「瀬理亜、お前が連れているその男……。いや、人間ではない圧倒的な存在だな」 宗隆は葉巻を灰皿に押し付け、ゆっくりと立ち上がった。太い腹を突き出し、値踏みするような足取りでこちらに近づいてくる。「あの夜、お前がその怪物を手枷一つなしで大人しくさせた時、私は気づくべきだったのだ。お前が持つその気味の悪い力が、これほど規格外の存在を縛り付ける鍵になるとはな」 脂ぎった顔に、醜い笑みが浮かぶ。「よく戻った。家を出て少しは自分の価値というものが理解できたのだろう。その怪物を飼い慣らし、有栖川の資産として機能させるのであれば、これまでの不始末はすべて水に流してやる。またこの屋敷に、お前の部屋を用意してやってもいいぞ」 開いた口が塞がらない、とはこのことだろうか。 胸の奥で、カチリと何かが凍りつく音がした。 この父親は、反省など一ミリもしていない。それどころか、黎という圧倒的な存在を目の当たりにしてもなお、それを「瀬理亜という道具を介して利用できる財産」としてしか認識していないのだ。どこまでも自分を中心に世界が回っていると信じて疑わない、哀れなまでの強欲。「おい、瀬理亜。黙っていないで返事をしたらどうだ。やはり無能のままだな。誰のおかげでこれまで生きてこられたと思っている」 宗隆が一歩、距離を詰めて手を伸ばそうとした。 その瞬間。 背後の空気が、爆発寸前の高圧釜のように膨れ上がった。 黎の長い腕が前に伸び、瀬理亜の肩を後ろへ引き込もうとする。指先が、今にも宗隆の喉笛を消し去らんばかりに鋭く動くのが視界の端に見えた。 しかし、それよりも早く、自分の右手を伸ばした。 黎の硬い手首を、掌でしっかりと掴む。「……待ってください、黎様」 触れた皮膚から、黎の荒ぶる熱が手のひらに伝わってくる。黎は信じられないものを見るような目で、掴まれた手首と、こちらの顔を交互に見つめた。黄金色の瞳の奥で、獰猛な光が激しく明滅している。「瀬理亜、お前……、俺を止めるのか。こいつは、お前をまたあの檻へ戻そうとしているのだ
최신 업데이트 : 2026-05-25 더 보기