All Chapters of 三百年の妻〜常夜の花嫁〜: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話「誰一人死なせるな。」

「今夜、討ち入りが来る!」 「久遠村が――」 言葉が、喉の奥で絡みつく。 「この場所ごと、終わらせるつもりなんだ……!」 御影は、わずかに笑った。 「討ち入り、か……」 「愚かなことよ」 「自ら、底へ堕ちに来るとはな」 ――ちゃぷん。 水音が、やけに大きく響いた。 「ならば――」 「すべて、闇の底へ沈めるまで」 「待て!」 思わず、声が張り裂ける。 「この国の者たちはどうなる!」 「逃げ場はないのか!?」 一歩、踏み出す。 「いろはも……!」 「あいつも、守らなきゃならないんだ……!」 ――沈黙。 空気が、凍りつく。 「……面白い」 御影が、低く呟いた。 「よかろう。機会をやろう」 「ただし――」 その瞬間、温度が消えた。 「一人でも死なせれば――すべてを沈める」 「この国も」 「いろはも」 「誰一人、死なせるな」 「……分かった」 喉の奥から、絞り出す。 「必ず、止める」 御影は、わずかに目を細めた。 「ならば行け」 足元の闇が、ゆっくりと口を開く。 「遅れれば――すべては手遅れとなる」 その言葉と同時に。 身体が、沈んだ。 冷たい闇に、引きずり込まれる。 ――落ちる。 ――落ちていく。 そして―― 次に目を開けた時。 熱風が、頬を打った。 「……っ!」 目の前に広がっていたのは―― 炎。 燃え盛る、久遠村だった。 「何ごとだ……!?」 御影の言葉が、頭の奥で反響する。 ――誰一人、死なせるな。 あまりにも、残酷な条件だった。 「なんだ……」 喉が、ひりつく。 「お前は――死んだはずでは……」 ゆっくりと、振り返る。 そこに立っていたのは―― 村長だった。 焼け落ちる家々の炎が、その顔を照らす。 だがその表情は、生者のものではない。 「なんだこれは……!」 思わず詰め寄る。 「討ち入りに行くのではなかったのか!? 何故!?村人達を...!?」 村長は、しばし黙ったあと―― 口の端を、ぐにゃりと歪めた。 「ハハ……」 「ハハハハハッ!!」 異様な笑い声が、炎の中に響き渡る。 「お主の目は節穴
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第22話「母の理」

「満ちる」 その一言と同時に― 黒が、溢れた。 「なっ...何が起きた!?」 ツクヨから伸びるように闇が満ちていく。 村長の笑い声が響く。 「よくやった!ツクヨ!。」 「ハハハハハッ!これで常夜はわしのっ!」 ツクヨから伸びる闇が、大きな手となり 村長を鷲掴みにする。 「何をしている!ツクヨ! お前の主だぞ!手を離すんだ!ツクヨ!」 その鷲掴みにした手は村長を握り潰すように 邪魔...と言葉を残し、その存在を取り込んだ。 頭の中に、御影の言葉が走る!! 「孝之助!その闇から距離を取れ! 取り込まれるぞ!!」 徐々に広がる黒に、目の前にいる澪という 女性を連れようとするが... 「うぅ...ツクヨ...どうして...」 立つ気力もなく項垂れてしまっている!! その手を無理に引っ張り担ぎ、 御影の言葉通りに闇に距離をとるべく 走った。 「おい!!娘御!! あの闇は!ツクヨとはなんなんだ!!」 泣きながら澪と呼ばれていた娘は 話をした。 「私は、黄泉の国にいた者である日父に現世に戻されたのですが...黄泉の栄養を得た私の子を 父は無理に引きずりだし... 怨念を与え続け怪異にしました。 そして今宵、ツクヨに負の力を与え続け... 黄泉の主を殺害し、全てを常夜にしようと...」 娘御が、話を終えると... 頭の中から御影の声がする。 「そう言うことか...ヒルコめ... 何を持って人に 手を貸したのだ...。 孝之助...もう後がない...。 そなたを借りるぞ。」 その言葉と共に、闇とは違う影が 孝之助の身体を包み一人の女性へと 姿を替える。 そして、世界全体が黒で覆い尽くそうとしたとき 「母を舐めるなよ!小童がぁっ!!」 「ハッ!!!」 御影が手を広げ手を伸ばすと、 御影の周りの闇が弾け飛んだ。 「どういうことだ。御影!」 「話は後だ!」 御影は、一歩を踏み出した。 その瞬間―― 空気が、変わる。 黒が、揺れた。 まるで本能で理解したかのように、 “それに触れてはならない”と。 「……ほう」 御影は、周囲を一瞥する。 すでに空も大地も、 半ば以上が闇に侵されていた。 「好き勝手やってくれたな……小童」 静かな声。 だが、その一言だけで―― 空間
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第23話「還るもの、残されるもの」

静寂が、世界を包んでいた。 先ほどまでの狂気が嘘のように、 風は穏やかに流れている。 「……終わった、のか……」 孝之助は、呆然と呟いた。 御影が、静かにその場を離れる。 だが―― 終わってはいなかった。 その視線の先。 地に滲むように残る、黒。 それはもはや暴威ではない。 ただ、微かに揺れているだけの―― 小さな“影”。 「……ツクヨ……」 澪の声が、震える。 その名を呼んだ瞬間。 影が、びくりと震えた。 まるで―― 応えるように。 御影は、ゆっくりと歩み寄る。 「もう、よい……」 静かな声だった。 だがその一言で、空気がほどける。 「よく耐えたな……」 黒が、揺れる。 広がろうとする気配。 だが―― 御影が手をかざした瞬間。 それは、ぴたりと止まった。 「還るべき姿へ――戻れ」 その言葉と共に。 黒は、収縮を始める。 音もなく。 ただ、静かに。 小さく、小さく。 やがて―― そこに残ったのは。 一人の、赤子だった。 「……あ……」 澪の喉から、声が漏れる。 震える手が、ゆっくりと伸びる。 「……私の……子……」 涙が、頬を伝う。 崩れ落ちそうになりながらも、 必死に、その小さな命へと手を伸ばす。 だが―― 届かない。 御影が、その赤子を抱き上げていた。 「……返して……」 かすれた声。 「お願い……それは……私の子なの……」 這うように、近づく。 「やっと……戻ってきてくれたのに……」 その声は、祈りだった。 母の、すべてだった。 御影は、静かに澪を見下ろす。 「この子は、もはや現世の器ではない」 残酷なほど、穏やかに。 「そんな……」 澪の瞳が、揺れる。 「私は……この子の母です……!」 叫びが、響く。 だが―― 御影は、ただ一言。 「だからこそだ」 その言葉で。 すべてが、止まった。 「これ以上、この子を縛るな」 澪の身体から、力が抜ける。 「……っ……」 理解してしまった。 これは、奪われるのではない。 ――救われたのだと。 涙が、溢れる。 止まらない。 それでも。 澪は、ゆっくりと顔を上げた。 「……それでも……」 震える声。 「この子の……そばに……いたい……」 御影の瞳が、僅かに揺れる。
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第24話「いない世界...そして」

...朝だった。 あれほど長く、終わらないように思えた夜は、 何事もなかったかのように明けていた。 空は、どこまでも澄んでいる。 鳥の声が響き、風が草を揺らす。 ――変わらない世界。 「……」 孝之助は、立っていた。 あの場所に 何もかもが終わった場所に。 だが... そこにはもう、何も残っていない。 黒も... 闇も... 御影も... 澪も... ツクヨも... そして―― いろはも... 「……はは……」 乾いた笑いが、漏れる。 夢だったのではないかと、思った。 あれほどの出来事が、 まるで最初から存在しなかったかのように。 「……そんなわけ、あるかよ……」 ぽつりと、呟く。 足を動かす。 ふらつくように、歩き出す。 気づけば、湖へと向かっていた。 理由など、ない。 ただ―― そこに、いる気がした。 水面は、静かだった。 あの日と同じように。 いや... それ以上に、何もない。 「……いろは」 名を呼ぶ。 返事は、ない。 分かっていたことだ。 それでも。 呼ばずにはいられなかった。 「……いろは……」 もう一度。 風が、水面を撫でる。 それだけだった。 膝が、崩れる。 その場に、座り込む。 「……なんでだよ……」 声が、震える。 怒りでも、悲しみでもない。 ただの、空白。 胸の奥に、ぽっかりと穴が空いたような。 何も、感じない。 何も、掴めない。 「……っ……」 拳を握る。 強く、強く。 爪が食い込むほどに。 だが―― 痛みすら、遠い。 「……くそ……」 吐き出す。 それでも。 何も変わらない。 世界は、動いている。 風は吹く。 鳥は鳴く。 人は、生きる。 まるで―― 何も失われていないかのように。 「……ふざけるなよ……」 小さく、呟く。 その時だった。 ――ちゃぷん 水音。 ほんの、小さな。 反射的に、顔を上げる。 水面が、揺れていた。 それだけ。 それだけのはずなのに。 「……」 息を、止める。 目を、離せない。 何か
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第25話「そして...再会を」

第25話「そして...再会を」 「これで、邪魔者は消えたわね」 その声は、どこか冷たかった。 ――その時だった。 畳の下から。 かすかな音。 そして。 「……おとうさん……」 小さな声。 それは、確かに――呼んでいた。 その瞬間。 頭の奥に、何かが流れ込んできた。 記憶。 断片だったはずのものが、 無理やり繋ぎ合わされるように。 湖。 夜。 沈む身体。 伸ばした手。 届かなかった想い。 「――っ……!」 息が詰まる。 視界が、揺れる。 そして。 “思い出す”。 「……いろは……」 ゆっくりと、顔を上げる。 目の前に立っていたのは―― あの時と変わらぬ姿のいろは。 「いろは……ようやく、会えたな」 その言葉に。 いろはの瞳が、大きく揺れる。 次の瞬間。 花が咲いたように、笑った。 「孝之助さん……!」 駆け寄る。 そのまま、強く抱きしめてくる。 「戻ってきたのね……!」 震える声。 「会いたかった……ずっと……ずっと……」 腕に、力がこもる。 離すまいとするように。 「……ああ」 俺は、ゆっくりと腕を回す。 その身体は、確かに温かい。 あの頃と、同じ。 「……久しぶりだな」 耳元で、囁く。 いろはが、小さく息を呑む。 そのまま―― 「――ヒルコ」 一瞬で。 空気が、変わった。 「……え?」 いろはが、顔を上げる。 その表情は―― “何も知らない顔”。 「……何を言っているの?」 首を傾げる。 いつも通りの、柔らかな声で。 「いろはだよ。私は」 俺は、静かにその顔を見つめる。 違和感は、消えない。 あの声。 あの感覚。 そして―― あの“呼び声”。 「……俺との子は、どうした」 空気が、凍る。 いろはの瞳が、わずかに揺れた。 「……子……?」 「何のこと……?」 困ったように笑う。 だが。 その奥が、わずかに濁る。 「とぼけるな」 低く、吐き捨てる。 「俺がいろはを沈めた時――」 一歩、近づく。 「お前の腹には、子がいたはずだ」 いろはの呼吸が、止まる。 「……っ……」 「俺の子を、どうした」 沈黙。 逃げ場は、ない。 「――返せ」 声が、落ちる。 「俺の子を返せよ……ヒルコ」 その名を、もう一
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第26話「罪の継承者」

「あなたが、何者なのかを」 ――“思い出させてあげますよ” その声が、頭の奥で反響した瞬間。 視界が、砕けた。 「――ッ!!」 地面が、消える。 身体の感覚が、引き剥がされる。 落ちる。 どこまでも、どこまでも。 暗闇の底へ―― 気がつけば。 そこは、夜だった。 「……ここは……」 息が、白く滲む。 見覚えがある。 忘れるはずがない。 久遠村。 静まり返った集落。 だが―― 違う。 「……また、だ……」 遠くから、音が聞こえる。 太鼓。 ざわめき。 人の声。 そして―― 泣き声。 「いやだ……いやだぁぁ……!」 胸の奥が、強く脈打つ。 知っている。 この声を。 この夜を。 「やめろ……」 思わず、呟く。 だが。 身体は動かない。 まるで―― “観ているだけ”のように。 足が、勝手に進む。 向かう先は――湖。 月明かりに照らされた水面は、 不気味なほどに静かで。 まるで、すべてを受け入れる口のようだった。 湖畔には、人が集まっている。 松明の火が、揺れている。 その中心に―― 縛られた、少女。 「……っ……」 喉が詰まる。 覚えている。 これは―― 「常夜流し……」 誰かが、そう言った。 違う。 誰かじゃない。 ――俺だ。 「始めよ」 低い声が、響く。 その声に、全員が頭を下げる。 視線が、ゆっくりと動く。 そして―― 見た。 そこに立っていたのは。 「……俺……?」 間違えるはずがない。 自分自身。 だが―― 違う。 目が。 感情が。 何も、宿っていない。 「供物を、湖へ」 淡々とした声。 命を扱う声ではない。 ただの“作業”のように。 「やめろ……!」 叫ぶ。 だが、届かない。 少女が、泣き叫ぶ。 「お母さん……!お母さん……!」 人々は、目を逸らす。 誰も、止めない。 止められない。 それが―― “決まり”だから。 「やめろ……やめろ……!」 足掻く。 だが、身体は動かない。 その間にも―― 少女は、湖へと引きずられていく。 水際。 必死に抵抗する手。 爪が、地面を掻く。 血が滲む。 それでも―― 無駄だ。 「――沈めろ」 その一言で。 全てが、終わる。 水音。
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第27話「底に沈むもの」

「本当の“地獄”へ」 世界が、引き裂かれる。 そして―― 次に見えたのは。 湖の底だった。 ――そこには。 「――っ……!」 足首に、何かが絡みつく。 反射的に振り払おうとする。 だが―― 動かない。 「……な……」 視線を落とした。 そこにあったのは―― 手。 白く、膨れ上がった指。 爪は剥がれ、皮膚は爛れている。 明らかに、“生きていない”それが。 俺の足を、掴んでいた。 「……ッ!!」 引き剥がそうとする。 だが―― もう一本。 さらに、もう一本。 次々と... 無数の手が、伸びてくる。 「やめろ……!」 掴まれる。 引かれる。 沈められる。 「――逃がさないよ。」 声が、響く。 一つじゃない。 重なる。 濁った水の中で、何重にも。 「返せ...」 「痛い...」 「寒い...」 「苦しい...」 「どうして...」 耳を塞ごうとする。 だが、意味はなく... 声は―― 頭の中に、直接流れ込んでくる。 「違う……!違う......!」 叫ぶ。 「俺は……!」 言葉が、続かない。 何を言えばいいのか、分からない... 言い訳が、浮かばない... 「――何が違うの?...」 その声に 身体が、止まる。 ゆっくりと、前を見る。 そこに―― 一人の少女が、立っていた。 水の中なのに。 沈まず... ただ、そこに“在る”。 「……おまえ……」 喉が、震える。 忘れるはずがない。 あの夜。 あの場所で。 自分の命令で―― 沈められた少女。 「……どうして……?」 少女が、問いかける。 静かな声。 だが、その奥にあるものは。 底のない闇。 「どうして、私だったの?」 言葉が、刺さる。 逃げられない。 「……違う……」 かすれた声が、漏れる。 「違わないよ」 即座に、否定される。 「あなたが、決めたんだ」 一歩、近づいてくる。 水は揺れない。 ただ、距離だけが縮まる。 「村のため、って言ったよね」 「神様のため、って」 「みんなを守るため、って」 「……違うの?」 答えられない。 口を開いても、音にならない。 「……痛かったよ .....苦しかった」 少女が、ぽつりと呟く。 その瞬間。 視界
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第28話「終わりの選択...」

「……俺は……」 喉が、焼けるように痛い。 ...息ができない。 いや、違う。 これは、息じゃない。 もっと深いところにある、 “心臓の奥”が、潰れている。 逃げたい。 全部を、なかったことにしたい。 違うと言いたい。 あれは仕方なかったと。 必要だったと。 俺は間違っていないと。 だが―― 全部、知っている... 自分が行ってきたことだ。 「……っ……」 歯を、食いしばる。 目を閉じる。 だが、消えない。 あの手も... あの声も... あの顔も... 沈めた瞬間の、あの残酷な静けさも... 全部―― 意識の中に、残っている。 「……終わらせるって……言ったよな……」 かすれた声が、漏れる。 誰に向けたものかも分からない。 だが―― 少女は、冷たく答える... 「....早く決めなよ。」 「でも」 「終わらないよ。ずっと続けるの...」 その言葉が。 静かに、心臓を貫いた。 「……ああ……」 分かっている。 分かっていた。 最初から。 終わってなんか、いない。 終わるはずが、ない。 あれだけの命を。 あれだけの“苦しみ”を。 踏み台にして。 終われるわけがない。 「……だったら……」 ゆっくりと、目を開く。 濁った水の中。 無数の手。 怨嗟の声。 そして―― 少女。 「……終わらせるしか、ないだろ」 その言葉に。 一瞬だけ。 すべてが、静止した。 「……」 少女が、じっとこちらを見る。 ヒルコもまた、笑みを深めた。 「ほう……?」 興味を持ったように、首を傾げる。 「では……どうやって?」 その問いに... 俺は―― 一瞬だけ。 心臓が、拒絶した。 それでも.... 答えた。 「……俺が、終わりにするよ。」 沈黙... 完全な静寂... 水の中だということすら、忘れるほどの。 「……」 少女の瞳が、わずかに揺れる。 「……それって」 「そういうことだよね?」 確認するように。 だが、もう―― 迷いはなかった。 「ああ」 はっきりと、頷く。
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第29話「あなたが救える」

第29話 「いやああああああ!!!」 私は、孝一さんの自宅で 怪奇現象に見舞われて... この闇の中に引きずり込まれた。 闇は、底がなかった。 落ちているのか、 沈んでいるのかすら、分からない。 ただ―― “どこかへ運ばれている”。 そんな感覚だけが、あった。 「……っ……はぁ……っ……」 気づけば、私は“地面”に膝をついていた。 冷たい。 いや――違う。 これは、土じゃない。 黒い。 脈打つように、わずかに揺れている。 「ここ……どこ……?」 空を見上げる。 空は、なかった。 ただ広がる、果てのない闇。 なのに―― 遠くから、“水音”が聞こえてくる。 ぽたり... ぽたり... まるで。 何かが、絶えず“落ち続けている”ような音。 「……こっちよ。」 その声は、 直接、頭の中に響いた。 「……っ!?」 振り向く... 闇の奥に、 かすかな“灯り”が見えた。 揺れている。 まるで、誰かが―― そこに“いる”みたいに 足が、勝手に動いた。 行きたくない。 怖い。 でも―― 行かなければならない。 そんな“強制”が、身体の奥に流れ込んでくる。 一歩。 また一歩。 近づくほどに、 空気が、重くなる。 息が、苦しい。 胸が、押し潰される。 そして―― 辿り着いた。 そこには。 “檻”があった。 黒い柱が絡み合うように組まれた、 まるで生き物みたいに脈打つ牢。 その中に... 「……っ……!」 ――いた。 長い髪。 痩せ細った身体。 それでも。 確かに、分かった。 「……いろは……さん?」 ゆっくりと、 彼女の瞼が開く。 その瞳は―― 驚くほど、澄んでいた。 「……あなた……澪……?」 声は、かすれている。 でも。 確かに、“生きている”。 「どうして……ここに……」 その問いに、 私は答えられなかった。 ただ。 胸の奥に、ひとつの確信があった。 ここは―― “戻ってはいけない場所”だと。 「……逃げて」 いろはが、囁く。 「ここは……“常夜”……」 その言葉と同時に。 空間が、わずかに歪んだ。 「ヒルコが……すべてを、喰らう場所……」 「ヒルコ……?」 その名を口にした瞬間。 ぞわり、と。 空気が、
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第30話「その罪は誰のものか」

「孝一さーん――!!」 声が、響いた。 その瞬間。 すべてが、止まる。 「……っ……!?」 振り向く。 水の向こう。 闇の奥。 そこに―― 立っていた。 「……澪……?」 信じられないものを見るように、呟く。 澪が。 そこにいた。 息を切らしながら。 必死な顔で。 手を、伸ばしていた。 「行っちゃ……ダメ……!」 その声が。 まっすぐに、届く。 「その答えは……違う……!」 涙が、水に溶ける。 「それじゃ……終わらない……!」 胸が、軋む。 「……っ……」 足が、止まる。 あと、一歩で。 “終わる”はずだったのに。 「孝一さん!!」 「逃げちゃダメっ!!」 澪が、叫ぶ。 「それは――」 言葉が、続こうとした瞬間。 ヒルコの笑みが、深く歪んだ。 「――おや」 「これはこれは……」 愉しげに、目を細める。 「“まだ”終わらせてくれないとは」 空気が、凍りつく。 「いいでしょう」 ゆっくりと、腕を広げる。 「ならば――」 「もう一幕、追加といきましょうか」 巨大な影が、蠢く。 闇が、膨れ上がる。 すべてを巻き込むように―― 「選択は、まだ終わっていないのですよ」 ヒルコが、囁く。 「さあ――」 「どうします?」 沈むか。 抗うか。 「孝一さん……聞いて……!」 澪の声が、震える。 それでも。 必死に、言葉を繋ぐ。 「いろはさんに会ってきたの!」 「……っ!?」 空気が、変わる。 「……いろはに……?」 信じられない。 だが。 澪の目は、逸れない。 「孝之助って人は――」 一瞬、息を呑む。 それでも、言い切る。 「ヒルコに、取り込まれた」 沈黙。 ヒルコの笑みが――消える。 「……今までのは……」 孝一の声が、揺れる。 その瞬間。 「黙れ」 低く。 底から這い上がる声。 「黙れッ!!小娘がァ!!」 空間が、軋む。 水が、逆巻く。 それでも―― 澪は、退かない。 「黙らない!!」 震えながら、叫ぶ。 「孝一さん!」 「あなたの罪悪感も!」 「責任も!!」 一歩、踏み出す。 「全部――」 ヒルコを、指差す。 「そいつが見せてる“記憶”よ!!」 「あなたじゃない!!」 空気が、裂ける。 ヒルコの目
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