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All Chapters of 怪人の花嫁: Chapter 51 - Chapter 53

53 Chapters

51話

「うた、どこですか!?」 聞こえてきたのは、文彦の焦った声と、乱雑にドアを開ける音。そして、何かが倒れる音。「文彦さん? ここ、奥の方です」 答えるや否や、文彦はうたの元へ駆け寄り、彼女を見つけると目の前に座り込んだ。薄暗いせいか、顔色が悪く見える。「あなたには、こんなところ、来てほしくなかった……」 消え入りそうな文彦の声に、胸が苦しくなる。だが、それ以上の希望が今、うたの手元にある。「私は、来てよかったと思います」「何故……?」「これを、見てください」 文彦は怪訝そうな顔をするも、ノートを受け取り、壊れないように優しくめくった。「これは……」「文彦さんのお母様の日記です」 うたの言葉に息を呑み、文彦は再び頁をめくる。書物庫には、ふたりの息遣いと頁をめくる音だけがする。 しばらくして、文彦はノートを閉じ、床に置く。「あ、あぁ……!」 悲しみとも、喜びとも取れる声。うたはじっと、文彦を見つめ、彼の言葉を待つ。「ねぇ、小生は、愛されたかったんです……」 ぽつりとこぼれる言葉。愛おしそうな目でノートを見下ろし、指先でなぞる。「最初から、叶ってたんだ……」「今も、叶ってます。私が、ずっと叶え続けます」「うた……」「文彦さん、あなたが、好きです。愛しています。この先も、ずっと」「うた、小生も、あなたを……」 どちらからともなく、唇を重ね、熱い雫を流す。忌々しかったはずの書物庫に、静かな愛の時が流れる――。
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52話

 書物庫での出来事があってからの文彦の行動ははやく、使用人達を全員解雇した。「誰がこの屋敷を管理するというのですか。後悔しますよ」 負け惜しみのように言うふさの背中を押し、扉を閉める文彦を見て、彼の成長を感じる。(こんなことで言うのも変だけど、文彦さん、変わったな。いい方向に)「うた、これから忙しくなりますよ。まずは、あなたの実家がある町に向かいましょう」「はい」 外に出ると、馬車が待機していた。よく見ると、御者が違う人になっている。「職を失くして困っていた方です。真面目だけが取り柄だとおっしゃっていたので、雇ってみました」「山本です、よろしくお願いしますよ、お嬢さん」 山本と名乗る中年男性はにかっと歯を見せて笑った。今までの御者よりも好感が持てる。「ささ、どうぞ」 山本は恭しくも粗野な仕草でドアを開け、ふたりが座ったことを確認してから閉める。うたが生まれ育った町に着くと、馬車はある場所に停まった。「ここって……!」 風が吹けば倒れそうな小屋。そこは親友であるはるの家だった。「彼女達を雇うことにしました。呼んでください」「はい!」 馬車を降りて戸を叩くと、大きな風呂敷を抱えたはると母親が出てきた。「うたちゃん! 本当にありがとう。私達を雇ってくれるなんて、本当に、なんと言えばいいのか……」「娘から聞きました。あなた達が色々支援してくださったおかげで、あとは体力を戻すだけになりましたよ」 はるの母親は、にこやかにうたを見る。以前は今にも死にそうな顔をしていたというのに、今は活力がみなぎっている感じがする。彼女の劇的な回復が嬉しくて、目頭が熱くなる。「いえ、そんな……。ほとんど、文彦さんのおかげです」「そんなことないよ。うたちゃんが言い出してくれたから、私達はこうして生きられるの」「どういたしまして。さぁ、行こう」 これ以上謙遜するのは失礼だと思い、彼女達の言葉を受け取ると、夫婦でふたりに手を貸して馬車に乗せた。 屋敷に戻ると、自動車や台車が何台も停まっていた。「これは、いったい……」「まだ言ってませんでしたね。引っ越します」「え?」「この屋敷は、あまりにも広すぎる。それに、少々不便な場所にあるでしょう? うたの実家の近くに、新しい屋敷を建てている最中でして」「でしたら、引っ越しはまだ先じゃ……」「えぇ、そう
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53話

 引越し作業を始めて半年が過ぎた頃、文彦は全員に荷物をまとめるように指示をした。「いよいよ引っ越しね」「あぁ、ようやくこの忌々しい屋敷とさよならだ」 この頃になるとふたりとも敬語が抜け、以前より夫婦らしくなってきた。「うた、あなたの荷物は小生がやるから、あなたはゆっくりしてて」「そんな、悪いよ。皆頑張ってるのに」「あなたひとりの躯じゃないんだから、無理をしないでほしいんだ。もう少ししたら、ちえがお菓子を持って来るから、一緒にお茶をしてるといい」 文彦の柔らかな視線は、うたの膨らんだおなかに向いた。うたのお腹には、新しい命が宿っている。妊娠が発覚してから、文彦はうた以上に彼女を身長に扱い、はる達からは「過保護すぎる」と笑われるほどだ。「ふふ、お言葉に甘えようかな」「あぁ、そうしてくれると助かる」 文彦はうたを応接室にエスコートすると、温かい飲み物を持っていくよう、はるに頼んだ。「姉様、お待たせ」 しばらくしてちえが、うたの大好物であるすあまを持って遊びに来てくれた。彼女は少し早めの花嫁修業として、時々屋敷に来ては、うたやはる、はるの母親に家事を教わっている。引っ越したら、毎日のように来る予定だ。「ありがとう、ちえ」「どういたしまして。お腹の子、順調?」「うん。お医者様も、今のところ問題ないって」「そっか、よかった」「そういえば、ちえは新築見たの?」「近いから、外観だけは嫌でも見えるよ。素敵なお屋敷、とだけ言っておくね」 ちえはいたずらっぽく笑うと、大きな口を開けてすあまにかぶりつく。「もう、大きな口開けて……。はしたないじゃない」「普段はちゃんとしてるんだから、姉様の前でくらい、許してよ」「そういう気の緩みが、大事な場所でのミスを招くの。嫁ぎたいなら、今から練習しておきなさい。私よりもいい家に嫁ぐんでしょ?」「はーい……」 不満そうにちびちびすあまを食べる妹を微笑ましく見守ってる間、引っ越しは着々と進んでいく。 引っ越しが終わったのは6日後のこと。文彦のエスコートで馬車に乗り、他愛のない話をしながら新居へ向かう。「ここだよ。さぁ、手を掴んで」「ありがとう」 文彦の手を借りて馬車から降り、顔を上げる。「わぁ、素敵……!」 眼の前には程よい広さの庭園と、小さな洋館。以前住んでいた屋敷の半分ほどだろう。それでもと
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