湯浴みや食事を終え、いよいよ夜伽の時。ふたりはあえて狭く作られた寝室に行き、布団の上に向き合って座る。「安心なさい。無理はさせませんから」 肩に置かれた手を掴み、文彦をまっすぐ見つめる。彼は不思議そうにうたを見る。「あ、あの……!」「どうしました? 体調でも優れませんか?」「いえ、そうではなくて、お願いが……」「なんでしょう?」「き、キスを、してほしくて……」 文彦からの返事はない。恥ずかしくて彼の顔を見ることができないが、呆れられてるかもしれないと思うと、寂しい。「その、夫婦になりますし、私、もっと文彦さんと、仲良くなりたいというか、えぇと……」「あなたは、本当に義理堅いですね」 穏やかな声音に顔を上げると、文彦は寂しそうに笑っていた。(どうして、そんな顔するの……?)「子供を産んだら、うたは帰っていいんですよ。小生のことを気にする義理も必要性も、どこにもありません。お気持ちだけで充分ですから」「違います。前にも言いましたが、私は義理とか世間体で添い遂げようと思ってるわけではありません」「えぇ、そうですね。他の人なら、つまらない嘘をつくなと一蹴するところですが、あなたは嘘がつけません。ですから、義理や同情で小生といようと思っているわけではないのは、重々承知です」「じゃあ、どうして……!」「あなたには、感謝しているんです。だからこそ、小生のそばに置いておきたくないのですよ」「え……?」 意味が分からなかった。感謝するのはうたの方であって、文彦に感謝される覚えなど、ひとつもない。「あなたは、小生を人間だと言ってくれた。普通に接してくれた。それだけで、充分なんです」「けど……!」「あなたには、好いた人と幸せになってほしい。処女は奪ってしまいましたが、ファーストキスは、大事に取っておいてください。いずれ会う、想い人のためにも、うた自身のためにも。女性にとって、ファーストキスは特別なものなのでしょう?」 鈍器で頭を殴られたような気分だ。うたはまだ、恋を知らない。だが、文彦を特別だと思っている。それこそ、生涯を捧げてしまってもいいと思うほどに。 文彦の突き放すような気遣いは、息が詰まる。「……あなたから様々なものを奪った小生が言える立場ではありませんが、自分を大事になさい。今日はもう、寝ましょう」 文彦は布団に入り、うた
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