そんな目まぐるしい日常の中、うたの中で大きく変わる出来事が起きた。日曜の午前、うたはいつものように洗濯物を干していた。大きなシーツにうたが隠れていたせいで彼女に気づかなかったのか、サボりに来たであろう使用人達の悪口大会に出くわしてしまったのだ。「はぁ、こんなところ、やってらんないわ。怪人の使用人なんて、いつ殺されるか分かったもんじゃないよ」「給料がいいんだけどねぇ」(なんて言い草なの……!) 怒りで拳を固くする。いつもなら「また幼稚な戯言が始まった」と思うのだろうが、多忙で余裕がない今のうたには、不愉快だった。「にしても、あの化け物。ついに女を拐ってきたか」「しかも、あれでも一応華族なんだろ? そうは見えないけどな」「あはは、確かに。ちょっと可愛いけど、なんか野暮ったいのよねぇ」(鏡を見たことがないのかしら) 自分を嘲笑う使用人達に、うたは小首をかしげた。人の顔をとやかく言うのは好きではないが、彼女達の顔立ちが上品だとはお世辞にも言えない。性格の悪さが顔に出て下品だ。「でも、ちょっと可哀想かもね。私達も十分不幸だけど、あの怪人の相手をしないといけないんだから」「本当よね。よりによって、自分の家族を殺すような怪人となんて」「私だったら自殺してるかも」「確かに。人殺しの嫁なんて嫌よ。それも、怪人の嫁なんて」(ひどい……!)「あなた達、最低ね!」 それだけ言うと、うたは中途半端な洗濯物を残して、自室に戻った。ベッドに座って息を整え、愕然とする。(あぁ、私……。文彦さんのことが好きなんだ……。愛してるんだ……) 自分のことを言われてもいつものように流せたのに、文彦のことを言われて怒ったのが、愛した証拠だ。「でも、文彦さんは……」 いつも気遣ってくれるが、夜伽はどこか冷めていて事務的なものだった。気づかないようにしようと思ってはいても、嫌でも分かってしまう。 指が無意識に唇に触れる。躯は男を知ったというのに、唇は未だに無垢なまま。文彦は1度も口付けしてくれない。 ドアがノックされ、慌てて起き上がる。「は、はい」「小生です。今、よろしいですか?」「どうぞ」 文彦は部屋に入るなり、訝しげな顔をしてうたを見る。うたは自分がなにかやらかしてしまったのかと考えるが、心当たりはない。「急いで部屋に入っていくのが見えたので。またあの
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