All Chapters of 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない: Chapter 221 - Chapter 230

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第221話

「先生、ありがとうございます。もう一度、翔平と話し合ってみます。その後で、改めてご連絡しますね」少なくとも柚葉のためには、事を大きくして修羅場にするのは避けたかった。「分かった」美羽はすぐに和彦へ連絡し、今日の面会を一時キャンセルした。朝食を終えた後、美羽は車を走らせ、月見ヶ丘へ向かった。車をエントランスに停める。普段、翔平の居場所を突き止めるのは難しいが、週末はたいてい自宅にいる。美羽がインターホンを押すと、恵がすぐに応対した。美羽だと分かると、恵は不機嫌そうに表情を曇らせた。美羽は無視して、そのままズケズケと入り込んでいく。「勝手に入らないでください。ここはあなたの家じゃないでしょう?」恵が慌てて美羽の前に立ちふさがる。美羽は足を止め、氷のような眼差しで言い放った。「叩き出されたくなければ、どきなさい」美羽のあまりの形相に気圧され、恵は立ち尽くしたまま動けなくなった。美羽はそのまま奥へと進んでいく。リビングに入ると、部屋の向こうから、軽やかなピアノの音が聞こえてきた。使用人たちも美羽を止める気配はなく、まるで主人が戻ったかのように彼女がピアノ室へ向かうのを見ていた。ピアノ室のドアまで歩み寄ると、室内では親子が仲良くピアノの前に座っていた。広く明るい、温かみに満ちた部屋で、柚葉は青いワンピースを着ていた。まるでお店に飾られた人形のように、静かに座る姿は愛らしくてたまらない。翔平も柚葉に合わせた色のシャツを着ていた。長く繊細な指が鍵盤を奏でる。穏やかな光を纏った彼は、溜息が出るほど優雅で高貴な空気を漂わせている。その手が柚葉の演奏するリズムに完璧に寄り添っていた。見合わせながら弾く二人の瞳には星空のような煌めきが宿り、柚葉を見つめる翔平の表情には、誇らしさと、隠しきれない愛おしさが滲んでいた。その時、入り口の気配に気づいた翔平が、こちらを流し目で見やった。美羽は、その温かい団欒の輪から取り残されたよそ者のように、ただ静かに立ち尽くしていた。一曲が終わるまで、動かなかった。翔平は柚葉の頭に優しくキスをし、「柚葉、上手になったな」と囁いた。柚葉は愛らしい八重歯をのぞかせ、嬉しそうに笑った。「パパ、イヴリンさんが来たらさ、イヴリンさんに聴かせてあげてもいい?」翔平が視線
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第222話

このイヴリンという女は、確かに美しくてオーラもある。瑠衣でさえ、イヴリンの前ではどこか霞んでしまうのかもしれない。でも、翔平がイヴリンに気があるようには見えない。何かを言って止めた方がいいのか、迷う。しかし、恵と翠は結局何も言えなかった。いずれにせよ、あとで百合に報告しなければ。美羽と柚葉は寝室へ向かった。柚葉が以前描いた母親の絵を美羽に見せる。「イヴリンさん、これ見て!上手に描けてる?」美羽がじっと絵を見ると、目元には泣きぼくろ。子供らしい絵だが、描かれている顔はどう見ても自分だ。美羽は絵をまじまじと見つめた。「素敵ね。すごく上手に描けてるわ」「じゃあ、イヴリンさんにプレゼントする」美羽は柚葉の頭を優しく撫でた。「ありがとう、嬉しいわ」「どういたしまして。荷造りも終わったし、今日イヴリンさんの家に行っていい?」「もちろん。でもその前に、ちょっとだけ柚葉ちゃんのパパとお話させてね」「分かった。待ってるね」柚葉を連れて、美羽は部屋を出た。使用人に尋ねてみると、翔平は書斎にいるらしい。柚葉はイヴリンが場所が分かるか心配して案内し、ドアをノックする。「パパ」翔平はソファに座り本を読んでいた。顔を上げ柚葉を見て言った。「どうしたんだ?」「イヴリンさんが、お話があるんだって」翔平の視線が中に入った美羽を射抜き、漆黒の瞳から感情が消えた。「柚葉ちゃん、外で待っててくれる?二人で話すことがあるの」「分かった」柚葉は素直に部屋を出ていった。美羽が静かにドアを閉める。書斎に静寂が訪れ、空気は重く沈み込んでいった。美羽は深呼吸をして心を整える。そして、振り向き、翔平を見た。翔平は足を組み、本に目を落としている。すらりとした指先でページをめくり、美羽のことなど意に介さない様子だ。美羽は彼の目の前まで歩み寄り、真っ直ぐ見据えて言った。「あなたが面と向かって話したいと言うなら、私もとことん付き合うわ」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、本が力強く閉じられる音が鳴り響いた。美羽の体が震える。翔平が顔を上げると、その瞳は暗く、底知れぬ危険な色を宿していた。「二度と同じことを言わせるな」そう言うと、本棚の方へ歩いていった。その背中を睨みつけ、美羽は拳を強く握りしめて冷
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第223話

「言い終えたか?」「翔平……」美羽は息を詰まらせて聞いた。「一体、何がしたいの?」翔平は背を向け、大股で美羽のほうへと歩み寄った。美羽が反応するより早く、翔平の手が強引に美羽の手首を掴み上げた。「翔平……何をするの!」美羽は翔平の手によってソファへと投げ出された。その直後、男の圧倒的で荒々しい気配が全身を覆い、全身を駆け抜けるような恐怖に身を強張らせた。美羽は目を大きく見開き、抗いながら翔平を見上げる。あごを力強く掴まれ、無理やり翔平と視線を合わせさせられた。翔平の表情には、氷のような冷たさが張り付いている。「どうしてだと?」翔平は鼻で笑った。「自分の立場も弁えず、関わってはならない相手に関わった、その報いだ」美羽は全身を強張らせながらも、鋭い眼差しで翔平を睨み返した。「次は誰と付き合うつもりだ?」翔平の言葉は、酷い皮肉に満ちていた。美羽の胸は激しく上下した。その言葉の意味を悟り、彼女は怒りに任せて手を振り上げようとしたが、翔平は容易くそれを抑え込み、背もたれに押さえつけられた。「美羽、俺がいつまでも我慢するとでも思っているのか?」抵抗も叶わず、美羽は翔平を睨みつけて叫んだ。「本当にクズね!」翔平は美羽を見つめ、低く支配的な声で言い放つ。「忠告しておく。柚葉のものを奪おうとする奴がいるなら、相手が誰であろうと容赦はしない。この世から跡形もなく消してやる」その声に含まれる濃い危険な空気に、美羽は息さえも押し殺した。二人の視線がぶつかり合う。しばしの沈黙の中、あたりを包む空気はさらに重苦しさを増していった。翔平を見つめ、状況を理解した美羽は、急に笑い声を漏らした。皮肉をたっぷりと込めたその笑みを向け、聞いた。「本当に柚葉を愛しているの?どうすれば柚葉を幸せにできるのか、本気で考えているの?」翔平は見つめるだけで何も答えなかった。「本当に愛しているなら、なぜあの子の前で白石さんと親密な様子を見せるの?あの子に白石さんを受け入れさせたいんでしょ?でも、柚葉は分かるのよ。誰が自分に本当の優しさをくれて、誰が表面的な芝居をしているかなんてね。柚葉は、あんな嘘ばかりの女なんて大嫌いよ。子供でさえ感じ取れるのに、あなたには無理なのね。それなのに、どうして柚葉を愛しているなんて言えるの?あなたの愛なん
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第224話

美羽と柚葉は、そうやって互いに抱きしめ合っていた。ドアの向こう側には背の高い影があり、静かにその様子を見守っていた。柚葉は美羽の肩に寄りかかり、少しずつ落ち着きを取り戻していった。柚葉を抱き上げ、美羽は書斎を後にした。翔平の姿はもう、そこにはなかった。柚葉の寝室に戻り、美羽は柚葉の顔を丁寧に拭いてやった。今度は柚葉がタオルを持って美羽の顔を拭こうとする。美羽が屈むと、柚葉は幼い声で言った。「イヴリンさん、泣かないで。私も泣かないから」美羽は微笑んで、優しく柚葉の頬をなでた。「そうね、二人とも泣くのはおしまい」子供というのは扱いやすいもので、柚葉はすぐにまたケラケラと笑い出した。顔を洗い終える。「イヴリンさん」と柚葉が唐突に言った。「なあに?」柚葉は少し困ったような顔で言った。「今日はずっとここにいてくれる?明日はイヴリンさんのお家に行こう?約束を破ろうとしてるわけじゃないんだけど……」そんな風に頼まれたら、美羽は断ることなんてできなかった。「いいわよ、今日は一日一緒にいようね」不安げだった柚葉の目に、すぐに光が宿った。「やったあ!」そして、再び美羽の腕の中に飛び込んでくる。二人はそのまま寝室で過ごした。お昼の時間になり、ドアが開いた。入ってきた姿を見て、柚葉が駆け寄った。「パパ!」やっぱり元気いっぱいな子だ。翔平は柚葉に向かって優しく声をかけた。「ご飯の時間だぞ」柚葉は美羽の手を引いて歩き出す。「イヴリンさん、ランチに行こう」美羽は、そうして柚葉に導かれながらドアへと向かった。「パパ!」柚葉が翔平の手を握ると、翔平は彼女に穏やかな微笑みを返し、ぎゅっとその手を握りしめた。柚葉が二人の手を引き、小さく首を傾げて笑う表情は、この上ない幸せに満ちあふれていた。柚葉を挟んで歩く二人の表情には、自然と優しい温もりが宿っている。互いの視線が交わることはなくても、空気が二人の間を繋いでいた。3人揃ってリビングへ降り、ダイニングへ向かう。その様子を目にした翠と恵は、心の中で訝しんだ。どう見ても本当の家族3人にしか見えないのだが。それでも驚きを隠し、黙々と自分の役目に徹した。席に着き、美羽が柚葉のエプロンを着けてやると、柚葉は目の前の野菜の肉巻きを箸でつかみ、美羽の
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第225話

「ねえパパ、午後は凧揚げに行きたいな」と柚葉が言った。美羽が言った。「今日は暑いから、凧揚げはやめておこうね」柚葉は少し考えてから、こう返した。「山の家なら涼しいよ。あそこ、広くて凧揚げできるし、パパとよく行ってたよね」柚葉が言っているのは、翔平が山の中に持っている別荘のことだろう。美羽は、横にいる翔平をちらりと見た。翔平は柚葉に向かって優しく言った。「お昼ごはんを食べて、少し休んでから行こうか」「分かった!」昼食を済ませてから、使用人が柚葉の荷物をまとめた。運転手が車の準備を整えた。柚葉は嬉しそうに跳ねるようにして、車の元へ駆け寄っていく。子供というのは、悩みが消えるのも本当に早いものだ。3人は車に乗り込んだ。出発して間もなく、柚葉はうとうとと眠りにつき、翔平が優しく毛布をかけてやった。車内に柚葉の寝息が静かに響く。それと同時に、車内は重苦しい沈黙に包まれた。翔平と美羽の間には何も言葉が交わされなかった。柚葉の穏やかな寝顔を見つめながら、美羽は胸が締め付けられるような、言いようのない切なさを感じていた。そんな時、翔平のスマホが振動し、彼は電話に出た。聞こえてくる声からして、相手は瑠衣だ。おそらく翔平に会いたいのだろう。「今日は外せない用事があるんだ。また今度にしてくれ」「もしかして、柚葉ちゃんとお出かけ?」「ああ」瑠衣は唇を噛みしめ、電話を切った。窓の外を見ていた美羽は、翔平のあまりに優しい話し方を聞いて、冷めた笑みが浮かびそうになった。ふと、翔平の低く不機嫌そうな声が聞こえた。「何がおかしい?」美羽は彼を振り返った。「本当のことを言ってもいいの?」翔平は短く返した。「聞きたくない」柚葉が眠っている以上、美羽はここで翔平と揉めるつもりはなかった。一方その頃。瑠衣は通話を終えるなり、そばにいた女性に抱きついて泣き出した。彩乃は瑠衣を抱き寄せ、優しく背中をさすった。痛ましげに表情を曇らせると、問いただした。「一体、翔平さんは何を考えているの?」彩乃は今日東都に着いたばかりで、瑠衣は今日の夕食を翔平と一緒に食べられるよう約束していたのだ。翔平は今や柚葉のことばかりで、瑠衣との結婚については話を濁すばかりだ。それでも瑠衣は、今すぐにでも翔平の妻になり
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第226話

今の浩平は、もう彩乃の手には負えない存在になっていた。「浩平、お義父さんに不満があるのは分かるけど、耀人はもう何年もずっと浩平を慕っている弟じゃないの?」浩平は立ち上がり、冷たい口調で言い放った。「俺には妹しかいない。弟なんていない」「浩平!」浩平は、「会社に戻る」とだけ言い捨てた。そして、そのままリビングから出て行った。その背中を見つめる彩乃の表情は、どこまでも険しかった。午後3時。車が静雲山荘の駐車場に滑り込んだ。山の上は街中より涼しく、澄んだ空気に包まれていた。柚葉は車を降りるなり、凧揚げがしたいとはしゃいでいる。午後のひととき。美羽と翔平が、庭で柚葉と過ごしていた。柚葉は、翔平に凧を上げてほしいとおねだりした。翔平が凧を飛ばすと、柚葉が嬉しそうに声を上げた。「イヴリンさん、見て!うさぎさんが空まで飛んでるよ!」空高く舞う凧を見上げ、柚葉の笑い声に耳を傾ける美羽の表情も、自然と柔らかくなった。柚葉が走り寄り、翔平から凧の糸を奪い取ろうとする。「パパ、私にもやらせて」翔平は腰をかがめ、柚葉の手を優しくサポートしながら糸を持たせてあげた。その親子の微笑ましい光景を、美羽は遠くから見つめていた。翔平の柚葉に向ける眼差しには、いつも深い愛情が溢れている。けれど、そんな幸せな輪に入れるはずもない美羽は、ただ距離を置くことしかできなかった。柚葉が上手に糸を持てるようになると、翔平が姿勢を直し、ふと美羽と目が合った。一瞬の沈黙が流れる。美羽はすぐさま視線を逸らし、翔平の視線を避けた。「イヴリンさんも一緒にやろうよ」と柚葉が呼ぶ。美羽は柚葉の方へ歩み寄り、愛しい娘に顔を向けると、自然と微笑みがこぼれた。その後はずっと、美羽と翔平は柚葉のためにボール遊びをしたが、二人の間に深い会話はなかった。ふとした拍子に手が触れそうになっても、すぐに距離をとる。二人は、ただ柚葉の前で平穏な空気を保つことだけに必死だった。山は天気が変わりやすい。穏やかだった空は急に黒雲に覆われ、いまにも降り出しそうな雲行きだ。案の定、20分もしないうちに激しい雨が降り出した。柚葉も遊び疲れたようだ。美羽は柚葉を風呂に入れて着替えさせた。その最中に悠斗から電話があり、美羽は柚葉を使用人に任
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第227話

美羽は翔平のあまりの厚かましさに怒りを募らせ、平手打ちを食らわせようと手を振り上げた。「最低!」しかし、その手は男の力強い掌に受け止められてしまった。美羽はなんとか手を振り解こうと足掻いた。だが、男女の圧倒的な力の差では、いくら暴れても翔平はびくともしない。「このクズ!放しなさいよ!」美羽の怒りに満ちた瞳、興奮で火照った白い肌、そして微かに開いた唇を見ていた。翔平の漆黒の瞳が細められた。次の瞬間、美羽が反応する間もなく、翔平は後頭部を押さえつけ、強引に口づけを奪った。美羽は目を見開き、背中を掃き出し窓に打ち付けられ、めまいがした。反撃しようと必死に抵抗したが、両手は頭上で完全に固定されていた。まるで重圧そのもののように、翔平は美羽の上にのしかかった。翔平のキスは暴力的で支配的だった。慈しみなど欠片もなく、罰を与えるような激しさだった。窓の外には雨音が響く。室内には荒い息遣いだけが響いていた。美羽の体力はみるみるうちに奪われていった。その時、使用人が柚葉を連れてバスルームから出てきた。翔平はゆっくりと美羽から離れた。彼の瞳に宿っていた熱気は瞬く間に消え、いつもの淡々とした表情に戻っていた。柚葉は嬉しそうに駆け寄り、笑いかけた。「パパ、イヴリンさん、ちゅーしてたの?私も!」翔平はしゃがみ込んだ。美羽は振り返り、激しく息を切らしながら嫌悪感で唇を強く拭った。翔平は柚葉の額に口づけをした。柚葉は頭を上げて翔平の頬にキスをし、真っ白な歯を見せて屈託なく笑った。それから、柚葉は美羽に駆け寄った。「イヴリンさん」美羽は腰を下ろして柚葉を抱き上げた。柚葉は美羽の首に腕を回し、顔にキスをした。美羽は、湧き上がる感情を必死に抑え込み、優しい微笑みを浮かべて柚葉を抱いてリビングへ降りた。外では山間を濡らす雨が降り続いていた。夕食は既に使用人が準備していた。「パパ、雨降ってるね。今日の夜はお家に帰るの?」と柚葉が食べながら聞いた。翔平が言った。「明日の朝に帰ろう」柚葉は喜んだ。今夜は美羽と一緒に寝られるからだ。そう思うと、くるりと美羽のほうを向いて、小さな顔を見上げながら、口を開いた「ねえイヴリンさん、雨が降ると帰るの危ないんだって。今日はここにいようよ」美羽は柚葉に料理
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第228話

美羽はその場に立ち、しばらく静かに見つめていた。翔平がふと顔を上げると、柚葉に向けられていた愛情に満ちた表情は、美羽と目が合うと徐々に影を潜めた。柚葉が美羽を見て言った。「イヴリンさん」美羽が近づいてきたので、柚葉は彼女の手を引いた。「イヴリンさん、1+5は何になると思う?」美羽は柚葉を座らせ、優しく問いかけた。「何になるの?」「『いちご』になるの!」柚葉が思わず声を上げて笑った。美羽は柚葉の頭を撫でながら、一緒に笑みをこぼした。二人はリビングで柚葉に付き添っていた。社交的な柚葉のおかげで、部屋の空気は穏やかに保たれていた。時刻は9時前。柚葉はあくびをし始めた。柚葉は今日、美羽と一緒に寝たがっている。使用人がすでにゲストルームを準備してくれていたが、美羽はもともと柚葉を連れてそちらで寝るつもりでいた。階段を上がった時だった。お風呂から上がった翔平と出くわした。彼はネイビーのシルクのネグリジェを身に纏い、ウエストの紐を緩く締めている。広々とした肩幅と引き締まった腰が際立ち、はだけた胸元からは逞しさが滲み出ていた。短い髪は、まだ少し濡れている。「パパ、今夜はイヴリンさんと一緒に寝るね」柚葉が言った。翔平は柚葉を一瞥すると、表情を変えずに美羽に向かって事務的な口調で言った。「柚葉は寝付きが悪いから、寝室に連れて行ってやってくれ」いつもなら、この部屋では翔平が柚葉と一緒に寝ていたはずだ。だが、美羽は翔平のテリトリーに足を踏み入れたくはなかった。5年前。あの一度だけの過ちを除けば、入籍して以来、二人には何の親密な時間もなかった。翔平のベッドで眠ることなど、なおさらありえないことだ。今、翔平が使っている寝室に行くことは到底できなかった。美羽は柚葉を抱き上げ、翔平の言葉を無視して語りかけた。「柚葉ちゃん、私とゲストルームで寝る?」柚葉は柔らかな声で答えた。「イヴリンさんと一緒なら、どこでもいいよ」美羽は微笑み、翔平の方を振り返りもせずに隣のゲストルームへと入っていった。部屋に入ると、美羽はすぐにドアを閉めた。翔平はその場に立ち、閉まったドアを見つめて鼻で笑うと、背を向けて自分の寝室へ戻っていった。美羽は柚葉をベッドに降ろすと、自分もシャワーを浴びに向かった。部屋には
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第229話

翔平は柚葉をあやした。「よしよし、分かったからな」「それじゃあパパ、あとでイヴリンさんに謝ってよ」美羽がシャワーから出てきたが、柚葉の姿は見当たらなかった。彼女は少し待ってみた。そして、そのまま隣の部屋のドアを開けた。すると、ソファにいた二人がドアの方を見た。「柚葉ちゃん、寝る時間よ」美羽はドアに立ち、そう呼びかけた。柚葉は翔平の膝から降り、美羽のところへ走っていって手を引っ張った。「イヴリンさん、こっちへ来て。パパが謝るから」美羽は少し驚き、それからソファに座る男を見上げた。彼には、謝ろうとするような様子など微塵もなかった。美羽は柚葉の手を引き、促した。「謝らなくていいわ。もう行こう、寝る時間よ」翔平のそんな白々しい態度を見ているだけで、吐き気がした。美羽はそう言って柚葉をゲストルームへ連れ帰った。ベッドに横になる。柚葉は美羽の胸に頭を寄せて甘え、擦り寄ってきた。「イヴリンさん、いい匂いがする。この匂い大好き」美羽は柚葉を抱きしめ、心が甘く溶けていくのを感じた。もう5年になる。かつてはお腹の中で小さく蹴っていたこの子が、今はこんなにも大きくなり、こんなに可愛らしい姿をしている。夢の中では触れることさえ叶わなかった娘が、今はこうして現実で腕の中にいる。美羽は子守唄を口ずさみ、柚葉の背中を優しくトントンと叩いて寝かしつけた。柚葉は美羽の腕の中で、すぐに眠りに落ちた。美羽は眠ることもなく、愛おしげに柚葉を見つめ続けた。いつまで見ても飽きることはなかった。柚葉は今夜、美羽のそばで環境の変化を気にすることもなくぐっすり眠っていた。翌朝。山間の空気は格別に清々しく気持ちがよかった。翔平が下の階に降りたとき。キッチンの方から楽しげな話し声が聞こえてきた。覗いてみると、美羽と柚葉がパンケーキを作っているところだった。美羽は昨日の緑のワンピース姿で、長く結い上げた髪からは白い首筋が見えていた。腰にはエプロンを締め、柚葉に優しく作り方を教えている。柚葉のほっぺには粉がつき、小さな手で真剣に卵を割ろうとしていた。すると、柚葉が翔平に気づいて、「パパ、おはよう!」と嬉しそうに呼んだ。美羽は視界の端で翔平の存在に気づいたが、そちらには見向きもしなかった。翔平が近づいてくる
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第230話

柚葉は、二人の間に流れる張り詰めた空気にまったく気づいていない。翔平はパンケーキを口に入れた。「パパ、おいしい?」と柚葉が慌てて聞いた。翔平は言った。「まだ改善の余地があるな」美羽はフォークを握りしめ、スープをこのクズ男の顔にかけてやりたいと思った。柚葉は目を丸くして翔平を見つめ、「パパ、おいしいって言わなきゃダメだよ!」とすぐに注意した。翔平は柚葉の言葉に従い、「ああ、すごくおいしい」と口にした。柚葉はふふんと鼻を鳴らす。「じゃあ次はパパが作ってね」その時、使用人が美羽のスマホを持って降りてきた。美羽のスマホはゲストルームに置き忘れていたのだ。「先ほど、お電話がありましたよ」美羽はスマホを受け取ると、デイビッドから不在着信があった。再び着信音が鳴り響く。美羽は急いで立ち上がり、電話に出た。「デイビッド?」美羽の背中を見つめる柚葉に対し、翔平が言った。「柚葉、食事を続けなさい」柚葉は視線を料理に戻した。数分後、美羽はダイニングへ戻った。朝食が終わると、一行は支度をして出発する準備を始めた。帰りの車内にて。柚葉は美羽の家に行けるのでとても楽しそうにしていた。街に入ったところで、翔平のスマホが鳴り、内容は聞き取れなかったが、かすかに瑠衣の声が漏れ聞こえた。翔平が、「すぐに行く」と答えるのが聞こえる。電話を切った翔平を見て、柚葉が聞いた。「パパ、どこに行くの?」翔平は柚葉に言った。「仕事が入った。柚葉たちを先に送っていくよ」「分かった!」翔平は美羽と柚葉を月見ヶ丘まで送り、美羽に向かって言った。「運転手に送らせる。柚葉を頼んだぞ」美羽は柚葉を抱えて車を降り、彼を無視した。翔平は美羽を見送ると、別の車に乗り込み、去っていった。屋内に戻ると、恵と翠が二人を迎えた。「柚葉様」二人が美羽を見る視線には、常に警戒心が滲んでいた。柚葉は上機嫌で、二人に返事をした。美羽は着替えを詰めようと、柚葉を連れて寝室へ向かった。「これも持っていかなきゃ。パパと一緒にイヴリンさんのご家族のために選んだプレゼントなの」美羽には、これが翔平の発案ではないことくらい分かっていた。どうせ柚葉がせがんだに決まっている。だから美羽は拒まなかった。準備を終えて、美羽は柚葉の
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