All Chapters of 女装メイドと婚約破棄された悪役令嬢は、幸せな結末を目指します: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話

「ルネ、辺境伯への連絡は?」「可能です。馬を飛ばせば往復で10日程かと」「そうか……いずれ王妃になることを考えれば、慈善事業も必要、か」納得したように頷き、お父様は私へ視線を向ける。「いいだろう。準備は入念に。私達も力を貸すから、思ったようにやってみなさい」「ありがとうございます! お父様!」飛び上がって喜びそうになるのを抑え、部屋を出るために礼をする。ドア付近で待っていたシヴァの下へ駆け寄ると、後ろから慌てたようなお父様の声が聞こえた。「リリー、旧ソプレスに行くなら、シヴァは連れていけないよ」「え?」慌ててシヴァを見ると、眉をひそめて何か考え込んでいる。どういうことかと、お父様を見るとお父様は真剣な顔でこちらを見ていた。「何故ですか? 当然、シヴァも一緒だと思っていたのに……」「リリー、今まで話していなかったが、シヴァは旧ソプレス王国の人間だったんだ」その言葉に、胸が締め付けられる。滅んだ国と、もういないシヴァの両親。どんなことがあったか、想像するだけで辛くなる。そんな場所には、確かに連れていけない。嫌なことを、思い出してしまうだろうから。元々、これは私が勝手に言い出したことだ。婚約解消だって、私一人で何とかするしかない。お父様やルネだって、サポートしてくれる。1人でも、大丈夫なはずだ。そう……分かっているのに。「リリー……」今まで、当たり前に一緒にいたシヴァがいないという事実が、急に私を不安にさせる。泣きそうな私の顔を見て、安心させるようにお父様が声を掛けてくれるが、この不安は消えなかった。じゃあ、他に何か手があるのかと考えると、何も思いつかない。私は大して頭が良くない。あくまでリリアンナと
last updateLast Updated : 2026-03-13
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第52話

ガタゴトと馬車が揺れる。普段は私とシヴァで乗ることが多く車内は明るい雰囲気包まれていたが、今は暗い。「シルヴィオ、姿勢が崩れています。足を閉じて」「はい」「お嬢様、貿易港は頭に入りましたか?」「……た、たぶん」旧ソプレス王国への道中。馬車には私とシヴァ、そしてルネが乗っていた。彼女は道中でも王妃教育を継続しようと、たくさんの本を持ち込んでいた。シヴァに対しても、メイドとしての立ち振る舞いや女性らしい仕草を仕込んでくる。到着まで約一週間。シヴァの気を晴らすためにも、楽しいバカンスにしようと思っていたのに。そんな上手くはいかなかった。まさかこんな教育漬けになるだなんて……「お嬢様、貿易港の名前だけでなく地図で場所も把握して下さい。特にここは地形が入り組んでいて……」「あの……ルネ、さん? もう少しゆっくり楽しくいきません?」「却下です。お嬢様の社交デビューはまだ。その状態での初の慈善事業です。辺境伯を相手に、不備があってはいけませんので」「そうですよね……」「シルヴィオも女装が染みつかないと。正体がバレては、お嬢様と一緒にいられませんよ」「はい」うーん……なんでこうなった?勉強に集中しているためか、シヴァの顔色は良い。ルネもいることだし、2人でしっかり様子を見てあげなければと、私は心に決めていた。 旧ソプレス王国は、リヒハイム王国と山1つを挟んで隣接する小さな国だった。リヒハイム王国のアマトリアン辺境伯領が国境の要を担っていたが、ソプレス王国が滅んだことで、その地域も伯爵領ということになっている。国1つを取り込めば治める土地は広く、至らない所も多くなる。後々、別の者
last updateLast Updated : 2026-03-13
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第53話

頬杖をついて笑みをこぼすと、シヴァはちらりと私を見てすぐに視線を落とした。「今は、説明できなくて悪い。ただ……」「うん」「心底、嫌いなやつがいるんだ。思い出すだけで気分が悪くなるし、もう二度と会いたくないほどに」「うん」話しながら顔色が悪くなるシヴァ。心配ではあるけど、彼なりに私に伝えようとしてくれているのだ。彼の過去について、今まで説明されたことは無い。ゲーム設定で知っていること程度。だから、過去の嫌なこと、トラウマと向き合って、私に話そうとしてくれる姿勢が素直に嬉しかった。それを全部受け止めようと、最小限の言葉に留める。「でも、あいつはきっとオレを探してる。昔からずっと、オレをまた連れて行こうとしてる。ルネさんも、この格好なら見つからないだろうって言ってくれてる。でも」「うん、心配ね。不安よね」私はフォークを持ったまま小さく震える彼の手を握り締める。驚いたようにこちらを見る彼と、ようやく目が合った。「大丈夫。シヴァが連れていかれても、私がきっと見つけるからね」安心させるように微笑みかけると、シヴァは照れたようにそっぽを向いた。「……ソプレス王国のことは、ずっと心配だったんだ」急な独白に、私は顔を上げる。「オレの故郷だったし、本当は……俺がなんとかしなくちゃいけなかったはずだから」責任感のあるその言葉の意味が、私にはよく分からない。でも、シヴァにとっては重要なのだろう。「だから、今回のことには感謝してる……ありがとう」一通り言いたいことが言えたのか、シヴァは黙ってしまう。顔色が徐々に良くなってきて、指先にも温かみが戻ったのが分かる。彼の言葉を受け止めて、私は再び力強く彼の手を握った。  *
last updateLast Updated : 2026-03-13
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第54話

「お恥ずかしい話ですが、本当に扱いに困っておりまして……困ったやつらですよ」そんな伯爵の言葉に、シヴァが俯いたのが分かった。悔しそうに下唇を嚙んでいるのが分かる。今すぐ駆け寄って手を握ってあげたくても、そんなことはできない。私が歯がゆく思っていると、ルネがそっとテーブルの下でシヴァの手に触れた。少し驚いた様子でシヴァが顔を上げる。ちらりと横目でシヴァを見ると、ルネは小さく微笑んだ。「つまり、結局は何もできていないんですよね?」「え? はあ……まあ、そうですね」ルネに確信を突かれて伯爵は戸惑う。彼女の発言に、慌てて私も声を上げた。「そのために私達は来たのです! 小さなことでも、何でもいいのです。力にならせて下さい」伯爵はハンカチで冷や汗を拭いながら笑う。夫人も気を取り直したようにワインに口を付けた。「期待しておりますわ。ただ、身の安全だけはご注意を」そんな夫人の言葉に、私は力強く頷いた。婚約解消のためだけじゃない。シヴァのためにも、旧ソプレス王国を救いたいと心に誓った。  ***  「ほんっとうに! ありえないですよ!」客間に帰ってきた途端、ルネはそう言い放った。普段から落ち着いている彼女が、怒りを露わにしているのは珍しい。「シルヴィオも俯くんじゃありません! あんなの領地運営でも何でもないですから!」声を掛けられ、シヴァはビクリと反応した。部屋に入ったものの、ドアの前で立ったまま俯いていた彼をルネが手招きする。近寄ってきたシヴァの肩を、ルネはしっかり掴む。真っすぐ正面から見据えて、ルネは言った。「あれは、住民の落ち度ではありません。領地経営がおかしいのです。辺境伯夫妻は言葉を濁し
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第55話

それは旧ソプレス王国の地図だ。地図で見ても、リヒハイム王国の五分の一程の国土しかない。本当に小さな国だった。その分、国民と王家の結びつきも強かったのが想像できる。「産業の盛り立てが何より必須です。各地域によって得意な産業は違うでしょうから、最初は辺境伯領と隣接した近場から行いましょう。その前に、まずは全体を把握して繋がりが持てそうな産業も把握しておきます」なるほど。最優先は辺境伯領と隣接した地域。でも、産業や流通によってはその周辺ともやり取りができるかもしれない。全体を把握してから、最優先地区に必要な物の把握をするのね。私が地図を見ながらルネの言葉にうなずいていると、シヴァが地図に指を這わせた。キョロキョロと全体を見ながら何かを確認している。「……ソプレス王国は、リヒハイム王国よりも地理的に標高が高い。基本的に作物よりも酪農が盛んだ。内陸で海はなく、北から流れている川を使って物資のやりとりをしている。北は酪農と鉄鋼が得意。もしかしたら鉄鉱山はもう尽きてるかもしれないがな。作物の栽培ができるのは南部の平野。辺境伯領に隣接した地域がそこに当たる。栽培されているのは、小麦が中心だ」つらつらと知識を披露していくシヴァ。凄い。カッコいい。出身国だからか、さすがに詳しい。「凄いわね。シヴァ、詳しい」「いや、これくらい別に」「助かります。それなら、小麦の栽培状況と流通状況を最初に把握すべきですね。可能であれば他に栽培している物も」ルネがそう言うと、シヴァは拡大した地図を引っ張り出して、とある一か所を指し示した。「ここが領地管理していた貴族の屋敷。今もいるなら、ここに行くのが早い」「……本当に、詳しいのね」シヴァの知識に圧倒されてしまう。私も王妃教育だと言って色々勉強はしているが、自国内の経済や産業と国や貴族の歴史、最低限必要な他国の言語、礼儀作法が主だ。
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第56話

「さっそく伺っても良いですか?」ルネが前に出て、色々質問してくれる。それらの情報を私は一生懸命頭に入れていった。その間に、シヴァは使用人を手配して私達の荷物を宿に置いて来てくれている。分担作業が上手くいき、一息つく頃にシヴァは戻ってきた。後は小麦や他の農作物の生育具合を見なければいけない。彼を連れて私達は再び馬車に乗った。「……生育具合は、やはり良くないようですね」元々、大飢饉が原因で滅んだような国だ。大飢饉後の対応はろくにできず、そのまま時間だけが経過してしまったらしい。今は害虫に荒らされた麦の中から、芽吹いた物を選別してなんとか育てている。しかし、食料用と発芽用に麦を分けるため、そもそも圧倒的に種の数が足りていないのだ。本来であれば全域が使える麦畑が、今は3分の2程度の稼働状態。これでは食糧不足になるのも当然だ。「この状態で、発芽用の麦を支援しないでパンを配っていたとか……本当に、あの辺境伯夫妻は無能ですよ」怒った様子で車内で状況をシヴァに説明してくれるルネ。その発言を行った後で、彼女は慌てて自分の口を押えた。「……あっ、シルヴィオとお嬢様はこのような言葉を使ってはいけませんよ?」「はい」「大丈夫よ。聞かなかったことにするから」シヴァはしれっとそっぽを向きながら返事をしているが、絶対にいつか口にしそうな気がする。静かで大人しそうなのに、さらっとヤバいことを言うのだ。彼は。そんなやりとりをしていると、小麦畑に到着した。見渡す限りまだ青い麦の穂が茂っている。青い空の下、遠くには北側の山々が見える。吹く風は爽やかで、その度に麦も揺れて風の形が露になる。麦畑全体が1つの大きな海のようにうねり、動く様は絶景だ。「うわぁ……綺麗ね」
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第57話

荷馬車から降ろした食料を配給するため、テーブルを広げるよう指示を出す。広場には既に多くの人が集まっていた。こんなにたくさんの人々に見られるのは、婚約式以来だろうか。人々はいぶかし気な視線を向けてくる者、食料から目が離せない者、期待のまなざしでこちらを見る者、様々だ。ただ一貫して、栄養状態が悪いのか痩せている。シヴァは人目にさらさないよう、奥で荷物の上げ下ろしの手伝いや配給する食料の準備をしてもらっている。私は前に出て、声を張り上げた。「ソプレス王国の皆さん! 私の曾祖母はソプレス王家の姫でした! その縁もあり、こうして助けに参りました! どうかゆっくり、列を作って並んで下さい! 食料は全員に行き渡るはずです!」私の声を聴き、人々は護衛の者達に誘導されて列を作る。さっそく、先頭に来た子供達に私はパンと野菜たっぷりのスープをあげた。笑顔で受け取ると、子供達は離れていく。「二度並ぶのは控えて下さい! 明日もまた来ますから!」今までこんな大声なんか出したことがない。それでも必死に声を振り絞って、皆に食料が行き渡るよう動く。しばらくすると、小麦畑の視察を終えたルネが合流した。人混みを見て腕まくりをすると、勇み足でやって来る。「必要な物資の集計が終わりました。次の種まきの時期には発芽用の小麦を持って来ましょう。道具も足りません。地質調査の方も手配しておきます。この土壌で育つ野菜を把握しないと」配給の手伝いをしながら、軽く説明してくれるルネ。やっぱり頼もしい。「ありがとう。配給は明日と明後日までで、そしたら帰るのよね。今の分だけで足りるかしら?」「そうなると見越して、毎日届けるよう手配済みです。明日にはまた、同じ量の食糧が届きますよ」働くのが好きなのだろう。ルネは生き生きした笑顔を見せる。彼女の笑顔に励まされて、私も手を動かした。そんな私達を、シヴァは作業しながら横目で見ていた。 
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第58話

帰りの馬車の中は、みんなぐったりしていた。さすがに疲れているのが分かっているのか。それとも本人もくたくたなのか。ルネまで静かになっている。少しうとうとする中、シヴァは帽子とウィッグを外した。強く手を握ると、私達を見て口を開く。「リリー、ルネさん。ありがとう」終始女装をしていたせいで、シヴァだって疲れているはずなのに。緊張で少し声は上ずっていたけど、表情は明るい。「オレの故郷を助けてくれて、本当に感謝してるんだ」薄暗い車内で微笑むシヴァの顔はとても綺麗で見とれてしまう。眠気なんてふっとんだ。今、目が覚めた。自分の顔がみるみる赤くなるのが分かる。ルネも同じ気持ちなのか、柔らかく微笑んでいた。「私は当然のことをしたまでよ。それに、前から言っていたでしょう?」あまりの気分の良さに、私はガッツポーズで返事をした。 「私、絶対婚約解消してみせるんだから!」 その発言に、ルネの表情が固まった。シヴァもルネを横目で見ながら呆れた表情をしている。え?私、何かまずいこと言っちゃった?「……その件に関しては、初耳なのですが」恐い笑顔で呟くルネに、私は思い出す。最初の頃に訴えた以降、婚約解消したいと思っていることはアレクサンドとシヴァにしか言っていなかった。「仲が良いとは思っていましたが、まさかシルヴィオと……」ルネの視線がシヴァに向く。慌ててシヴァは顔を横に振った。ちょっと!私はまだ一度も、直接シヴァから好きだって言ってもらったことないんだからね!傷口えぐらないでよ!頬を膨らませて睨んでいると、空気を察したのかルネがこちらを向く。私を見てぽかんとした表情を浮かべた。
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第59話

緊張する中、お父様の声は優しかった。 「好きにしなさい」 「え?」「王子とも話はついているなら、それが子供達の決めた道だろう。次代のやることだ。好きなように、足掻くだけ足掻いてみればいい。ただし、駆け落ちなどの不義理だけは許さないよ。約束できるかい?」お父様は真剣な顔で言ってくる。私もしっかりお父様を睨みつけて、力強く頷いた。それを見て、お父様は力を抜いて微笑む。「分かった。もう部屋に戻りなさい。ただし、シヴァとの距離感には気を付けること。信じているからね」「はい! お父様の信頼は裏切りませんわ」ずっと隠していたことが認められるのは、背中を押されたような感じがしてくすぐったい。ふわふわした気持ちのまま、私はお父様の執務室を出た。お父様に一礼して、シヴァが後を追って来る。そのまま二人で一言も交わさず、私の部屋までやって来た。久しぶりの部屋は、なんだかやっぱり安心する。笑顔で迎えてくれたバルバラにお願いすると、すぐに紅茶やお茶菓子を準備しに部屋を出て行った。部屋ではシヴァと二人きりになる。「……悪かった。結局、全部喋らせて」「シヴァ……」珍しくシヴァの方から、そっと私の手に指を絡めてきた。その指は熱くて、緊張したように汗ばんでいる。拒めなくて、私も手を握り返した。俯いている顔を覗き込むと、シルバーグレイの髪の隙間から真っ赤に染まった頬が見えた。彼がこんなに赤くなっているのを、はじめて見るかもしれない。「なんか、リリーに否定されたら、頭に血が上って……」ああ、そっか。ちゃんと頭では、身分的に結ばれないことは理解している。それでも、これはシヴァなりの好意の表現なんだ。私から否定されて、不安になって、混乱して、反
last updateLast Updated : 2026-03-14
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第60話

「そういえば、リヒハイム王国は裏切り者だと言われたんです」男の子に言われたことをふと思い出し、私は雑談の片手間に話題に出した。「私が習ったのは、リヒハイム王国は支援をできなかったことだけ。それって、裏切りといえば裏切りに感じるんでしょうが、そこまで言われてしまうのは辛いですよね」「そうだね。でも、民心なんてそんなものかもしれないよ。最善を尽くそうとしても、恨む人間は必ずいる」アレクサンドの表情は崩れていない。これが、達観した次期国王の器と言うやつなんだろうか。元々一般市民でしかなかった私には、ちょっと理解しがたい。「……えっと、学園生活はどうですか?」気まずくなって私は話題を変えた。「特に普段と変わらないかな。まあ、来月には君たちが入学してくるから、その準備に追われているけど」そう、来月にはとうとう私はゲームの舞台であった学園に入学するのだ。本編開始は二年生の時とはいえ、画面内で見ただけの校舎を見れたり、メインキャラクター達と会えたりするのは緊張する。「大変そうですね」「側近候補も手伝ってくれているから、まあなんとかなってるよ」この側近候補こそ、ゲーム内での攻略対象達だ。アレクサンドと同じ学年で、騎士になるステファン。私と同学年で、来月入学する第二王子のレオナルド。三人目は学年が下なので、入学はまだになるだろう。「そうですか……入学式、楽しみにしていますね!」「うん。まあ、期待しててよ」そんな会話をしつつ、日々はあっという間に過ぎていき。気付けば、入学式当日になっていた。 季節は春。桜の花が綺麗に咲いた晴天の中で入学式は行われた。会場は広い講堂で、職員を含めた全員が集まっている。生徒は全員が貴族の子息子女。彼ら彼女らの従者も一人は連れて来ることが可能で、休み時間や空き時間
last updateLast Updated : 2026-03-14
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