All Chapters of 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Chapter 231 - Chapter 240

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第231話

「ひいおばあちゃんが病気なの?」柚葉は小さな顔をすぐに不安げに曇らせた。「そうよ」柚葉は唇を少し引き結んだ。美羽の家に行きたいけれど、日和の具合も心配だったからだ。柚葉は踵を返して美羽の元へ戻り、提案した。「イヴリンさんも一緒に、ひいおばあちゃんのお見舞いに行かない?終わったら、イヴリンさんの家に行こうよ」百合はその言葉を聞いて、厳しい目つきで美羽を睨みつけた。美羽はその視線に当然気づいていた。心の中で鼻で笑いつつも、柚葉に向かって優しく答えた。「いいわよ」百合の表情は、途端に険しくなった。「やった!」と喜ぶ柚葉は、続けて急かした。「それじゃあおばあちゃん、早く車でお見舞いに行こう!」百合は柚葉の顔を見ると、すぐに表情を繕った。美羽は本当は行きたくなかったが、百合のこうしたやり方がどうしても気に食わなかったのだ。30分後、車は中山家の本邸に到着した。「イヴリンさん、すぐ戻ってくるね」百合は柚葉を連れて車を降りていった。車内でひとり待つ美羽は、急に居心地の悪さを感じ、自嘲気味に鼻で笑った。百合を出し抜いたところで、一体何になるのだろうか?それから約10分が過ぎた。美羽は悠斗の姿を見つけた。美羽はドアを開けて車を降りると、「悠斗」と声をかけた。悠斗は驚いた表情で美羽を振り返り、大股で歩み寄ってきた。「美羽、どうしてこんな所に?」美羽は寂しげな笑顔を見せ、「柚葉を待ってるの」と答えた。悠斗はつい先ほど、百合が柚葉を連れて歩くのを見ていた。彼の疑問を察した美羽は説明した。「柚葉をうちに連れて行こうと思ってたんだけど、突然翔平のお母さんから連絡があって、おばあさんの具合が悪いって」悠斗は納得顔で言った。「ああ、昨日の風邪なら、もう大分いいはずだけど。柚葉ちゃんをそっちの家に連れて行くこと、翔平さんは了承してるの?」美羽は短く頷いた。「あいつが……」悠斗はにわかに信じられない様子だった。美羽は小さく笑い、「彼は、もう全部分かってるの」と告げた。悠斗は静かにうなずいた。予想通りの反応だ。翔平ほどの切れ者が、気づかないはずがない。「そういえば、涼太さんから美羽のお父さんが入院したって聞いたんだ。俺、会社へ行く途中だから、ついでに病院へ寄っていくつもりで」美羽は顔色を変え、問い
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第232話

美羽は柚葉に挨拶し、柚葉は美羽に手を振った。車に乗り込むと、悠斗が車を発進させた。柚葉の姿が次第に小さくなっていく。美羽が視線を戻すと、鼻の奥がツンとして、思わず目頭が熱くなった。悠斗は横目でちらりと美羽を見たが、何も言わなかった。車が中山家を出たところで、美羽の気持ちがようやく落ち着いてきた。悠斗が静かに尋ねた。「柚葉ちゃんに、美羽が母親だって教える気はないのか?」美羽は大きく深呼吸をして、前を見つめた。「伝える方法が分からないの。今の柚葉にどう言えばいいのか……」柚葉が、自分と翔平に一緒になってほしいことは美羽にも分かっていた。昨夜だって、3人で一緒に眠ろうとしていたほどだ。もし柚葉が自分を母親だと知ったら、きっと喜ぶはずだ。自分だって、柚葉の口から「ママ」という言葉を聞きたいし、その笑顔を見ていたい。でも、もしそうしたら、今度は翔平と離婚ができなくなる。悠斗は美羽の悩みを感じ取ったようだった。「翔平さんが今、離婚に応じようとしない以上、今の担当弁護士じゃらちが明かない。もっと強力な弁護団に依頼する方がいい。俺がコネを使って人を紹介してやろうか?」美羽は頷き、答えた。「佐野先生に相談したら、離婚裁判に強い弁護士を知っているって言われた。近いうちに一度会ってみるつもり」それを聞いて、悠斗はそれ以上何も聞かなかった。病院に到着すると、美羽と悠斗は車を降り、入院病棟へと向かった。入口のそばに来た時、偶然前方からやってくる人物と出くわした。それは他でもない、翔平と瑠衣だった。翔平が瑠衣の肩を抱き、片手には薬袋を下げている。瑠衣は顔色が悪く、体調を崩しているようだった。翔平が、病院へ入ってきた二人と視線が合う。美羽は冷ややかな目を向けただけで、すぐさま視線を外し、足早にエレベーターへと向かった。悠斗も翔平を一瞥しただけで、挨拶もせず美羽のあとに続いた。翔平は瑠衣をかばうようにして車に乗せた。後部座席で瑠衣が何かを切り出そうとすると、翔平は言った。「少し電話をさせてくれ」瑠衣はそれ以上邪魔をしないことにした。翔平が運転手へと電話を入れると、運転手から報告を受けた。「分かった」そう言うと、翔平は電話を切った。瑠衣はこらえきれずに聞いた。「翔平さん、あのイヴリンさ
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第233話

美羽は病室で正人のそばに少し付き添っていた。だが、長居はしなかった。澪は美羽に、早く帰って海晴の面倒を見るように言った。「分かったわ」美羽は悠斗と共に病室を後にした。彼女はまだ昼食をとっていなかったため、悠斗は美羽と一緒に昼食をとることにした。「今夜、涼太さんと一緒に食事に行く約束をしているんだけど」美羽は答えた。「今夜はちょっと無理そうね」悠斗が尋ねた。「他に予定でもあるのか?」美羽は正直に話した。「デイビッドにまだ借りがあって。今夜、お礼に招待することにしたの」悠斗が驚いた顔をした。「あいつが東都に来ているのか?」美羽がA国で過ごしていた5年間のことだ。悠斗は何度もA国まで美羽を訪ねたが、一度、デイビッドが美羽を口説こうとしている場面に遭遇した。当時、デイビッドを見た時、悠斗は強烈な危機感に襲われた。正直なところ、デイビッドの佇まいや顔立ちは文句なしのイケメンだった。あの時、悠斗は国内での仕事の全てをキャンセルしてまでA国に居座り、異国の男に美羽を連れ去られないよう必死で見守っていた。悠斗はデイビッドに諦めさせようと、自分のことを美羽の彼氏だと偽って名乗った。しかし当時デイビッドは美羽が既婚であることを知っていて、悠斗と意気投合し、二人で組んで、「まずは今の旦那さんを排除しよう」と画策していたのだ。そこでようやく、美羽がデイビッドには全く異性としての関心がないことを知り、悠斗は胸を撫で下ろした。そのため、二人は知り合いになった。美羽は頷いた。「それで、あいつはいつ帰るんだ?」悠斗は重ねて訊いた。美羽は彼を見て、微笑んだ。「さあね、今日会ったときにでも訊いてみるわ」「なるほどね」美羽にその気が全くないとは分かっていたが、虎視眈々と狙っている男が近くにいるのは、心穏やかではなかった。早くA国に帰ってほしいのが本音だ。昼食後、悠斗は美羽を自宅まで送った。今、涼太は仕事中で、海晴の世話は使用人がしていた。美羽は戻り次第、子守りを交代することになっていた。悠斗と別れ、美羽は家の中に入った。すると、すぐに海晴の泣き声が聞こえてきた。使用人がちょうどあやしていた。美羽は急いで駆け寄った。「どうしたの?」美羽は海晴を抱き上げた。使用人が言った。「今
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第234話

今の紗良には、十分に贅沢な暮らしをするだけの蓄えがある。「ええ。何事もスムーズに進めばいいですね」午後5時を過ぎた頃、涼太が帰宅した。美羽は出かける準備を整え、涼太に短く声をかけた。「お兄ちゃん、海晴をお願いね。すぐに戻るから」病院のほうには、夜の間だけ介護士を頼んでいた。涼太は答えた。「ああ、分かった。気をつけてな」「ええ」美羽は車を出し、そのまま松風の庵へと向かった。駐車場に車を止め、シートベルトを外した瞬間、車のドアが外側から開けられた。美羽が顔を上げると、ドアの先にはデイビッドが立っていた。エメラルドのような瞳が、楽しげにこちらを見つめている。上質な生地で作られた鮮やかな金色の半袖シャツに、白いパンツを合わせている。ブロンドに緑の瞳、整った彫りの深い顔立ちは、誰よりも際立って見えた。他の人間が着れば安っぽくなりそうな装いだが、デイビッドが身につけると、この上ない品格が漂う。実はデイビッドは10分前には着き、駐車場で待機していたのだ。「どうぞ」デイビッドは紳士的な仕草で手を差し出した。美羽はその手を取らず、ドア枠に手をかけて車を降りた。デイビッドは笑みを浮かべるだけで気まずそうにする様子もなく、すっと手を引いた。美羽は車のドアを閉めた。「いつからいたの?」「たった今だよ」デイビッドは美羽を見回し、唇の端を持ち上げた。「イヴリン、僕との食事だから、そんなにおめかししてくれたの?」美羽は黄色い金木犀が刺繍されたドレスを着ていた。凛とした服とまとめ髪、淡いメイクと真珠のピアスが、彼女の持つしとやかさをより引き立てている。絵に描いたような美女だ。そのドレスは、かつて紗良から贈られたものだった。美羽は微笑んだ。「そう思いたいならそれでもいいわ。さあ、行きましょう」隣を歩くデイビッドの碧眼には、隠しきれない愛情が浮かんでいる。「服装の色の相性もぴったりだね。僕たち、気が合うと思わない?」美羽は何も言わなかった。適当に合わせておくのが一番だ。店内に入り、案内された予約済みの個室へ向かった。「こちらへどうぞ」案内されて二人で廊下を進む。その時、入り口から、スラリと背の高い男二人が入ってきた。彫りの深い精悍な顔立ちに、隠しきれない成熟した品格を漂わせている。周
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第235話

美羽は、刺激が苦手なデイビッドの口に合うよう、優しい味わいの料理を中心に注文した。「お酒は?」デイビッドは笑って言った。「もちろん。この素晴らしい景色に、隣には美人。飲まずにはいられないでしょ。ぜひ、東都の名酒を味わいたいね」「いいわよ」美羽は、地酒を一本注文した。「少々お待ちください」スタッフは深々と頭を下げ、個室をあとにした。デイビッドは美羽の顔を覗き込み、尋ねた。「イヴリン、翔平といつ離婚するつもりなんだ?」美羽は静かな微笑みを浮かべ、答えた。「裁判の結果次第だから、まだ分からないの」デイビッドは腑に落ちないといった様子で首を振った。「僕の知る翔平は、情緒には欠けるが、そこまで見る目がないとは思えないんだがね」美羽は小さく唇を引き結び、「彼の見る目に問題はないわ」とだけ告げた。美羽の言葉の意味が掴めず、デイビッドは怪訝そうな表情を見せた。これ以上踏み込まれたくない美羽は、話題を変えた。「ところで、東都にはどれくらい滞在される予定なの?」デイビッドも空気を読み、個人的な追及は避けた。「せっかく来たんだ、1ヶ月はいたいね。イヴリンが僕の観光ガイドになってくれないか?」美羽は笑いながら答えた。「残念ね、私の専門はガイドじゃないよ」10分ほど経つと、店員たちが、次々と料理を運び始めた。美羽はデイビッドに料理の説明をしながら、丁寧にお酌をした。「度数が高いから、少しずつ飲んでみてね」一口飲んだデイビッドは、顔をほころばせた。「これは確かに濃密で力強い。複雑な香りが広がって、とても美味しいよ」続いて料理を口にしたデイビッドは言った。「A国の東都料理とは一味違うね。でも、やはりイヴリンの手料理の方が絶品だよ。イヴリンが帰国してから、あの味が忘れられなくて」美羽がA国にいた頃、デイビッドはよく彼女の家に押しかけては手料理をねだっていたのだ。その時、デイビッドのスマホが震えた。画面を確認した彼は、美羽に一言断りを入れた。「ちょっと、電話してくる」美羽は微笑んだ。「いいよ。私も少し席を外すね」「ああ、またあとで」美羽は席を立ち、個室をあとにした。ちょうど入り口付近を通りかかったとき、デイビッドの明るい声が耳に入った。「ハロー、浩平」美羽は歩みを止めた。今のは浩平だろうか?翔
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第236話

二人はその光景に驚き、呆然と立ち尽くした。スタッフも事態を飲み込めず、何をしていいのか分からずに固まっていた。美羽は手元のグラスをトレイに戻し、憎々しげに翔平を睨みつけると、踵を返してその場を去った。「イヴリン!」デイビッドが呼び止めた。美羽は苛立ちを隠そうともせず、真っ直ぐに歩いていく。デイビッドは翔平を一瞥したが、何も言わずにすぐ美羽のあとを追った。浩平は去っていく二人の背中を見届け、それから翔平に視線を移した。近くにいたスタッフが慌ててティッシュを差し出した。翔平は無言で受け取ると、頬や首筋の酒を拭った。黒い髪も少し濡れてしまっていた。「一体、何があったんだ?」浩平が問いかけた。美羽は個室に戻った。気が収まらず、立て続けに酒を2杯流し込んだ。デイビッドが慌てて止めに入る。「この酒は強いから、あまり飲むな」美羽はグラスを置き、椅子に座り込んで、込み上げる怒りを必死に抑え込んだ。デイビッドは傍らに座り、美羽に水を注いだ。美羽はそれを手に取ると、一気に飲み干した。しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した。「手首は大丈夫か?ケアしておこうか」美羽は赤くなった手首を見て、少し痛みを感じたが、「大丈夫、問題ないわ」と答えた。「もし次に翔平に会ったら、イヴリンの代わりに一発殴ってやる」「やめて、あの男の話はしないで。虫酸が走るから」「分かった。食事を楽しもう。せっかくの美味しい料理が台無しになるぞ」美羽は怒りで食欲は湧かなかったが、クズ男のために気分を害されたくはないので、少しだけ口をつけた。とはいえ、強い酒を2杯も飲んだので、頭が少しぼんやりしてきた。その時、スマホが振動した。悠斗からの電話だった。話し始めるとすぐに。悠斗は美羽の変な声のトーンに気づき、「今から迎えに行く」と言った。美羽は拒まなかった。ちょうど代行を呼ぶ手間も省けた。強い酒に慣れているデイビッドは、あれだけ飲んだ後でもケロッとしていた。電話の内容を耳にすると、直接スマホを受け取り、申し出た。「悠斗、久しぶり。帰りはこのままイヴリンを連れて送るから」デイビッドは運転手に運転させてきたからだ。悠斗は返した。「いいよ。たまたま近くを通りかかるから。とりあえず面倒を見ててあげて」そ
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第237話

翔平を見つけると、柚葉が勢いよくその胸に飛び込んだ。翔平は柚葉を軽々と抱き上げ、日和や剛としばらく話を交わす。柚葉がいるおかげで、リビングの空気はひときわ温かく賑やかだ。今夜、翔平と柚葉は中山家の本邸に泊まることになった。使用人が柚葉をお風呂に入れている時。百合が翔平に歩み寄り、問い詰めた。「なぜ今日、イヴリンさんなんかに柚葉ちゃんを家に連れ帰っていいなんて言ったの?一体何を考えているの?」翔平は答えた。「あの人は美羽だ」その言葉を聞いた瞬間、百合はその場に凍りつき、呆然と立ち尽くした後でようやく我に返り、信じられない様子で聞き返した。「何を言っているの?美羽だって?」今のイヴリンという女性と、かつての美羽をどうしても結びつけることができないのだ。「それじゃ、柚葉ちゃんは……」百合は何を聞こうとしたのか考え直したが、柚葉はまだ母親のことなど知らないはずだし、まあいいかと思い直した。「美羽が戻ったのなら、翔平、そろそろ離婚手続きを進めるべきじゃないの?」翔平は感情を見せずに答えた。「柚葉はずっと母親を求めているから」イヴリンと会ってから、柚葉は母親のことについて一度も口にしていない。百合は目を細めて言った。「5年も前に柚葉ちゃんを捨てておいて、今では名乗り出る勇気さえない。そんな人が柚葉の母親になる資格なんてあるわけないわ」翔平は百合を真っ直ぐ見つめ、釘を刺す。「柚葉の前では、そういう話は控えてくれ」「分かってるわよ」息子が何を考えているのか百合には分かっていた。美羽に情があるのではなく、ただ柚葉を悲しませたくないだけなのだ。「明日、瑠衣さんのお母さんが東都に来るの。私に会いたいと言っているの、知っているわよね」翔平は、「会えばいい」と軽く返した。お風呂上がりの柚葉がリビングへ戻ってきて、二人の話はそこで途切れた。美羽はこの2日間、仕事で忙しく、残業続きで駅近くのマンションで寝泊まりしていた。詩音は、紗良の両親と話し合って東都の学校へ編入することに決まった。新学期まであと1週間だ。柚葉との連絡は、以前は電話だけだったのに、今では毎日30分のビデオ通話が欠かせない。水曜の朝。美羽は午後の時間を空けて、和彦の法律事務所へ向かった。そこには郷田昌明(ごうだ まさあき)とい
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第238話

美羽は静かに頷く。二人はそのまま中へと歩いていった。「話はうまくいったのか?」美羽は苦笑まじりに答えた。「財産分与を望まない私に、郷田先生が協力してくださるなんて。完全に割に合わない案件だし、きっと佐野先生の顔を立ててくださったのね!」昌明は高額な着手金で有名だが、資産規模に応じた成功報酬型のケースと比べれば、美羽のケースはそれほど高くはない。紗良の離婚案件では、昌明は数億円もの報酬を得たはずだ。隆が指摘する。「資産を求めないと言っても、中山社長の傍らにはトップクラスの私選弁護団がいる。相手が離婚を認めない以上、相当の根気が必要になるはずだ」その言葉通りだった。翔平が離婚に応じないのは、意図的に自分を追い詰めるためだと美羽は確信していた。本当に、最低な男だ。そう思うだけで、胸が苦しくて呼吸さえ荒くなった。二人はエレベーターに乗り込むと、仕事の用件について言葉を交わす。隆が今朝動いたのは宏介との調印式のためで、連携が確立された今、白石家には勢力争いで優位に立てるだけの強いカードが揃ったことになる。「野村社長にも、もうバレているでしょうね」「間違いないな。白石副社長の周りには、確実に野村社長の息がかかった人間がいるからな」美羽は一瞬考えを巡らせてから理解した。互いにスパイを送り込んでいるのだから、当然のことだ。「なら、白石副社長は自分の周りの内通者を徹底的に調べないと。栄和の利益に関わるんですもの」隆は頷いた。「忠告は済ませてある。あいつも対策は分かっているはずだ」美羽は胸をなでおろした。「よかったです」エレベーターが到着する。「それじゃ、仕事に戻りますね」「ああ。午後3時頃、社長室に寄ってくれ」「分かりました」美羽はそう言って歩き出した。午後3時過ぎ。仕事を片付けた美羽は、社長室へと向かった。そこには大輔と直美の姿もあった。美羽は顔を向けた。「陣内さん、ご無沙汰しております」大輔は最近ずっと地方に出張しており、今日戻ってきたばかりだった。大輔は美羽をじろじろと眺め、艶やかな目を細めて笑った。「しばらく見ないうちに、ますます綺麗になったね」美羽は曖昧に微笑むだけで流した。直美は冷ややかな声で口を挟んだ。「大輔さん、綺麗な女性を見るとすぐにこれだから」
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第239話

「中山と野村の関係を考えれば、後々中山が横槍を入れてくる可能性も否定できないな」と大輔は言った。隆は眼鏡を外し、眉間を軽く揉んだ。手を下ろすと穏やかな表情に戻り、静かに言った。「それならば、相手が動き出してから対処しよう」ここまでの段取りを終えた今、翔平の介入など恐れることはない。結局のところ、相手よりも一枚上手であればいいのだ。大輔は隆を見つめ、突然笑った。「先日コーレンの発表会で隆の親戚と会ったんだが、隆に恋人がいるのかって聞かれたよ。男としての機能に問題があるんじゃないかって心配してたぞ。若くないんだし、いつまでも独り身でいるつもりか?時間は待ってくれないぞ」隆は冷ややかな目を向けた。「君が先に結婚してから言えよ」「俺はすぐにでも結婚できるさ。正直に言ってみろよ、隆……美羽さんの離婚を待ってるんだろ?」大輔は好奇心を隠そうともしない。彼から見ても、かつての隆に美羽への関心など微塵も感じられなかった。徹底したポーカーフェイスだったはずが、この2年間で変わったのだ。男の第六感だが、隆が美羽を見る目は日に日に怪しくなっている。特に美羽が栄和への移籍を決めてからはなおさらだ。一見淡々としているが、その期間の隆は上機嫌で、プロジェクトのミスすら追及しないほどだった。例の豪華客船のパーティーでも、隆は美羽だけを同伴させた。大輔はその一件も耳にしている。あの時、美羽が瑠衣ともめていたこと。隆と翔平の二人が、今にも手が出そうなくらい睨み合っていたことを。上司と部下の関係なんて言えない。どう見ても踏み込みすぎだ。隆は眼鏡を掛け直し、冷静な面持ちで席を立つと、デスクへ歩き出した。「他に用がなければ、もう出て行ってくれ」大輔は調子を上げて後を追い、デスクに腰掛けてさらに言った。「悠斗は美羽さんにゾッコンだぞ。小さい頃からの幼馴染で、今は美羽さんの真向かいに住んでるんだ。美羽さんのご家族も悠斗がお気に入りらしい。それに比べて隆はどうだ?年上であること以外、優位な点が何もないだろ?」隆が顔を上げ、氷のような声で言った。「よほど暇なんだな」大輔は社長室から追い出されながら笑った。「冗談だよ、そんなに熱くなるなよ。歳上には歳上の強みがあるだろ?」「陣内さん」隆の秘書が資料を手に部屋に入ってきた。大輔
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第240話

いまさら相手が戻ってきて離婚を求め、財産分与も求めず、娘の養育権すら主張せず、それどころか受け取った結納金まで返還すると言い出したのだ。さらに言えば、翔平の婚姻状態は世間に公表されていないため、離婚したところで社会的影響はない。つまり、離婚は翔平にとって何ら痛手ではないはずだ。しかし、今の翔平の態度は離婚を頑として拒否するもので、相手側が提出してきた関連証拠に対抗しようとするものだった。「これから事務所に戻りチームで検討します。明日、改めて回答いたします」「下がれ」誠は書類を手に取り、部屋を出た。翔平はため息をつくようにタバコを一本くわえた。その夜のことだ。柚葉が美羽とビデオ通話をしていると、美羽が明日迎えに来てくれることや、週末に遊びに連れて行ってくれるという話をしていた。翔平が柚葉の横で見守る中、柚葉は彼に確認することなく、嬉しそうに頷いた。そして柚葉は付け加えた。「イヴリンさん、パパも一緒に連れて行っていい?」柚葉の横に翔平がいることを知っている美羽は、やんわりと断った。「今回柚葉ちゃんを連れてくところは、柚葉ちゃんのパパには合わないところなの。この2日間、うちでお泊まりするのはどう?」柚葉は嬉しさのあまり飛び跳ねた。「やったー!」通話を終える。柚葉はぬいぐるみのウサギを抱きしめて、ソファの上で飛び跳ねながら喜んでいる。翔平が柚葉に手をそっと添えて守る。「こら、落ちるぞ」柚葉はすぐに翔平の腕に飛び込み、甘えた声を出す。翔平が柚葉の頭を優しく撫でると、その瞳からは愛情があふれていた。翌日。翔平は運動を終え、シャワーを浴びて寝室に戻ると、ベッドにいる柚葉が可愛いパジャマ姿で目をこすり、あくびをしながら乱れた髪で座っていた。翔平を見つけると、柚葉は眠そうに甘い声を出した。「パパ、おはよう」翔平が近づく。「柚葉、起きたのか」柚葉は小さな両手を伸ばして、抱っこを求めた。翔平は柚葉を抱き上げ、少し甘えさせてからバスルームへ連れて行った。支度が終わり、柚葉はウォークインクローゼットへ駆け込んだ。「パパ、早く可愛い服選んで!イヴリンさんの家に行くんだから一番綺麗なのじゃないと」柚葉のクローゼットは贅沢な広さで、服は有名デザイナーの特注品ばかり。合わせる装飾品も超高級な宝
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