ふいにロビーに、にぎやかな声が響き渡る。柱の陰から顔を出すと、披露宴が終わった招待客たちの姿が一気に増えていた。啓太郎が出席していた披露宴の客たちか、別の会場にいた客たちかまではわからない。 にぎわうロビーの光景を横目に見ながら、啓太郎は会話を続ける。「これから出かけないか?」 さすがに意表をついた申し出だったらしく、裕貴からすぐに返事はなかった。『出かけるって、おれも?』 「ああ」 『……啓太郎って、無謀なところあるよね。引きこもりを外に連れ出そうとするなんて。この間の散歩のときもそうだったけど』 本当に呆れたように言われ、知らず知らずのうちに啓太郎の顔は熱くなってくる。自分でも、柄にもないことを考えついたものだと自覚しているだけに、それを裕貴に指摘されると居たたまれないのだ。 いっそのこと電話を切りたい衝動に駆られるが、それでも、とりあえず考えを裕貴に聞いてもらうことにする。 裕貴も、『嫌』という一言で拒絶はしなかった。呆れたような口調はそのままに、啓太郎に質問してきたのだ。『それで、行くってどこに?』 「決めてない」 『……もしもし、おれ、湯冷めしちゃうから、電話切ってもいいかな』 「今日は会社は昼までだったし、披露宴も座って食ってるだけだったから、体力がいつもより有り余ってるんだ」 体力が有り余っている、という言い方は変だなと、口にしてから気づいた。同じことを裕貴も感じたのか、クスクスという笑い声が耳に届く。鼓膜を刺激され、啓太郎の背筋はくすぐったくなった。『おれ、人がいるところに行くの嫌だ』 裕貴の言葉のニュアンスが変わる。啓太郎はここぞとばかりに早口で捲くし立てる。「ドライブはどうだ。それなら人と顔を合わせなくて済む。欲しいものがあれば、俺が車から降りて買ってきてやるし。車で行ける範囲なら、お前のわがままを聞いてやる」 耳を澄ませて裕貴の返事を待つ。 どれだけ裕貴が外に出ることに抵抗を持っているのか、一分近い沈黙が物語っていた。前に裕貴を散歩に連れ出したときの反応で、それはわかっているつもりなので、啓太郎も以来、外に出るよう誘うことはなかったのだ。 だが今夜は違う。他人の結構披露宴に出席して、友人たちとバカな会話をして、気分が高揚しているのかもしれない。 それに、自分のわがままに裕貴がつき合ってくれる
Read more