All Chapters of 元夫の目は節穴?名門令嬢が電撃再婚!: Chapter 501 - Chapter 510

533 Chapters

第501話

事態は重大だった。二人は道中、手をつないだまま、互いに一言も口を利かなかった。家に着くと、静代は庭でじょうろを手に花へ水をやっていた。ずいぶん機嫌がよさそうで、演歌を聴きながら鼻歌まで口ずさんでいる。外が大騒ぎになっていることなど、まるで知らない様子だった。景は静代の前まで歩み寄ると、彼女の手からじょうろを取り上げた。「母さん、どうしてこんなときに取材なんか受けたんだ。それも、楠原優奈との仲や、彼女を心配しているなんてことまで延々と話して。いったい何がしたいんだ?」静代は腹立たしげに景をにらみ、彼の手からじょうろを奪い返した。「実の母親に向かって、その口の利き方は何なの!まったく、この女と一緒になってから、どんどんおかしくなっているじゃない!」「軽率にあんな取材を受けたせいで、今どんな事態になっているか分かっているのか!」景は怒りのあまり、体を小刻みに震わせていた。「何言ってるの。取材を一つ受けただけでしょう。何をそんなに大騒ぎしているの」そう言うと、静代は悪意のこもった目で絃葉を一瞥した。「誰かさんが後ろめたいことをしていなければ、優奈ちゃんにひどい仕打ちをしていなければ、別に心配する必要なんてないでしょう?」景は眉間を強く押さえた。何を言っても話が通じないことに、怒りと無力感を覚えていた。絃葉は一歩前へ出ると、彼の手をそっと握り、ひとまず怒りを抑えるよう促した。そして落ち着いた声で言った。「静代さん、中に入って、座ってお話ししましょう」静代は横目で彼女をにらむと、腹立たしげにリビングへ入り、いつものソファにどっかりと腰を下ろした。「話があるなら早くしてちょうだい。このあと友達と会う約束があるから」絃葉の口調は依然として穏やかだった。「静代さんがあの取材を受けた目的について、まず私なりに整理させてください。表向きは楠原優奈を心配し、かつては母娘同然だったと強調していましたが、本当は私を追い詰めたかった。彼女に何かしたのは私だと、世間に思わせたかったんですよね?」ここまではっきり言われるとは思っていなかった静代は、たちまち目を泳がせた。それでも意地を張り、首を反らして言い返した。「そんなこと思っていないわ。優奈ちゃんに何があったのか分からないから、身の安全を心配しているだけよ。あなた
Read more

第502話

静代はもともと重久の威厳を恐れていた。こうして怒鳴りつけられると、たちまち全身を震わせた。「わ......私はただ、優奈ちゃんへの思いを話しただけよ。それの何がいけないの?」潤一も、ネット上を埋め尽くす騒ぎをすでに目にしていたらしい。怒り心頭に発し、静代の目の前まで詰め寄ると、彼女を指さした。「半生を舞台の世界で生きてきたのに、こんな見え透いた裏事情すら分からないのか!ついさっき、楠原栄一から直々に電話があった。景と絃葉はもう婚姻届を出したのか、娘にきちんと説明しろと言われたんだぞ!いったい私に何と答えろというんだ!まったくお前というやつは......年を重ねるほど分別がなくなっているじゃないか。これほどの騒ぎを起こして、景と絃葉にどう収拾をつけさせるつもりだ!」潤一は長年、経営の実務から離れていたが、その程度の事情なら説明されるまでもなく理解できた。重久は険しい顔でソファに座り、一言も発しなかった。もはや静代の顔など見たくもないようだった。そして、かつて両家の縁談をまとめる際に、静代の性格や人間性をきちんと見極めなかったことを、ますます後悔していた。もし当時、潤一に聡明で良識のある女性を妻として迎えてやれていたなら、その妻に支えられ、彼も一生何も成し遂げられないまま終わることはなかったかもしれない。――とはいえ、静代は自分の実の母親だ。重久と潤一がここまで激怒し、静代を厳しく責める姿を見ているうちに、景の中の怒りも少しずつ収まっていった。彼は徐々に冷静さを取り戻した。「父さん、栄一さんには返事をしなくていい。あとで俺が直接会って話す。楠原家も今のところ、公然と俺たちを敵に回すことはできないはずだ。今後もこちらのデータセンターに頼る必要があるからな。今までより少し多めに利益を譲れば、おそらく向こうも深く追及はしないだろう。俺も全力を尽くして、この件への注目をできる限り抑える。ただし、今この瞬間から、家族全員が外部に対して一切沈黙を貫いてくれ。こうした政治的に慎重な対応を求められる問題では、沈黙こそ最善の広報戦略だ。絶対にこれ以上、余計な問題を起こしてはいけない」景はゆっくりと静代へ視線を向けた。その黒い瞳は深く、鋭かった。「特に母さんは、今日から外出禁止だ。家で自分のしたことをよく反省してくれ。俺は
Read more

第503話

「景が謝る必要なんてないわ」絃葉は彼の手を握り返し、優しくも揺るぎないまなざしを向けた。「私たちは一緒にいると決めたんだもの。それは、これから訪れるどんな嵐にも、二人で立ち向かうということでしょう。景の家族は、私の家族でもあるわ」景の表情も、たちまち柔らかなものになった。「ああ......ありがとう、絃葉」少し考えてから、さらに付け加えた。「大丈夫。まだ十分に対処できる範囲だ」絃葉はにっこりと笑った。「それは分かってるわ」彼女が車を降りようとすると、景がその手をつかんだ。「忘れるな。君には海城で一番頼りになる男がついている」絃葉は微笑むと、身を乗り出し、ゆっくりと景へ顔を近づけた。その瞳には優しい光が揺れていた。「ええ。じゃあ、また今夜ね。私の旦那様」彼女は自ら景の唇にキスをすると、車を降り、軽やかに立ち去った。その親密な呼び方に景は一瞬目を見開いたが、すぐに瞳へ優しい笑みを浮かべた。自信に満ちた落ち着いた足取りでビルへ入っていく絃葉の後ろ姿を見つめながら、彼はふと思った。彼女がそばにいてくれさえすれば、どれほど激しい嵐も恐れるに足りない。景はティッシュを取り出し、唇についた口紅を拭った。そしてそのティッシュを丁寧に折り畳むと、傍らの収納スペースへ大切そうにしまった。再び顔を上げたときには、その目はいつもの冷静で重々しい光を取り戻していた。「出してくれ。楠原グループへ」景は楠原グループに3時間も滞在した。ようやくそこを後にしたときには、栄一自らが玄関まで彼を見送りに出てきた。景が車のドアを開け、乗り込もうとすると、なんと絃葉が車内に座り、満面の笑みで彼を見つめていた。景は片眉を上げた。「待っていてくれたのか?」絃葉はうなずいた。「うん。交渉がうまくいっていなかったらどうしようって心配で。でも、栄一さんが自ら見送りに出てきたのを見て、安心したわ」景の目元に笑みが浮かんだ。「楠原家が今後、大きな動きを見せることはない。それに栄一には、楠原家が優奈の口を封じ、二度と表に出てきて虚偽を言いふらしたり騒ぎを起こしたりさせないのなら、彼女の身の安全は保証すると約束した」景は何でもないことのように話したが、この決着をつけるために彼がどれほどの代償を払ったのか、絃葉に
Read more

第504話

絃葉は鋭い光がきらめくのを目にした瞬間、警戒し、とっさに二歩後ずさった。正面には、がっしりした体格の男が立っていた。ニット帽をかぶり、マスクで顔を隠したその男は、突然、鋭いナイフを手に絃葉へ襲いかかってきた。絃葉は悲鳴を上げ、慌てて身をひるがえして避けようとした。しかし、相手の動きはあまりにも速かった。彼女は足を蹴り上げて男の腹部に命中させたものの、刃を完全にかわすことはできなかった。冷たい刃が左腕を切り裂き、たちまち鮮血があふれ出した。激痛に襲われた絃葉はよろめき、顔からさっと血の気が引いた。景は我を忘れて駆け寄ると、彼女を背後へかばい、目を真っ赤にして男をにらみつけた。男は絃葉を傷つけたことに一瞬ひるんだが、すぐさま再び襲いかかろうとした。しかし景が先に男を蹴り倒し、素早くその手からナイフを奪い取った。「絃葉!」振り返った景は、彼女の腕から血が流れ続けているのを見て、声を裏返らせた。彼はもうほかのことには構っていられず、絃葉を抱き上げると、そばに止まっていた車へ駆け込んだ。絃葉は彼の腕に抱かれたまま、痛みで声も出せなかった。ただ、景の胸が激しく上下し、顎が固くこわばっているのを感じていた。景は一刻も早く彼女を病院の救急外来へ連れていった。絃葉は椅子に腰掛け、看護師が腕の傷を処置するのを冷静に見守っていた。景は、彼女が襲撃者を前にしても冷静さを失わず、迷いなく蹴りを放った姿を思い出し、改めて背筋が凍る思いだった。きっと絃葉は普段から自分の身を守ることに慣れていたからこそ、あの切迫した状況でも冷静に対応できたのだろう。あの蹴りがなければ、もっと危険な箇所を刺されていたかもしれない。そう考えると、景はますます恐ろしくなった。「念のため全身も検査してください。ほかにけがをしていないか、確認をお願いします」しかし絃葉は、そこまでする必要はないと思い、慌てて首を横に振った。「いいの。腕を少し切られただけで、ただの外傷よ。大したことはない。それより、さっきの男は?もう警察には通報した?誰が私を襲おうとしたのか、早く突き止めないと」景は眉をひそめた。「突然のことだったし、君がけがをしたことしか頭になくて、あの男を取り押さえられなかった。ボディーガードが駆けつけたときには、もう姿を消していた。警察
Read more

第505話

湊は景の肩を軽く押した。「産婦人科の同僚に頼んで診てもらおうか?」その言葉で、景はようやく放心状態から我に返った。次の瞬間、彼は何もかも忘れたように絃葉を抱き上げた。数歩進んだところで振り返り、湊に言った。「早くしろ。何をぼんやりしているんだ」湊と正真も、景がここまで取り乱す姿を見るのは初めてだった。二人は顔を見合わせると、すぐに後を追った。湊は直接、産婦人科の同僚に連絡し、絃葉を優先して診てもらえるよう手配した。必要な検査は最短時間で行われた。血液検査で妊娠が確認され、hCGの数値も十分に高かった。ほどなくして、超音波検査の結果も出た。間違いなく妊娠しており、妊娠7週を過ぎていた。ただし子宮内に軽い出血が見られるため、しばらく安静にして経過を見る必要があるという。まさに、驚きと喜び、そして緊張が入り交じる知らせだった。絃葉が超音波検査室から出てくると、景はこみ上げる感情を抑えきれず、駆け寄って彼女を強く抱き締めた。いつも冷静な彼の声が、わずかに詰まっていた。「俺たち......父親と母親になるんだな」その瞬間、景の胸にはさまざまな思いが込み上げていた。幼い頃から一人で成長する中で味わったつらさも、これまで経験してきた苦難も、すべて無駄ではなかったと思えた。運命は彼のために最高の贈り物を用意し、30歳になったこの年に待っていてくれたのだ。景は絃葉の頬を両手で包み込んだ。その瞳には涙がきらめいていた。絃葉は不安で胸がいっぱいだったが、彼がこれほど幸せそうに感動している姿を見ているうちに、その気持ちが伝わってきた。「うん。こんなに早く授かるなんて、思ってもみなかった......」2か月前、医師からは再び妊娠するのは難しいかもしれないから、心の準備をしておくようにと言われていた。それなのに、思いがけず赤ちゃんがやってきた。あまりにも突然のことだった。「食べたいものはあるか?具合が悪いところは?」あまりにも緊張している彼を見て、絃葉は思わず小さく笑った。「まだ下腹部が少し痛むけど、それ以外は大丈夫よ」景はすぐに湊へ顔を向けた。「早くその同僚に聞いてくれ。今は何に気をつければいい?食べてはいけないものはあるのか?」ちょうどそのとき、湊の同僚が診察室から出てきた。医師
Read more

第506話

景は絃葉に足を地面につけさせない勢いで、病院を出て車に着くまで、ずっと彼女を大切そうに抱きかかえていた。その後ろを歩く湊と正真は、興味津々で二人を眺めていた。「ちょっと。あれ、本当に景か?誰かと入れ替わったんじゃないか?」「入れ替わったどころじゃない。彼女には、あいつを別人に変える魔力があるみたいだな」「まったく、妊娠したばかりなのに、もうあんなふうに抱えてるぞ。まさか妊娠中ずっと抱いて運むつもりか?」「あいつならやりかねないな。父親になるくらいで、あそこまで興奮するものか?」その話を聞いた正真は、たちまち身を乗り出した。「それならわかるよ。父親になるのは、やっぱり特別なことだ。そうだ。絃葉さんの子どもが男の子か女の子か賭けよう。賭け金は1億円でどうだ?」湊は笑った。「俺は男の子に賭けるよ」正真は言葉に詰まった。「......どうして俺が選ぼうとしたほうを取るんだよ。じゃあ俺は男女の双子に賭ける。賭け金は2億円だ。どう、乗るか?」「俺は三つ子に5億円」「......じゃあ五つ子に10億円だ」「......」後ろで二人の話はどんどん現実離れしていき、前を歩く景と絃葉は、そろって眉をひそめた。絃葉は我慢できずに振り返り、二人をにらんだ。「あのね......二人とも、もう少しまともな話をしてくれない?」湊は笑いをこらえながら言った。「景が長年ため込んできた力を考えたら、可能性がないとは言い切れないだろ」正真も大いに納得したようにうなずいた。「ああ、俺もそう思う。見ろよあいつ、最近目の下にクマまでできてるぞ......」それを聞いた絃葉は、無意識に景を見上げた。確かに、彼の目元にはうっすらとクマが浮かんでいた。しかし景は絃葉の視線に気づいておらず、正真と湊の冗談もまったく耳に入っていなかった。今、彼の頭の中では、妊娠期間中の予定が目まぐるしく組み立てられていた。妊娠初期に注意すべきこと、必要な栄養、受けるべき検査。さらに妊娠中期と後期には、どのような準備を進めるべきか......すべてが、彼の頭の中ですでに明確な予定表となっていた。ようやく授かったこの小さな命を、必ず健康に、何事もなくこの世へ迎えなければならない。自分と絃葉の初めての子どもだ。そう考えただけで、景
Read more

第507話

絃葉はすぐに首を横に振った。「それは無理よ。うちは今、すべてのプロジェクトが進行中だから、私が最後まで見届けなければならないの。でも体調が許すなら、在宅勤務に切り替えることはできるわ」景が眉間に深いしわを寄せているのを見て、絃葉は手を伸ばし、そこをそっとなでた。「もう、そんな顔をしないで。この子が私たちにとって大切なのは分かっているけど、そこまで神経質になる必要はないわ。ただ、今日私を襲った男が見つからないままだと、やっぱり少し不安かもしれない」絃葉はふと思い出した。ここ最近、地下駐車場に車を止めるたび、どこか暗がりから誰かに見られているような気がしていたのだ。あの男が偶然現れたはずはない。間違いなく、事前に下見をしていたのだろう。相手を見つけ出さない限り、彼女の不安は消えそうになかった。景はうなずいた。「ああ、そうだな。もう調べさせている。それともう一つだが......今日から、寝室を別にしたほうがいいか?」「寝室を別にする」という言葉を聞いた瞬間、絃葉はほとんど迷うことなく首を横に振った。「嫌よ、別々に寝るなんて絶対に」「それだと俺の自制心が試されるな......分かった。できるだけ我慢するよ」低い声でそう言うと、景は突然、絃葉を腕の中へ引き寄せ、強く抱き締めた。言っていることと、していることがまるで一致していなかった。「絃葉」「何?」絃葉は、彼が続けて何を言うのか待った。景は真剣な顔で言った。「地下駐車場で起きたことを思い返すと、今でもぞっとする」絃葉は彼の力強く鼓動する胸に頬を寄せ、手をその胸元へ添えた。「うん、私も。でも、あんなことがあっても無事だったんだから、きっとこの子は幸運をもたらしてくれる子ね」景は彼女の髪を優しくなでた。その声は驚くほど穏やかだった。「ああ」絃葉は思わず小さく笑った。「ありがとう、私たちを守ってくれて」「こっちこそ礼を言わないと。君たちが俺をもっと強くしてくれたんだ」景は真剣な口調で続けた。「以前は怖いものなんて何もないと思っていた。だが今は、何をするにも用心しなければならないと思う」絃葉は顔を上げ、彼の顎にそっと口づけた。「そこまで心配しなくてもいいから。私まで不安になってしまうよ」景は考え込むようにうなず
Read more

第508話

週末、景は絃葉を連れ、車で多磨城へ向かった。彼女の妊娠を知った両家はこの件を非常に重く受け止め、双方の年長者が話し合った末、景が正式に結婚の挨拶へ訪れる日が決まっていた。すべてが、絃葉の当初の予想よりもはるかに早く進んでいた。両家の年長者たちは、絃葉が妊娠中期を迎える頃には、盛大な結婚式を無事に執り行いたいと強く望んでいたからだ。それもすべて、絃葉とおなかの赤ちゃんを思ってのことだった。未来の婿が初めて正式な挨拶に訪れるとあって、西尾家の本邸は早朝から大いに活気づいていた。午前10時頃、一台の黒い高級ミニバンが、ゆっくりと西尾家本邸の門前へ到着した。ドアが開き、正装した景が、絃葉の手を大切そうに取って車から降りた。今回の訪問のため、景は身なりを念入りに整えていた。長年彼を担当しているヘアスタイリストに頼み、前髪をすっきりと上げ、凜々しく端正な眉と目元を出している。スーツもシャツもネクタイも、すべて特別に仕立てたものだった。どれも新品で、隅々まできちんと整えられている。車の荷室には、贈答品の箱が隙間なく積み込まれていた。すべて景が自ら選んだ上質な品であり、西尾家の一人一人の好みに合わせて用意されたものだった。外の物音を聞きつけ、祐一郎を先頭に、健二一家と本邸の使用人たちがそろって出てきて、二人を温かく迎えた。皆に囲まれながら、一行はにぎやかに屋敷の中へ入った。西尾家のリビングでは、ローテーブルの上に高級フルーツや菓子が所狭しと並べられていた。以前の落ち着いた暗い色調のインテリアもすべて新しくなり、部屋全体がかつてよりずっと温かみのある雰囲気に変わっていた。絃葉は、隣に立つ景をじっと見つめた。いつか、このような光景を夢に見たことがあった。しかし今、それは夢ではなく、彼女の人生で本当に起きている。30歳を迎えようとしているこの年、絃葉は一生を託せる男性を、ようやく家族のもとへ連れて帰ってきたのだ。「紹介します。私の婚約者、景です」絃葉は景の腕に手を添え、改まった口調で家族全員に彼を紹介した。祐一郎はソファの中央に腰掛け、その左右には家族たちが整然と並んでいた。皆、目の前の婚約した二人を笑顔で見つめている。依子と健二の表情には、わずかに複雑そうなものが浮かんでいたが、この場の温かく和やか
Read more

第509話

「景、お前と絃葉がこうして結ばれることは、私が生きているうちにかなえたいと願っていた、何より大切なことだ。私たち両家は昔から親しく付き合ってきた。お前の家のこともよく分かっている。絃葉は、私が幼い頃から育ててきた孫娘だ。あの子が生涯幸せに暮らせるかどうかは、私にとって最大の心配事なのだ。そのことは分かっているな?」景はわずかにうなずくと、以前、絃葉と婚姻届を提出する前に交わした書類を取り出し、祐一郎へ差し出した。「どうぞ、これを。私は幼い頃から祐一郎さんに見守られて育ちました。私がどのような人間かは、祐一郎さんならよくご存じだと思います。結婚後の財産についても、私と絃葉はすでに合意書を交わしています。すべて絃葉を第一に考え、結婚後は私の全財産を彼女と共有し、隠し事は一切しません」祐一郎はその合意書に素早く目を通すと、満足そうな表情を浮かべた。「お前の人柄については、もちろん心配していない。財産についても、十分すぎるほど誠意を示してくれている。ただ、一つだけ気がかりなのは家庭環境......お前の母親は今でも絃葉のすることなすことに難癖をつけ、気に入らないと言っているそうだな?」景は落ち着いたまなざしで、一言ずつはっきりと答えた。「確かに、おっしゃるとおりです。隠さず申し上げますが、母は今も絃葉に偏見を抱いています。しかし、私がいる限り、絃葉につらい思いは決してさせません。私は幼い頃から自立しており、海城にも京城にも、夫婦で暮らす家をすでに用意しています。結婚後に両親と同居させ、母の決めたやり方に無理やり従わせるようなことは絶対にありません。また、現在は母の考えを改めさせる方法も探しています。それでも変わらないのであれば、私が絃葉を連れて適度な距離を置きます。母のせいで絃葉が少しでも傷つくことは、決して許しません。次に、私たち二人の今後についてですが......ひとまず、次のように考えています。絃葉は妊娠、出産、育児を迎える今後3年間、生活の重点をある程度変えることになります。その過程で、気持ちにも変化が生じるでしょう。海城で彼女が担当している仕事は、少しずつ私が引き継ぎ、一時的に代行するつもりです。ただし、会社の中核となる権限はすべて絃葉が持ち、私は決して口を出しません。私自身の仕事については、できる限り彼女の都合に合わせ
Read more

第510話

依子はとうとう我慢できず、水を差すように言った。「築山家は由緒ある大きなお家ですし、あなたは長男でしょう。最初の子どもは当然、築山姓を継ぐべきではありませんか。西尾姓にするという話は、やめておいたほうがいいと思いますけど」さらに祐一郎へ念を押すことも忘れなかった。「健二は今のところ、仕事では絃葉に及ばないかもしれません。でも、少しずつ良い方向に進んでいます。もう少し時間を与えれば、きっと一人前になれますよ。亜由美は仕事も忙しくありませんし、二人の子どもも大きくなりました。家が寂しいとお思いなら、もう一人産んでもらえば、もっとにぎやかになるでしょう。昔から、嫁いだ娘はよその家の人間になると言うでしょう。嫁いだ娘の子どもが、実家の姓を名乗るなんておかしいと思いませんか?」依子が何を心配しているのかは、誰の目にも明らかだった。絃葉は冷ややかな目を彼女に向けた。「今日は私の婚約者が正式に結婚の挨拶へ来た日です。菅原さんはこの家のお客様のはずですよね?ご自分の立場をわきまえたらどうですか?」依子は言葉を詰まらせ、顔をこわばらせた。「......」以前、祐一郎は依子と婚姻届を提出し、正式に妻として迎えると約束していた。しかし絃葉が海城へ療養に連れてきたことで、依子の目論見は完全に崩れてしまった。今では、依子がこの件を持ち出しても祐一郎は相手にしない。あまりに何度も口にすれば、露骨に不機嫌な顔を見せるほどだった。依子自身も、いまだにこの家での自分の立場が分からなかった。女主人ともいえず、かといって単なる客ともいえない。ひどく居心地の悪い立場に置かれていた。「今日はめでたい日だ。騒ぎを起こしたい者は出ていけ。ここに残るなら、心から絃葉を祝福しろ」祐一郎が冷たい声で言い放った。依子に加勢しようとしていた健二は、たちまち首をすくめ、何も言えなくなった。祐一郎は未来の孫婿を大いに気に入り、景と絃葉を直接書斎へ連れていき、茶を振る舞った。さらに使用人には料理を多めに用意させ、二人を昼食に引き留めた。書斎に入って扉を閉めると、祐一郎は単刀直入に景へ切り出した。「景、お前は先ほど、築山家に関する問題を一つ残らず考え、きちんと説明してくれた。そこまで率直に話してくれたのだから、私も西尾家の事情を包み隠さず伝えておこう
Read more
PREV
1
...
495051525354
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status