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All Chapters of SWEET×SWEET: Chapter 41 - Chapter 50

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**** 参った、と心の底から嘆息し、啓太郎は会社のプロジェクトルームで頭を抱えていた。 進捗報告会議のため、朝のうちに常駐先の会社に顔を出してから、本来自分が勤めている会社にやってきたのだが、会議に顔を出した上司の顔を見たときから、嫌な予感はしていたのだ。  営業畑一筋でやってきたという上司は、当然のようにプログラムの知識が皆無に近い。それでプロジェクトの進行を決めているのだから、SEやプログラマにしてみれば、迷惑以外の何者でもない。「この状況で、どうやってサブシステムまで回せっていうんだ……」 一人でぶつぶつと呟きながら、テーブルの上を片付けていく。とりあえず、二日後にまたミーティングでここを訪れなければならないので、そのときまでに提案書をまとめて提出しなければならないだろう。  今のうちに手を打っておかなければ、システムと共に――。「心中だな」 啓太郎が洩らした不吉な言葉に、同僚が気づかうような視線を向けてくる。 本来の自分のデスクに戻ると、必要な書類を掻き集めてファイルに突っ込む。それから外注先の会社に連絡して、スケジュールの確認を取る。必要なテスト要員を指名して、なんとか仕事を頼み込んで承諾してもらう。  この際、予算が膨れ上がるとか言っていられないのだ。 それだけのことを手早く済ませた啓太郎は立ち上がると、フットワークも軽く上司の元に行き、必要な決裁をもらいに行く。  それからすぐに、常駐先の会社へと向かう。結合テストが近いので、作業も何度目かの追い込みに入っており、正直、ただの進捗報告会議ぐらいで会社にやって来るのも面倒だ。 もちろん、会社でこんな本音を洩らすことはできないが。 なんにしても、これで今日、帰宅できないのは確実だろう。ハンドルを握りながら、啓太郎は深くため息をついた。  サウナに行って、とりあえずさっぱりしてシステム開発部に戻ってきた啓太郎は、心底うんざりしていた。  啓太郎と同じく、泊まり込んでいる社員の疲れきった顔を見ていると、心なしかシステム開発部全体の空気が澱んでいるように感じる。空調はしっかり効いているはずなのに。「調子はどうだ」 声をかけると、ワイシャツ姿となって袖を捲り上げた男性社員が、イスごと体の向きを変える。向けられた表情は、状況を雄弁に物語っていた。「バグが千を越えた……」
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 早く寝ろとメッセージを送ろうかと、隣のイスに置いたジャケットのポケットをまさぐり、スマホを取り出す。そこで初めて、メッセージが届いていることに気づいた。サウナに入っている間に届いたらしい。 さっそく確認した啓太郎はすぐに笑みをこぼすことになる。裕貴からのもので、ご丁寧に画像つきだ。「あいつ……」 画像は、ランチョンマットの上に並んだビーフシチューと温野菜の数々だった。そしてたった一文、『美味しそうだろ?』とだけ書かれている。 いかにも裕貴らしいメッセージに、啓太郎はしばらく笑いが止まらない。がんばれ、と書かない辺りが、いかにも裕貴らしいし、こんなものをもらって楽しんでいる自分が、啓太郎にはおかしくてたまらないのだ。 さんざん笑ったあと、やっとコンビニ弁当を食べる気になる。不思議なもので、食欲を感じた途端、仕事への意欲も少しは戻ってきた。 箸を手にしながら、もう片方の手で素早く返信を打ち込む。『俺にも食わせろ』 これを見たら、裕貴の性格ならきっとニヤリとするだろう。**** やっと三日ぶりに帰宅することができた啓太郎は、マンションのエレベーターの中でぐったりと壁にもたれかかっていた。 仕事で疲れるのはまだいいが、今夜はその後、話のわからない上司と意味のない議論を延々と繰り返していたのだ。こちらがどれだけ『出来ない』と訴えても、『出来るはず』という理屈で押し通され、挙げ句に出た言葉が、『このプロジェクトには社運がかかっている』という言葉だ。 この言葉に逆らえるSEなど、転職を考えている奴ぐらいしかいないはずだ。そして啓太郎は、今のところ転職は考えていない。 会社を出る前に裕貴には、今日は帰れるのでメシを作っていてくれ、といった内容のメッセージを送っておいたので、すでにもう何か準備できているはずだ。 これだけが俺の人生における楽しみだ――。 自嘲気味に心の中で呟いてみたが、その想いとは裏腹に、自然に唇は綻んでしまう。これはこれで悪くないと、実は思っているのだ。 裕貴は今夜は何を作ってくれているだろうかと考えながら、エレベーターを降りた啓太郎だったが、すぐに異変に気づいた。 各部屋のドアが並ぶ通路に出ると、いつもこの時間、人気はない。だが今夜は違った。「裕貴くん、聞こえてる?」 遠慮がちに、だが必死さが伝わってくる女の声が耳に
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「裕貴くん、お願いだから、ドアを開けて。顔を見ながら話をしたいの」 諭すような口調で語りかけながら、女はインターホンをゆっくりと何度も押し続ける。蛍光灯の青白い光に照らされる女の横顔は、切羽詰っていた。「せめて、顔だけでも見せてくれない?」 女が何度も声をかけていると、突然、中からドアが開き、裕貴が姿を見せた。一瞬女は笑顔を浮かべかけたが、裕貴は無表情で、冷然とした声で告げる。「――二度とここに来るなと言ったはずだ。おれはあんたに用はない。あんただって、本当はおれなんてどうでもいいんだろ」 「そんなことないっ」 「でもおれにとっては、あんたはどうでもいい存在だ。だから放ってほしい。……二年前からそう言い続けてるはずだ」 二年前、という言葉に啓太郎はハッとする。裕貴が引きこもり始めたのも、二年ほど前だったはずだ。 何か関係があるのだろうかと思い、啓太郎はつい身を乗り出す。このとき、気配を察したようにこちらを見た裕貴と目が合った。  裕貴が動揺したように顔色を変える。裕貴のこんな反応を見たのは初めてだった。「……とにかく帰ってくれ。あんたにここに来られると迷惑なんだ。わかってるだろ。おれがどれだけあんたを嫌ってるか」 裕貴が女を突き飛ばし、後ろによろめいた女は泣きそうな顔で裕貴を見つめたあと、黙ってその場を立ち去る。このとき、立ち尽くしている啓太郎と目が合い、驚いた表情のあと、会釈してきた。「この間――……」 女は遠慮がちに啓太郎に話しかけてこようとしたが、すかさず裕貴の鋭い声が通路に響き渡る。「その人に余計なことを言うなっ」 大きく体を震わせた女は、顔を伏せてエレベーターホールへと走っていき、まだ停まったままだったエレベーターに乗り込んで姿が見えなくなる。  呆気に取られた啓太郎は、エレベーターの扉が閉まるまでただ見ているしかなかった。「――羽岡さん、いつまでそこに突っ立ってるの」 声をかけられて振り返った啓太郎が見たのは、痛みを感じているようにつらそうな顔をした裕貴だった。  啓太郎の視線から逃れるように裕貴が玄関に引っ込み、啓太郎も慌てて裕貴の部屋に向かう。裕貴はキッチンに立っていた。「おい……」 靴を脱ぎ捨てた啓太郎はアタッシェケースを床に置くと、裕貴の背後に立つ。すでにメシの準備は終わっているようで、食器が重ねて置い
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「ストーカー?」 からかわれているのかと思ったが、裕貴の顔は真剣だ。コートの襟に触れられ、啓太郎はやっと、自分がまだコートも脱いでいないことを思い出した。  裕貴の反応をうかがいつつ、コートと、ついでにジャケットを脱いでネクタイも抜き取る。啓太郎は重く息を吐き出して、質問を再開する。「ストーカーってことは、何かされてるのか?」 「何も。ただ、数年前に突然おれの目の前に現れてから……あんなふうに、つきまとう」 「さっき、二年前と言っていたのは?」 裕貴は一瞬、痛みを感じたように顔をしかめた。「……ちょっとした出来事があったんだよ、二年前に。そのとき強く言って、しばらく静かだったんだけど――最近になって見かけたんだってさ」 「何を……」 「出歩いているおれの姿」 あっ、と啓太郎は声を洩らす。「もしかして、俺と散歩に出たとき……」 「遠巻きに、おれの様子をうかがってたんだって知って、ゾッとした。それなのにあの女、心配だから、って、鬱陶しい感情を押し付けてくるんだ」 急に何かを思い出したように裕貴が隣の部屋に行き、窓を開けてベランダへと出る。身を乗り出して地上の様子をうかがっているようだった。「どうした?」 「この部屋を見ているんじゃないかと思ったんだ」 裕貴は、さきほどの女を怖がっているというより、ひたすら嫌悪しているように見えた。ストーカーなどと言っているが、裕貴と女との本当の関係は別にあるはずだ。  もっとも尋ねたところで、裕貴が何もかも話してくれるとは思わないが。「……寒いから、中に入ろう。どれだけ見ていようが、部屋の中にまで入ってくることはないはずだ」 啓太郎は裕貴の腕を掴んで部屋の中へと引っ張り込み、しっかりとカーテンを閉めてやる。それでも裕貴は窓の外を気にしている様子だ。「黒――……、裕貴」 どう呼びかけようかと迷ってから、初めて裕貴を名で呼ぶ。目を丸くした裕貴がじっと啓太郎を見つめてきた。  恥ずかしさで逃げ出したくなりながらも、啓太郎は裕貴の長い前髪を優しく掻き上げてやって語りかける。「悪かったな。俺が散歩になんて連れ出したから、面倒なことになって」 「……まったくその通り。元凶だね」 可愛げのない裕貴の返事に、啓太郎は手を引こうとしたが、反対にその手を裕貴に取られた。啓太郎が後頭部に手をかけ引き寄せると
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「啓太郎……」 囁くように呼ばれ、啓太郎の理性は甘く蕩けた。裕貴の唇を塞いで、数日ぶりの感触をまず堪能し、次に味わう。  やや強引に裕貴の熱く潤った口腔に舌を差し込むと、甘えるようにその舌を吸われる。二人は余裕なく舌を絡ませ、唾液を交わし合っていた。  裕貴の口腔の粘膜を隈なく舐め回し、引き出した舌を痛いほど吸い上げ、甘噛みしてやる。「ふうっ……」 しなやかに身を震わせながら、裕貴が鼻から切なげな声を洩らす。唇を離しながら、まだキスを終えるのが惜しいというように舌先を擦りつけ合う。  唾液が細い糸を引き、誘われるように啓太郎は、軽く濡れた音を立てて裕貴の下唇を吸ってやった。 視線を伏せた裕貴が深い吐息を洩らし、その息遣いが啓太郎の唇をくすぐる。当然の衝動として、もっと裕貴を味わいたいという欲望が湧き起こっていた。  これまでなら抑えられた欲望だが、ここ最近は歯止めが利かない。キスだけでは、啓太郎の欲望は抑えられないところにまできているのだ。 連日の激務で疲れていることが興奮に拍車をかけ、腹が減っていることが動物的な衝動を増幅させる。何より、さきほど会った女の存在が、啓太郎を奇妙に苛立たせる。 多分これは、子供じみた嫉妬なのだ。 啓太郎は裕貴を抱き締め、その状態でベッドに座らせると、肩を押して仰向けに転がす。裕貴は慌てもせずに、覆い被さった啓太郎を見上げて言った。「ご飯、冷めるよ」 「あとで温め直せないものか?」 掠れた声での啓太郎の問いかけに、裕貴は唇だけの笑みを浮かべる。「大丈夫。あとでおれが温め直してあげるよ」 ベッドの上できつく抱き合いながら啓太郎は、裕貴が羽織っているカーディガンを脱がそうとする。「この間みたいなことする? だったらおれが自分で脱ぐから、啓太郎は後ろ向いててよ」 もう何年も呼び続けているように違和感なく、裕貴は啓太郎の名を呼ぶ。 顔を上げた啓太郎は裕貴を見下ろしながら、片手をトレーナーの下に忍び込ませ、脇腹を撫で上げた。驚いたように目を丸くして、裕貴が体をよじろうとする。逃すまいと、啓太郎はさらに大胆に手を動かした。  脇腹から胸元へと押し当てたてのひらを移動させた途端、目に見えて裕貴はうろたえる。「何……?」 「俺は最初からわかっている。お前が俺と同じ男の体を持ってるってな。だから、自分の男の
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「んっ、んんっ」 いつも余裕たっぷりに啓太郎のキスを受け止めていた裕貴が、必死に顔を背け、体の下から抜け出そうと抵抗する。  いつもの啓太郎なら怯んでしまうだろうが、今夜は違った。ここまでやってしまい、あとに引けなかったというのもあるし、何より、感情の高ぶりが抑えられない。 強引に手を進め、裕貴のものに直接触れる。もっと抵抗があるかと思っていたが、そんなことはなかった。もしこれが裕貴以外の男であったなら、こんな行為に及ぼうという気すら湧かなかっただろうが、とにかく裕貴は、啓太郎にとって特別だった。 直接触れた途端、裕貴は体を強張らせてしまい、啓太郎は心を痛めるよりも、まずはこの隙に、と思っていた。  カーゴパンツと下着を腿まで引き下ろしたのだ。 裕貴が手探りで毛布を引き寄せようとしたが、啓太郎はその手を止める。「俺は平気だから、隠さなくていい」 「……平気なわけ、ないだろ……。女としかつき合ったことがないって、胸張って言うような人が」 「お前に対しては平気だ。だからこんなこともできる」 隠すものをなくした裕貴のものをてのひらに包み込み、優しく上下に擦ってやる。裕貴がベッドの上で身じろぎ、次の瞬間には体をよじろうとする。  最初は本気で嫌がって逃げ出そうとしていた裕貴だが、無視できない感覚が押し寄せてきたのか、息遣いが弾んでくる。 ここで一度行為を止め、啓太郎は大胆にカーゴパンツと下着を一気に下ろして脱がせてしまい、ベッドの下に落とした。  裕貴の腰を引き寄せて両足の間を大きく開かせる。啓太郎は再び裕貴のものをてのひらに包み込んだ。裕貴のものは無反応ではない。次第に熱くなり、しなり始めている。 啓太郎は夢中になって、裕貴の反応をもっと引き出そうとしていた。「こんなコース、設定してないよ……」 非難するように裕貴が言い、乱れた自分の息遣いを恥じるように口元に手の甲を当てる。やっと出た裕貴らしい物言いに、啓太郎は小さく笑ってしまう。「考えろよ。マニアックなコースを考えるの、得意だろ」 ここで啓太郎の頬に、裕貴が片手を伸ばして触れてきた。「啓太郎が、おれに奉仕するコース、っていうのは?」 「……なんか、引っかかるものを感じるコース名だな」 「なら、おれを気持ちよくするコース」 啓太郎は愛撫の手を止め、裕貴の唇に啄ばむようなキスを
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「楽しくは、ない」 啓太郎はこう答えながら、ベッドに片手をついて裕貴の胸元に顔を伏せる。もちろんもう片方の手では、裕貴のものの愛撫を続けていた。「ドキドキしている、というほうがわかりやすいか? 男の体にこんなふうに触るのは初めてだけど、どうすればお前が気持ちいいか、そんなことを考えながらお前に触って、お前が反応してくれると、本当に心臓の鼓動が大きくなるんだ」 舌先で裕貴の胸の突起をくすぐると、裕貴の体が大きく震える。「もっと、お前が気持ちいいと感じることをしてやりたくなる。……俺が金を払うんだ。だからお前は、もっと感じてみせろ。そうやって俺を満足させるんだ」 たっぷり突起をくすぐってから、口腔に含んでゆっくりと吸い上げてやる。すると、裕貴の手が啓太郎の頭にかかり、引き寄せるように抱き締められた。「……啓、太郎っ……。啓太郎」 小さな突起を荒々しく吸い立ててから、さらに歯を立てて甘噛みする。ビクッ、ビクッと体を震わせてから、裕貴が深い吐息を洩らしたのを感じ、啓太郎は顔を上げる。  発情した顔の裕貴と目が合い、そんな自分の反応を恥じるように裕貴は顔を手で覆おうとしたが、その手を払い除けて啓太郎は唇を塞いだ。「あっ……ん、啓太郎――」 舌を絡める合間に、すっかり熟しきった裕貴のものの先端を優しく撫でてやる。思惑どおりに裕貴が甘い声を上げ、啓太郎の唇に軽く噛みついてきた。裕貴なりの照れ隠しなのかもしれないと思うと、もっと淫らなことをしてやりたいという欲望に火がつく。 裕貴から完全に主導権を奪い取り、啓太郎は夢中になっていた。 左右の胸の突起を飽きることなく愛撫しながら、裕貴のものをこれ以上なく丹念にてのひらで擦り上げ、ときおり先端をくすぐる。  待っていた反応が、やっと訪れた。 胸元から顔を上げた啓太郎は、裕貴の両足の中心に視線を注ぐ。反り返った裕貴のものの先端から、堪えきれないようにトロリと透明なしずくがこぼれ落ちていた。  透明なしずくを塗り込めるように、先端を指の腹で執拗に撫でる。「い、やだっ……」 悲鳴のような声を上げ、裕貴は腰を震わせる。ただ、逃げようとはしない。  手の動きを速め、さらに追い上げながら、啓太郎は裕貴の顔を覗き込む。裕貴は息を喘がせ、ときおり首をすくめて声を洩らしていた。「――裕貴」 そっと呼びかけて、こ
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 呼吸を落ち着けて顔を上げた裕貴が腰をもじつかせ、啓太郎の耳に唇を押し当ててくる。「いつまで、触ってるんだよ。おれ、啓太郎みたいに精力有り余ってないんだけど」 裕貴の言葉の意味がわかり、啓太郎は慌てて体を離す。下肢を引きずるようにして上体を起こした裕貴が、デスクのほうを指さした。そこにティッシュの箱があるのを見て、啓太郎は立ち上がる。 濡れた手を拭って振り返ったときには、裕貴は捲れ上がったトレーナーを下ろし、腰から下には毛布を巻いていた。乱れた髪を掻き上げる裕貴の仕種が婀娜っぽくて、啓太郎はドキリとする。同時に、違和感も覚えていた。 啓太郎は、初めて男の体に触れることに緊張して、今も地に足がついていない感じがする。なのに裕貴は冷静なような気がしたのだ。 男に触れられていることに、まるで慣れているような――。 啓太郎の視線に気づいた裕貴が唇だけで笑いかけてきて、両腕を伸ばしてくる。誘われるように啓太郎はベッドに戻り、裕貴を抱き寄せた。  次の瞬間、首に絡みついた腕に力が込められ、啓太郎はバランスを崩す。気がついたときにはベッドに倒れ込み、裕貴が体の上に覆い被さってきた。「おい――」 「おれだけ気持ちよくなったら、割りに合わないだろ」 そう言って裕貴の指がワイシャツのボタンを外し始める。慌てて啓太郎は裕貴の手を握り締めて止めようとしたが、次の言葉で反対に啓太郎が動きを止めた。「――おれ、巧いんだよ」 そう言って裕貴は自嘲するような笑みを浮かべ、啓太郎の手を静かに押し退けた。  ワイシャツの前を開かれ、下に着ていたTシャツを押し上げた裕貴が顔を伏せる。胸元に唇を押し当てられ、啓太郎は血が逆流するような欲情と、同じぐらいの激しい嫉妬を覚えていた。 裕貴の言葉は暗に、啓太郎にしているようなことを他の『誰か』にしていたと物語っていた。巧みなキスも、その相手に教えられたのかもしれない。  詳しく聞きたいが、怖くて聞けない。啓太郎は体を強張らせたまま、裕貴の行為を見つめるしかできなかった。問い詰めた途端、裕貴とこれまでのような関係を築けないと、薄々ながら予測できたのだ。 自分に対してもどかしい怒りを覚えながら、啓太郎は両手で裕貴の頭を掴み、乱れた髪を丁寧に撫でてやる。「今日は……そんなことしなくていい。給料日前で、手持ちが厳しいんだ」 なんと
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**** この歳になると、さすがにこんな場に出席する機会も増えてくる。 テーブルに肘をつきながら、あくびを噛み殺した啓太郎は、滲んだ涙をさりげなく拭う。正直、他人が幸せそうにしている姿を見ても、なんの感動も湧かない。「……長いなあ、このビデオ」 啓太郎の心の中の声を、隣の席に座っている人間が代弁する。すると、啓太郎の反対隣に座った人間が大きく頷いた。「まったくだな」 苦笑を洩らしながら啓太郎は小声で言う。「友達甲斐のない奴らだな。少しぐらい我慢しろよ」 途端に左右から脇腹を軽く殴られる。会場全体の照明が落とされているからこそできる、荒っぽい行為だ。啓太郎もすかさず、両手の拳で二人の脇腹を殴り返した。 他のテーブルはともかく、同業者が集められたこのテーブルは、さきほどから空気が緩みっぱなしだ。  仕事で忙しい中、今日の啓太郎は無理して午後から有給を取り、かつて同じ職場に勤めていた友人の結婚披露宴に出席していた。その友人は別の会社に転職したが、今でも電話やメッセージで互いの近況をやり取りし合っており、おかげで今回招待されたのだ。 普段は別々の会社に常駐して、本来の勤め先である会社で顔を合わせることはあまりない同僚たちとも、今日はこうして同じテーブルにつき、さきほどからくだらない会話を交わしている。「俺も転職しようかなあ」 同僚の言葉に、啓太郎は苦笑を浮かべる。「急にどうした?」 「だってさあ、会社変わった途端、彼女ができて、とんとん拍子に結婚だぜ? きっと俺たちのいる会社に、致命的欠陥があるんだよ。だから俺たちは、いつまで経っても彼女ができないどころか、出会いにすら恵まれないんだ」 「……それは言えるかもな」 「そもそも、忙しすぎますからねー」 いつの間にか会話に、同じテーブルの後輩まで加わっている。  少し前までの啓太郎なら、身を乗り出して会話に加わり、己の不遇について熱く語っていただろうが、今は違う。どこか他人事のように会話を聞いていた。  さっそく同僚に鋭く指摘される。「なんだ、羽岡、俺は関係ない、みたいな顔して」 乱暴に肩に腕が回され、揺さぶられる。すでにもう、上映されている新郎新婦のプロフィール紹介を兼ねたビデオなどそっちのけだ。 友人とはいえ、他人にとっては退屈でしかないビデオ上映が終わると、乾杯のあと、
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 啓太郎は、バカ話で盛り上がる同僚たちを眺める。どうやら、隣のテーブルについている新婦の女友達が気になっているらしい。  ここで、同僚がグラスにワインを注ごうとしたので断る。「なんだ、羽岡、飲まないのか?」 「車で来たからな」 「バカか、お前。こんなときぐらい、置いてこい。二次会どうするんだ」 「明日の仕事を考えたら、二日酔いになるとわかって、のこのこと出かけるのもなあ……」 「こんなときぐらい、仕事のことは忘れろよ。俺たちまで切なくなるだろ」 同僚二人が揃って泣くふりをして、テーブルについた人間たちだけが盛り上がる。冗談のように忙しいのがSEだと説明しても、なかなか一般の人間には理解されないため、よくこういう自虐的な冗談を言い合うのだ。「――羽岡、来いよ、二次会っ」 乱暴に肩を叩かれて再度誘われ、苦笑しながら啓太郎は頷こうとしたが、前触れもなく気が変わった。「いや、やっぱやめておく」 「どうしてだ。お前のことだから、どうせ予定なんてないんだろ」 啓太郎はニヤリと笑う。これだけで、相手は勝手に想像してくれるのだ。「あーっ、お前、いつの間にか彼女ができたんだな」 「さあな」 「とぼけやがって」 さっそく同僚たちからの執拗な詮索が始まったが、啓太郎は適当に躱す。  わざわざ結婚披露宴に招待してくれた元同僚も、こんなに騒がしい連中を呼ぶのではなかったと、後悔しているかもしれないので、とりあえずあとで謝るべきだろう。** 結婚披露宴が終わった啓太郎は、引きとめようとする同僚たちを振り切り、新郎新婦に挨拶してから、引き出物を手に会場からロビーへと一人で移動する。  同僚たちの姿がないことを確認してから、柱の陰へと入ると、披露宴の間は電源を切っていたスマホを取り出した。 電話をかけた先は、裕貴のスマホだ。 いつもより長めに呼出し音を聞いているうちに、やっと裕貴が電話に出る。慌てているのか、息が少し上がっている。「もしかして、風呂に入っていたのか?」 どうでもいいと思いつつ、まっさきにそんなことを尋ねていた。『なんでわかったの。慌てて出たから、髪はびしょびしょ』 「いや、お前に限って、外に出ていたなんてことはないからな。だとしたら、風呂かトイレだと思った」 『悪かったね。引きこもりは行動範囲が狭くて』 「捉まえやすくて
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