大理石のローテーブルの上に散らばったケーキの空き箱と、ソースの拭い残しがある白い小皿。 ペントハウスのリビングは、バターと砂糖の甘ったるい匂いに占領されていた。 ソファに深く腰を下ろした銀髪の来訪者は、最後の一口だったモンブランを綺麗に飲み込むと、満足げに大きく伸びをした。「あー、食べた食べた。人間の甘いものって、すぐ消えちゃうけど、その一瞬のためにすごい手間かかってるよね」 指先についたクリームをペロリと舐めとりながら、機嫌よく両足をブラブラと揺らしている。 その対面のソファでは、ダークグレーのシャツの胸元を少し開けた巨体が、腕を組んだまま、氷のように冷たい視線を突き刺していた。 吐き出される呼吸が重く、低い。テーブルを挟んでいるのに、その分厚い胸板から発せられる熱波が、空調の冷風を完全に相殺して肌をじりじりと炙ってくる。「食い終わったなら、さっさとこの部屋から立ち去れ。それ以上お前の吐く息が混ざれば、空気が澱む」 低い声が、フローリングを微かに震わせる。 しかし、白亜と呼ばれた銀髪の少女は、その威圧感をそよ風程度にしか感じていないらしく、悪びれもせずに鼻をスンッと鳴らした。「澱んでるのは私じゃなくて、そっちの服じゃない? なんか、さっきからずっと焦げ臭いような、線香が腐ったような嫌な匂いが微かにしてるんだけど」 その指摘に、シャツの胸元がピクリと動いた。 黄金の瞳がわずかに眇められ、組んでいた太い腕が解かれる。大きな手が無造作にスラックスのポケットへと突っ込まれ、中から小さな銀色の塊が引きずり出された。 ポイッ、と。 放り投げられた銀色の塊が、大理石のテーブルの上でカチンッ、カチンッと硬い音を立てて転がり、やがて中央で動きを止めた。 すずらんの花を象った、古い銀のブローチ。 有栖川の屋敷を追い出されたあの雨の夜、ボロボロのポシェットの底に唯一隠し持っていた、亡き母の形見だった。 数日前、このブローチにこびりついていた赤黒い脈動のようなものを、目の前の高い体温を持つ主が青白い炎で焼き払ってくれたのだ。「俺が表面の不浄な膜を焼き切った、このガラク
Last Updated : 2026-05-14 Read more