All Chapters of 夫の拷問で死んだ私、今世は離婚します!今さら泣いて縋っても戻りません!: Chapter 221 - Chapter 230

239 Chapters

第221話

先ほどから何度も向けられる、軽蔑の眼差し。それは少なくとも、何の罪も犯していない一般人に向けられるようなものではなかった。亮太は罪を犯していないわけではないから、考えられる可能性はただ一つ。(コイツら……一体どこまで知っているんだ?)彼には警察の上層部が付いているはずだった。しかし、警察の手が及んだということは何らかの異常事態が発生したのだろう。バレている可能性が高かったが、彼もそう簡単に罪を認めるわけにはいかなかった。警察がまだ確実な証拠を手に入れていない以上、彼が自白さえしなければ有罪になることはない。(それに、俺は何も間違ったことはしていない。全ては日菜乃に毒を飲ませたあの女がいけないんだ)愚かにも、彼は本気で香織に非があると思っていた。「……何のことだか、全くわからないな」「しらばっくれるおつもりですか?社長――いえ、もう何と呼べばいいのかわかりませんね」「……何だと?」亮太は地元ではかなり名の知れた人物だった。当然、彼の地区の管轄である警官たちも彼の存在を知っていた。いつも町内ですれ違うたびにペコペコと頭を下げてくるような男たちが、今日に限ってやけに威圧的だった。釈放されたら必ず報復してやる――と彼は心に誓った。「今からおよそ一年前……あなたの住む羽川家の近くから一人の女性の遺体が発見されました。遺体は至るところが激しく損傷しており、死因が特定できないほどでした」「……」一年前と言えば、ちょうど香織を地下牢に閉じ込めて拷問を加えた時期だった。亮太は全てを実行犯たちに任せたこともあって、彼女の最期を詳しくは知らなかった。――死因が特定できないほどに損傷した遺体。彼女があの地下牢で、凄惨な拷問を受けて死んでいったという証だった。「遺体の身元は……あなたの前の奥さんでした」「……それがどうした?俺と彼女は既に離婚しているんだ。何の関係もない」亮太は香織が亡くなる数日前に、彼女との離婚届を役所に提出していた。当然、彼女は記入などしていない。亮太が捏造したものだった。その時点でれっきとした犯罪ではあるが、あまりにも罪を犯しすぎている彼にとってはそんなもの気にもならなかった。何より、愛する日菜乃と一緒になれるのなら一抹の迷いさえ抱かなかった。「あなたは前の奥さんの葬儀にも出なかったそうですね?離婚して数日しか経っていないにも
Read more

第222話

亮太は自らの発言が最悪の事態を招いてしまったことに、そのときようやく気が付いた。警官たちの目が険しくなっていく。もう気付かれているような気もするが、犯人だと疑われるわけにはいかない。彼は慌てて弁明をした。「ち、違う……俺はただ、知り合いの警察からそのことを聞いただけだ……ほら、俺はアイツの親族だから、聞かされていてもおかしくはないだろ?」「……さっきは他人だって言ってませんでした?」先ほどまでは他人のフリをしていたくせに、都合が悪くなったら親族を気取るとは。一体どこまで亡くなった被害者を侮辱するつもりなのか。彼らは今まで警察として、多くの事件の加害者と向かい合ってきたが、ここまで自己保身に走る人間は珍しかった。上級国民だからといって、必ずしも人格がまともであるというわけではないのだ。「警官が、事件の詳細なんて話すわけないでしょう――容疑者の最有力候補に」「な、何だと……?」警官は、亮太に向かってハッキリと容疑者の最有力候補と言った。(コイツらもしや、既に俺がやったことを突き止めているのか……?)嘘だ、そんなはずはない。俺には警察幹部がついている。バレるわけがないのだ。彼はそのように考えることで何とか心を落ち着かせた。しかし、そんな彼の希望はすぐさま粉々に砕かれた。「我々は一年前からずっと、あなたをマークしていました。あなたが上層部と繋がっていたおかげで、逮捕するまでずいぶんと時間がかかってしまいましたがね」「な、なぜそれを……!」驚くことに、警官たちは彼が幹部と繋がっていたことを既に調査済みだった。「あなたと関わっていた上層部の者は、全員今回の一件で解雇されることとなりました――つまり、もうあなたの味方はいない」「……」亮太に、もう逃げ道は残されていなかった。みっともなく最後まで悪あがきを続けていた彼は、警官のその一言でとうとう観念した。たとえ、地位や名誉を全て失うことになったとしても……日菜乃と朱里だけは守り抜かなければならない。窮地に追い込まれてもなお、亮太は愛する二人の未来だけは守ろうと必死だった。その愛を、優しさを、僅かでも香織に与えてあげられたなら。きっとこのような末路は迎えていなかっただろう。「さぁ、社長。いえ、羽川亮太。全てを話してもらいましょう」「……」しばらく俯いていた彼は、顔を上げると、ゆっくりと口
Read more

第223話

亮太は警官に向けて、自らの犯した罪を自白した。香織を地下牢に閉じ込め、凄惨な拷問を加えたこと。そしてボロボロになった彼女の遺体を道端に捨てたことも。あまりの残酷な仕打ちに、ベテラン刑事たちも絶句するほどだった。彼は日菜乃と関係を持つようになってからというもの、人の心を捨てた。なぜそのようになってしまったかはわからない。ただ、彼女を幸せにしたいという思いが行き過ぎたものとなったのだろうか。振り返れば振り返るほど、自分が人間ではないと感じてしまう。「なぜだ、被害者の女性はお前の妻だろう?なぜそんなに残酷な仕打ちができる?」「……さっきも言ったが、俺と彼女は政略結婚で愛なんてないんだ」「仮にそうだったとしても!他に好きな女ができたのなら、ただ離婚すればいいだけの話だろう!彼女に一体何の恨みがあったんだ!?」警察の言っていることはごもっともだった。日菜乃と一緒になりたいのであれば、香織と離婚すればいいだけだ。仮に亮太側に非があったとしても、別居期間が長ければ有責配偶者側からでも離婚はできるのだから。なぜ、彼が離婚という道を選ばずにあのようなことをしでかしたのか。きちんとした理由がそこにはあった。「お前たちは知らないだろうがな……あの女は日菜乃に毒を飲ませたんだ」「……何だと?」そう、香織は何の落ち度もないただの被害者ではない。彼女には当時愛人だった日菜乃の飲み物に毒を盛り、飲ませたという罪があった。そのせいで日菜乃は、数日間地獄のような苦しみに耐えなければならなかった。幸い一命は取り留めたものの、香織のせいで日菜乃がどれほどの苦痛を受けたか。流石にこの話には警官も気持ちを理解してくれると思っていた彼だったが、返された言葉は予想だにしないものだった。「……お前、どこまで愚かになれば気が済むんだ?」「……何だと?」警官は一枚の紙を取り出した。「お前の今の嫁――羽川日菜乃、旧姓山川日菜乃については既にこちらで調べてある。あの女、かなりの虚言癖があるようだな。学生時代から嘘で人を貶めることが趣味だったそうだ」「……う、嘘だ……そんな……」そこで語られたのは、亮太が初めて知る日菜乃の過去。彼に事前に教えていた過去の話とは全く違っていて、彼は動揺を隠せなかった。(ということは……日菜乃は香織を貶めるために自ら毒を飲んだということか……!?)彼
Read more

第224話

既に大きな罪を犯してしまった今になって日菜乃の黒い本性に気付くだなんて、亮太は情けなくて言葉も出せなかった。絶望の表情で項垂れる彼を前に、警官たちは同情もせずにただ軽蔑の視線を向けているだけだった。――彼がどれだけ後悔したところで、香織は返ってこない。毒を盛ったと思ったのなら警察に突き出すだとか他にいくらでも制裁する方法はあったはずだ。数々の断罪方法があった中で、わざわざ最も残忍な方法を選んだのだ。取り調べを行っていた警官は立ち上がると、俯く彼に向けてハッキリと告げた。「羽川亮太……あなたは人間ではありません」「……」亮太は否定も肯定もせず、ただ黙っているだけだった。それはまるで、自分が人間ではないということを事実として認めているようだった。「香織さんとそのご家族のためにも……私たちはあなたに無期懲役を求刑します」「な、何だと!?」――無期懲役。一般的に死刑の次に重いことで知られる刑罰であり、その刑を言い渡された者は死ぬまで刑務所から出られない。運良く仮釈放の機会を得られたとしても、三十年近くを刑務所で過ごさなければならないのだ。「ま、待ってくれ……無期懲役だなんて一番地獄じゃないか……」彼は立ち去ろうとする警官に縋り付いた。無期懲役になるのならば、まだ死刑のほうがよかった。惨めな男として刑務所の中で生きるくらいなら、彼は死んだほうがマシだったからだ。「死刑にしろよ!俺のことを人間だと思ってないんだろ!?だったら死刑にしろよ!香織の家族のためにもそっちのほうがいいに決まってるだろ!?」警官はそんな彼の気持ちを見抜いているようだった。亮太にとっては死刑よりも無期懲役のほうが罰になる。香織は楽に死ねなかったのだから、お前もそう簡単に死なせるわけにはいかないという心の声が聞こえたような気がした。(ふざけるな、俺はただあの女に騙されただけだ!)無期懲役だなんて、あまりにも重すぎるだろう。彼のそんな願いは届くことなく、裁判当日を迎えた。***「――被告人、羽川亮太に無期懲役を言い渡す!」事件の凄惨さ、亮太の身勝手な犯行動機、そして無実を主張する彼の態度は反省の様子なしと判断され、亮太には第一審から無期懲役が言い渡された。「無期懲役だと!?死刑にしろよ!」反省していないフリをしたのは死刑になるためだったのに、そんな彼の目論見は外
Read more

第225話

控訴し、さらには上告までした亮太だったが、結局判決が覆ることはなかった。彼の無期懲役は確定し、法廷で怒声を上げた。「ふざけやがって!お前ら、俺を誰だと思っているんだ!」「静粛に!」亮太はもう我慢の限界だった。羽川家のトップとして、輝かしい人生を歩んできた彼がこんなにも一瞬で落ちぶれるとは、一体誰が想像しただろうか。今の彼は囚人服を着せられ、さらには頭を丸刈りにされている。その姿は誰が見ても罪人そのもので、街を歩くだけで女性たちの視線を集めていた以前とは全く違う。ふと傍聴席に目をやるが、男女共に彼に蔑みの眼差しを向けている。少し前までは羨望や憧れだったそれは、いつの間にか嫌悪へと変化していた。(どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって……!)事件の発端となった日菜乃は裁判にすら現れなかった。おそらく彼が捕まったことで自らの罪が発覚することを恐れ、逃げたのだろう。――悔しくてたまらなかった。ちょっと前までは何が何でも彼女を守り抜くと誓った。しかし、こんなにもあっさり裏切られ、見捨てられるとは思ってもみなかった。「誰か俺を助けろ!誰でもいい!それか俺を殺してみろ!今なら呆気なく殺すことができるぞ!俺は逃げも隠れもしないからな!」警官に取り押さえられながらもみっともなく騒ぐ亮太に、裁判長は眉をひそめた。既に刑は確定した後で、彼がどれだけ足掻こうと覆ることはない。わかってはいるが、抵抗せずにはいられなかった。どうせこの後永遠に刑務所にぶち込まれるのだ。最後に悪あがきでもしないと、彼の怒りは収まらない。あれだけ死刑になるように働きかけたというのに、それも全て無意味だった。亮太は手錠をかけられたままの手で、証言台に置かれていた書類を思いきり叩き落とした。警察官が何人も法廷の外からやって来て、数人がかりで彼を取り押さえる。「放せ!そうだ、そのまま殺せ!殺してしまえ!そうすれば俺も満足だ!」亮太はもはや正気を保つことすらできず、言っていることが支離滅裂だった。精神異常者を演じて減刑を狙っているというわけではなく、ただ本当におかしくなってしまったのである。裁判長は見苦しいと、亮太に退廷を命じた。警察官たちは彼の腕を掴んで身体を引きずっていく。その最中も、亮太は傍聴席に向かって叫んだ。「お前ら覚えておけよ―――俺が死んだら、地獄から呪ってやるからな!」
Read more

第226話

裁判が終わり、亮太は地方の刑務所に入れられることとなった。彼は今日を以て羽川の社長という地位を失い、無期懲役囚となる。「ふざけやがって!俺を誰だと思っているんだ!」彼の逮捕に尽力した礼音や忠嗣たちが安堵する反面、本人は当然納得いっていなかった。(俺はあの女を殺してなんていない!殴ったのは別の人間で、外へ放り出したのも俺ではない。それなのに、なぜ俺が捕まらなければならないんだ!)刑務所へ放り込まれた彼は、不満を隠しきれなかった。亮太はたしかに実行犯ではなかったものの、犯した罪は最も重いと言えるだろう。当然、愚かな亮太はそのことに気付いてもいなかったが。(無期懲役だなんて……馬鹿げている。俺は再審請求をするからな。絶対に諦めない)状況を考えれば再審請求が通るわけもないのだが、彼は心に余裕がないせいか、まともな考えができなかった。必ず生きてここから出ると決意を固め、今は仕方なく刑務所に入った。通された部屋は質素で、彼が暮らしていた羽川家の部屋とは雲泥の差だった。亮太が新しく住まいとするのは雑居と呼ばれる共同部屋で、彼以外にも二人の囚人が暮らしていた。――この俺が、こんなにも薄汚い部屋で他人と共同生活を送らなければならないとは。亮太の胸に沸々と不満や怒りがこみ上げてくる。彼は抑えることができず、ポロッとこぼした。「……こんなところで暮らさないといけないのか?」その一言に、同部屋の囚人たちが眉をひそめた。常に自分のことしか考えていない亮太は、当たり前のように気付いていない。(……まぁ、どうせすぐに出られるはずだ。少しくらい、我慢してやるか)亮太はそんな甘い考えで、刑務所での生活をスタートさせた。――彼が本当の地獄を味わうのは、ここからだった。***亮太が収容された刑務所は、生命犯と呼ばれる人を手にかけた凶悪犯が大半を占めていた。彼は直接手を下したわけではないが、やったことは彼らとそう大差ない。彼も社会に出ていた頃は周囲に比べて残酷な考えの持ち主だったが、ここにいる者たちはハッキリ言ってレベルが違った。強盗をするために家に入ったら家主にバレてそのまま殺してしまったとか、まだ幼い子供を誘拐して何の迷いもなく手にかけたとか。亮太ですら吐き気を覚えるほどだった。(納得できない、なぜ俺がこんなヤツらと一緒に暮らさなければならないんだ!)彼は自
Read more

第227話

刑務所内では、亮太の存在はかなり異質だった。若く美しく、さらには社会的地位の高い人間がこんなところに入ってきたのだから当然だ。彼のことはあっという間に噂になった。羽川の元社長であり、元妻を拷問殺害した罪で捕まったこと。わざわざ彼が喋らずとも、誰から聞いたのか、彼の罪状はいつの間にか刑務所に収容されている全員が知るところとなった。当然、再審請求をすることに夢中だった亮太は自身が置かれた状況に気付いていなかった。この場所に、彼の味方は誰一人としていない。刑務官ですら、彼を嫌悪しているほどだった。亮太の刑務所暮らしが始まってからしばらくすると、彼への嫌がらせが始まるようになった。ある日、彼は公衆の面前で知らない受刑者に絡まれた。「お前、元妻を拷問したんだって?綺麗な顔してとんでもねえことするんだな」「何だと?お前こそ犯罪者のくせに、生意気だぞ!俺を誰だと思って――」言い終わる前に、男の拳が腹にめり込んだ。「グッ……!」亮太はうめき声を上げて、後ろに倒れ込んだ。男は尻餅をついた亮太にゆっくり近づき、髪の毛を掴んで持ち上げた。「お前、誰に向かって口利いてるんだ?」「ッ……」そのまま倒れ込んだ亮太に、何発も蹴りを入れた。騒ぎを聞いた刑務官が止めに入るまで、男からの暴力は続き、亮太はボロボロになった。喧嘩慣れしていない彼は、やり返すことすらできなかった。刑務所に入る前に彼が常に振りかざしていた羽川家の権力など、この場所では何の役にも立たなかった。それを表に出せば出すほど、彼は嫌われていった。プライドの塊である亮太は、刑務所内で序列が上の囚人たちから目を付けられてしまったのだ。刑務官が止めに入り、事態は収束したと思ったが、何と罰として独房に入れられたのは亮太だけだった。喧嘩を仕掛けた側の男は何の罰も課されることなく、亮太だけが一人ぼっちで辛い目に遭う羽目となった。後に知ったことだが、あの場にいた全員が、亮太から先に手を出したから正当防衛だったと証言したのだ。結果、亮太のみが罰を受けることとなった。もちろん彼は刑務官に真実を訴えたが、彼一人の証言ではとても信用されなかった。元より彼は、残酷な罪状と生意気な態度で刑務官からも毛嫌いされていた。そのため、話を聞いてすらもらえなかった。(クソがッ……!アイツら覚えてろよ!俺が刑務所から出たら羽川
Read more

第228話

亮太の刑務所生活は、最初から思い通りにならないことばかりだった。大企業の社長として贅沢な暮らしを送ってきた彼にとって、刑務所暮らしは耐えがたいものだった。部屋も小さいし、食事だって質素で美味しくない。今まで高級ディナーばかり食べてきた美食家の彼の口にはとても合わないものばかりが出された。それに風呂も、一週間に二回ほどしか入れなかった。そのせいで髪の毛はべたつくし、汗臭いしで最悪だった。刑務作業は単純すぎてつまらないし、長く働いたところで大した額を稼げない。――汗水たらして働くというのは、こんなにも大変なことだったのか。亮太はこのときになってようやく、労働の大変さに気が付いた。彼は大学卒業後、すぐに羽川の社長となった。学生時代はアルバイトもしていなかったため、刑務作業は初めての経験だらけだった。刑務作業と言ってもいくつか種類がある。物を製作する生産作業、除草などを行う社会貢献作業、刑務所内の炊事や洗濯をする自営作業。そのほかにも事務や図書などがある。亮太が配属されたのは炊事だった。彼は当然、生まれてから一度も料理なんてしたことがない。羽川家では基本的に家政婦が炊事を担当していた。なぜ、美味しくもない飯を時間をかけて作らなければならないのか。とても無駄な時間を送っているような気がして、彼はここにいる自分に嫌気が差した。しかし、抵抗したところでどうにもならないことを知っている。こんなにも毎日のように働いても、給金は月千円にもならないのだから驚きだ。生活に困ることはないものの、千円で何ができるというのか。亮太の普段の金銭感覚からすれば、千円はランチすらできないような額である。来月からは少し時給が上がるようだが、最高でも月給は一万以下だ。あまりの惨めさに、亮太は本気で死にたくなった。(クソッ……早くここを出なければいけないというのに……)極めつけは、同じ刑務所に収監されている囚人たちからの執拗な虐めだった。亮太は元大企業の社長で、お坊ちゃま。それに加えて元妻を拷問の末に殺害させた男だった。拷問の中に性的暴行が含まれていたことも、世間に公表されていないはずなのにいつの間にか知れ渡っていた。性犯罪者は刑務所内でも最底辺であり、囚人たちから軽蔑の対象となる。そのせいか、亮太は初日から激しい嫌がらせを受けるようになった。暴言を浴びせられるのは日常
Read more

第229話

亮太の刑期は無期懲役。有期刑ではないため、いつ頃出られるのかは誰にもわからない。亮太は今すぐにでもここを出たかったが、やはり再審請求はいつまでも通らなかった。気付けば、刑務所に入ってから一年が経過していた。こんなにも上手くいかないことだらけだと、流石の亮太も諦めるようになった。囚人たちから常に暴力を受け続けているせいで、彼の身体はアザだらけになっていた。亮太は喧嘩なんてほとんどしたことがない。唯一やったことがあるとすれば、日菜乃の元恋人を暴行したあの一件だ。繋がりのある警察上層部の権力を使ってもみ消してもらった暴行事件。そういえば、その件でも起訴されたっけ。犯した罪が多すぎて、もはや何で捕まっているのかすらよくわからない。一番の罪は香織を殺害したあの事件だろうが、それ以外はほとんど覚えていなかった。仮に覚えていたとしても、彼には反省する気など微塵もなかった。そして今日も亮太は、囚人たちからの暴力に耐えていた。「ウッ……」一人の囚人が腹いせに放った一発が、彼の腹部にめり込んだ。彼は何人もの男たちに取り囲まれ、壮絶な暴力を受けていた。「は、離せ……」後ろから羽交い絞めにされているせいで、抵抗することもできない。喧嘩慣れしている彼らの前では、自分などあまりにも無力だった。彼が収監された刑務所は凶悪犯が多いうえに、刑務官も腐敗している無法地帯だった。かなり昔に見た、海外の映画に出てくる悪辣刑務所にそっくりだ。ようやく解放された亮太は、血まみれの状態で地面に倒れ込んだ。そんな彼を気にかける人間は、少なくともここには誰一人としていない。亮太は痛みにうめきながらも、何とか唇を動かした。「お前ら恥ずかしくないのか……一人の人間を大勢で攻撃するだなんて……」「………何だと?」その言葉を聞いた途端、暴行していた男たちは大口を開けて笑い始めた。(な、何がそんなに笑えるんだ!)亮太は自分を見下すように笑い続ける彼らを前に、羞恥心で身体が震えた。リーダー格の男は倒れ込んだ彼にゆっくり歩み寄ると、そのまましゃがみ込んだ。「恥ずかしいのはどっちだよ?なぁ、お前だって似たようなことしてたんだろ?しかも一度は愛した元嫁に」「……!」――そのとき、亮太はようやく自身の犯した罪に気が付いた。亮太は自ら手を下してはいないものの、香織を激しい拷問の末に死なせて
Read more

第230話

――ようやく目が覚めた頃、亮太の目からは涙が溢れていた。「お、俺は……一度死んでいたのか……!?」我に返った亮太は慌ててベッドから身体を起こした。身体中から汗が流れ、悪夢を見たせいか頭痛がする。部屋に飾られている時計に目をやると、時刻は深夜の三時だった。まだまだ、外は暗い。部屋の中も真っ暗で、電気を点けなければ何も見えない。しかし、目が暗闇に慣れてしまっているせいか、ある程度の物の位置はわかった。彼は部屋にあったペットボトルの水を手に取ると、中身を一気に飲み干した。常温でぬるい水だったが、おかげで頭の中はスッキリした。「……あれは、一体」今でも鮮明に残る、ついさっきまで見ていた夢の記憶。今日に限ってなぜこんなにも記憶に残っているのだろうか。いつもは見たところですぐに忘れてしまうというのに。夢にしてはあまりにも鮮明で、生々しかった。彼は最後の最後、囚人に踏みつけられた右腕をそっと手で押さえた。当然、そこには傷も無ければ痛みも無い。しかし、なぜか震えが止まらなかった。またあのような経験をするのではないかと、恐ろしくてたまらなかった。明日も仕事がある。亮太は当然、毎日暇ではない。しかし、彼はこれ以上眠れなさそうだった。(もし、あの夢をあと一回でも見てしまったら……)――次こそ、彼は壊れてしまうかもしれない。あんな体験をするだなんて、二度と御免だ。眠れそうになかった亮太は、そのまま部屋にあるソファにドサッと腰を下ろした。未だ、僅かに痛む頭が、あれは夢ではないのだということを伝えているようだった。なら、あの一件は現実に起きたことだというのか。自分が刑務所に入れられたなどとても信じられないが、それ以外には考えられない。――確かめなければならない、あの夢の真相を。真実を知るためには、何をすればいいのか。彼はしばらくじっと考えた後、夢の中で何度も出てきた一人の女を思い浮かべた。「香織……」最後まで、彼の心の中にいた女性。彼は死ぬ寸前、あれほど愛した日菜乃ではなく香織のことを思いながら死んでいった。香織なら、もしかすると何か知っているかもしれない。そうだ、彼女に会いに行ってみよう。***一方その頃、香織は礼音の家でベッドに横になっていた。「ちょ、ちょっと何するのよ!」「いいだろう?俺たちは正式に恋人同士になったわけだし」ベッドに横た
Read more
PREV
1
...
192021222324
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status