孝一が踏み出した。 「……どう、して……」 声が、震えていた。 澪は、その場に立ち尽くしたまま、動けなかった。 孝一の言葉が―― まだ、理解できない。 「……俺は……ヒルコを選ぶ」 その一言は、 あまりにも静かで、 あまりにも、残酷だった。 「……っ……なに、それ……」 笑おうとした。 冗談だと思いたかった。 でも―― 孝一の目は、真剣だった。 逃げていない。 迷っていない。 「……常夜にいくと言うの?…..」 やっと、言葉が出た。 「孝一さん......」 やっと、やっと―― 辿り着いたのに。 「……もう、わかったんだよ、澪」 優しい声だった。 それが、余計に残酷だった。 「俺は……この三年を、生きてきた」 ゆっくりと、 ヒルコを見る。 そこにいるのは、 かつていろはの姿をしていた存在。 偽物だったはずの存在。 それでも―― 「……こいつと、笑って」 「こいつと、喧嘩して」 「こいつと……生きてきた」 一つ一つ、 確かめるように言葉を置く。 「……それが、嘘だったとしても」 孝一は、静かに笑った。 「俺が愛した時間は、嘘じゃない」 ヒルコの目が、揺れる。 初めて―― 感情が、滲んだ。 「……俺は、お前を愛してた」 まっすぐに、告げる。 「それが“誰だったか”なんて……今更、関係ない」 澪の視界が、歪む。 何かが、壊れていく音がした。 「……じゃあ……私は……?」 かすれた声。 「私は……何のために……」 孝一は、少しだけ目を伏せた。 そして―― ヒルコに向き直る。 「ヒルコ」 その呼び方に、 ヒルコの肩がわずかに震えた。 「……一つ、提案がある」 静かな声。 だが――その奥には、 覚悟があった。 「……俺は、お前を選ぶ」 「だから――」 一瞬の間。 「……澪を、現世に返してくれ」 空気が、凍りつく。 澪が、息を呑んだ。 ヒルコは、無言のまま孝一を見つめる。 「お前を、花嫁として迎える」 はっきりと、言い切る。 「この常夜で――俺と結婚してくれ」 その言葉は、 呪いのようで、 祈りのようでもあった。 「……その代わりに」 「澪だけは……生かしてやってほしい」 沈黙。 長い、長い沈黙。 ヒルコの瞳の奥で、 何
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