Alle Kapitel von 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Kapitel 251 – Kapitel 260

428 Kapitel

第251話

デイビッドは一瞬黙り込んで、言った。「イヴリンの離婚が無事に成立したらまた連絡するよ。その時は盛大にお祝いしよう」美羽は笑いながら答えた。「ええ、もちろん」今日、デイビッドから電話があり、近況を尋ねられた。デイビッドがA国の政財界人が集まるパーティーに出席中だと知っていた美羽は、なぜそんな忙しい席からわざわざ自分に電話をかけてきたのか不思議に思った。するとデイビッドは言った。「翔平のやつ、今フィックス家のご令嬢と楽しそうに話してるよ。相手はどうやら本気で翔平に惚れ込んでいるみたいだぞ」翔平の名を出した途端、美羽は会話を遮った。「誰と、何人と、仲良くしようが私には関係ないわ。あの男の話は聞きたくないの」デイビッドは少し驚いた様子だったが、すぐに笑って、「分かった!」と答えた。実はデイビッドがこの電話をかけたのは、わざと「チクリ」を入れるためでもあった。翔平という男は、どうしてこうも放っておけないほど人気があるのだろう。ただ一瞬、美羽が翔平の姿を見て気持ちが揺らぎ、また離婚をやめるのではないかと不安になったのだ。こんな男に惚れてしまうのは、女性にとってあまりに容易いことなのだから。だが、美羽の揺るぎない言葉を聞き、デイビッドは胸をなでおろした。彼は話題を変え、何気ない世間話を続けた。「デイビッド」美羽には、電話の向こうから翔平の声が聞こえてきた。デイビッドが言う。「じゃあ一旦切るよ」「ええ」デイビッドは振り返って翔平に声をかけた。「何の話だ?」と翔平が訊く。デイビッドは全く悪びれず笑った。「大した話じゃないさ。翔平さ、フィックス家のご令嬢と盛り上がってただろ?相手は翔平に気があるみたいだし、いっそ婿養子にでも行ったらどうだ?」今回、翔平がA国を訪れたのは確かにフィックス家との協業を進めるためだった。翔平は口角をわずかに上げた。「俺が婿養子なら、そっちはどうなるんだ?」フィックス家はデイビッドの家族とも姻戚関係を結びたがっているのだ。しかしデイビッドにその気は毛頭ない。デイビッドは眉を跳ね上げ、ニヤニヤしながら翔平を見た。「てことは、そっちは乗り気ってことか?二人を引き合わせてやろうか?」「ここで仲人なんかしてる暇があったら、さっさと子供の一人でも作ったらどうだ?」翔平
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第252話

「5年も姿を消しておいて、今さら何の用なの?」美羽は前へ歩み寄ると、バッグを置いてソファに腰掛けた。その様子を見ていた百合は顔をしかめる。美羽が冷静に告げた。「そちらの息子さんと、離婚しに来たんですよ」美羽の言葉に、百合は息をのんだ。まさか美羽の方から「離婚」という言葉が出るとは思っていなかったのだ。美羽の毅然とした態度に、百合は不愉快さを隠しきれなかった。鼻で笑い、百合が突き放す。「離婚だって?何?財産分与でも狙ってるわけ?」美羽は真顔で返した。「ええ。少なくとも3分の1は請求させてもらいます」百合の表情が凍りついた。「いい度胸ね」「法に基づいた当然の権利で、悪いことではないはずでしょう」百合が美羽を射抜くような眼差しで見据える。「いいわ、できるものならやってみることね。あなたが柚葉ちゃんを認めないと決めた以上、あの子にあなたが誰なのか、永遠に知らせないから」「それは柚葉と私の間の問題です。そちらが口出しすることじゃないですね」美羽の反論に、百合の表情はさらに険しくなった。「他にご用がなければ、柚葉に夕食を作ってあげたいのですが」美羽は時間さえあれば、いつも柚葉のために手料理を振る舞っていた。彼女は立ち上がり、キッチンへと向かった。険悪な雰囲気を察し、翠と恵が恐る恐る百合に声をかける。「百合様……」二人は美羽と百合の会話を聞いていたのだ。それまでイヴリンの正体を疑っていた二人だったが、今の会話でイヴリンが間違いなく美羽本人だと悟った。信じがたい事実だった。百合はスマホを取り出し、すぐに翔平に電話をかけた。コール音が鳴り、翔平が出る。「母さん、どうした?」「美羽を家に迎え入れて、柚葉ちゃんのお世話をさせてるの?」百合は語気を強めて言った。翔平は静かに答える。「柚葉の世話をするのは、あいつの務めだ」翔平の言い分に、百合は意図を掴みかねて戸惑った。「美羽は離婚しに戻ってきたのよ。翔平、一体何を考えてるの?彼女は中山家の財産の分け前まで寄こせと言ってきているわ」この息子は、昔から何を考えているのか分からない。翔平はただ短く、「そうか」と返すのみだった。さらに何かを言おうとする百合を遮り、翔平は言った。「その件にはもう触れるな」「翔平!」「母さんは帰っ
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第253話

二人はホテルに着いた。美羽は柚葉の手を引いてエントランスに入り、そこで話している二人を見かけて、「お兄ちゃん!」と声をかけた。涼太と浩平は偶然居合わせたのだ。二人は特に親しいわけでもなく、むしろライバル関係だが、会えば最低限の挨拶は交わす。二人はちょうど社交辞令を述べていた。その声を聞いて、二人は同時に振り返った。美羽が柚葉の小さな手を引いている。エントランスの明るい光を浴びながら、二人は顔を見合わせ、晴れやかな笑みを浮かべていた。ふと見たその時、浩平は見慣れた影を見た気がして、胸を何かで強く打たれたような、言い表しがたい感情に襲われた。美羽は歩み寄ると、浩平を見ようともせず、涼太に向かって尋ねた。「お兄ちゃん、お父さんたちは?」その言葉に、浩平は悟られないように、心を落ち着かせた。「浩平さん」柚葉は浩平の姿を見つけると、可愛らしく名前を呼んだ。浩平はゆっくりとしゃがみこみ、優しい目つきで柚葉を見つめた。「柚葉ちゃん、久しぶりだね」「浩平さん、こんにちは」浩平はポケットから飴を取り出した。美羽はそれを見ていたが、二人の挨拶の邪魔はしなかった。その時、涼太に澪から電話が入った。通話を終えると、浩平に向かって言った。「すみません、これで失礼します」浩平は立ち上がり、「ああ」と答えた。「柚葉ちゃん、行くわよ」柚葉は浩平に向かって手を振った。最後まで、美羽は浩平と一言も言葉を交わさなかった。涼太は柚葉を抱き上げ、その瞳には子供への抑えきれない愛情が滲んでいた。浩平はその場に立ち、この兄妹の背中を見つめていた。温かく幸せそうな雰囲気が漂っている。二人を見送りながら、浩平の胸に湧き上がった言いようのない重苦しさは、いつまでも消えなかった。「お兄ちゃん」浩平が振り返ると、瑠衣と彩乃が腕を組んでやってきた。二人が近づいてくる。彩乃は浩平の顔を覗き込み、聞いた。「何をぼうっとしていたの?」浩平はすでに平静を取り戻しており、言った。「別に。行こうか」彼らは今日、親戚たちとの食事の約束があったのだ。澪の誕生日を祝うために多くの人が集まっている。悠斗はもちろん、紗良と詩音、隆と、直美と大輔も来ていた。皆、美羽の友人たちだ。澪はとても嬉しそうだった。大人数での賑やか
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第254話

隆は自然と紗良の話を引き継ぎ、聞いた。「午後は何か予定があるのか?」美羽は柚葉を見やってから言った。「柚葉は午後から1時間、ピアノのレッスンがあるので、それが終わったら、詩音ちゃんたちとどこかで遊ぼうと思ってます」隆は小さく頷いた。その時、美羽のスマホが震えた。画面を確認した彼女は、席を立って電話に出た。電話越しに聞こえてきたのは、A国語のイントネーションを含んだ声だった。「イヴリン」大学を卒業した2年前、美羽はウォール街にある世界企業トップ500に入るような大手投資企業に就職した。そこで担当したのは、財政危機に陥った小さなコスメ会社だった。将来性を信じて修正した事業計画書を提出したが、結局は上司の判断で一蹴されてしまった。それでも美羽は、その会社に可能性を感じていた。彼女はそのことを正人に相談した。正人はその時、何も問わずに全ての蓄えである8億円を差し出してくれた。当時、涼太の会社がようやく軌道に乗り、その年に正人が初めて配当金を手にしたばかりのことだった。その後、事情を知った涼太も、さらに10億円を送金してくれた。その資金と自身の貯金を合わせ、美羽はそのコスメ会社――K・Uへ出資して筆頭株主となった。彼女は前の投資会社を退職し、K・Uを立て直す道を選んだのだ。それからの2年間。会社は急速に成長し、2年目には黒字転換を果たした。利益は900万ドルを超え、やがて新たな投資家も現れた。その後、隆もK・Uへ出資した。ただし美羽は、ブランドをニッチな層向けに維持し、無理な規模拡大をしないように管理してきた。今年に入ってから、K・UのブランドがSNSで突然爆発的な人気を博し、品質の良さも重なって海外での売上が急増。第1四半期だけで1000万ドルを売り上げた。今や会社は安定し、美羽は一線から退いているが、重大な決断が必要なときだけ幹部から連絡が来るようになっている。美羽は、そのままA国にとどまって仕事を続ける道もあった。それでも戻ってきたのは、家族がこちらにいるからだ。電話の相手からは、進めていた事業提携が順調だと報告があった。十数分ほど話をしただろうか。相手がこう言った。「N・Sの株式保有契約に変動があります。相手側から本日、買収が公表されました」N・SはK・Uの投資家でもある。美羽
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第255話

個室から出て、お手洗いに着く前、言い争う声が聞こえた。お手洗いに入ると、瑠衣が勢いよく澪の頬をひっぱたき、「あばずれの娘は、やっぱりあばずれね」と罵倒していた。澪は叩かれた頬を押さえた。怒りで頭に血が上った美羽は、激昂して歩み寄った。美羽が近づくやいなや、反対に瑠衣の頬を強烈に平手打ちした。瑠衣はふらつき、洗面台の方へと倒れ込んだ。「瑠衣!」後から追いかけてきた彩乃が、その光景を見て顔色を失った。美羽は澪を支え、眉をひそめて、足早に入ってきた美しい中年女性と、その連れの支配人、二人の警備員を睨みつけた。その美しい中年女性は慌てて瑠衣の元へ駆け寄る。「瑠衣!」瑠衣の赤く腫れた頬を見て、彩乃は怒りに震えた。自分がこれまで過保護に育て、厳しく叱ったこともなかった愛娘が、見知らぬ人間に叩かれたのだから。瑠衣は悔し泣きしながら、「お母さん、この女よ」と指差した。彩乃が美羽と澪を睨み据える瞳には、激しい憎悪だけが宿っていた。「その女を捕まえなさい!」警備員はすぐに指示を受け、美羽を取り囲もうとした。「何をするつもりですか!娘に触れないでください!」澪は美羽をかばい、警備員を押しのけようとした。美羽は洗面台にあった鉢植えを掴み、警備員の足元へ投げつけた。ガシャーン、と大きな音が響く。その音に、彩乃と瑠衣は顔色を変えた。警備員はその場で動きを止めた。美羽はさらに花瓶も手に取り、また投げつけようとする。パリンッ!花瓶が瑠衣と彩乃の足元で割れた。「キャーッ!」瑠衣が恐怖のあまり悲鳴を上げた。彩乃は瑠衣をかばいながら後退し、息を荒くして美羽を睨みつけた。「この狂人!」さらに警備員に向かって怒鳴った。「ぼさっとしてないで、早くその女を捕まえなさい!」警備員も、もはや躊躇はしなかった。美羽がさらに物を掴もうとしたその時。体格の良い警備員たちが美羽を押さえつけた。「放して!」澪が駆け寄って抵抗したが、警備員に突き飛ばされ、床に倒れてしまった。「お母さん!」美羽が悲鳴に近い声を上げた。次の瞬間、パーンという乾いた音が響き、彩乃が美羽を平手打ちした。「私の娘に指一本でも触れるとどうなるか、思い知らせてやるわ!この二人を警察へ連れて行きなさい」一方の個室では。「美羽
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第256話

澪は押し倒された衝撃で、膝に怪我を負ってしまった。一行は、まずは病院へ向かうことにした。昼間にお酒を飲んでいたため、運転手を呼び、車を手配した。涼太、澪、美羽は一台の車に乗った。悠斗と隆は、別の車に乗った。「母さん、一体何があったの?」涼太が尋ねた。美羽もまた、澪を見つめた。瑠衣と澪との間で何が起きたのか、美羽にはまだ分かっていなかったからだ。澪は深く溜息をつき、口を開いた。「洗面所でちょうど白石さんに会ってね。手を洗った時に、跳ねた水が相手の腕にかかっちゃったの。それをわざとやったと言って、難癖をつけてきたのよ」美羽は表情を曇らせた。たったそれだけの、くだらない理由だったのか?明らかに瑠衣は、わざと澪を辱めるために言いがかりをつけていた。涼太もまた、不快感を隠せなかった。「柚葉たちはどうしたの?」美羽が尋ねた。「今は自宅だよ。直美さんと紗良さんがついてくれている」涼太が答えた。美羽は静かに頷いた。病院に到着した。診察を終え、澪の膝の怪我は大したことはなかった。2日休めば治るとのことだった。美羽の擦り傷も消毒を済ませ、塗り薬をもらった。診察室を出ると、美羽は隆が電話をしているのを見かけた。隆が電話を切るのを待った。美羽が尋ねた。「今の、野村社長からですか?」隆は頷くと、答えた。「二人を警察署に送ったのは野村社長の母親だ。この件について、彼は申し訳ないと言っていた」美羽は皮肉めいた笑みを浮かべた。「本当に、出来のいい息子で、いい兄なのね」その後、一行は西峰邸へと戻った。戻ってきたのを見て、正人は慌てて歩み寄り、澪を支えた。「二人とも大丈夫か?」澪はゆっくりと首を振った。「イヴリンさん!」柚葉が美羽のもとへ駆け寄ってきた。美羽は前に出て、柚葉を支える。柚葉は小さな顔を上げて、潤んだ瞳で美羽を見つめた。「イヴリンさんの顔、どうしたの?悪い人にいじめられたの?」美羽は柚葉を抱き寄せた。「大丈夫よ、何でもないから心配しないで」「イヴリンさんに、フーしてあげる」柚葉は小さな唇を突き出し、美羽が怪我をした場所に息を吹きかけてくれた。その姿を見て、美羽はふっと肩の力が抜けるのを感じた。しばらく抱きしめた後、柚葉を地面に下ろした。直美が尋ねた。「美羽ちゃ
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第257話

翔平はその話を聞いても、特に驚く様子はなかった。さっき瑠衣から電話があったからだ。彼は少し黙り込んだあと、柚葉の言葉には答えずに尋ねた。「今、柚葉は何をしている?」柚葉は答えた。「イヴリンさんに送ってもらって、ピアノのレッスン中だよ。今日はイヴリンさんのママの誕生日なんだって」翔平は言った。「そうか。それなら、まずはレッスン頑張ってきなさい」柚葉が尋ねた。「でも、イヴリンさんがいじめられたら、どうすればいいの?」「パパが帰ってから考えるから。いいな?」柚葉が不満そうに尋ねた。「分かった。じゃあ、パパはいつ帰ってくるの?」「あと数日で帰るよ」親子はしばらく会話を続け、翔平は柚葉をなだめた。柚葉のピアノのレッスンは2時40分までだ。美羽は少し空いた時間に、A国から届いた書類に目を通した。N・Sの親会社が10億ドルで買収され、同社の保有株がすべて譲渡されることになった。買収先はA国で力を持つ資本会社で、筆頭株主は、あの名門フィックス家だった。株式の譲渡はどんな会社であれ注視すべき案件だが、現時点では大きな影響はなさそうだった。続いて、前四半期の財務データも確認した。その一方で、セレブ妻たちが集う邸宅でのこと。彩乃が浩平に電話をかけていた。彩乃はついさっき、美羽たちが事情聴取を終えて警察署を出たことを知った。浩平が警察署に手を回していたからだ。「浩平、一体何をしてるの?瑠衣が何度もあの女に嫌がらせを受けているのに。瑠衣は小さい頃から、こんな思いをしたことがなかったのよ」浩平は返した。「母さん、先に手を出したのは瑠衣の方だよ。ことを大きくしたら、瑠衣だってただじゃ済まされない」彩乃が冷たく言い放つ。「あの女は誰よ?ただ中山家にすがりつこうとしているだけの身分じゃないの」浩平は告げた。「佐野社長が彼女をかばっている」隆だと?彩乃はもちろん隆を知っている。顔をしかめて聞いた。「あの女と佐野社長に、一体どんな関係があるの?」浩平はそれ以上は何も言わず、言い捨てた。「母さん、瑠衣にあまり衝動的な行動をさせるなよ」彩乃は腹立たしい気持ちを抱えたままだった。だが、浩平にそう言われては引き下がるしかなかった。今、彩乃は板挟み状態にある。白石家では家族の足並みが揃わず、長男と、夫・次男
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第258話

真奈美から、「今から柚葉の家に行っていい?」と連絡が入った。柚葉は美羽の顔を見て、聞いた。「イヴリンさん、私、先にお家に帰ってもいいかな?」美羽は特に反対もせず、促した。「なら、詩音ちゃんも一緒に連れていってあげたら?」「うん」美羽はそのまま紗良に連絡を入れた。スイーツを食べ終えると、美羽は柚葉を連れてデパートを後にした。豪が車を出し、二人を月見ヶ丘まで送り届けた。玲と真奈美は、一足先にそこで待っていた。落ち合うと、お互いに挨拶を交わす。玲は、柚葉が美羽を「イヴリンさん」と呼ぶのを聞いて、てっきり母娘のわだかまりが解けたのかと思ったが、様子を見る限りまだそうではないようだった。内心では訝しんだが、深く詮索はせず、知らないふりを通すことにした。10分ほどして、紗良も詩音を連れてやってきた。美羽は詩音を真奈美に紹介した。玲は紗良が隆の妹だと知っており、もともと見知らぬ間柄だったが、あっという間に打ち解けて話が弾んだ。真奈美は二人の子供と家の中を駆け回って遊んでいた。美羽、玲、紗良の3人は裏庭でお茶を楽しみながらゆっくりとした時間を過ごした。気づけば、午後のひとときはあっという間に過ぎ去った。美羽と紗良は、その後、西峰邸に戻る予定があった。暁がわざわざ妻子を迎えに来て、美羽に会釈し、互いに挨拶を交わした。暁は妻子を連れて帰っていった。その様子を見ていた紗良が、しみじみ感心した。「本当に仲の良い夫婦よね。見た目からしてもすごくいい男じゃない?」美羽はにっこり微笑んで、答えた。「うちのお兄ちゃんも負けてないわよ」紗良は一瞬きょとんとした後、おどけて笑った。「私も努力するわ」それから一行は車に乗り込み、月見ヶ丘を後にした。その日の夜、美羽は柚葉と共に西峰邸に泊まることにした。柚葉を寝かしつけた後、美羽は仕事の残りを片付けた。3日後。美羽は隆と一緒にチャリティーパーティーに参加した。美羽の目的は、エメラルドのジュエリーを競り落として澪に贈ることだった。澪の誕生日を祝えなかったので、このオークションで見つけたエメラルドのジュエリーで穴埋めをするつもりだったのだ。隆の目的は、祖父である佐野知幸(さの ともゆき)の80歳のお祝いに贈る年代物の名画だった。二人が会場
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第259話

でも、美羽の驚くほどの美しさを先に見てしまったせいか、瑠衣は見劣りしてしまった。見比べると差は歴然だ。美羽は、長い時を経て醸された上質なワインのように、熟成された大人の気品と人を酔わせる色香を漂わせていた。対する瑠衣は、若々しい甘さはあるが、どこか幼く、惹きつけられるほどの深みはなかった。美羽のドレスは丈が長く、隆はエスコートとして、そっとその裾を持ってあげていた。瑠衣は美羽の背中を凝視していた。耳元ではヒソヒソとした会話が聞こえてくる。「白石家のご令嬢も美人で評判だけど、今のを見た後じゃあ霞んで見えるな。私が男なら、間違いなくもう一人の方を選ぶね」「佐野社長と並んでいると、本当にお似合いね。どれだけの女性が悲しむことになるのかしらね」「中山社長も白石さんと一緒にいるし、どちらの男性も私たちの手の届く存在じゃなくなったってわけね」「まだ中山家にはもう一人の御曹司がいるじゃない?そっちを狙ってみれば?」「……」隆もまた、業界では名の知れたハイスペックな男だ。どろどろとした環境にいながら、その清廉さから、誰もが彼を聖人君子のような人物だと称えていた。憧れる女性は後を絶たない。だが、隆はまるで恋愛に興味がないかのように見えた。それが今は、目の前の女性にあれほど丁寧に尽くしている。隆を堕とすことのできる女性は、これほどまでに洗練された人なのだと、周囲は驚いていた。瑠衣は周りの声に、耳を塞ぎたいほどの屈辱を覚えた。体の側で拳を固く握りしめる。「瑠衣、行くよ」翔平が低く言った。瑠衣は慌てて表情を繕うと、翔平の目を見上げて口元に微笑みを浮かべた。「ええ」美羽と隆は、主賓席へ通された。中央の席には、今日のチャリティーパーティーの主催者が陣取っている。主催者は隆と言葉を交わしていたが、翔平が近づいてきたのを見て腰を浮かべた。「中山社長、ようこそいらっしゃいました」翔平と瑠衣は主催者と挨拶を交わし、そのまま案内され、席についた。偶然か、必然か。両者は同じテーブルとなった。隆が立ち上がり、翔平と握手を交わす。「中山社長」「佐野社長」美羽は前を向いたままで、視線を交わそうともしない。今日翔平が来るとは知らなかったし、ましてや瑠衣と連れ立って来るとは思いもしなかった。翔平は
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第260話

瑠衣も美羽に視線を向け、露骨な挑発の目を光らせた。「あら、イヴリンさん。このセット、私もかなり気に入っちゃって。欲しいものは手に入れる主義なもので」そう告げる瑠衣の横で、翔平はただ無言で赤ワインを口にしていた。その端正な顔立ちからは、何を考えているのか読み取れない。美羽は瑠衣に淡々とした視線を投げ、「そう、なら実力勝負ですね」とだけ返した。二人が言葉を交わす間に、オークションは既に3回値が上がり、6億2000万円に達していた。瑠衣が再び札を掲げ、「10億円!」と声を張り上げた。その態度は、何としても勝ち取るという気迫に満ちていた。会場の視線が一斉に主賓席へ集まる。これでもう、他の入札者が割って入る隙はなさそうだ。美羽が静かに札を上げる。「12億円」「……」主催者は二人の間に漂う殺伐とした空気を察し、ヒリヒリするような緊張感に息をのんだ。もはやこの競りは、二人の女性の私的な戦いになっていた。横で見守る翔平と隆も、二人の振る舞いを制することなく静観している。瞬く間に、価格は19億円まで吊り上がった。会場は水を打ったような静寂に包まれる。エメラルドのジュエリーの行方。一体誰が手にするのか、全員が固唾をのんで見守っていた。「22億円!」瑠衣の提示額は、美羽のそれとは比べ物にならない額だった。美羽は動じることなく口を開く。「22億2000万円」美羽の吊り上げ額は、先ほどより控えめだった。悠然とした態度の美羽に苛立った瑠衣は、反射的に隣の翔平に助けを求めるように視線を向けた。翔平が小声で囁く。「欲しいなら、続ければいい」これで迷いを消した瑠衣は、一気に6億円の上乗せを行った。美羽は冷静に2000万円だけ加算する。瑠衣が額を上げ、美羽が小刻みに追いつく展開が続いた。瑠衣がまた2000万円追加した隙を突いて、美羽がドカンと6億円上乗せする。一瞬沈黙し、瑠衣の美しい顔が、今にも歪みそうなほど引きつっていた。「白石さん、さらに値上げなさいますか?」瑠衣は美羽を睨みつけ、怒りに任せて、「40億円!」と叫んだ。会場中が騒然となる。どれだけ富裕層であっても、市場価格4億円程度のジュエリーに40億を出すのは異例のことだった。見かねた主催者が仲裁に入った。「白石さん、イヴリ
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