「先生、ありがとうございます。もう一度、翔平と話し合ってみます。その後で、改めてご連絡しますね」少なくとも柚葉のためには、事を大きくして修羅場にするのは避けたかった。「分かった」美羽はすぐに和彦へ連絡し、今日の面会を一時キャンセルした。朝食を終えた後、美羽は車を走らせ、月見ヶ丘へ向かった。車をエントランスに停める。普段、翔平の居場所を突き止めるのは難しいが、週末はたいてい自宅にいる。美羽がインターホンを押すと、恵がすぐに応対した。美羽だと分かると、恵は不機嫌そうに表情を曇らせた。美羽は無視して、そのままズケズケと入り込んでいく。「勝手に入らないでください。ここはあなたの家じゃないでしょう?」恵が慌てて美羽の前に立ちふさがる。美羽は足を止め、氷のような眼差しで言い放った。「叩き出されたくなければ、どきなさい」美羽のあまりの形相に気圧され、恵は立ち尽くしたまま動けなくなった。美羽はそのまま奥へと進んでいく。リビングに入ると、部屋の向こうから、軽やかなピアノの音が聞こえてきた。使用人たちも美羽を止める気配はなく、まるで主人が戻ったかのように彼女がピアノ室へ向かうのを見ていた。ピアノ室のドアまで歩み寄ると、室内では親子が仲良くピアノの前に座っていた。広く明るい、温かみに満ちた部屋で、柚葉は青いワンピースを着ていた。まるでお店に飾られた人形のように、静かに座る姿は愛らしくてたまらない。翔平も柚葉に合わせた色のシャツを着ていた。長く繊細な指が鍵盤を奏でる。穏やかな光を纏った彼は、溜息が出るほど優雅で高貴な空気を漂わせている。その手が柚葉の演奏するリズムに完璧に寄り添っていた。見合わせながら弾く二人の瞳には星空のような煌めきが宿り、柚葉を見つめる翔平の表情には、誇らしさと、隠しきれない愛おしさが滲んでいた。その時、入り口の気配に気づいた翔平が、こちらを流し目で見やった。美羽は、その温かい団欒の輪から取り残されたよそ者のように、ただ静かに立ち尽くしていた。一曲が終わるまで、動かなかった。翔平は柚葉の頭に優しくキスをし、「柚葉、上手になったな」と囁いた。柚葉は愛らしい八重歯をのぞかせ、嬉しそうに笑った。「パパ、イヴリンさんが来たらさ、イヴリンさんに聴かせてあげてもいい?」翔平が視線
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