「中山社長、奥さんが署名した離婚届です」弁護士の久保和彦(くぼ かずひこ)が翔平の前に書類を差し出した。5年前。涼太から連絡があり、離婚について話し合いが持たれた。そもそも離婚を言い出したのは翔平なのに、今はなぜか美羽がそれを急いでいる。そのことが、翔平の気分を酷く損ねていた。「離婚したいなら、本人に直接言わせろ」以前美羽が提出した離婚届は、そのまま破棄されていた。それから、あっという間に5年が過ぎた。二人は法的にはまだ夫婦のままだった。離婚届を冷ややかな目で見る翔平。「本人はどこにいる?」和彦は言葉を濁した。「奥さんからは全てを任されております。中山社長がサインに応じない場合、離婚裁判へ進むほかありません」そう言い終えると、翔平の表情がさらに険しくなる。「あいつに一体どれだけのことができるのか、見せてもらおうじゃないか」それを聞いて、弁護士は退室した。その後、柚葉が社長室へ入ってきた。翔平がすぐに表情を隠したが、柚葉には彼が怒っていることが分かったようだ。「パパ、キャンディーあげる」柚葉が小さな手でキャンディーを差し出す。翔平は腰をかがめ、柚葉がくれたキャンディーを受け取った。「怒らないで。柚葉がそばにいてあげる」翔平は柚葉を膝の上に乗せると、「怒ってないよ」と優しく応えた。その時、スマホが震え出した。画面を見ると、着信相手は瑠衣だ。……和彦はオフィスビルを出るやいなや、美羽に電話をかけた。「ええ、分かりました」美羽はスマホを置くと小さく溜め息をついた。翔平がいまだに離婚を認めないのは、自分の手にあるはずの主導権が揺らぐのが許せないからだろう。翔平の性格では耐え難いことだ。ただ、不思議なのは、それほどの執着がありながら瑠衣とも結婚していないことだった。そう考えていると、スマホが鳴り、美羽の考えが途切れた。直美からの着信だ。「もしもし、直美さん」「美羽ちゃん、今どこ?」「今向かってるところです。渋滞で、あと10分くらいかかりそうです」「分かったわ。焦らなくていいよ。待ってるからね」「ありがとうございます」帰国してまだ2日しか経っていない。金曜の夜ということもあり、みんなが美羽のために集まってくれることになった。窓の外を流
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