村長と娘は、黄泉の国を抜けるために現世へ続く道を急ぐ……そして――大きな、深い、澱む闇へと飛び込んだ。身体が溶けるような感覚。時間も、空間も、感覚すらも失われていく。上下も分からない。呼吸も出来ない。ただ、娘の手だけが――確かにそこにあった。「……父上……」震える声。村長は、闇の中で必死に娘の手を握り返した。「離すな……もうすぐだ……!」闇が裂ける。光が走る。二人の身体は、異空間を突き抜け――現世へと叩き出された。地面に転がる。乾いた土の感触。風の匂い。生きている世界の空気。「……戻ってきた……のか……」村長が顔を上げた、その瞬間だった。 視界に飛び込んできたのは――巫女が語った通りの光景だった。 街は、死んでいた。 家々は黒く焼け焦げ、柱はねじ曲がり、道には村人達の死体が転がっている。井戸は干上がり、田畑は灰に覆われ、風が吹くたびに、砂のように崩れていく。人の声はない。鳥も鳴かない。虫の音すら存在しない。 世界そのものが――息をしていなかった。 娘が震えながら呟く。「……これが……現世……?」「そうよ...お帰りなさい。」二人の背後から声がする。振り向くとそこには、巫女が立っていた。巫女の言葉が、乾いた風のように耳を裂く。「娘よ...あなたは黄泉の国の民。元は現世の理から外れた存在なの。長くは持たないわ。」娘の身体が、小さく震えた。村長はすぐに前へ出る。「黙れ……!」怒声だった。「ここまで来たのだ……!全てを捨てて、全てを差し出して……ようやく連れ戻したのだぞ……!話が違う!!」握り締めた拳から血が滲む...「今さら死ぬなど――認めぬ!!」巫女は、静かに村長を見つめていた。責めるでもなく、哀れむでもなく。ただ――水のような冷たい目で。「話は、最後まで聞きなさい。娘を延命させたいなら...奪えばいいわ。現世の同じ歳ほどの生命力を...」村長が言葉を返す。「お前が、こういう状況にしたのだろ!?そんな事出来る訳ないに決まってる!」風が吹いた。灰が舞う。遠くで、崩れた家が音を立てて崩落する。「この村がこうなった理由……あなたが一番、分かっているはずよ。村長。」村長の呼吸が止まる。娘が、不安そうに父の袖を掴んだ。「…
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