女装メイドと婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 33

33 チャプター

第30話

二人きりで部屋までの道を歩いていると、シヴァは口を開く。「楽しかったか?」「それより疲れちゃったかな。ダンスの時なんてアレクサンド様の足を二回も踏んじゃって、他のご令嬢に怒られちゃったよ」ずっと縛られていたせいで頭皮が痛くなり、ヘアリボンを外しながら話しているとシヴァは足を止めた。先を行っていた彼が立ち止まったので、私も同様に立ち止まる。「それなら、試しに踊ってみるか? 見てやるよ」振り返った彼が私に手を差し出す。月光に照らされた彼は後光を差したように輝いていて、神様が月から私を迎えに来てくれたようにも見える美しい姿だった。周りを見渡せば、ちょうど中庭に下りられる場所でありダンスが出来るような空間がある。そっと手を伸ばして掴んだ手は、その白さから想像していたものとは違い温かい。「シヴァ、踊れるの?」「少しはな」ぐいっと引っ張られてダンスの時の正式な形で手を組みなおす。腰に手が回されると、さっそくステップが開始された。昔、前夜祭に出掛けた時も思ったが、シヴァは踊りが上手い。リズムが正確で振り付けも完璧なのは、きっと鍛えられた肉体のせいだろう。「お前はいつもここで足を出すのが遅れる」そう言いながら、軽いターン。思い返せば確かにこの場面でよく相手の足を踏んでいる気がする。言われた通りにシヴァの足を踏みそうになるが、彼は華麗にそれを避けてくれた。「もう一度」ダンスは基本動作の繰り返しだ。同じリズムと動作を繰り返し、再びターンするタイミングに入る。「右足」いつも踊っていた時よりも少し早いタイミングで声がかけられ、急いで足を動かす。私の体は綺麗にターンすることが出来、シヴァの足を踏むことはない。「出来た!」「教え方がいいからな」私が喜んでいると、シヴァは不敵に笑う。そのまま再び同じ動きを繰り返すと徐々にタイミングが合
last update最終更新日 : 2026-03-08
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第31話

小さな咳が部屋に響く。咳が収まると一息つき、少女はペンを走らせた。ベッドの上で上半身を起こしたまま、少女は手紙を書いている。彼女の乳白色のストレートヘアはベッド上を這い、濃い青色の瞳は真剣に文面をなぞっていた。その体は同年代と比べても明らかに細く弱弱しいが、頬は年相応に丸みを帯び病床においてもその美しさが陰ることはない。書き終わり、ライムグリーンの封筒に手紙を入れて蜜蝋を垂らし終わったところで扉がノックされた。「どうぞ」小さいが澄んだ声は良く通る。扉の向こうの人間に無事届いたのか、扉が開かれて老年の執事が顔を出した。「お嬢様、終わりましたか?」「ええ。ちゃんとここに」差し出された手紙を執事は恭しく受け取る。「宛先はモンリーズ公爵邸で間違いありませんか?」「ええ、そうよ」少女がテーブルの上の道具を片付けていると、執事もそれに手を貸して二人で片づけを済ませる。空になったベッドテーブルは端に避けられると、彼女は口を開いた。「リリアンナ様はわたくしと一つ違いらしいの。……わたくし、ちゃんと仲良くなれるかしら?」「もちろんですとも」笑顔で答えてくれた執事に安心したのか、彼女はモソモソとベッドに横になり布団にくるまる。「その日までに、ちゃんと治さないといけないわね」「ええ。ですから、しっかりお休み下さい。後で薬湯と、ご褒美のデザートをお持ちしますので」「爺は甘やかし過ぎよ……でも、嬉しいわ」クスクスと楽しそうに笑って、少女は目を閉じた。  ***  婚約パーティを終えてからの毎日は、更に忙しくなった。継続される魔法訓練や基礎勉強に加えて、マナーレッスンやダンスレッスンも本格化。次期王妃となるべく王宮での講義
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第32話

バルバラにそう尋ねると、彼女は笑いながら答えてくれた。「ヴァイゲル公爵家のマルグリータ様からです」その名前には聞き覚えがある。マルグリータ・ヴァイゲル。攻略対象の一人である第二王子レオナルド・リヒハイムの婚約者だ。女好きな王子に控えめで気の弱い婚約者の組み合わせはゲームを攻略する側にとってはあまりにも簡単で、その難易度の低さから初心者は第二王子ルートから始めるよう言われるほどだ。本来ならば攻略対象との仲を邪魔し、敵になるはずの彼女は少しの会話で第二王子を諦めて身を引く。それも攻略難易度の低さを後押ししていた。「マルグリータ様は病弱ですし、大勢は呼ばずに王家と婚約を結んだ者同士交流がしたいだけのようです。これなら参加しても宜しいかと」なるほど、婚約パーティに彼女が現れなかったのはそれが原因か。病弱で寝込んでいて第二王子との仲が深められず、彼女自身も未練が無いのならあの素早い身の引き方も理解できる。だが、今は王家と婚約を結んだ者同士、手を取り合うのは良いことだ。「分かりました。お父様にも許可を貰ってきますわ」そう言って手紙を持ち、私はお父様の執務室へ向かった。 執務室にいたお父様は一度仕事の手を止めて話を聞いてくれた。もちろん、ヴァイゲル公爵家へ出かけることは素直に了承してくれる。これでもう話は終わりかと思った時だ。「そうだ、リリー。そろそろ話しておきたいことがあるんだ」思い出したかのように、お父様が話し出す。彼が目くばせをすると一緒にいたルネが一礼して部屋を出て行った。デスクから離れ、私の座っているソファの隣にお父様は腰を下ろす。一瞬緊張が走ったが、何の話なのか想像はついた。「リリーにはね、【魅了】っていう特別な力があるんだよ」ようやく、お父様は私にその話をしてくれた。一通り説明されるが、既に知っていることの復習のようなものだ。丁寧な説明に、私
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