「――ただいま」その日の夜八時、湊斗の秘書・一馬は愛する家族の待つ家へと帰っていた。一馬と妻の千佳子、二人の間にできた子供の暮らす家は、黒川区内にある一軒家だ。一馬は湊斗の秘書として長く働いており、その有能さは有名だ。そのため、社内でも一目置かれている。そんな彼はかなりの高収入だったが、あまりにも多忙を極めており、家族と過ごす時間はあまりなかった。(疲れた……今日は何だか久々にゆっくりできるような気がする……)最近湊斗の機嫌が悪いこともあり、毎日のように帰りが遅くなっていた。湊斗は社長としては優秀な人物だったが、たびたびとんでもないことを言い出して部下たちを困らせることがあった。今がまさにそうだった。「あら、おかえりなさい。今日は早いのね」帰宅した彼を、妻の千佳子が出迎えた。「あぁ、久しぶりに定時に帰れたよ」「仕事、そんなに忙しいの?」「いや、そういうわけではないんだが……湊斗のことでちょっとな……」「ふぅん、神宮司社長は部下をこき使うのが趣味なようね」不満そうな千佳子に、彼は苦笑いした。「そういえば、今日久しぶりに瀬奈ちゃんに会ったわ」「な、何だって!?」千佳子が何気なく発した一言に、一馬は声を上げて驚いた。「あら、そんなに驚くこと?」「当然だろう!どこで会ったんだ!?」まくしたてるように尋ねた一馬を、千佳子は不思議そうに眺めながら答えた。「どこって……羽根市だけど」「羽根市だと!?」羽根市といえば、黒川区からだいぶ離れた都内の西の方に位置する市だった。海やテーマパークなど、観光都市としては有名だ。(瀬奈ちゃんは羽根市にいるのか……!?)一馬は瀬奈が今どこに住んでいるかはもちろん知らない。彼は血眼になって探す湊斗とは違って、まともに瀬奈を捜索していなかったからだ。ただ、どこかで幸せになってくれていることを願うばかりだった。「そ、それで瀬奈ちゃんはどんな感じだった?」「どんな……?以前よりも明るくなったように見えたけど」「そうか……」一馬は瀬奈の現状を知り、ひとまず安心した。食べるものに困っていたりでもしたらどうしようかと思っていたが、その心配は杞憂だったようだ。「あぁ、それと……子供がいたわ」「こ、子供!?」まさか、湊斗の言っていたことは本当だったというのか。一馬は湊斗から瀬奈の子供について聞いたあとでも
Terakhir Diperbarui : 2026-03-23 Baca selengkapnya