「こんなものでいいかな……」一週間後、瀬奈はパーティーに行くための準備をしていた。彼女が選んだのは落ち着いたネイビーのパーティードレスだ。髪の毛はゆるく巻き、ハーフアップにしている。(私ももう三十八歳だし……あまり派手な色のものは着れないわ……)パーティーに出席するのは六年前、湊斗に初めて抱かれたあの日以来だった。彼はいつも瀬奈の名誉を傷付けるように、愛人の沙織を連れて出席していた。当時はそのことに心を痛めていたが、今はそんなこと気にする必要はない。(父さんと兄さんに挨拶だけしたらすぐに帰ろう……長居すると噂になってしまうわ……)瀬奈は黒色のハンドバッグを手に、リビングへと向かった。静香と里亜、そしてアイザックが彼女を出迎えた。彼女の麗しい姿に、二人は思わず頬を染めた。「瀬奈、よく似合ってるわ」「ママ、すっごく綺麗!」そうやって褒められると、何だか照れ臭い。「二人とも、ありがとう。里亜、良い子で静香おばさんの言うことよく聞くのよ」「はーい!」里亜を置いて黒川区へ行くのは不安が尽きなかったが、静香が見てくれるなら安心だ。静香は瀬奈にとって、この世で最も頼りになる姉だった。瀬奈は最後にアイザックの頭を撫でると、三人に挨拶をした。「行ってきます」「いってらっしゃい」玄関の扉から外へ出ると、彼女は家の前で迎えを待った。泰西は瀬奈がバックれないように、わざわざ迎えの車を寄越すつもりのようだ。パーティーが開催されるまであと一時間。できるだけ目立たないようにしなければならない。(大丈夫よ……黒川区は広いから……たかが数時間行っただけで湊斗や愛人たちに会うなんてあるわけがないわ……)そうは思っても、瀬奈の心臓の鼓動はうるさいくらいに高鳴っている。何故か、嫌な予感がしてならなかった。不安から俯いてしまった瀬奈の元に、ゆっくりと近付く人物がいた。「――瀬奈さん……?」「せ、誠也さん……!?」瀬奈に声をかけたのは、誠也だった。彼は目を丸くして瀬奈を見つめている。「瀬奈さん……その格好は……」「あ、実は……今からちょっと友人のパーティーに行くんです……」瀬奈の複雑な家庭の事情を知っている誠也は、家族絡みだと言ったら心配するに違いない。そう考えた瀬奈は咄嗟に嘘をついた。全て自分の問題なので、これ以上は彼に負担をかけたくなかったからだ。
Dernière mise à jour : 2026-03-30 Read More