼音の車に揺られながら、何とか意識を保っている状態だった。あまりにも酔っているせいか、まともな判断ができない。「香織、しっかりしろ……すごい酒の匂いだな……」「礼音……」礼音は自身の肩にもたれかかった香織から強烈な酒の香りを感じた。一体どれだけ飲んだんだ。あまり酒が強くないだろうに、起きたらきちんと叱っておかないと。「ねぇ……どこに行くの?」「俺の家だ、今日はそこに泊まっていけ」礼音はフラフラの状態である香織を胸に抱きしめた。酔っているせいか、香織はそんな状況気にも留めなかった。むしろ、彼の温かい腕の中が心地いいとまで思っていた。目覚めたら後悔するとわかっていながらも、香織は離れることができずにいた。車が礼音の自宅に着くと、彼は香織を抱き上げて車から降ろした。彼専属の運転手が、心配そうに声をかけた。「社長、よろしいのですか?九条家のお嬢様を連れ出すような真似をして」「大丈夫だ、相手が俺だからきっと社長も理解してくれるさ……それでも怒られるとは思うけどな」忠嗣は娘の香織をとても大切にしているし、継母の有真もまるで妹のように彼女を可愛がっている。相手が礼音なら、心配はされないだろうが……「まぁ、怒られるのは絶対に俺だけだと思うから……」「何か言いましたか?」「いや、何でもない」礼音は香織を抱いたまま、マンションの中へ入った。礼音が住んでいるのは、区内にあるタワーマンションだ。そこの最上階に、彼は暮らしている。幸い深夜であったため、家から出ている住民はほとんどいなかった。そのおかげで、変な噂を立てられずに済む。礼音はエレベーターで最上階まで移動すると、扉を開けて家の中に入った。彼女の靴を脱がせ、そのまま自身のベッドにそっと下ろした。「お前はベッドを使え、俺はソファで寝るから」「……」ドレス姿の香織は、ベッドの沈み込むとぐっすりと眠りに就いた。僅かに乱れたスカートからは素足が見え、礼音は心を動かされたが、必死で我慢した。礼音は、ベッドで眠る香織の頬に優しく手を触れた。真っ白な肌が、熱を帯びて赤くなっている。一体何杯飲んだのだろうか。頬に触れる彼の優しい手に気付いたのか、香織は微笑んだ。その姿があまりにも愛おしくて、礼音はもっと彼女に触れたいと思った。だが、付き合ってもいない女性にそのようなことをするわけにはいかない。これ以
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第210話

香織は礼音の首を抱きしめ、自分よりずっと大きなその体にしがみついた。彼女の体の香り、そして柔らかい肌を感じ取った礼音の胸が高鳴った。「香織……酔いすぎだ」礼音は何とか彼女を引きはがそうとするが、香織は彼の首を抱きしめる腕に力を込めた。目覚めたらきっと後悔するだろうに、酒のせいでまともな判断もできなくなっているようだった。「香織……」礼音は動くこともできず、ただじっとしているだけだった。いくらしがみついているとはいえ、相手は女性。本気で引きはがそうと思えばいくらでもできるはずだった。しかし、彼はそうすることができなかった。無礼な真似をしたくないというのもあるが、できることならずっとこのままでいたいという気持ちもあった。(俺は、本当にどうかしてしまったようだな……)夜遅くに男女がベッドの上で抱き合っている。この後起こるであろう展開は、誰でも容易に想像できることだった。礼音は自分から離れようとしない香織の体に腕を回し、強く抱きしめ返した。柔らかい髪の毛が、彼の手に絡みついた。「礼音……行かないで……」「行かないよ、俺はずっとここにいるから」まるで幼い子供のように縋りつく香織の頭を、礼音は優しく撫でた。もしかすると、怖い夢でも見ているのだろうか。心無しか、顔色が良くない。そんな彼女を絶対に一人になどしておけなくて、礼音は慰めるように体を抱きしめ続けた。「お前が抱えているものが何なのか知らないが……俺が全部受け止めるから」彼女にどんな過去があろうと、どんなに大きな過ちを犯していようとも、礼音はその全てを受け入れるつもりだった。香織が極悪な犯罪者だったとしても、きっと彼は彼女を嫌いになどなれないだろう。そんな気持ちが彼女にも伝わったのか、震えていた体が落ち着きを取り戻していった。今の状況なら、安心して眠りに就くことができる。そう思った彼は、彼女を優しく引き剥がそうとした。しかしその瞬間、香織は信じられないことを口にした。「――もう二度と、あんな思いはしたくないの……」「……何だと?」その一言に、衝撃を受けた礼音の手が止まった。「二度と……亮太のことなんて愛さないわ」「……」礼音は香織の体をそっと離すと、そのままベッドへ寝かせた。覆いかぶさるように横に手を付き、彼女をじっと見下ろした。「香織……やっぱりお前は……」―――前世の記
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