翌日の仕事終わり、迎えの車に乗り込んだ香織の視界の端に、見慣れたあの人物が映った。「ゲッ……アイツまだいるわ」香織は勤務先の会社の前で待ち伏せしている芹沢に、思わず眉をひそめた。車の後部座席で上半身を曲げて何とか彼から隠れる。そんな彼女の姿を見た運転手が、不思議そうに尋ねた。「お嬢様、お知り合いですか?」「……いいえ、知らない人よ」運転手に芹沢との間でトラブルを抱えていることがバレたら、間違いなく父に報告がいくだろう。それだけは避けなければならない。(もう、いい加減に私を自由にしてよね)香織は職場の前でキョロキョロと彼女を探す芹沢の姿を横目に、車で彼を通り過ぎた。九条家の力を使えば、彼が二度と自身の目の前に現れないようにすることくらいはできそうだが、できるだけ事を荒立てたくはなかったのだ。(……まぁ、拒絶し続けていればいつかは諦めるでしょう)香織の予想通り、この後彼女が手を下すまでもなく、一連の事態はすんなりと解決した。――彼女を一途に想う、ある人物の手によって。***「香織、出てこないな……あの女が今ここで勤務してるってたしかに”あの方から教えてもらったというのに……」芹沢は一人ブツブツと呟きながら、物陰に隠れて香織が出てくるのを待っていた。彼女はすでに車でこの場所を離れてしまったということを、当然彼は知らなかった。彼はあの日から、毎日のように香織に対してストーカー紛いの行動をしていた。全ては彼女を手に入れ、再び成り上がりたいという彼の思いからだった。香織は九条グループの一人娘であり、九条忠嗣に男児はいない。そのため、彼女の婿となったものが九条グループの全てを手に入れられると言っても過言ではなかった。美人な嫁だけでなく、高い地位と名誉まで手にすることができる。何て最高なんだと、彼はそんなありもしない夢を見て香織に狙いを定めていたのだ。いつまでも出てこない香織に痺れを切らし、彼は爪を噛んだ。「クソッ……いっそ既成事実でも作った方が……」「――何一人でブツブツ喋ってるんだ?」突然背後から聞こえてきた低い声に、芹沢はビクッと肩を上げた。彼はおそるおそる首を動かし、後ろを振り返った。「お、お前は一体……!?」そこに立っていたのは、礼音だった。しかし、芹沢は彼が誰だかわからなかった。「何だ、俺を知らないのか?羽川の秘書のくせに
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