Semua Bab SWEET×SWEET: Bab 31 - Bab 40

74 Bab

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**** ただでさえ風変わりだった啓太郎と裕貴の関係は、さらに妙なことになりながらも、比較的穏やかに続いていた。 相変わらず啓太郎は、裕貴に昼メシ以外では食べること全般世話になっており、とうとう裕貴の部屋のテーブルの上には、貯金箱が置かれるまでになった。アクリル製のシンプルなデザインで、透明で中が見える貯金箱だ。  裕貴に頼まれて啓太郎が買ってきたものだが、この貯金箱に、食事代――だけでなく、その他で裕貴の世話になったときに相応の金を入れている。いわゆる、『時給制の恋人』に対する対価というやつだ。 透明な貯金箱に貯まっていく金を見るたびに、こんなにも裕貴に世話になっているのかと、啓太郎はやけに現実的な気分になるのだ。  せめて、中身が見えない貯金箱を買ってくるべきだったと後悔しているが、一方の裕貴のほうは、この貯金箱を気に入っているらしい。 昼メシである、ホタテの貝柱がたっぷり入った焼きうどんを食べながら、横目で貯金箱を見ていた啓太郎は、視線を裕貴へと向ける。  せっかくの日曜日であっても、裕貴の日常に変化はない。相変わらずパソコンの前に座り、片手でキーボードを叩きつつ、思い出したようにもう片方の手で箸を動かし、焼きうどんを食べている。ネットゲームで忙しそうだ。 それでもしっかり昼メシを作ってくれるのだから、偉いというべきか。 ゲームが一息つくと、いきなり立ち上がり、素晴らしい速さで洗い物を片付ける手並みも、見事だ。  二人分のコーヒーを淹れると、裕貴は自分のカップを手にパソコンの前に戻っていく。この間、啓太郎との間に会話はない。冷たいとかではなく、二人でいることにすでにどちらも慣れてしまったのだ。 啓太郎は、裕貴の部屋に入り浸ることが多くなった。メシ以外にもいろいろと裕貴の世話になっているため、こちらの部屋にいるほうが何かと便利なのだ。それに、外に出たがらない裕貴に自分の部屋に来てくれとは、なかなか言い出しにくい。  金を払っているとはいえ、啓太郎も気をつかっている。裕貴のほうが立場が強いとも言えるが――。 頬杖をついてぼーっと裕貴の後ろ姿を眺めていると、ふいに本人が振り返って目が合う。笑った裕貴にからかうように言われた。「羽岡さん、かまってほしそうな顔してる」 「……俺は犬か」 「いいね、それ。新しいコースに――」 「お
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 背後から裕貴を抱き締めると、すかさず裕貴の手が腕にかかり、シャツを軽く握り締めてきた。こんな仕種も計算してのことか、無意識のものなのかわからないが、やはり気持ちをくすぐられるのだ。 柔らかな裕貴の髪に顔を埋めてから、耳元で熱い吐息を洩らすと、裕貴の手が伸ばされてきて、啓太郎は頬を優しく撫でられる。ついでに髪もくしゃくしゃと撫で回されたが、その手つきは、犬を撫でるのと大差ないように感じる。「お前今、俺を犬扱いしているだろ」 「えー、してないよ」 そう答えて裕貴が振り返り、結局啓太郎はいつもと同じコースを選んでしまう。  裕貴のあごを持ち上げて、ゆっくりと唇を重ねていた。「待っ……て、羽岡さん、今、ゲーム中。みんな集まって、これからイベントこなさないといけないんだから」 モニターを見てみると、確かにアニメに出てくるようなキャラクターたちが集まって、思い思いにチャットで会話を交わしている。MMORPGだ。ちなみに裕貴は、獣人族の戦士の男という設定のキャラクターを使っている。  現実世界の裕貴は線が細くてきれいな顔をした青年だが、ネットゲームの中では、筋骨隆々とした、強そうだがいかにも粗野な外見をしていた。  集まっているメンバーも、まさかこんなキャラクターを使っている青年が、モニターを見ながら同性とキスしているとは思いもしないだろう。 今この瞬間も、確かにネットゲーム内で複数の人間と世界が繋がっているというのは、傍で見ている啓太郎にとっても妙な感じだった。  啓太郎と唇を吸い合いながら、裕貴が片手だけでキーボードを叩き、少し席を離れるとメンバーに伝える。  裕貴の手がキーボードから離れるのを待って、裕貴の体の向きをイスごとこちらに向ける。裕貴も両腕を伸ばして啓太郎の首に絡めてきた。 啓太郎が丹念に下唇と上唇を啄ばんでいると、合間に裕貴に言われる。「羽岡さんて、本当にキスが好きだよね」 「……どうだろうな。いままで意識したことなかった」 「それとも、金払っているから、元を取ろうと必死だとか?」 悪戯っぽい目が、長い前髪の間から覗いている。啓太郎は裕貴の前髪を掻き上げてやってから、額に唇を寄せた。 一度裕貴とのキスの快感を覚えてしまえば、後ろめたさはさほど感じなくなった。この部屋には二人きりだし、裕貴に限って他言することはありえない。も
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「おい?」 啓太郎が呼びかけたが、裕貴は返事をしない。啓太郎も背後からモニターを覗き込むと、動かない裕貴のキャラクターに対して、青年の姿のキャラクターがしきりに話しかけていた。  なんと話しかけているのか、文字を読もうとしたとき、急に裕貴が乱暴にマウスを動かし、あっという間にログアウトしてしまう。「あれ――」 誰なのか問いかけようとすると、淡々とした口調で裕貴が説明した。「普通そうなキャラの外見に騙されちゃダメだよ。あれ、中の人間はとんでもないから」 「変なのか」 「まあね。いろいろ因縁ありで、出くわすと、よく絡まれるんだ。そういうときは、即ログアウト。あーあ、今日はもう、ログインできないな。待ち伏せているかもしれないし」 本当につまらなさそうにぼやいた裕貴が、頭の後ろで手を組む。そんな裕貴の姿と、日中でも引いたままのカーテンの隙間から差し込む陽射しに、啓太郎は交互に目を向ける。 上気していた頬が元の青白さに戻った裕貴と、まだ寒いとはいえ、天気がいい外――。  この機会だとばかりに啓太郎はこう言っていた。「――なあ、散歩行かないか」 驚いたように裕貴が振り返ってから、眉をひそめる。「もしかして、おれに言ってる?」 「お前以外、誰がいるんだ」 「……度胸あるよね。引きこもり相手に散歩に行こう、なんて。よりによって、日曜の昼下がり。一番人が出歩いてる時間帯じゃない?」 思ったとおりの裕貴の反応に、啓太郎は笑うしかない。まるで子供を説得するように、腰を屈めて優しく言い諭す。「別に、人ごみに揉まれに行くわけじゃないだろ。この近所なんだから、人が出歩いているにしたって、タカが知れてる。それに、俺もいる」 「おれ、人に会いたくない」 「会わなくていいから。ただ、日光を浴びて、外の空気を吸うだけ」 「だったら、ベランダでいいじゃん」 手強い。裕貴が生半可な気持ちと事情で部屋に引きこもっているわけではないとわかっているつもりだったが、まだ認識が甘かったらしい。  奥の手だと思いながら、啓太郎は重々しい口調で切り出した。「ここから少し行ったところに、ケーキ屋ができたのを知っているか?」 裕貴は少し警戒するように啓太郎を見る。「……まずいケーキなら、食べないほうがいい」 「美味いみたいだぞ。有名なパティシエが作ってるらしくて、できて
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「羽岡さんて……」 「なんだよ」 「なんで彼女いないのか、本当に不思議だ。こうも母性を疼かされる人って、なかなかいないよ」 「……だから、お前にはないだろ」 ニヤッと笑った裕貴に、チュッと頬にキスされる。これまでの人生の中で一番、意表を突かれて、気恥ずかしいキスだったかもしれない。「お、前、何してっ――」 「あんまり羽岡さんが可愛くてさ」 ぐっと奥歯を噛み締めた啓太郎は、裕貴の顔を指さして言い放つ。「いいから早く準備しろ。俺も一度自分の部屋に戻って、着替えてくる」 裕貴は不服そうに唇を尖らせたが、嫌だとは言わなかった。  初めて啓太郎が裕貴に勝った、記念すべき瞬間かもしれない。 もう一度裕貴に念を押してから啓太郎は自分の部屋に戻り、スウェットの上下から、パンツにハイネックのセーターに着替え、その上からブルゾンを羽織る。財布をポケットに突っ込んで室内を見回すと、家の鍵を手に部屋を出た。 裕貴はまだ着替えている最中で、ダイニングに入ってすぐ、隣の部屋で長袖のTシャツを着ている姿が目に飛び込んでくる。  目を射抜くほど白い背を見て、啓太郎の鼓動が大きく跳ねる。さきほど交わしたキスの余韻か、胸の奥が痺れるような欲情を覚えていた。  ジーンズに穿き替えた裕貴が振り返り、乱雑に髪を掻き上げながら唇を歪めた。「羽岡さん、外、寒い?」 「今時期なら、これぐらいの寒さは普通。というかお前、その格好は薄着すぎるだろ。どんどん着込め」 裕貴はクローゼットから引っ張り出してきたダウンベストを着込むと、その上からダッフルコートを羽織り、仕上げにニットキャップをすっぽりと頭に被った。 どこから見ても、外を歩いていれば普通に見かける青年らしい格好に、少しだけ啓太郎は感動する。「……落ち着かない」 小さな声で呟きながら、裕貴はニットキャップを引っ張って、顔を隠そうとする。その姿に思わず笑みを洩らしながら、啓太郎は手招きした。「ほら、行くぞ」 玄関まで行くと、スニーカーを履いた裕貴が啓太郎を見て言った。「腕組んで歩く?」 「それはなんの罰ゲームだ……」 無事にケーキ屋まで行って、この部屋に帰り着けるのか、少々不安になりながら啓太郎は玄関のドアを開けた。
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** ほぼ部屋の中だけで生活している裕貴だが、外に出て陽射しを浴びた途端消える――ということは、当然なかった。 心底嫌そうにマンションから出た裕貴は、まず眩しそうに目を細めて空を見上げた。  風は冷たいが、だからこそ降り注いでくる陽射しが貴重なものに感じられる。啓太郎はそう感じるが、裕貴の感想は違った。「……久しぶりに日光に当たったから、頭がクラクラする……」 「感動もへったくれもないな。お前の言葉は」 苦笑した啓太郎は、裕貴の背を軽く押して一緒に歩き始める。  裕貴はゆっくりとした歩調で、うつむきがちに歩き、いつもはせっかちに早足で歩く啓太郎も、このときばかりは調子を合わせる。  考えてみれば、今は仕事のために歩いているわけではなく、散歩なのだ。ゆっくり歩いて当然の状況だ。「まっすぐケーキ屋に向かうのもつまらんから、少し回り道するか」 こう提案すると、少し顔を上げた裕貴が露骨に嫌そうな表情を浮かべる。しかし、外に出た啓太郎は強気だった。ここぞとばかりに、にんまりと裕貴に笑いかける。「一人で帰るか?」 返事の代わりに裕貴に足元を蹴りつけられた。 車や人の通りが多い道を避け、大きな公園に沿うようにして造られた並木道を通る。ジョギングや、啓太郎たちと同じような散歩をしている人たちの姿はあるが、それでもさきほどまで歩いていた通りに比べれば、遥かに静かだ。 裕貴は道に落ちた枯れ葉をときおり蹴りながら、気ままに歩く。急に早足になったかと思えば、立ち止まったりと、まるで子供を連れ歩いているような気分になる。  しかし、意外に散歩を楽しんでいるらしく、青白かった頬にわずかな赤みが差している。 柵から身を乗り出し、人工的に造られた小川を覗き込んでいる裕貴を、足を止めて啓太郎は眺め、無意識に口元を綻ばせる。「たまにはいいだろ、外の空気に当たるのも」 啓太郎がこう声をかけると、裕貴がちらりと視線を向けてくる。そして、可愛げのないことを言った。「羽岡さんに、久しぶりのデートの気分を味わわせてあげてるんだから、感謝してよね」 「……ありがたくて涙が出そうだな」 少しは表情を和らげた裕貴だが、傍らを高校生らしい一団が通りすぎるときは、さりげなく啓太郎の陰に入って隠れようとする。このときにはもう、顔を強張らせていた。  外が嫌いというより、他人が
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 裕貴に悪いことをした。そう思いながら裕貴の背にてのひらを当てると、ちらりと啓太郎を見上げた裕貴が片手を伸ばし、しっかりと啓太郎の腕を掴んできた。  人目がある場所で恥ずかしいという感情はなかった。それより、腕を掴んでいる裕貴の手を見ていると、啓太郎の中で不可解な感情が湧き起こり、胸が詰まる。 こんなことを裕貴本人に言ったら睨みつけられるかもしれないが、他に頼るものがないといった裕貴の様子を、正直可愛いと思った。  この、きれいな顔立ちをして、年上の啓太郎をからかうような言動を繰り返す裕貴を――。 部屋の中に引きこもっていても不安定に感じる存在は、外に出ると、よりいっそう存在の不安定さが増して、放っておけないのだ。「……そんなに嫌なら、引き返すか?」 たまらず啓太郎が話しかけると、顔を伏せたまま裕貴が首を横に振る。「このおれを外に引っ張り出しておいて、手ぶらで帰るなんて本気で言ってる?」 やっぱり可愛くない……。心の中で呟きながらも、啓太郎は笑みを洩らしていた。「はいはい」 なんとか目的のケーキ屋についたが、裕貴は店内の女性客の多さを目にして、頑として中には入りたがらなかった。  結局裕貴を店の外に待たせて、啓太郎だけが中に入ってケーキを買う。「――もしかしてお前、本当に女嫌いか」 帰り道、商店街を避けて違う道を歩きながら、思いきって尋ねると、裕貴は皮肉っぽく唇を歪めた。「本当に嫌い。おれの周りは、ロクな女がいなかった。もっとも、ロクな男もいなかったけどね。母親も、父親も含めて」 それは女が嫌い、男が嫌いというより、人間が嫌いなのではないかと思ったが、あえて啓太郎は指摘しなかった。わざわざ言わなくても、裕貴自身がよくわかっているような気がしたのだ。 人の通りのない細い路地に入ったところで、裕貴が急に周囲を見回してから、啓太郎に体当たりをしてきた――と思ったら、腕を取られた。しっかり腕を組まれたのだ。「おいっ……」 「今、こいつにもいろいろあって、引きこもっているんだなあ、と思っただろ。少しはこいつに優しくしてやろうって気になった?」 腕を引き抜くことも忘れ、啓太郎はまじまじと裕貴を見つめる。人の行き来が多かった場所では強張っていた顔も、いつものように少しの憎たらしさと柔らかさを取り戻していた。 裕貴が返事を促すように首を傾げ
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「おれのこと、知りたくなった?」 「まあ、いろいろと世話になってるからな」 「……理由は、おれが、外の世界と合わなくなってきたと感じたから」 「それで、二年も引きこもっているのか。大学も中退したんだろ」 「合わない、と感じるのは、それだけで苦痛なんだよ。世界のすべてから拒絶されたような気になる。まあ、おれの場合は自業自得かな……」 具体的なことは実は何も言っていない。啓太郎としては、裕貴に何があったのか想像を巡らせるしかないのだ。  すべてを話せるほど、まだ信用してもらってないのだろうかと考えると寂しいので、あえてその考えは頭から追い払った。 裕貴はさらに何か言いかけようとしたが、我に返ったように口を閉じる。次の瞬間には、何事もなかったようにニッと笑いかけてきた。「足が疲れたから、おんぶして」 「金取るぞ」 負けずに啓太郎が言い返すと、裕貴は唇を尖らせる。「ケチ」 「これみよがしに、テーブルの上に貯金箱を置いて、俺から金を取り立てているお前にだけは、言われたくねーよ」 「あれは、勤労に対する当然の報酬だろ」 「背負ってやるから金払え」 「おれを背負うのは、奉仕って言うんだよ」 「よし、わかった。マンションまで仲良く歩くぞ」 啓太郎が足早に歩くと、聞こえよがしに文句を言いながら裕貴もあとをついてきた。  マンションに戻ったところで、啓太郎はついでに自分の部屋に来ないかと誘いたかったが、裕貴はさっさと自分の部屋に入り、当然のように啓太郎を振り返った。「ケーキ、食べるんだろ?」 ケーキを買ったのは啓太郎だが、もちろんそんなことは言わない。頷いて、裕貴の部屋に入る。 何より先に裕貴はエアコンを入れ、室内を暖め始めた。ダッフルコートも脱がず、ニットキャップすら取らないでキッチンに立つと、さっそく皿とフォークを準備し、お湯を沸かす。  啓太郎は手持ち無沙汰にケーキの箱を手に立ち尽くしていたが、振り返った裕貴にからかうように言われた。「座れば。用なしだから帰れなんて言わないから」 「当たり前だ。誰がケーキを買ったと思ってるんだ」 啓太郎がブルゾンを脱いでイスに腰掛けると、裕貴は隣の部屋に行き、ニットキャップを取って軽く頭を振る。不揃いの髪がふわりと揺れ、なんとなく啓太郎は裕貴の行動を目で追っていた。 ダッフルコートとダウンベス
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 一方の啓太郎は、容易に味の想像がつきそうなチョコレートケーキを選んだ。生クリームより、チョコレートクリームのほうがいい。 裕貴がコーヒーを淹れ、さっそくケーキに手をつける。  室内は急速に暖かくなっていき、そこにコーヒーのいい香りと、ケーキの甘い香りが混じり、目の前では裕貴が嬉しそうな顔でイチゴをフォークで突いている。  こういう空気はいいなと、啓太郎は思った。「美味いか?」 「労働のあとだから、なおさらね」 「……労働って、ちょっと歩いただけじゃねーか」 「でもあんなに歩いたの、二年ぶり」 啓太郎は絶句したあと、じっと裕貴の顔を見つめながらこう言う。「――俺に時間があるときは、連れ出してやる」 「えー、いいよ」 「体力つけておけ。何かあったときに困るぞ」 半分に切ったイチゴを食べてから、裕貴が妙に艶かしい笑みを浮かべた。条件反射で啓太郎は身構える。「なんだよ……」 「何か、って、何かなあ、と思って」 意味深なことを言って裕貴がイチゴを摘まみ上げ、啓太郎のほうに差し出してくる。何も言われなかったが、裕貴が何を求めているか察し、イチゴに顔を近づけた。  口を開けると裕貴がイチゴを食べさせてくれ、甘酸っぱい味が舌の上に広がる。「生地に入っているクリームはなんだ?」 「カスタード」 答えた裕貴は指先でカスタードクリームを掬い取り、再び啓太郎の口元に持ってくる。フォークを使えと、野暮なことを言うつもりはなかった。  カスタードクリームのついた裕貴の指ごと口腔に含み、舌で舐め取る。「……甘いな」 「羽岡さんのチョコレートケーキは?」 裕貴に倣い、啓太郎も指でチョコレートクリームを掬って差し出す。顔を寄せた裕貴がペロリと舌先で舐めてから、ゆっくりと指を口腔に含んだ。  ゾクゾクとするような興奮が背筋を這い上がり、啓太郎は小さく身震いする。指にまとわり吸い付く裕貴の口腔の感触は熱く濡れて、指に心地いい。ゆっくりと指を吸いながら、裕貴が舌を擦りつけてくる。 何度も味わった裕貴の唇と舌、口腔の粘膜の感触は、指で感じても魅力的で官能的だった。  やっと指を解放した裕貴が、挑発するように啓太郎に笑いかけてくる。「羽岡さん、キスしたそうな顔してる」 「お前がそう仕向けたんだろ」 「どうかなあ」 怒りたいのに、怒れない。  啓
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 裕貴の滑らかな背にてのひらを這わせると、肌がゆっくりと熱を帯びてきている。生々しい変化に啓太郎は、冷静ではいられなかった。「――唇以外にキスしても、それはキスなのか?」 「キスはキスだろ。唇で触れるなら」 唇を裕貴に軽く吸われ、その行為が啓太郎の背を押すことになる。  余裕なく裕貴のトレーナーを脱がせようとしたが、嫌がるように裕貴は体を引き、啓太郎に背を向けた。「どうした?」 「おれの体、前から見ないほうがいいよ。男の体だと認識した途端、冷めるんじゃないかな、羽岡さん」 そんなこと、思いもしなかった。啓太郎は驚きながらも、裕貴の言葉を否定できない。自分でも、裕貴の体を正面から見て、どんな感想を抱くか想像できなかったのだ。  ただ、裕貴が啓太郎と同じ構造の体を持っていることは確かだ。そして、向けられている裕貴のほっそりとした背に触れてみたいのも確かだった。「……なら、お前の体を前から見ない。後ろから、お前に触れる」 裕貴に語りかけながら、背後から抱き締める。啓太郎は柔らかな髪に唇を押し当ててから、裕貴のトレーナーを脱がせ、露わになった白い背にてのひらを這わせながら、骨ばった華奢な肩に唇を押し当てた。「あっ」 裕貴が微かな声を上げて背をしならせる。  肩から首筋へと熱心に唇を這わせる啓太郎に、裕貴は笑いを含んだ声で言った。「キスコースだけでこんなことまでできるんなら、料金見直そうかな」 「好きにしろ」 頭だけを動かして振り返った裕貴と、差し出し合った舌を絡める。 腰を撫で上げると、裕貴は背を反らして吐息を洩らした。啓太郎は背骨のラインを指先でくすぐるように辿り、うなじを吸い上げる。  啓太郎は、ベッドに横になり、うつ伏せとなった裕貴の背に何度もてのひらを這わせた。そうするたびに裕貴の肌が汗ばみ、しっとりと濡れてくる感触に、愉悦を覚える。 この瞬間、冷静になってはいけないと、啓太郎は自分に言い聞かせていた。 金を払って青年の体に触れているのだ。裕貴と出会う前までの啓太郎なら、思いもしない行動だ。嫌悪感すら示していただろう。  今のこの状況は、自分がおかしくなったのか、裕貴が特別なのか、よくわからなかった。とにかく啓太郎は、裕貴に触れたい。 まだ少年のようにも、肉付きの薄い女のようにも見える裕貴の背を丹念に撫でてから、啓太郎は
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 背後から片腕で裕貴を抱き寄せながら、うなじや首筋に熱心に唇を這わせる。  再びベッドにうつ伏せに横にさせる頃には、裕貴の背は赤く染まっていた。背以外の場所にも触れたいという欲望が啓太郎の中で芽生え、背骨のラインを舌先でなぞり上げながら、ジーンズのウェストに手をかける。すると柔らかな声でたしなめられた。「ダメだよ、羽岡さん。おれを男だと目の当たりにしたら、こんなふうに遊べなくなる」 啓太郎は手を止める代わりに、裕貴の肩に強く吸い付いてくっきりとした跡を残す。  体を離すと、裕貴は片手を伸ばして毛布を引き上げ、自分の体を覆い隠してしまう。そのうえで寝返りをうち、啓太郎を見上げてきた。 普段は生意気で皮肉屋だからこそ、自分の体を見せまいとする裕貴の気づかいが啓太郎には健気に思え、だからこそ狂おしい欲望を刺激される。  裕貴の両手が伸ばされて頭を引き寄せられ、二人は唇を吸い合う。「……お前、自分が男の体だっていうことに、こだわっているんだな」 キスの合間に啓太郎が言うと、裕貴は痛みを感じたように視線を伏せた。「当たり前だろ。羽岡さんは女好きで、おれはあくまで、金をもらって気晴らしをしてやってるんだから。お互い納得しているとは言っても、羽岡さんが男のおれの体見て冷めていく様子なんて、気分悪いから見たくないよ」 本当にそれだけの理由かと思ったが、あえて突っ込んで尋ねなかった。裕貴が言わないということは、本当の理由は言いたくないということだ。無理やり聞き出す権利は啓太郎にはない。 キスを続けながら何度も裕貴の髪を撫でてやっていると、うっとりしたように裕貴が目を閉じた。「――久しぶりに運動したから、眠くなった」 啓太郎は苦笑を洩らしながら、裕貴の頬を撫でてやる。「羽岡さん」 「なんだ」 「今日の料金はチャラにしてあげるから、おれの言うこと聞いてよ」 「とんでもないこと言うなよ」 目を閉じたまま裕貴は小さく笑った。「少し昼寝するから、おれが寝入るまでこんなふうに触ってて」 ささやかなわがままに、ああ、と啓太郎は応じる。「それから、テーブルに置いたままのケーキはあとで食べるから、冷蔵庫に仕舞っておいて」 「心配するな」 「おれが寝てるからって、変なことしないでよ」 「……するか」 プッと啓太郎が小さく噴き出すと、裕貴も唇を綻ばせてか
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