「良かった。緊張が解けたようで」「すみません。本当に、凄く美味しいです」「シェフにもそう言っておくよ。きっと喜ぶ。余った物は持ち帰って良いからね」その言葉にシヴァにも食べて欲しい、と一瞬彼の顔が浮かぶ。でもすぐに今朝の気まずそうな彼の表情を思い出した。まずは現状を何とかして仲直りしないと。感情が暗く沈んでいくが、ふと顔を上げれば目の前のアレクサンドが視界に入る。にこにこと笑う彼に毒気が抜かれてしまう。そういうキャラだと分かっていたはずだが、改めて目の前にしてみるとその威力は凄まじい。「リリアンナ嬢は、婚約をしたくないんだったね。でも、それが出来ない明確な理由があるんだ。近代史は勉強したかい?」「いえ。古代史から順番に習っているので、近代はまだ」「そうか。じゃあ、始めから説明するね?」そう前置きし、アレクサンドは語り出す。 ここリヒハイム王国は近隣から見ても大きい国だ。資源は豊富で争いも少なく、気候も安定していて過ごしやすい。そんなこの国の隣には、ソプレスという小国があった。隣の大国とリヒハイム王国に挟まれたこの国は、リヒハイム王国の友好国であり昔から行き来が激しく祭典を共に行うこともあったという。それが5年ほど前のこと。世界的にも大規模な飢饉が発生した。原因不明の大量発生した害虫が各所に飛び回り、その群れが主食である麦を食い荒らしたのだ。リヒハイム王国を含め多数の国は城で貯蔵してあった麦を解放したり、被害のなかった地域の麦を平等に国内に流通させることで何とかしていた。しかし、その害虫の群れの移動ルートに直撃してしまったソプレス王国は完全に麦を失ってしまい、おまけに運悪く直前に川の氾濫があり野菜や果物までもが流されてしまう。国全体を賄うだけの備蓄があるわけもなく、災難を逃れた地域は国内でもわずか数パーセント。主食も野菜も果物も失ってしまうという、どうしようもない事態だった。
最終更新日 : 2026-03-06 続きを読む