All Chapters of 元夫の目は節穴?名門令嬢が電撃再婚!: Chapter 521 - Chapter 530

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第521話

「あの勢いを見てよ。店ごと買い占めるつもりじゃないだろうな?」かなりの時間が過ぎても、二人が飽きることなく服を選び続けているのを見て、湊は思わず眉をひそめた。景は顔を上げ、絃葉へ愛おしげな眼差しを向けた。「好きにさせてやればいい。絃葉が喜ぶこと以上に大切なものはない」「はいはい......」湊は聞いていられないとばかりに、しきりに首を振った。「お前の口からそんな言葉が出るなんて、いまだに信じられない。あの築山社長だぞ?」景は横目で彼を見た。「俺は妻の尻に敷かれる生活を楽しんでいる」湊は言葉を失った。景は諭すように彼の肩をたたいた。「お前も、じきに好きになる」そう言うと、景は遠くへ目を向けた。その瞳には、未来への憧れが満ちている。「街に無数の明かりがともる中、その一つが自分の帰りを待っている。そう思えるのは幸せなことだ」湊も珍しく真剣な表情になった。「ああ、そうだな。以前の俺は、結婚なんて束縛にすぎないと思っていた。でも悠ちゃんのおかげで分かったよ。運命の相手と出会えたなら、結婚も幸せで楽しいものなんだって」二人の男は互いの顔を見つめ、自然と笑みを交わした。――景が立てた予定は滞りなく進み、瞬く間に結納の日を迎えた。景は昔ながらのしきたりを重んじる男だったため、すべてを伝統にのっとって進め、日取りも縁起のよい大安を選んだ。結納を2日後に控え、西尾家の本邸は隅々まできれいに掃き清められた。邸宅全体が華やかな祝いの雰囲気に包まれていた。景は早くから、何着もの結納用の衣装を届けさせていた。絃葉は多磨城にいる親しい女友達を全員呼び、飽きることなく一着ずつ試着していった。皆は幸せそうに彼女を取り囲み、着替えを手伝いながら、景はセンスも見る目も抜群だと口々に褒めた。結納の前夜、悠は西尾家の本邸に泊まった。二人は子どもの頃と同じように絃葉の部屋で並んで横になり、翌日の様子を想像しながら、にぎやかに語り合った。そして二人は、互いに用意した贈り物を交換した。悠が絃葉へ贈ったのは、美しい透明感をたたえた宝石の腕輪だった。悠が一目見て気に入った品で、絃葉の雰囲気にもよく似合っている。絃葉は感激しながら贈り物を受け取ると、自分も箱を取り出し、悠へ差し出した。箱を開けた瞬
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第522話

絃葉は信じられない思いで悠を見つめた。「そんな......どうして?私さえ知らなかったのに、どうして悠が?」悠は目を赤くしながら彼女を抱き寄せ、声を詰まらせた。「30年前、絃葉のお母さんと私のお母さんも、今の私たちみたいにとても仲がよかったの。あの頃、二人は同じ時期に婚約して、どちらも腕輪を贈られたそうよ。私の母は今も大切に持っているけれど、あなたのお母さんは手放してしまったの。被災したのに十分な支援を受けられない赤ちゃんたちに、治療を受けさせるためにね。私も偶然、母からその話を聞いて、それからずっとこの腕輪を捜していたの。母が、その腕輪が誰に売ったのかを覚えていたから、その手がかりをたどって長い間捜し続けた。そうして諦めずに追いかけた末、ようやくオークションで落札できたのよ」絃葉の目も、いつの間にか赤くなっていた。悠は手を伸ばし、彼女の頬を優しくなでた。「絃葉は幼い頃からお母さんにそばにいてもらえなかった。ほかの人が母親から愛されているのを、ずっと羨ましく思っていたことも分かってる。でも大丈夫よ。絃葉には、世界一の親友である私がいるの!つらいことがあったときも、悲しいときも、私は何を差し置いてでも必ずそばにいるから。それに、両親とも話してあるの。私の家は、いつまでも絃葉の家よ。結婚したあと、もしつらい思いをするようなことがあれば、うちの家族が必ず味方になる。安心して。景や築山家があなたにひどいことをしたら、細谷家が真っ先に黙っちゃいないから!」絃葉の胸に、切なさと温かさが同時に込み上げた。彼女は力強くうなずき、かすれた声で答えた。「ありがとう、悠。これからは、私も悠の家族になるよ。もし江越が悠を傷つけたら、私だって絶対に許さないから!」「絃葉、私たち、絶対に幸せになろうね」二人は幼い頃のように並んで横になり、自然と頭を寄せ合った。「うん」幸せな時間は、本当にあっという間に過ぎていった。毎日が夢のようだった。けれど、一日一日が輝き、それぞれに違う喜びがあった。結婚を控えた娘がどんな気持ちになるのか、絃葉と悠は今、初めて身をもって知った。家族が慌ただしく動き回り、自分の人生を左右する大切な日のために奔走してくれている。その姿を見ながら、絃葉は初めて心から感じた。女性にとって、一生に
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第523話

絃葉は口元を手で覆い、必死に涙をこらえた。景から花束を受け取ると、ほっそりとした白い手を差し出す。景が真剣な表情でその指にダイヤモンドリングをはめるのを見つめながら、絃葉は迷いのない声で答えた。「はい。喜んで」宴席では、湊がグラスを高く掲げ、感極まった様子で正真の手をつかんだ。「ここまで長かった。ようやくあの堅物にも春が来たんだな」正真は深くうなずき、湊とグラスを合わせた。「お前もな。遊び人がようやく身を固める気になったか」湊は彼を横目で見た。「それはお互いさまだろう」正真は声を上げて笑い、二人は勢いよくグラスを合わせた。親友として酌み交わす祝い酒は、格別な味がした。婚約披露の宴は無事に終わり、二人はまた一歩、結婚へと近づいた。景は友人たちから何杯も酒を勧められたが、今回は断ることなく、思う存分飲んだ。心の底からうれしかったのだ。少年の頃から想い続けてきた女性を、ようやく妻に迎えられる。――ここへ至るまでの道が多少遠回りだったとしても、そんなことはもうどうでもよかった。待ち続けてよかった。諦めなくて、本当によかった。景は心の中で自分に乾杯した。――午後9時半になると、宴の招待客たちも帰っていった。多磨城の風習では、まだ結婚していない二人は、それぞれ自分の実家で夜を過ごすことになっている。しかし時代は変わり、昔ほど細かな慣習にこだわる人も少なくなっていた。景は酔った勢いもあり、どうしても築山家へ帰ろうとせず、絃葉と一緒に西尾家へ行くと言い張った。絃葉が幼い頃から使っている部屋で、一晩眠りたいというのだ。とりわけ酒を飲んだ今は、愛する妻と一瞬たりとも離れたくなかった。絃葉は仕方なく、執事と一緒に景を支え、西尾家へ連れ帰った。景がここまで酔った姿を見るのは初めてだった。まっすぐ歩くことさえできず、ときおり絃葉に向かって顔をほころばせる。その表情からは、抑えきれない幸せがあふれ出していた。絃葉は呆れながらも、思わず笑みをこぼした。使用人にお湯を用意してもらい、景の顔と手を丁寧に拭いた。革靴とスーツの上着を脱がせ、体勢を整えると、幼い頃から使ってきたプリンセス風のベッドへ楽に寝かせた。酔いが残って気分が悪くなるのではないかと心配し、使用人に酔い覚
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第524話

婚約披露宴を終えると、絃葉は海城へ戻り、景は急用のため京城へ飛んだ。二人は人生の一大事を終えると、それぞれの道へ戻り、再び多忙な日々を送ることになった。昼も忙しく、夜も忙しい。深夜になっても、まだ仕事は終わらなかった。以前なら、景が一人で京城にいる間、絃葉へメッセージを送って1時間以上返事がなければ、無意識のうちに不安を募らせていた。しかし婚約披露宴を終えてから、彼の心はすっかり落ち着き、穏やかになっていた。二人の関係は、もう誰にも隠すことなく公になっている。多磨城中の人々も、両家の親族も、二人の関係を知っていた。これ以上、時間がたつうちに何かが変わってしまうのではないかと心配する必要はない。互いが人生をともに歩む存在であることに慣れるにつれ、以前のように、絃葉を片時も離さず、いつでもそばに置いておきたいという衝動も薄れていった。景は、自分と絃葉の関係が新たな段階へ進んだのだと感じていた。二人の間には成熟した安定感があり、互いを深く理解し、大切に思っている。恋に振り回されて心を乱すことは、もうない。結婚を前提とした確かな絆が、彼の心に揺るぎない落ち着きと力を与えていた。その力に支えられ、景は京城に滞在した2週間で、慌ただしく2件の大型国際契約をまとめ、さらに2社の大口顧客を新たに獲得した。すべての仕事を終えると、景は休む間もなく海城へ戻った。一刻も早く絃葉に会いたかったのだ。帰ることは事前に知らせず、海城へ着くと自宅へ戻る前に、そのままスーパーへ向かった。そして岩本に絃葉へ連絡してもらい、今夜は家で夕食を食べるよう伝えた。今では、絃葉の好みをすっかり把握している。彼女の好きな食材を何種類もまとめて買うと、それを提げて帰宅した。エプロンを着け、白いシャツの袖をまくり、早速キッチンで料理に取りかかった。料理をしながら、景は岩本から絃葉の近況を聞いた。最近は毎日のように残業し、帰宅も遅いという。帰りが遅くなって夕食の時間を逃したうえ、つわりまで重なると、そのまま何も食べずに寝てしまうこともあるらしい。それを聞いた景は、胸を痛めると同時に申し訳なさを覚えた。――彼女は妊婦なのだ。生活に困っているわけでもないのに。夫である自分には、妻を外で身を粉にして働かせなくても、十
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第525話

絃葉は感激のあまり景の胸へ飛び込んだ。彼の体から漂うほのかな香りに包まれ、胸の中は幸福と安らぎで満たされていく。完璧すぎるほどの夫を授けてくれた運命に、心から感謝したいと思った。今のところ、景には欠点らしい欠点が一つも見当たらない。彼が与えてくれるのは、いつも喜びと驚きばかりだった。「昨日の夜は0時まで待機して、社長室のスタッフ全員にも協力してもらった。それでようやく買えたんだ。今年、女性たちが一番欲しがっているネックレスらしいから。幸運の象徴だと。その言葉だけでも、絶対に君へ贈ろうと思ったんだ」景は絃葉を強く抱き締め、額へそっと口づけた。そして右手を、わずかに膨らみ始めた彼女の下腹部へ自然と添える。半月ぶりに会ったそのおなかは、以前より少し大きくなったように見えた。彼の大切な赤ちゃんたちは、母親のおなかの中で一日ごとに成長している。それがたまらなくうれしかった。「ありがとう」どんな言葉も、この思いを伝えるには足りない気がした。絃葉には、感謝を口にする以外、何を言えばいいのか分からなかった。景は指先で彼女の鼻を軽くつついた。「俺は君の夫だ。君のために何をするのも当然だろう。ほら、手を洗って食事にしよう。今夜のために手料理も用意したんだ」岩本が歩み寄り、絃葉の手からコートを受け取った。「奥様、旦那様は奥様のために早く帰ってきて、お食事を作ってくださったんですよ。栄養たっぷりのスープまで、時間をかけて煮込んでいらっしゃいました。おなかが空いたでしょう?」絃葉が食卓へ行くと、本当に自分の好きな料理ばかりが並んでいた。その途端、食欲が湧いてくる。すぐに手を洗い、席に着くと、大好物のタラを一口食べてみた。焼き加減はちょうどよく、確かにとてもおいしかった。絃葉はパッと表情を輝かせた。「すごくおいしい!料理の腕がどんどん上がってるわね!」景は満足そうに目を細めた。「俺は何を覚えるのも早いからな。俺たちの子どもも、きっと同じだ。俺に似て頭がよくなる」「もし私に似て、ちょっと抜けていて、すぐ人にだまされる子だったらどうするの?」絃葉は思わずからかった。景は笑いながら彼女を見つめた。「何を言ってるんだ。絃葉は頭が悪くない」景の料理はあっさりとして食べやすく、絃葉は満足
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第526話

絃葉は宅配便の荷物を受け取りに行くと嘘をつき、慌ただしく階下へ向かった。景が書斎から出てきたときには、すでに彼女の姿はなかった。絃葉のどこかよそよそしく、何かを隠しているような態度に、景はかすかな疑念を抱いた。もう午後8時を過ぎている。普段の彼女なら、この時間から外出することなどない。不安を覚えた景は、すぐにボディーガードへ絃葉の行き先を尋ねた。ボディーガードは24時間体制で絃葉を見守っており、すぐに現場の写真を撮って景へ送った。それを見て初めて、カフェで絃葉を待っていたのが自分の母親だと分かった。こんな時間に母親が絃葉を呼び出して、何をするつもりなのだろう。まさか、また彼女を困らせようとしているのではないか。景は反射的に苛立ちを覚え、すぐにボディーガードへ、気づかれない程度の距離を保って二人を見守り、必ず絃葉の安全を確保するよう命じた。絃葉が静代の向かいへ腰を下ろすと、静代は何を飲むかと尋ねた。絃葉は首を横に振った。「静代さん、私が妊娠していることをお忘れですか?カフェインは控えているんです」静代は一瞬、きょとんとした。「ごめんなさい。最近は気持ちが落ち着かなくて、あなたと景のことまで気が回らなかったの......」静代は両手でコーヒーカップを包み込んでいた。その体は小刻みに震えている。様子を見るかぎり、かなり深刻な問題に巻き込まれているようだった。「いえ、気にしないでください。それで、どんなことでお困りなんですか?率直に話してください。私でお役に立てることなら、何でも力になります」静代は言いにくそうに口を開いた。「私は......」絃葉は急かすことなく、落ち着いてその続きを待った。だが、その堂々とした佇まいに圧倒された静代の鼻先には、うっすらと汗がにじんでいた。絃葉は、ますます景に似てきたように思える。自分より若いはずなのに、仕草の一つ一つから、言葉では説明できないほどの圧力を感じた。長い沈黙の末、静代はようやく勇気を振り絞り、気まずそうに話し始めた。「この前、優奈のことで......ある男に会うため、ホテルへ行ったの」絃葉の心臓が、一瞬大きく跳ねた。静代は深く息を吸った。コーヒーカップを持つ手が激しく震えている。「その男は優奈の夫だったの
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第527話

静代は両手で顔を覆った。「警察に通報するなんて......絶対に駄目!お願いだから、それだけは......!」すっかり取り乱し、冷静な判断ができなくなっている静代を見つめながら、絃葉は一時、何を言えばいいのか分からなかった。以前、築山家を訪ねたとき、静代は終始不機嫌そうな顔をしており、歓迎する気などまるでない様子だった。絃葉はてっきり、わざと冷たい態度を取られているのだと思っていた。まさか、こんなにも人には言えない問題を抱えていたとは思わなかった。絃葉の頭に、森拓海と森大河の顔が浮かんだ。二人なら、山崎豪という火種を片付けられるはずだ。ただし、助けるにしても、静代には自分がどれほど軽率な過ちを犯したのか、きちんと自覚してもらわなければならない。そうしなければ、今後も同じような失敗を繰り返すおそれがある。「そうですか。まあ、通報しなくても構いません。別の方法を思いつきました」絃葉はまず安心させる言葉をかけてから、諭すように続けた。「ただ、この件を教訓に、これからは何でも自分の思いどおりにしようとしないでください。ご自分の楽しみだけではなく、築山家全体のことを考えて行動してほしい。約束できますか?」絃葉に解決策があると聞いた途端、静代は子どものように素直になり、何度もうなずいた。「わかった。約束する。助けてくれるなら......これからは何でもあなたの言うことを聞くわ。赤ちゃんが生まれたら、私も育児を手伝う」さらに静代は続けた。「景は、子どもの頃に私があまりそばにいなかったことを責めているでしょう?今から過去に戻ることはできないけれど......孫が生まれたら、今度こそあなたたちを精いっぱい支えると約束するわ。景を幼い頃に愛してあげられなかった分まで、その子たちにたくさんの愛情を注ぐから」静代はかつてのわがままさも高慢さもすっかり捨て、絃葉の手を強く握って懇願した。ここまで言われては、絃葉にもそれ以上言うことはなかった。何といっても、静代は景の母親なのだ。「ありがとうございます。では、私が何とかしてみます。連絡を待っていてください」絃葉は引き受けた。静代は、頭上にのしかかっていた巨大な岩を一気に下ろしたかのように安堵した。「よかった!ありがとう、絃葉ちゃん......あなた以外に
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第528話

週末、築山家の本邸。景と絃葉がリビングへ姿を現すと、静代は以前の冷淡な態度から一変し、満面の笑みで二人を迎えた。家族の男性陣が意味ありげに見守る中、二人の女性は、これまで一度もわだかまりなどなかったかのように皆の前で抱き合い、腕を組んで食卓へ向かった。「絃葉ちゃん、最近甘酸っぱいものが食べたいでしょう?アロエと柑橘のゼリー、それから牛肉の甘酢炒めを作ったの。おばあさまにも頼んで、京城名物を送ってもらったわ。脂っこくないから安心して。食べても気持ち悪くならないと思うわ」絃葉は目を細めて微笑んだ。皆が見守る中、迷うことなく呼び方を改める。「ありがとうございます、お義母さん。わざわざすみません」静代は感激した様子で絃葉の手を握った。そして皆の前で、自分がことのほか大切にしていたホワイトパールのネックレスを首から外すと、自ら絃葉の首へかけた。「遠慮しなくていいのよ。娘になった記念の贈り物も、まだ用意できていなかったでしょう?このホワイトパールのネックレスは、オークションで7600万円で落札したものなの。私もずっと気に入っていたけれど、あなたに贈るわ。私からの歓迎のしるしとして受け取って。私には娘がいないけれど、今日からあなたを私の本当の娘だと思うわ。今は妊娠しているんだから、私がちゃんと世話をするから。食べたいものがあれば何でも言って。これからは潤一と一緒にお昼ごはんを作って、あなたたちのところへ届けるわ」あまりにも熱心な静代の様子に、かえって絃葉のほうが恐縮してしまった。「いえ......そこまでしてもらわなくて大丈夫です。毎日行き来するのも大変でしょう?」「まさか。私も潤一も、家にいても特にすることがないもの。これからは二人で料理を研究して、あなたと景を食事の面から支えることに専念するわ。もう二人で相談したのよ。これからは朝、一緒に起きてウォーキングをして、帰りに食材を買うの。それから家で料理を作って、あなたたちへ届ければ、お昼にちょうど間に合うでしょう?」景は二人へ近づき、その顔を交互に見比べながら疑わしそうに目を細めた。あの晩、静代が絃葉を訪ねたとき、二人の間で何か大きな出来事があったに違いない。そうでなければ、静代の態度がここまで変わるはずがなかった。今の母親は、息子である自分でさえ見違えるほ
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第529話

重久はうなずいた。「ああ。これはそのおばあさんが遺したものだ。これを、私からの祝いの品として、お前に受け継いでもらいたい。このネックレスをお前に贈るのは、かつてのおばあさんのように家族全体のことを考え、家庭をしっかり支えてほしいからでもある。景と力を合わせ、弟たちのよい手本となって、この家をますます栄えさせてくれ」絃葉は表情を引き締め、恭しくネックレスを受け取った。ふと振り返ると、静代の表情が明らかに曇っていることに気づいた。絃葉には、その気持ちが理解できた。もともとこれは、景の祖母が遺した品だ。本来なら、まず嫁である静代へ受け継がれ、その後、静代から絃葉へ渡されるべきものだった。それを祖父が直接絃葉へ渡したということは、静代を嫁として認めていないという意味にも受け取れる。絃葉が内心で気まずさを覚えていると、重久はもう一つ、瑪瑙のブレスレットを取り出した。「静代、お前も潤一のもとへ嫁いでから、長い間、いろいろとつらい思いをしてきた。3人の息子たちを育て上げ、築山家に大きく貢献してくれたことも分かっている。お前は華やかなものが好きだったな。彼女が遺したこの瑪瑙のブレスレットは、お前によく似合う。受け取りなさい」静代の沈んでいた表情は、たちまち喜びへ変わった。すぐに重久のもとへ歩み寄り、うれしそうにブレスレットを受け取る。「ありがとうございます、重久さん。まさか私にも......」重久は穏やかに微笑んだ。「今日、こうして仲よくしている姿を見られて、私は安心した。よい家風は、次の世代へ受け継いでいかなければ。おばあさんも生きてこの光景を見ていたら、きっと喜んだだろう。それと洸、彰。お前たちはまだ若く、これから経験を積まなければならない。今後は兄と兄嫁からよく学び、一日も早く一人前になって、兄の負担を減らしてやりなさい。兄嫁のことも、実の姉として必ず敬意を持って接するように。将来、恋人を選ぶときにも覚えておきなさい。築山家に必要なのは、見た目が美しいだけの飾り物ではない。容姿だけでなく、知性と人柄を兼ね備えた女性だ」洸と彰は何度もうなずいた。「はい、おじいさま!」絃葉はネックレスを手にしたまま、その重みを感じていた。席へ戻ると、景がすぐにテーブルの下で彼女の手を握った。彼は絃葉を見つめれば見
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第530話

「バカね。心がいつも寄り添っているなら、どこにいたって関係ないでしょう?」景は力強くうなずいた。「俺は幼い頃から、将来どんな女性と結婚するのかを思い描いていた。そして今、ようやく理想の女性に出会えた......絃葉、君が俺たちの家族に、これほど大きな変化をもたらしてくれるとは思ってもみなかったよ」「私は昔から、家庭は愛を語る場所だと思っているの。愛さえあれば、どんな問題だって乗り越えられるわ。私が幼い頃、おじいちゃんはとても短気だったの。突然、私に怒鳴りつけることもあった。でも私は、つられて腹を立てたり、言い返したりはしなかった。おじいちゃんの気持ちが落ち着くまで待って、怒鳴られたときに私がどう感じたのかを伝えていたの。そしたらおじいちゃんも私の話を聞き入れてくれて、怒ることが少しずつ減っていったの。私への愛情も、ますます深くなった。だから、家族が心から一つになろうと思っているなら、どれほど大きなわだかまりがあっても、いつか必ず解消できる機会が訪れるものよ。まだそのときが来ていないのなら、焦らず待てばいい。私と静代さんも、ちょうどいいきっかけが訪れたから、すべての問題を解決できたの」これまでは景が絃葉を諭すことのほうが多かった。しかし今回は、絃葉が景に道理を説いていた。景は興味深そうに聞き入り、その眼差しには心からの感服がにじんでいた。「確かにな。君と母さんの関係が、一気にここまでよくなるなんて想像もしていなかった」絃葉は首をかしげ、悪戯っぽく微笑んだ。「だって、私はずっと分かっていたもの。静代さんは少し世間知らずでわがままなところがあるだけで、悪い人ではないって。それに、私は静代さんを恨んだことなんてないわ。むしろ感謝しているの。静代さんがあなたを産んでくれたから、私はこんなにすてきな夫と出会えたんだもの」その言葉を聞いた瞬間、景の瞳に欲望の色が深く宿った。彼は再び身をかがめ、絃葉の唇を捕らえると、息もつかせぬほど激しく口づけた。「待って......」絃葉は彼の胸を押し返した。呼吸が乱れている。「家に帰ってから......運転手さんもいるでしょう?」「待てない」景の唇が、再び彼女の唇へ重なった。激しく口づけながらも、彼は両腕で体を支え、絃葉の体に自分の体重がかからないよう細心の注意を払
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