甘ったるい香水の臭い。 理恩の胃の奥がギュッと収縮し、強烈な吐き気が込み上げてくる。「……触るな、麻里亜。スーツが汚れる」 理恩は露骨に嫌な顔をして、麻里亜の手を乱暴に振り払った。「え……?」「君の喚き声は頭に響くんだ。それに、その顔を鏡で見てこい。見苦しくて吐き気がする」 氷のように冷たい言葉をぶつけられ、麻里亜は信じられないものを見るように目を丸くし、そのまま絨毯の上にへたり込んだ。 中身が空っぽで、他人の注目を集めることでしか自尊心を保てない欠陥品。こんな騒音発生器を瀬理亜の代わりに隣に置こうとした自分の判断ミスに、理恩は心底苛立っていた。「理恩くんの言う通りだ、麻里亜。お前は少し黙っていなさい」 宗隆が冷たく言い放つと、麻里亜はヒッと息を呑んで口を塞いだ。「しかし、どうやって連れ戻しますか。力ずくで行けば、また窓ガラスが吹き飛ぶだけでは済みませんよ」 理恩が現実的な問題を突きつけると、宗隆は顎をさすりながら、少しだけ苦々しい顔をした。「……前妻が、よく言っていたな」「前妻、ですか。瀬理亜の母親ですね」「ああ。あの姑が管理していた、地下のガラクタ部屋のことだ」 宗隆は、忌々しそうに足元のガラスを蹴り飛ばした。「私は政略結婚で婿養子としてこの家に入り、必死に汗水流して有栖川の財をここまで大きくした。だが、本家の血筋だか何だか知らないが、前妻も姑も、気味の悪い因習ばかり大事にしおってな。埃っぽくて薄暗い地下の『奈落』に籠っては、訳の分からない儀式のようなことをしていた」 婿養子としてのコンプレックス。 血筋の正当性を持たないがゆえに、有栖川の権威を振りかざすことでしか自分を保てなかった小市民的な強がりが、宗隆の言葉の端々に滲み出ている。「この有栖川の血を純粋に引いているのは、結局のところ前妻が産んだ瀬理亜と麻里亜の二人だけだ。婿の私には触れられなかった血の繋がりを利用する何かが、あの部屋の奥に残っているかもしれん」 血縁という、物理的な距
最終更新日 : 2026-05-09 続きを読む