Semua Bab 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Bab 301 - Bab 310

449 Bab

第301話

凛は、今の状況をありのままに説明したつもりだった。だが、「あなたの愛する人」という言葉に、智也はひどく胸が痛んだ。それでも、添付されていた写真を拡大して見ると、確かに無様な様子をさらす、胡桃と柚葉が写っていた。すぐさま柚葉の携帯が鳴る。「胡桃がお前のところへ行ったのか?大丈夫?」「智也……」柚葉は涙で目を潤ませ、痛みを堪えながら鼻をすすった。「私は大丈夫。ただ体がちょっと痛いだけで……胡桃ちゃんも悪気はなかったはず。それに、凛さんも一緒にいるから」最後の一言は、今回の騒動を仕組んだのが凛だと言わんばかりだが、そもそも、凛から写真が送られてきた智也は、彼女が現場にいることは知っていた。最近、いくら電話番号を変えてもすぐに着信拒否される。今の番号もいつ繋がらなくなるか分からない、そんな状況だった。「すぐ行くよ」智也の声には、呆れと焦燥が混ざっている。電話を切ったあと、凛にウォーターフロント・コートから離れずに、待っていてほしい、とショートメッセージを送った。だがまたしても、受信拒否設定にされているようで、一向に返信が来ない。まだ凛との関係を修復できていないというのに、今度は胡桃までもが騒ぎを起こすなんて。それも、よりによって柚葉を殴ったというのだ。なぜ、こんなことを?智也が自分より先に柚葉へ電話をかけたのを見ていた胡桃は、自分も庇ってくれる人を呼ぶために、母親である梨花へと電話をかけていた。梨花と智也は、ほぼ同じタイミングで現場に到着した。しかし、柚葉と胡桃の姿しかなく、凛の姿は見当たらない。やはり会ってはもらえないのか……智也は心の中で深く溜め息をつく。柚葉は智也を見るなり泣き出し、彼の胸に飛び込もうとしたが、背後に立つ梨花の冷たい視線を感じて、寸前で足をとめた。智也がこれまで自分に多額の金を費やしてきたことを家族全員が知っている、と胡桃は言っていた。「どうしてこんな場所まで来て暴れたの?」梨花は胡桃に近づき、ただ一度睨みつけただけで、それ以上のことは言わなかった。胡桃が腰に手を当てて言う。「我慢できなかったの。だって、お兄ちゃんが毎月この女に6000万円渡してたんだよ?気が狂ってるとしか思えない!」智也の顔が険しくなった。「胡桃、言葉には気をつけろ」梨花はじろっと智也
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第302話

この窮地……一体どうしようか?柚葉は不安で押しつぶされそうだった。「ほら、まずは病院に行こう」柚葉を抱き上げたり、背負ったりする気配は智也に一切なく、柚葉を置いて歩き始めていた。そして、智也の視線は依然として何かを探しているようだった。だが、彼の探している人物はどこにも見当たらないらしい。柚葉はその場から動かずにいた。「智也、私、ちょっと歩けないの。おんぶしてもらってもいいかな?」すぐさま胡桃が冷たく吐き捨てる。「情けない」まるで、ファンが急にアンチに回ったみたいだ。それに、そういう時こそ最も残酷に叩かれる。だが、全身が痛む柚葉は本当に動けなかったのだ。前を歩いていた智也が言った。「今の俺たちの状況は、かなりまずいって、お前も知ってるだろ?」それは、浮気の証拠写真を撮られることを指しているのだと柚葉も分かっていた。ただ、数枚の親密そうな写真だけで浮気を断定するのは難しく、裁判の席では決め手にはなりにくい。法的根拠としては極めて弱いのだ。柚葉も調べていた。だが、これ以上智也を苛立たせたくはなかったので、結局は痛みを堪えながら一歩ずつ智也の後を追った。そんな柚葉に聞こえるように、胡桃はわざと大きな声で言った。「お母さん、やっぱりお兄ちゃんの奥さんは凛さんの方が良かったね」柚葉の顔色が一瞬にして曇る。梨花も険しい表情で溜息をついた。「もういいわ、やめなさい」梨花だって凛の方がずっと良かったと分かっていた。だが、もう遅すぎる。既に離婚してしまったのだから!この事実を、梨花と健吾は今でも智也に言えずにいた。あの時、凛と智也の離婚を許してしまったこと。それが彼らにとって生涯最大の後悔だった。四人は車に乗り込み、病院へと向かった。胡桃の方は大きな怪我はなく、簡単な診察を受けると、その後は待合室で待機していた。柚葉の体は、地面を転がったり、打ち付けたりしたため、あざだらけだったため、治療を続けていた。先に診察室から出てきた智也が、悪びれる様子もない胡桃を見て問い詰める。「いつになったらその口の悪さと暴力を直すつもりだ?」「今回は別に弱いものいじめをしたわけじゃないんだから!」胡桃は思っていることをそのまま言った。「あの女は愛人でしょ?それも、男に金を貢がせることしか知らない愛人ね!」
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第303話

胡桃の告白は、まるで雷鳴のように智也と梨花の頭に落ちてきた。一瞬、世界から音が消え去ったように感じ、胡桃の言葉だけが耳の中で何度も反芻された。あの夜、凛が危険な目にあったことに柚葉が深く関わっていたなんて。薬を胡桃に渡したのは柚葉。そして男を用意したのも柚葉……智也は魂が抜けたような顔で立ち尽くし、開いた口が塞がらない。だらりと下がった両手はみるみるうちに冷えていき、震え始めた。「もう一度言ってくれ……」智也から絞り出された声は、もう掠れていた。体からは一瞬にして力が抜け、心臓も張り裂けそうなほど痛い。あの水浸しになったホテルの部屋の光景を思い出す。鍼灸院で見た冷や汗を流し、血の気を失っていた凛の青ざめた顔。薄い服に身を包んだだけの彼女は、今にも壊れそうだった……しかし、あの時の自分は真っ先に凛へと怒りをぶつけた。海斗と共にいたことへの苛立ち、そして、胡桃を疑ったことを責め立てたのだ。だが、凛が正しかったのだ……いや、そもそもが間違っていた。なぜなら、自分は元凶の正体に気づいていなかったのだから。それが柚葉だったなんて。なぜ柚葉なんだ?梨花は呆然としている智也を見つめながら、胡桃の手をそっと握りしめた。「なんで今になって私たちに教えてくれたの?柚葉の仕業だってあの時話せば、お父さんが他人に頼ることも、あなたが刑務所に行くこともなかったじゃない」「あの時は柚葉さんに騙されていたんだから」胡桃は悔しそうに続ける。「柚葉さんは、お兄ちゃんと結婚したら、私の留学費用を出してくれるって、ずっと言ってたの。それに、凛さんは何もくれなかったけど、柚葉さんはたくさんプレゼントをくれたでしょ?だから、当時は柚葉さんのことすごくいい人だなって思ってた。でも、もしあの金がお兄ちゃんのだって知ってたら、私だって騙されてなかったもん。お兄ちゃん。私、嘘はついてないから。お兄ちゃんに凛さんが浮気しているところを見せて、離婚させようって言い出したのは私だけど、薬を買ったのも、男を手配したのも、全部柚葉さんなの。どうやったら、凛さんに疑われることなく薬を飲ませられるかって、お酒に薬を混ぜるタイミングひとつまで、柚葉さんは私に教え込んだ。私は面倒臭いなって思ったんだけど、普段から凛さんにひどいことをしていた私
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第304話

妹である自分のことを大事に思っていたら、お兄ちゃんが自分にお金を使うことを渋るわけがないのだから。全てを言い終えた胡桃は、満足そうに笑った。しかし、笑った瞬間に頬がひきつり、痛みが走る。先ほどの一発は、確かに相当こたえた。どれもこれも、全部柚葉さんのせいだ。あの女がお兄ちゃんを惑わしたのがいけない。「お母さん、顔がすごく痛いから、早くお医者さんのところまで連れてって」「分かったわ」梨花は胡桃の腕を取り、歩き出そうとしたが、ふっと振り返り智也に携帯を貸してもらえないか聞いた。「私の携帯、充電が切れちゃったから、あなたの携帯を貸してくれる?あなたの携帯なら、支払いアプリも入ってるでしょ?」胡桃にもお金はあるのだが、智也が柚葉のために自分を叩いたことが許せず、智也が自分の慰謝料を払うべきだと思っていた。だから、あえて自分が携帯を持っているとは言わない。胡桃の顔にあるくっきりとした平手打ちの跡を見て、智也も自分の過ちに気づき、素直にカードを差し出した。「カードじゃなくて携帯でいいから」梨花はカードを受け取らず、やはり携帯を要求した。胡桃が不思議そうに聞く。「お母さん、なんでカードを貰わないの?お兄ちゃんからのお詫びだと思えばいいじゃん」「そうやってお兄ちゃんにお金をせびらないの。今、あの子にいくら残ってると思うの?それに、ここでカードを受け取っちゃったら、あの厚かましい柚葉と同じになっちゃうでしょう?」もし智也のお金を使うとしても、それは、柚葉がこの数年食い潰してきたあのお金を取り返してからだ。だからこそ、携帯の中にある証拠が必要だった。智也は梨花が自分のためを思ってくれいてるのだと思い、特に疑うこともなく携帯を手渡し、支払いパスコードも教えた。処置も不要なほどの怪我なのに、胡桃は医者の前で大げさに騒ぎ立てている。しかし、梨花は胡桃のそばに静かに立ち、智也の携帯の中に柚葉との親密な写真がないか探し始めた。アルバムを見たが、何も出てこない。そのことが信じられず、梨花はもう一度見直した。まさか、智也は一度も柚葉と男女の仲になっていない?そんなことありえるのか?もしかしたら隠しフォルダーにあるのかも知れないが、そのパスワードまでは分からない。写真がだめなら、次はラインだ。梨花はラインを開き
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第305話

智也はその場に座ったままだった。両手で頭を抱えたり、うつむいたりと、ひどく思い詰めた様子だったので、柚葉はてっきり梨花や胡桃のことでまた面倒が起きているのだと思い、静かに歩み寄った。「智也、どうしたの?梨花さんと胡桃ちゃんは?もしかして、お金のことでまた何か言われたの?ごめんなさい……」智也が顔を上げた。しかし、その瞳は獣のような鋭い光を宿し、じっと柚葉を睨みつけている。柚葉はどきりとし、言葉を詰まらせた。智也も何も言わずに、柚葉を見つめたまま……その瞳は、まるで何かを見透かそうとしているようだった。だが、瞳の底にはまだ信じられていないというような思いも見える。智也の複雑な瞳を見つめ、状況を飲み込めていない柚葉は、戸惑いながら言った。「腰も怪我をしてたみたいだから、先生に尿検査も必要って言われちゃって。明後日には結果が出るみたいだし、私もかなりマシになってきたから、智也はもう心配しないで……」「柚葉」突然、智也が柚葉の名前を呼んだ。その声は柚葉が初めて聞く、とても冷たくて冷酷なものだった。一瞬にして、彼女の全身がこわばる。「さっき胡桃から聞いた話があるんだけど、お前の言い分も聞かせてくれるか?」智也はなんとか怒りを抑え、柚葉に言い訳のチャンスを与えることにした。彼自身も凛にもう一度ちゃんと説明する機会を与えて欲しかったから、相手の立場に自分を重ねてしまい、同じ痛みを想像してしまうのだ。処方箋を持っていた柚葉の手は震え始め、彼女は探るように聞いた。「なんのこと?」その声は消え入るように小さい。「凛が薬を盛られたことについてだ」智也は顔を上げて柚葉を見上げた。かつての柚葉は、彼にとって見上げるような存在だった。華やかな容姿に、穏やかな性格。それでいて普通の女性よりも才能がある。何も言わずに海外へ行ってしまった時も、智也はそれが研究のため、将来のため、ひいては国の科学技術の発展に関わることだと考え、怒ることもなく、むしろ強く応援していた。だからこそ自分の起業するという夢さえ諦め、その資金をすべて彼女の研究費に回した。必死に稼ぎ、自分は質素に暮らしながらも、ただ柚葉がその道をより順調に、より輝いて進めるようにと願っていた。輝いている彼女をそっと見守っていたかった。ところが特任研究員として帰国
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第306話

なぜなら柚葉がいつも智也のそばで、絶妙な加減で火に油を注いでいたから。「で、結局お前なのか!」それは全身から絞り出されたような声だった。首には青筋までもが浮かび上がっている。ここまで激昂する智也を、柚葉が見たのはこれで2回目だった。1度目は柚葉が黙って海外へ発った後、ようやく柚葉と連絡のとれた智也は、このように怒りを露わにしていた。そして今回は、凛のために。「智也、凛さんのためにそうやって私を怒鳴りつけるの?」「話を逸らすな」目に涙を浮かべ、同情を誘う柚葉を前に、智也は初めてそれがひどく白々しいと感じた。柚葉の涙がこぼれ落ちる。「もう私がやったって確信してるんでしょ?だったら、何でわざわざ聞くの?」「話、を、す、り、か、え、る、な」智也は一語一句をかみしめるように言い放ち、もうすでに爆発してもおかしくない怒りを抑えながら聞いた。「やったかやってないかを聞いてるんだ」「外で話さない?」柚葉は涙を拭った。「ここは人が多いし、智也の立場もあるでしょ?それに、もし撮られでもしたら……」「そんなのどうだっていい」智也は柚葉の手を振り払った。「いつまでものらりくらりと答えから逃げるな。話を聞いてやろうっていうのに、はっきり話さないし、やったかやってないかも答えない。俺に自分で調べろってことか?それとも俺には突き止められないとでも思ってるのか?俺が突き止められなくても、警察ならどうだろうな?」智也が警察を持ち出して自分を脅しているということは、今言えば警察沙汰にはしないということなのだろうか?柚葉はすぐに頭の中で計算した。これ以上、何か問題を起こすわけにはいかない。祖父はすでに処罰を受け、この先2、3年は祖父のプロジェクトに自分は食い込むことができない。他の研究室へ回してくれるかもしれないが、大きな研究所であればあるほど、自分の経歴を徹底的に調べるだろう。一度助けてくれた利明に、短期間で二度も頼るのだって不可能に近い。だから今何かあれば、経歴に傷がついてしまう。柚葉は腹を決め、うなずいた。「ええ、私がやった。でもね智也、私一人じゃなくて、胡桃も一緒にやったことなの。それに、このことはあの子が提案したんだから」柚葉は胡桃も共犯だと言った。なぜなら、たかが凛ひとりのために、智也が二人を同時に見捨てたりはしない
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第307話

柚葉は涙を拭い、乾いた笑みを浮かべた。「どうやら凛さんを好きになったみたいね。じゃあ、私は?あなたにとって私は一体何なの?学生時代、私と曖昧な関係だったのはあなただよね?私が海外に行ったとき、泣きじゃくったのもあなただよね?毎年、私に会うため海外まで来ていたのもあなた。私の研究費を一生サポートすると言ったのもあなただよね?凛さんと結婚して4年も子どもを作らないどころか、私のために触れもしなかったじゃない。これでも私たちはただの友達だったっていうつもり?」柚葉は胸を押さえて続けた。「もしそうなら、あのお酒に酔ってしまった時のことは何?あの交流会での出来事はどうなるの?」酒に酔って、肌を重ねたあの日。ほろ酔いになり、互いを求め合ったあのキス。肌を重ね、口づけも交わしたのに、ただの友達だというのか?智也は何も言い返せず、沈黙した。「あなたは私が凛さんを傷つけたことを責めるけど、どうして私がそんなことをしたのか、あなたは考えたことがある?あなたは行動で私を愛しておきながら、この関係に名前だけは与えてくれなかった。もし、私が自分で掴みに行かなければ、一生そのままだったの?」関係にこだわらないと言ったあの時の言葉も、ただ智也をつなぎ止めるための言い訳に過ぎなかった。柚葉は深呼吸をして、プライドを守るように顎を少し上げる。「凛さんを傷つけたのは私じゃない。本当に罪深いのはあなた自身よ、智也」柚葉の言葉は、まるで鋭い石がめり込むかのように、智也の心臓に鋭い痛みを与えた。胸に感じるのは、言いようのない辛さと、突き刺すような痛みだけだ。智也は立っているのもやっとだった。柚葉がさらに畳み掛ける。「そうだよね、智也?私たち二人とも、彼女を傷つけたの。私を責めるなら、自分自身のことも責めなさいよ!」パシッ!智也は自分の頬を激しく叩いた。なんて自分は最低なんだ!柚葉は驚いて言葉を失った。あの智也が、凛のために自分を叩くなんて。本当にそこまで想っているのか?「もうこれが全てだ。柚葉、俺たち……」智也は一呼吸置き、断固とした決意を滲ませて言う。「終わりにしよう。確かに、お前を愛していた。でも、それは昔の話だ。金銭的な償いならいくらでもする」「そんな……私と別れるつもりなの?」柚葉の目からは涙があ
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第308話

智也ほど出してくれる人など、いるわけがない。だから今ここで、突き放されるわけにはいかないが、病院で縋りついていても何の意味も持たなかった。「ねえ、今日私は胡桃ちゃんのせいでこんな酷い目に遭ったんだよ?だから、お兄ちゃんとして、私の面倒くらい見てくれてもいいんじゃない?私のこと、家まで送ってくれる?」智也は顔を顰めた。柚葉の言い分も分からなくはないが、これ以上彼女と行動を共にすれば、凛に対して言い訳ができなくなる。「浩に送らせるよ」「智也!」柚葉は憤慨し、肩で息をした。「私を家に送ることさえしてくれないの?」それでも智也は柚葉を送り届けることはせず、浩を呼んだ。「小林さんを家まで送ってやってくれ」智也の頬にある指の跡と、呼び方の変わりようから、浩はすべてを察した。二人の関係は終わったらしい。ただの喧嘩か、それとも完全に決別したのかは分からないが、柚葉に対しては丁重に対応しておくのが正解だろう。「小林さん、どうぞこちらへ」柚葉はなかなか動き出そうとはしなかったが、智也は彼女を残し、母と妹を探しに行っていた。あの二人がいなくなってから、かなり時間が経つ。梨花と胡桃は中庭のベンチで智也の携帯を必死に調べていた。特に、柚葉とのトーク履歴を入念に調べ、少しでも甘い言葉があれば、全てを記録として残す。証拠はいくらあってもいい。その時、智也は彼女たち二人が寄り添って自分の携帯を見ているのを見つけた。「母さん、何見てるんだ?」突然現れた智也に驚き、二人は携帯を落としそうになった。梨花は慌てて画面を切り替え、自分の方から質問を投げかける。「ねえ、なんで手元にはあれだけしかお金がないの?」智也は携帯を取り返すと、表示されているわずかな残高を確認し、画面を消した。「ほとんどは口座に入ってるから、携帯にはあんまりチャージしないんだよ」だが、梨花と胡桃は一切信じていない。とはいえ追及しても無意味だ。お金が柚葉に流れていると分かった今、柚葉からどうやって金を取り戻すかを考えることが最優先なのだから。胡桃が後ろを振り返る。「あの人は一緒じゃないの?」先ほど智也に殴られた手前、胡桃はもう智也の前では柚葉を「愛人」呼ばわりはしなかった。智也が淡々と答える。「柚葉とはもう関係を終わらせたから、金のこと
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第309話

南山ヒルズ9号棟。日和が美穂子に今日の出来事を生き生きと語り聞かせていた。「胡桃がどれほど柚葉さんを酷い目に遭わせたか知ってる?柚葉さん、きっと痣だらけになってるはずだよ。胡桃はよくやったって思ったけど、命中率が悪いんだよね。もし、顔に命中してたら、柚葉さんの歯が何本か飛んでいたはず」日和は少し残念そうに肩をすくめる。凛が少し残念そうな顔で言った。「でも、智也が駆けつけた後、どうなったんだろう?」凛は智也の顔を見るのがどうしても嫌で、最後まで見ていなかったのだ。「凛さん」と日和は意味深な笑みを浮かべ。「お兄ちゃんの運転手に尾行させてるから、もうすぐ状況が分かるはずですよ。本当は、森田さんに頼もうかと思ったんです。だって森田さん、こういうこと大好きですから」凛は怪訝な顔をした。「そうなの?」「そうですよ」日和は自分の頭を凛の肩において、もたれかかる。「凛さんが秘書として働いたのは1ヶ月しかなかったから、気づかなくても普通です。でも、森田さんって、恵さんや理央さんよりもゴシップ好きなんですよ。だからお兄ちゃんも情報を探らせる時は、いつも彼にお願いしてます」凛は言った。「仕事ができるってだけじゃなくて?」「それも理由の一つなんですけど、とにかく彼のゴシップを嗅ぎつける嗅覚はすごいんです。それも……パパラッチとかの方が向いてるんじゃないかってくらいに。でも残念です。今は、お兄ちゃんが海外に出張で行かせてるから、お願いできませんでした」凛は小さく頷いた。その時、インターホンが鳴った。美穂子がすぐに玄関を開けると、そこには海斗の運転手が立っていた。日和が目を輝かせて尋ねる。「どうだった!?あの子たちのその後は?何か分かった?」運転手は報告した。「あのあと、谷口社長は二人を連れて病院に行ったのですが、そこでまた言い争いが始まってしまいました。しかし、それは胡桃さんと小林さんの対立ではなく、谷口社長と小林さんの対立でした」驚きで目を見開いた日和。「本当?」凛も同じく驚いた表情を浮かべ、運転手に顔を向けた。「智也と小林さんですか?智也と胡桃ではなくて?」「はい」と運転手は携帯を取り出した。「病院の廊下での口論で、声は大きくはありませんでしたが、聞こえる程度だったので、重要な場面を録音してきました。凛さんのお役に立
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第310話

凛は手を振ってそれ以上はやめるように伝え、先に動画を見ることにした。画質は粗く、ノイズも多いが、智也と柚葉だということははっきりと分かった。だが、音声はかなり不明瞭で、聞こえたり途切れたりするのを繰り返し、二人が激しく口論になると、ようやく聞き取れるといった様子だった。「あなただよね?」という言葉だけは聞こえるが、その前後の脈絡は掴みきれない。日和が画面に耳を近づけた。「なんかお酒に酔った時とか交流会、あとは……触れもしなかったなんて言ってる気がするんですけど、どういうことですか?凛さん、何の話か分かります?」凛には分かった。「智也と小林さんが酔った後に男女の関係を持ったってこと」「一線を越えたんですか!」日和が勢いよく立ち上がる。「これって有力な証拠じゃないですか?どこのホテルか調べて、予約履歴や監視カメラを確認しましょうよ」しかし、凛が静かに首を振った。「ホテルじゃないの。家で起こったことだから」日和の拳に力がこもった。「どうやら、今日の胡桃は手加減しすぎてたみたいね……ひいきせずに、谷口社長共々まとめて殴ってやるべきだった」美穂子も唇を噛み締めるほど、悲しそうな顔で凛を見つめた。「もう過ぎたことだから」今は淡々と言っている凛だが、あの日は一日中吐き気に襲われ、胃酸まで戻しそうになるほどの嫌悪感を感じていた。動画も終わりに近づき、智也と柚葉が画面から消えていった。日和が不思議そうに呟く。「なんで二人は別々の方向に帰っていったんだろう?谷口社長、柚葉さんのこといらなくなったわけ?」「それは無いと思う」柚葉のために4年間も他の女と関係を持たないでいた智也が、簡単に柚葉を諦めるはずがない、と凛は思った。凛は運転手に、この動画を自分に送ってもらうように頼んだ。頷いた運転手が、報告を続ける。「それと、谷口社長も南山ヒルズに戻ってきたそうです」美穂子がため息をついた。「道理でずっと携帯が震えてるんですね。どうやら、猿が住処に帰ってきたようです」日和が怪訝そうな表情を浮かべた。「猿って何?」「智也よ」と、凛は答える。「凛さん、やっぱり谷口社長が20号棟に来て、ずっとインターホンを鳴らしています」美穂子が防犯モニターを確認すると、先ほどの動画と一緒の服装をした智也が映っていた。「凛?いる
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