女装メイドと婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

33 チャプター

第21話

「良かった。緊張が解けたようで」「すみません。本当に、凄く美味しいです」「シェフにもそう言っておくよ。きっと喜ぶ。余った物は持ち帰って良いからね」その言葉にシヴァにも食べて欲しい、と一瞬彼の顔が浮かぶ。でもすぐに今朝の気まずそうな彼の表情を思い出した。まずは現状を何とかして仲直りしないと。感情が暗く沈んでいくが、ふと顔を上げれば目の前のアレクサンドが視界に入る。にこにこと笑う彼に毒気が抜かれてしまう。そういうキャラだと分かっていたはずだが、改めて目の前にしてみるとその威力は凄まじい。「リリアンナ嬢は、婚約をしたくないんだったね。でも、それが出来ない明確な理由があるんだ。近代史は勉強したかい?」「いえ。古代史から順番に習っているので、近代はまだ」「そうか。じゃあ、始めから説明するね?」そう前置きし、アレクサンドは語り出す。 ここリヒハイム王国は近隣から見ても大きい国だ。資源は豊富で争いも少なく、気候も安定していて過ごしやすい。そんなこの国の隣には、ソプレスという小国があった。隣の大国とリヒハイム王国に挟まれたこの国は、リヒハイム王国の友好国であり昔から行き来が激しく祭典を共に行うこともあったという。それが5年ほど前のこと。世界的にも大規模な飢饉が発生した。原因不明の大量発生した害虫が各所に飛び回り、その群れが主食である麦を食い荒らしたのだ。リヒハイム王国を含め多数の国は城で貯蔵してあった麦を解放したり、被害のなかった地域の麦を平等に国内に流通させることで何とかしていた。しかし、その害虫の群れの移動ルートに直撃してしまったソプレス王国は完全に麦を失ってしまい、おまけに運悪く直前に川の氾濫があり野菜や果物までもが流されてしまう。国全体を賄うだけの備蓄があるわけもなく、災難を逃れた地域は国内でもわずか数パーセント。主食も野菜も果物も失ってしまうという、どうしようもない事態だった。
last update最終更新日 : 2026-03-06
続きを読む

第22話

そんな政治的な事情があれば、断れるわけがない。亡き王国と繋がりがあったのは王家とモンリーズ家のみで、そのモンリーズ家には私しか子供がいない。これでは断れないはずだ。「事情は、分かりました。確かに、その状況では無理ですよね」「本当に申し訳ないと思っているよ。政略結婚が当たり前とは言え、その相手すら選ぶ権利を与えないというのは」「いえ。悪いのは、アレクサンド様では、ありませんから」そう、悪いのは彼ではない。強いて言うなら運が悪かった。そうとしか言いようがない。 ならば、どうする?シヴァとの未来を諦める?そんなこと出来ない。 シヴァの少しからかったような笑みを思い出す。一緒に魔法訓練をした日々も、あの図書館での時間も、頼りにしてくれて良いと胸を張っていた姿も。私を助けるために抱きしめてくれた時の力強さも、繋いだ手の温かさも。様々な記憶と想いが脳内で交差していき、どうすれば良いか分からなくなり視界が滲んだ。膝の上で握っていた手をさらに強く握りしめる。零れそうな涙を耐えていると、目の前のアレクサンドはこちらまで来て優しくハンカチを差し出してくれた。「きっとお父様にも反対されて、どうしようもなかったんだよね」渡されたハンカチで涙を拭いながら、その言葉に小さく頷く。「僕らは婚約して、いずれは夫婦になるんだ」私のすぐ傍にある顔は慰めるように優しく微笑んでいる。その紳士的で優しい言葉と態度に、かつての親友の言葉を思い出した。『どんな時も優しく紳士的でスマートで、傍に寄り添ってくれるんだよ? 惚れないわけないじゃん。将来は良い旦那様になりそうだよね!』優子ちゃんが一目惚れをした、ゲームを買うきっかけになったのが彼だった。プレイをしてから猶更この包み込むような優しさに惚れて、晴れてアレクサンドは彼女の最推しに昇格していた。そうだね、優子ちゃん。
last update最終更新日 : 2026-03-06
続きを読む

第23話

反乱が起こる危険のある亡国の残党、彼らを落ち着かせる材料が私だという。それならば、結婚する前になんとかその残党を落ち着かせることは出来ないだろうか。もしくは私自身が実績を積んで、力を得て、その地域を治める代表になるとか。亡国の王家に所縁のある者が統治した方が、混乱も収まりやすいだろう。現状残党を落ち着かせるのは、私には無理に近い。どこにいるかも誰が代表かも分からない相手に、小娘一人が立ち向かえるわけがない。おまけに【魅了】がちゃんと収まっているかも怪しいのだ。残党を倒すためにと勝手に外出して、またあんな目に遭っては元も子もない。可能性があるのは後者。王家からも貴族からも、周囲の誰が見ても私に地域を渡しても良いと思われるだけの実績と信頼を勝ち取らなければならない。どうやって?そう考えた時に、ふと閃いた。私にはゲームの知識がある。今後ゲームのメインシナリオで起こる大事件を防ぐことが出来たら。それは、大きな実績になるのでは?「……もし、ですけど」私の言葉にアレクサンドは顔を上げて私を見た。その目を真正面から見返す。「何か私自身が周囲から認められるような……何か大きな実績を残せたら、褒賞としてその地域を頂くことは出来ますか?」「確かに、そうならその地域を君に頼んで治めてもらうことも出来るけど……そんな実績なんて、どうやって?」きっと彼には私の話が荒唐無稽に映っていることだろう。信じられないものを見たかのように、目を見開いている。そんな彼に私は笑ってみせる。「どうやって、じゃなくてやるんです! 見てて下さいね、アレクサンド様。私、絶対何か大きな実績を残して、貴方との婚約を解消してみせます!」そう言い張った私に、今までの優しい笑みとは違う子供らしい笑い方でアレクサンドは返事をした。「う
last update最終更新日 : 2026-03-06
続きを読む

第24話

結局あの時のお菓子が全部食べ切れるわけもなく。お菓子は綺麗に包んで持ち帰らせてもらった。そのお菓子を仲直りのためにシヴァと食べたい、と伝えるとお父様達は快く準備をしてくれた。私の様子を見て、もう駄々をこねたりしないだろうとでも思っているらしい。家に着くと部屋着に着替え、渡された二人分のお菓子が入ったバスケットを抱えて私はシヴァの自室へと向かった。移動時間もかかるし、王城にいた時間も長かったせいでもう夕方だ。少し暗くなった廊下を歩き、シヴァの部屋の前に着く。コンコンと扉をノックをするが、返事はない。「シヴァ」声をかけると、微かに何かが動いたような気配がする。中にいることは分かっているので、部屋の主の許可は取らずにそっと扉を開けた。明かりが点いていないせいで、部屋の中はやけに暗い。窓のカーテンも閉めっぱなしで、外からの光すら入らないせいだろう。入り口付近のスイッチを押すと、途端に部屋が明るくなった。モンリーズ家は使用人部屋ですら個室があり、そこそこの広さがある。トイレやシャワー室もあり、設備で言えばホテルが近い。クリーム色の壁にフローリングの床、大人用のシングルベッド、テーブル、椅子、本棚、書き物机、クローゼットなどの収納にトイレに続くドア。扉を閉めながら一通り部屋を見渡し、一か所に当たりをつけて足を進める。明らかにベッドの上には人がいるであろう膨らみがあった。「シヴァ」「……」返事はない。バスケットをテーブルの上に置き、私はベッドの端に腰かけた。シヴァは布団を被って丸くなっているのか、ここからじゃ顔は見えない。「ルネがシヴァは自室にいるよって教えてくれたの。居留守しようだなんて、酷いじゃない」「……婚約者はどうしたんだよ」「お会いしてきたわ。とっても優しくて親切な方だった。心配してくれてたの?」
last update最終更新日 : 2026-03-07
続きを読む

第25話

シルバーグレイの髪が肩や背中にかかっていて、とても綺麗。「それでね、彼にお願いしてきたの。もしも私が何か大きな成果を上げたら、婚約の原因になった地域を下さいって。そこを私がちゃんと治めれば、私と婚約する意味はなくなるはずだから」話しながら、散らばった彼の髪を手櫛で綺麗に纏める。話終わる頃には、シヴァとの距離はだいぶ縮まっていた。顔を覆っていた手が外されて、彼の空色の瞳と目が合う。瞬時に胸が高鳴ったのが分かり、恥ずかしくなって私は目線を逸らした。「そ、それでね。そしたら、私はその地域に行くことになると思うの。そしたら、シヴァは……」言え。ちゃんと言わないと。あの時の告白が脳裏に過ぎる。好きだと伝えても響かなかった悲しみと不安に声が詰まりそうになるが、今度こそ応えて欲しいという願いを込めて口に出した。「私についてきてくれる?」結婚は出来ないと分かっている。それでも、私の執事として傍にいて、支えてくれるかどうか。それはもはや、プロポーズにも近い言葉だった。心臓が早鐘を打つ。さっき顔を逸らしてしまったせいで、もうシヴァの顔は見られない。どんな表情をしているかも分からず緊張していると、不意にシヴァの髪に触れていた手が強く握られた。顔を上げると、ベッドに座ったシヴァが私の手を掴んでこちらを見ている。からかうような視線に、いつもの彼だと分かり安堵した。「それ、オレがいないと意味ないだろ」「ほんとよね」シヴァがいなければ、わざわざ婚約を解消した意味がない。指摘されて気付いた私は、安心したのもあって笑ってしまった。シヴァも一緒に笑ってくれる。ああ、ちゃんといつもの二人に戻ってこれた。きっと今夜自室に戻ったら、緊張からの解放感と安心と嬉しさで泣いて過ごすに違いない。「そうだ。お父様にお願いして、特別にお菓子を持ってきたの。王宮の
last update最終更新日 : 2026-03-07
続きを読む

第26話

あれからすぐに、私と第一王子の婚約の話は国中に広まった。モンリーズ家にはお祝いの手紙や贈り物が届き、王家からは婚約発表のためのパーティを開くので主催として同席するようにとの命が下された。元々事前に決まっていたようで、ある程度準備が進められていたからかパーティまでは2週間もなく屋敷は大忙しだった。私はマナーレッスンの時間が増え、美容のための心身のケアをする時間まで作られ目が回るほど忙しい。コルセットを着こなすためにと食事制限までされてひもじい思いもしたが、忙しい中シヴァと顔を合わせるだけで胸がいっぱいだった。シヴァはと言えば、今後本格的に執事としての執務を覚えるためにパーティに付いていくことになったらしい。そのためルネの後を追いかけて執事としての仕事の流れや、貴族一覧を見て粗相のないような対応の仕方のレクチャーを受けている。目の回るような忙しさを乗り越え、ようやく婚約パーティ当日を迎えた。貴族の集まるパーティなのだ。きっとゲームの登場人物達が大勢やって来ていて、その姿を見ることが出来るだろう。そんな楽しみを胸に、私はお父様達が待つ大広間へと足を運んだ。「今日も綺麗だよ」「ありがとうございます、お父様」いつも通りにお父様は褒めてくれる。その言葉には全面的に私も同意したい。白を基調としたドレスには金糸で花の刺繍が繊細にあしらわれている。ドレスの所々に編み込まれたり、私の首元を彩っているリボンは海のように深い青。首の長いリボンは動きに合わせて揺れ、それは淡い紫色の髪も同様だった。長い髪は高い位置でツインテールにされ同じく青いリボンで結ばれている。そのリボンには白いフリルが付き、同じく白い小花が髪に編み込まれていた。美容のためにと磨き上げられた肌は白くて張りがあり、ドレスの純白さに負けない艶やかさを持っている。今回のコーディネイトは王城をイメージした白に、第一王子の色である青と金がふんだんに使われていた。他の男の色ではあるが、今の私が美しい
last update最終更新日 : 2026-03-07
続きを読む

第28話

レオナルド・リヒハイム。リリアンナと同い年になる男の子だ。陛下似の焦げ茶色の髪は母親に似た真っ直ぐなストレート。それを顎のあたりで真っすぐ切りそろえられており、子供らしく可愛らしい顔立ちをしていた。その瞳は母によく似た意志の強いアップルグリーン。 挨拶の最中にこにこと笑ってはいるが、ゲームの設定を知っている私からすると侮ることが出来ずなかなかに恐ろしい。彼のルートは一回しか周回したことがないが、とんでもない女たらしの遊び人なのだ。ヒロインに好意を寄せその本心を暴かれてからは彼女一筋になるのだが、それまではとにかく遊びまくる。あまり近寄りたくない人物だ。 その次に知っている顔を見つけたのは、サンスリード公爵家からの挨拶の時。そこの三男が攻略対象その4、ステファン・サンスリードだ。父に息子三人が連れられてきており、その一番後ろに続く彼とは言葉は交わさないものの姿だけは確認できた。 由緒正しい騎士団長の息子である彼も、後に兄達を追い越すような優秀な騎士へと成長を遂げる。綺麗な黒髪に朱色の瞳。他の兄弟とは違った容姿に異質さを感じるが、その表情と瞳はどこか虚空を見ているようで大人しい印象を受ける。まあ、眠っている獅子なだけですが。 最後に見かけたのはナンニーニ侯爵家の次女、イザベラ・ナンニーニ。彼女は、ゲームでは誰にでも分かりやすい悪役令嬢だった。高飛車な言動で常にあらゆることに対し文句を言っており、周囲から嫌われている。 リリアンナ率いる令嬢グループとはいつも一人で対立し、ヒロインに対する当たりもなかなかに強い物だった。だが、ただのおじゃま虫と思わせてそのステータスは軒並み平均以上で、彼女を超えるステータスを出せるか出せないかで攻略ルートが変わるという結構大切な役回りの子なのだ。 蜂蜜色の柔らかく長い髪を一本のおさげにして垂らした幼い姿はなかなかに可愛らしい。彼女は杜若色の釣り目でキョロキョロ辺りを見渡していたが、壇上のアレクサンドを見て顔を真っ赤にしていた。 おやおや? あれだけリリアンナにつっかかっていたのは、アレクサンドが好きだったからだと考えると本当に可愛く思えてくるのだから不思議だ。  そうこうして一通りの
last update最終更新日 : 2026-03-07
続きを読む

第27話

「こら、あまり長話しないで。出発するぞ」「シルヴィオは私と一緒に後ろの馬車に続きます。旦那様は何かあれば合図を」「ああ」大人二人に諭され、私達は別々の馬車に乗り込む。その寸前、自然と彼と目が合った。微笑んでみせれば、彼も少しだけ微笑み返してくれる。うん、元気がチャージされた気がする!シヴァとのことも何とかなったし、お父様達が付いていてくれてると分かっているからか、以前王城に行った時よりも今日の方が圧倒的に緊張感は少ない。人前に出るのは緊張するが、終わればゲームの登場人物達の幼少期が見られるのだ。楽しみにならないはずがない。馬車に乗りながら、わくわくした気持ちで私は窓の外を眺めていた。 私達一行は、無事パーティ会場に辿り着くことが出来た。ルネとシヴァは馬車の管理をしたり、何かあった時のために別室に待機しているようだ。お父様に連れられて控室へ進むと、この前会った国王陛下と王妃様、アレクサンドが出迎えてくれた。「本日は良い日を迎えられたこと、天の神々に感謝いたします」「よろしくお願い致します」お父様が深々とお辞儀をするのに倣い、私も隣でカーテシーを披露する。そんな私達を見て、もっと気楽にしてくれて良いと国王夫妻は笑った。陛下は柔らかな焦げ茶色の髪に黄金色の瞳をしている。普段は国王としての威厳を感じるが笑顔がとても優しそうで、アレクサンドとの血縁を感じる。王妃様はアレクサンドと同じ青い髪に青い瞳の物静かで穏やかそうな方だ。彼の顔立ちは王妃様に似ているだろうか。大人しそうな印象の王妃様の顔立ちと陛下の優しそうな笑顔が合わさってああなっていると考えると納得がいく。「準備も大変だったでしょう? 綺麗ですよ」パーティ会場に向かうためにエスコートしようと私に手を差し出しながら、アレクサンドはそう言った。白を基調とした金糸模様の服と青いタイや宝石から見て、すぐに
last update最終更新日 : 2026-03-07
続きを読む

第28話

レオナルド・リヒハイム。リリアンナと同い年になる男の子だ。陛下似の焦げ茶色の髪は母親に似た真っ直ぐなストレート。それを顎のあたりで真っすぐ切りそろえられており、子供らしく可愛らしい顔立ちをしていた。その瞳は母によく似た意志の強いアップルグリーン。挨拶の最中にこにこと笑ってはいるが、ゲームの設定を知っている私からすると侮ることが出来ずなかなかに恐ろしい。彼のルートは一回しか周回したことがないが、とんでもない女たらしの遊び人なのだ。ヒロインに好意を寄せその本心を暴かれてからは彼女一筋になるのだが、それまではとにかく遊びまくる。あまり近寄りたくない人物だ。その次に知っている顔を見つけたのは、サンスリード公爵家からの挨拶の時。そこの三男が攻略対象その4、ステファン・サンスリードだ。父に息子三人が連れられてきており、その一番後ろに続く彼とは言葉は交わさないものの姿だけは確認できた。由緒正しい騎士団長の息子である彼も、後に兄達を追い越すような優秀な騎士へと成長を遂げる。綺麗な黒髪に朱色の瞳。他の兄弟とは違った容姿に異質さを感じるが、その表情と瞳はどこか虚空を見ているようで大人しい印象を受ける。まあ、眠っている獅子なだけですが。最後に見かけたのはナンニーニ侯爵家の次女、イザベラ・ナンニーニ。彼女は、ゲームでは誰にでも分かりやすい悪役令嬢だった。高飛車な言動で常にあらゆることに対し文句を言っており、周囲から嫌われている。リリアンナ率いる令嬢グループとはいつも一人で対立し、ヒロインに対する当たりもなかなかに強い物だった。だが、ただのおじゃま虫と思わせてそのステータスは軒並み平均以上で、彼女を超えるステータスを出せるか出せないかで攻略ルートが変わるという結構大切な役回りの子なのだ。蜂蜜色の柔らかく長い髪を一本のおさげにして垂らした幼い姿はなかなかに可愛らしい。彼女は杜若色の釣り目でキョロキョロ辺りを見渡していたが、壇上のアレクサンドを
last update最終更新日 : 2026-03-07
続きを読む

第29話

振り返れば蜂蜜色の髪が視界に入る。「何をしておいでですの?」その声はゲーム内ボイスの物よりも高く幼い。「休憩したいというレディを引っ張り回すのが紳士の嗜みだなんて、始めて知りましたわ」その高飛車で強気な態度は、イザベラ・ナンニーニ!遠目で見ていた彼女がすぐ横にいることに驚きつつ、思わず感動してしまう。もしかして、助けれくれたの?感動で緩む表情を慌てて扇で隠していると、彼女は杜若色の瞳をキッと釣り上げて少年達を見た。明らかに年上の人もいるし、皆が彼女よりも背が高い。それでも彼女は怯むことなく私と彼らの間に立ちふさがる。正論を叩きつけられた少年達は、口々に謝罪をしながら走り去っていった。「ありがとうございます」「ナンニーニ侯爵家が次女。イザベラ・ナンニーニと申します。急なご無礼をお許しください」そう言って彼女は深く腰を折る。その姿は正しくレディで、教育が良いのか幼いながらにその仕草は板についていた。「いいえ、助かりました。リリアンナ・モンリーズです。礼を言わせて下さい」「礼を言われるようなことは致しておりません。ただ、一言言わせて頂くと」先程までの粛々とした姿はどこへやら。彼女は先程の少年達に向けたのと似たような視線を私へ向けた。「ダンス中に殿下の足を二度も踏むなどあってはならないことです。もっとダンスレッスンを重ねた方がよろしいかと」うわ、さすが辛辣。図星をつかれているが、身分は上のはずの私によくぞここまで言えたものだ。流石イザベラ、最早感心するしかない。「お見かけするに、令嬢は体幹の鍛え方が足りないかと。そのせいで仕草の洗練さを欠いているので訓練することをお勧めします」それだけを言うと、深くお辞儀をして去っていく。まさに嵐のようなご令嬢だった。ほっと一息つき、私は再び人に囲まれないよう慌てて休憩室へと移動した。すれ違う際にちょっとした噂
last update最終更新日 : 2026-03-08
続きを読む
前へ
1234
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status