美羽はA市に3日間滞在した。この日、美羽に知らせが入った。天嶺がA市の金融街の案件を勝ち取ったという。しかも翔平が自ら交渉に出向いたとのことだ。さすが翔平。本気で交渉すれば、失敗する案件なんてない。どうやらA市に乗り込んできた目的は、別の場所にあったらしい。A市の分社の社内体制も順調に進み、審査と評価を経て、若手で優秀な社員を3名昇進させた。会社には、新しい風と熱意が必要だから。今後、分社は美羽が直々に審査と管理を行うことになり、徹にはこっちに留まって補佐してもらうことにした。悠斗は最近暇があれば美羽のオフィスに入り浸ってウロウロしているので、若い女性社員たちの心をかき乱している。美羽はすぐさま悠斗を追い出して、ホテルでおとなしく待機させた。5日後。美羽は病院で抜糸をした。額の傷は美容治療が必要だが、ひとまず前髪を切り揃え、傷を隠すことにした。悠斗も付き添い、ついでに自分の髪も短く整えていた。悠斗は、前髪を下ろした美羽を見てる。「なにジロジロ見てるの?変かな?」美羽は前髪を直した。学生時代以来で、自分でも少し慣れない。悠斗は笑った。「似合ってるよ。なんだか、高校生だった頃を思い出して懐かしいなって思ったんだ」整った卵形の顔立ちに、額にかかる前髪も相まって、まるで初々しい大学生のような雰囲気を漂わせていた。美羽は眉を上げ、口元を緩めた。「じゃあ、あなたもすっかり大学生みたいね」悠斗は呆れた。「じゃあ俺は、髪を切るまではオジサンだったのかよ?」美羽は肩をすくめると、足早に歩き出した。悔しいのか、悠斗は追いかけて説明を求めてきた。その時、通りをゆっくり過ぎ去るロールスロイスの中。深い瞳が、外ではしゃぐ二人を静かに見つめていた。「もう、そんなに意地悪言わないで。ランチをご馳走するから。何が食べたい?」悠斗はふんと鼻を鳴らす。「それなら許してやろう」翔平はこの日、ちょうど東都へ戻った。数日前に柚葉が体調を崩した際、翔平は即座にプライベートジェットを手配し、百合をA市に来させ、一緒に柚葉を連れ帰り療養させていた。車を降りてすぐ、飛行機に乗り込む際に一本の電話が入った。「社長、イヴリンさんの血液サンプルが届きました」これは、美羽が病院に残したものだ。翔平は頷き、指示を下す。
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