All Chapters of 女装メイドと婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します: Chapter 101 - Chapter 110

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第101話

アレクサンドは静かに手を叩き、周囲の視線を集めた。「わざわざお願いして、流行や舞台に詳しいイザベラ嬢を連れてきた甲斐があったよ。三学年の舞台によいアドバイスが貰えると思っていたけど、予想以上だね」アレクサンドのその発言に、周囲は納得したらしい。婚約者を差し置いてアレクサンドと行動を共にする生意気な女子生徒から一変。アレクサンドに信頼されて連れてこられた人物であるとイメージが変わったのだ。(来る時に、アレクサンド殿下から頼まれたりなんてしていませんのに……)代表者と話しているアレクサンドから、イザベラは目が離せなくなる。青い髪を照明の光に反射させながら、まっすぐ前を向いて話す彼の顔は端正で美しかった。(ああ、本当……)彼の配慮は、言葉にされない分、心に深く突き刺さる。(ズルいわ……)イザベラは、アレクサンドが自分に向けた信頼と優しさが、胸の奥で熱い塊となって広がるのを感じていた。その感情を悟られぬよう、彼女は手に持った書類を強く握りしめ、静かに俯いた。  ***  一通りのチェックが終わり、後は最終確認をするのみになった。再びみんなで会議室に集まる。会議室の長机の上は、先ほどの混沌が嘘のようにきれいに片付けられていた。残っているのは、数枚の最終書類と、全員分の飲みかけの紅茶だけだ。皆、張り詰めていた気が緩んだのか、疲労の色を見せている。ロミーナは深く息を吐き、アレクサンドは額を押さえていた。「……これで、最後ですね。全てのチェック終わりました」 ヤコブの声と共に、緊張感が一気に薄れる。各々がそれぞれ、自由気ままに大きく体を動かした。「うん、これで明日の本番を待つのみだ。ありがとう、お疲れ様」
last updateLast Updated : 2026-03-19
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第102話

「私は、あと一息だと思うんだけどなぁ」「あのイベントは、ヒロインが心の内をさらけ出し、本心からアレクサンド様を心配していることを見せてようやく成立するんですよ。イザベラ嬢がそんな会話をしてくれるかどうかすら、分からないのに……」ヤコブが呆れた表情を見せる。確かに、これは一種の賭けに近い。「それでも、よ。イザベラは大事な友人だから、幸せになってもらいたいもの」「アレクサンド様は?」「もちろん。イザベラって、良い王妃になりそうじゃない?」「まあ、元々優秀な女性ではありましたけどね……彼としても、相手が王妃の器に相応しければ、それでいいと思っていそうですし」「もう! ロマンが無い!」「男の自分にそれを求められましても……」乙女ゲーム制作陣の一人が何を言うか。唇を尖らせて睨みつけると、ヤコブは困ったように笑っていた。そうこうしている内に、馬車まで着く。玄関ホールの向こうには、モンリーズ家の紋章を付けた馬車が停車し、その横にシヴァが立っている。彼の姿は夕闇に溶けかけていたが、綺麗な空色の瞳がこちらを向いていることは分かった。「それじゃ、ここまで。また明日ね」「ええ。また明日」手を振って別れる。シヴァの下へ行くと、彼は少し拗ねたような表情をしていた。「お疲れ様でした。お嬢様」「……あの、別に彼とは何もないからね?」そう言っても、彼は返事をしない。つんとそっぽを向く仕草が、何とも愛らしかった。  ***  今日は学園祭当日。天気は快晴で、開会式前ということもあり程よい緊張感が学園内を包んでいる。私達は少し早めに会議室に集合していた。今日の
last updateLast Updated : 2026-03-19
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第103話

もう打ち合わせは終わっているので、各々が挨拶をして部屋を出る。最初にここで控えておくのは私とアレクサンドだ。広かった会議室にぽつんと二人取り残されると、部屋は途端に広々として寂しく感じられた。長机の上には飲み干したカップが並び、先程まで人がいた気配を感じさせている。トントン、とドアがノックされる。早速何かあったかと構えているとやってきたのはシヴァだった。いつものメイド服に身を包み、紅茶や茶菓子を用意したカートを引いてくる。不要になった茶器を片付け、席に座った私達に紅茶を入れて机に置いてくれた。紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせると、アレクサンドの方を見る。彼はいつもと何一つ変わりない様子だった。「……えっと、昨日はどうでしたか?」沈黙に耐え切れず、というのもあるが聞きたかった質問を口に出す。「イザベラ、三学年に行って緊張していませんでした?」「ああ、そのことか」何の話かと不思議そうな顔をしていたアレクサンドだったが、思い出すとすぐに口の端を緩めた。いつも通りの、綺麗な微笑みだ。「さすが、一学年目でヤコブに次いで二位の成績なだけあるよ。優秀だった」「そ、そうですか……」あまりにいつも通りの様子に、これは脈が無いんだろうな……と察してしまう。いやいや、でもまだ初日だし!始まったばかりだし!何かチャンスはあるはずだと頭を振って考えを整理する。「何やら画策しているようだけど」私が沈黙したことで、会話の主導権がアレクサンドに移行してしまったらしい。聡い彼には私があれこれしようとしていることはお見通しのようだ。バレてしまっていたことに、緊張で心臓がバクバクと音を立てる。 「我が婚約者殿は一体何がしたいのかな?」 ア
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第104話

12時になり、担当の時間が終わった。アレクサンドは次も担当で、連続になるためこのまま待機。ステファンが部屋に来たのを確認すると、私はうんと伸びをして部屋を出た。その後をシヴァが続く。「この後はクラス担当ですね」「うん……アレクサンド様とは、地味に緊張したわ」会議室を出ると、学園全体がまるで一つの巨大な劇場のように活気に満ちていた。迷子の時も私は会議室で待機だったので、なんだかんだ学園祭の様子を見るのははじめてだ。廊下は色とりどりの制服を着た生徒や、華やかな衣装に身を包んだ来場客で溢れかえっていた。焼き菓子の甘い香りが風に乗って運ばれ、遠くからはブラスバンドの陽気な演奏が聞こえてくる。無事到着してクラスの扉を開けると、宙に浮いたまま食事しているカップルが目に飛び込んできた。鮮やかな青い布で覆われた四角いテーブルと椅子。そこに座る人々が、床からおよそ2メートルの高さで静かに宙に浮かんでいる。教室の天井は高いので、頭をぶつけることもない。客たちは最初こそ驚いた表情を見せていたが、すぐに慣れていく。宙に浮いたまま銀のフォークでタルトを切り分け、足をバタつかせながら楽しそうに談笑している。一種のアトラクションのようで、そんな光景を眺めながら他の客が待機し列をなしている。宙に浮く人々を興味深そうに眺めて、楽しそうにお喋りをしている。せっかく企画したのだし、私も一度参加してみたいものだ。目を輝かせていると、静かにシヴァは部屋の隅へ移動した。そこには何人かの従者が控えている。それを確認して、私はクラスのメンバーが集まっている場所へ向かった。「モンリーズ嬢」テーブルを浮かせる魔法を担当していた男子生徒は、交代が来てほっとしているのがありありと顔に出ていた。テーブルと椅子を床に戻し、客が席を立つタイミングに合わせて、そっと交代をする。物を浮かせる魔法は基本的で
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第105話

シヴァの手がそっと額に触れる。まばゆい光と共に、魔力が全身に広がるのを感じた。彼の魔力は温かくて心地が良い。光が消えてから、私は手を確認した。肌の色が少し日に焼けている。窓ガラスに映る姿を確認すると、黒髪をアップに纏めたピンク色の目の女の子が映っていた。服装は無地の朱色のワンピースに、生成りのブラウスというシンプルなものだ。足元の靴も飾り気のないもので、商人の娘のように見えるだろうか。一通り全身を確認すると、満足そうにしているシヴァへ振り向く。「ありがとう、シヴァ!」お礼を言って、私は彼に抱き着いた。ぎゅっと彼を抱きしめると、温かい体温が全身を包み込む。 ずっと、ずっと我慢していたのだ。本当は、もっと手だって繋ぎたいし、こうして大好きな彼を抱きしめたかった。それでも、私はアレクサンドの婚約者で、見つかれば私もシヴァもただでは済まない。お父様たちも否定はしないでいてくれるが、周囲から見とがめられるようなことはするなと、密かに見張られていたのは分かっていた。きっと今の姿だったら、誰が見たって私とシヴァだと分からない。こうして抱き着いても、手を繋いでも、誰にも怒られることもないし、心配することは無いのだ。安心したら、涙が零れてきた。そんな私の様子に、シヴァは明らかに狼狽する。「え? リリー?」「ううん。大丈夫。……なんか、ほっとしてね」差し出されたハンカチで涙を拭い、明るく微笑んで見せる。少し頬を赤らめたシヴァは私をぎゅっと抱きしめ返してくれた。手を繋ぐことはあっても、こんな風に抱きしめられたことは無い。一気に顔が赤くなり、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。その鼓動が、私だけのものではないと気付き、そっと彼の顔を見た。今までにないほど、すぐ近くに美しい彼の顔がある。空色の瞳が私を射抜いた。
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第106話

注文したのは一本だけだ。他にも色々食べ歩きしたい。お金を渡し、店主から差し出された串を手に持つ。焼きたての肉からはスパイスと肉の香りが強く立ち上っていた。肉汁が滴り、手が汚れそうになり慌ててしまう。すると、シヴァの赤い舌が肉汁を舐め取っていった。「……⁉」舌が私の指先に当たり、ぞくりと背筋が泡立つ。黒髪のイケメンが物を舐める姿なんて、目にも心臓にも悪い。それを思ったのは私だけではないのだろう。ちらちらと彼を見ていた周囲の人々が一斉に動きを止めたのが分かった。「……うん、美味い」それはまさか私の指のことじゃないでしょうね?「食べないのか? 先に一番上、もらうぞ」「……どうぞ」何にも気兼ねしない、素のままのシヴァの存在はあまりにもなんか凄い。語彙力が足りない自分が恨めしくなった。 ***  ……失敗したかもしれない。そう思ったのは、オレがデザートを買いに行った後だった。オレがリリーに変装魔法をかけたので、これで正体がバレることは無い。今はただの商人として、一般人としてふるまえる。そのことを喜んでいたのに。彼女が大層な美人であることを、オレはすっかり失念していた。「そうそう、二学年のクラス展示を見に行きたくて」「二学年でしたら、ここの通りをまっすぐ行って商店を抜けるんです」商店のテントが並ぶ中央広場には、大きな石造りの噴水がある。その周囲には、疲れた客が休憩するための木製のベンチがいくつか設置されていた。そのベンチの1つにリリーは座り、オレの帰りを待ってくれていた。リリーは可愛いし、誰もが振り返る美人だ。
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第107話

「⁉」彼女は急なことに驚き、目を見開く。状況が分かったのか、じわじわと顔が紅潮していく。本当に、オレの前のこいつは反応が素直で可愛い。あと面白い。しばらく観察するもリリーが動かないので、オレはスプーンでジェラートをすくうと今度は自分の口に入れた。冷たさが口内の温度で溶け、いちごの酸味と甘みが直に伝わってくる。「……うん、美味い」「シヴァって、シヴァって……」「うん?」リリーの首まで真っ赤になっているのが、ブラウス越しでも分かりそうだ。「なんで自覚無いの……」真っ赤な顔をして、涙目で睨むように言われるが、自覚が無いのはお前の方だと言いたい。さっきの男達の数を数えておけばよかった。「もう無理、かっこよすぎて無理……立場が外れたらこんななの? 甘すぎて無理……!」今度は顔を覆って丸まってしまった。本当に、なんでこんなに一々反応が面白いんだろうか。もう一口ジェラートを食べると、顔を覗き込みながらオレは尋ねた。「ジェラート食うか? このままだと残らないぞ」「……食べる」顔は赤いが、しかめっ面のままがばっと彼女は顔を上げた。ジェラートを差し出すと心底美味しそうに食べている。それを見ながら、オレは左手の小指を擦っていた。手袋の下に、固いものの感触が伝わる。あの日貰った指輪は、ずっと大事に付けていた。この指輪は、願いを叶えるという。心底信じているわけではないが、少しくらいはオレも願ってみたい。オレとリリーが結ばれる未来を。 ただの夢なのは分かっている。それでも、可能性はゼロじゃない。その時が来たら、チャンスは絶対に掴んで見せる。
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第108話

「きゃっ」びっくりして声が出てしまう。左右に手すりのある椅子で本当に良かった。手すりにしがみつきながら、慣れない浮遊感に耐える。2メートルほど浮いたところで動きは止まり、安定感が出てきた。「本当に浮いてる……!」「これは凄いな」「ええ!」この世界では、空を飛ぶ魔法はまだ一般的ではない。本当に腕の立つ、王宮魔導士の中でも数えるほどの人間しか、成功できないものとされている。物を浮かせるにしても、貴族や王族ほどの魔力量が無いと人間の体重は支えられない。だから、一般人がこうして宙に浮くような機会はまずないのだ。自分で考えたこととはいえ、これはお客さんも楽しいはずだ。「……どうだ? 自分が企画した店は」「最高!」足をぶらつかせながら、注文したオレンジ・ペコーを一口飲む。口に入れたチーズケーキは、口溶けが良く、爽やかな酸味と濃厚なミルクの風味が広がる。その名の通り、まるで月の光を集めたように滑らかな舌触りだった。シヴァも美味しそうにタルトを食べている。宙に浮いているので、私達の会話は周囲には聞こえにくいだろう。ほとんど二人きりのような、幸せな時間だった。 ほぼ最後の組だったこともあり、時間ギリギリになってしまった。会議室に集合する予定だったが、もうみんな集まってしまっているだろうか。馬車に戻ると手早くシヴァから魔法を解除され、彼は着替えがあるので馬車に残して、私だけ先に会議室まで走る。お行儀が悪いがしょうがない。人目に付くところまで来たら、早歩きに変えよう。本当はもっとゆっくりしたかったが、こればかりはしょうがない。三日目のデートの時を楽しみにするとしよう。会議室へと向かう校舎の廊下は、学園祭の一日目を終え、客の熱狂は消え去っていた。廊
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第109話

「申し訳ありません。遅れました!」「姉上! 時間ギリギリですよ。どうしたんですか?」「まあまあ、間に合ったから良しとしよう。もう放送入るよ」真っ先に声を掛けてきたのはレオナルドだった。そんな彼をアレクサンドが抑えてくれる。マイクを持っており、本当にもう放送を始める直前だった。「本当にごめんなさい」みんなの所へ駆け寄ると、イザベラが私の顔にかかった髪を一房除けてくれた。「何事も無くて良かったわ。心配していたの」「どこまで行ってたんですカ?」「正門近くのブラスバンドの所よ。帰りのお客さんの波にのまれてしまって」苦笑いをしながら、咄嗟に考えた言い訳をする。少し罪悪感があるが、私の言い訳に納得したのか皆それ以上は何も言わなかった。音楽が流れ、アレクサンドが終わりの挨拶と明日の予定について話をする。放送を終えると、どっと力が抜けてしまった。みんなも同様で、少し疲れた顔をしている。それでも楽しかったのか、表情は明るかった。「みんな、今日はありがとう。また明日の朝、ここで集合だ」アレクサンドの言葉に、みんなは席を立つ。体には心地よい疲労感が残っていた。今日はよく眠れそうだ。一足遅く部屋を出ると、出てすぐの廊下に待機していたシヴァと合流した。「お疲れ様でした、お嬢様」「お陰様でギリギリ間に合ったわ。ありがとう、シヴァ」廊下の夕暮れの色が、シヴァの横顔を淡く照らしていた。彼は疲れた様子も見せず、いつものクールなメイドに戻っていた。先程まであんな激しい動きをしていたとは思えない。「帰りも馬車まで抱いて行ってくれない?」「ご冗談を」冗談めかして言う私に、シヴァは冷静に返事をした。  ***  
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第110話

「レオナルドとは、どこを回ったの?」「昨日は皆さんのクラスと、他の一学年のクラスを一通り。先程は三学年の舞台を見てきました」そうなると、まだ行っていないのは中央広場の商店と、二学年と、選択クラスか。二学年と選択クラスは、私はまだ行っていない。「イザベラは?」「中央広場以外は一通り。並んでいる所とか、時間がかかりそうな舞台まではまだ見れていないけれど」そうなると、二人が行っていないのは中央広場か。私は昨日行ったので、先導して案内することにしよう。「それなら、中央広場に行きましょう! 私は昨日見てきたから、案内できるわ」私の言葉に、二人は笑顔で頷いた。 中央広場の商店は今日も活気に満ちていた。客が変わったからか、私が変わったからか。昨日とはまた少し違う雰囲気のように思えた。テントの位置は変わらないものの、商品を入れ替えた店が多く、東洋風の絹織物や、魔法の炎で加工されたガラス工芸品など、昨日には見かけなかった品々が並べられている。朝の澄んだ空気のおかげか、立ち上るスパイスや香料の匂いが昨日よりも鮮やかに感じられた。「まずは何か食べる? それとも、ショッピング?」「まだお昼には早いですし、ショッピングはいかが? 私も商品については案内できてよ」イザベラの言葉で、まずは店を見て回ることになった。食べる方に忙しくて、なんだかんだ昨日はゆっくり見られなかったのでありがたい。しかも、どうやら彼女はマルグリータを先導してくれるつもりのようだ。なんとも頼もしいし、私の友人を大事にしてくれているのが嬉しかった。「マルグリータ嬢は、何がお好き?」「そうですね。最近は香水が気に入っています。それと……アップルグリーンのものは一通り」頬を染めながら呟くマルグリータは可愛らしい。色々と察したのか、イザベラも顔がにやけそうになっているのを必死に隠しているのが分か
last updateLast Updated : 2026-03-20
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