俺を選んでほしい――そう言われた百合子の心は揺れた。愛する人の真剣な目を正面から受け取った彼女は、何も答えることができなかった。唐突な提案に、百合子は悩んでいた。実を言うと、彼の手を取りたい気持ちが全くないわけではなかった。今の母親との窮屈な暮らしを思えば、耀との生活は楽しいだろうな。そうは思うものの、決断することができない。しかし、百合子も耀もまだ高校生で、お互いに大学受験を控えた身だ。それに、学校側に同棲のことがバレたら二人ともただでは済まないだろう。最近は特に、男女の交際について学校から厳しく言われている。百合子たちの通う高校は都内でも有名な進学校であるため、余計に。「耀……」「百合子……俺は本気だ……お前を本気で愛しているんだ……」耀は百合子と二人なら、どんな過酷な状況でも生きていけると信じて疑わなかった。もちろん、彼女も彼と同じ気持ちだったが、どうしても受け入れることができなかった。百合子は悩みに悩んだ末に、口を開いた。「――ごめんなさい、耀……」「百合子……」耀はショックを受けた顔をしながらも、その返事を予想していたようだった。「耀、私……弟を残して家を出ることはできない」百合子が断った理由はまさに弟の愛斗だった。彼女が母親から離れることができたとしても、愛斗は永遠に残り続ける。この世でたった一人の弟を、百合子は捨てて行くことができなかった。自分に無関心な父親と、ヒステリックな母親の下で過ごしたせいか、二人は普通の姉弟よりもずっと強い絆で結ばれていた。「そうか……」覚悟を決めていた耀だったが、最終的には彼女の意思を尊重した。いくら自分が望んでいるとはいえ、愛する女性の意に反するようなことはしたくなかったのだ。「……私、そろそろ帰るね。お母さんが心配しているかもしれないから」百合子は耀の告白に返事をすることはなく、彼から背を向けた。「……ああ、わかった。この時間だし、心配だから家まで送っていくよ」「ありがとう、耀」耀の提案を受け入れた百合子は、前を歩く彼の後ろをついて歩いた。いつも横並びで歩いていた二人だったが、今日はなぜかそういう気分にはなれなかった。お互いがお互いの顔を見ないように徹底していたのかもしれない。耀は振り返ることもなく、前を向いて歩き続けた。「じゃあね、耀」「ああ、また明日」家に着くと、百
Last Updated : 2026-09-09 Read more