美羽の車を見つけた柚葉は、嬉しそうに手を振った。美羽はゆっくりと車を止め、シートベルトを外して外へ出た。「イヴリンさん!」柚葉が美羽の元へ駆け寄る。美羽は前へ出て柚葉の手を握った。「柚葉ちゃん、今日はまるでお姫様みたいに可愛いわね」「パパが選んでくれたドレスなの」美羽は微笑んだ。だが立ち上がって翔平と目を合わせると、その優しい表情は消えた。それでも柚葉の手前、露骨な嫌悪感は見せないように堪えた。「それじゃあ、この子を預かっていくわね。2日間うちで面倒を見るから」翔平は何も言わず、柚葉の荷物とキャリーケースを美羽に手渡した。美羽がそれを手に取る。他にも、柚葉が用意した手土産があった。見てすぐ分かる、大人が選んだとしか思えない気の利いた品ばかりだ。断ろうと思った美羽だったが、柚葉がどうしても持っていくと譲らなかった。「おうちに行くときは、ちゃんと持っていくのよ」と柚葉が言う。美羽はそれを受け取るしかなかった。美羽がトランクを開け、使用人がプレゼントを車内に運び込む。「じゃあ柚葉ちゃん、出発ね!」柚葉が振り返って翔平に手を振る。「パパ、バイバイ!」翔平が言った。「ちゃんと電話するんだぞ」「うん」美羽は柚葉を助手席に乗せた。彼女は大股で車の前を回り込み、そのまま運転席へ乗り込んだ。その間、美羽はそこに佇む翔平を一度も見向きもしなかった。車がUターンをする。美羽の隣で柚葉が手を振っていた。車が去っていく後ろ姿をただ黙って見送ったあと、翔平は邸宅へと引き返した。ちょうどそのとき、ポケットのスマホが鳴った。取り出して相手を確認すると、電話に出た。それまでの温和な雰囲気はどこへやら、声からは温度が消える。相手は誠だ。証拠書類への対抗策について、直接会って話をしたいという用件だった。美羽が柚葉を連れて中山家を出たときのこと。前方から向かってくる一台の車とすれ違った。美羽はその車の後部座席に瑠衣の姿を見た。彼女は心の中で鼻で笑った。柚葉が不在だと分かっていたから来たわけね。これで心おきなく二人で過ごせるというものだ。今の美羽には確信があった。翔平が離婚に応じないのは、ただ自分を苦しめるためだけではなく、瑠衣と再婚しないことにも、それなりの理由があるのだ
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